カチコチおでこ

眼精疲労つらいよね、わかる、わかるって思いながら、いつもアルバイトしてる。

私も酷い眼精疲労なので、押さなくても勝手に眉間が痛いんだけど、それでも暇さえあれば、ツボがある眉間の部分を、指の関節でゴリっと押してみる。

するとどうよ、コリにあるまじき音がするのだ。
コリッでも、ゴリッでもないの。
パキッ ポキッ なの。パキパキ音が鳴ってんの。
戦慄がたったかとすばやく駆け抜けていった。

私はこの、眉間から聞こえたパキパキの音を知っている。なにかに似ている。それは小さい頃、蒲田駅で聴いた南極の氷の音だったのだ。

蒲田駅に謎のおじさんがいて、どういうつもりか本物の南極の氷を持って来たとかなんとかで、駅の前で大きな氷を持って突っ立っていた。
(あの人マジで何がしたかったんだろう…)

お嬢ちゃん、この南極の氷に耳を当ててみなよ。っておじさんに言われて、試しに当ててみたら、氷からパキパキって音が微かにしたのだ。
そして話は少し戻るけど、これが私の眼精疲労のコリの音と同じ。
つまり私の眉間は南極の氷ってわけなのだ。

せっかくだし、眉間に小さなペンギンを住まわせよう。
私はおでこに、ピンクと水色と黄色のペンギンを宿しはじめた。
おでこが随分と賑やかになったものだ。
小さなペンギンたちは、私のおでこでお茶会したり、煮干しを喉につまらせたりして、仲良く遊んでいた。

数日後、ペンギンをお供して四角い町を歩いていると、いきなり宇宙人に声をかけられた。

「ワレ ショッカク アル。ワレ ショッカク チカラスゴイ。コイヨ」

よくよく聞いてみると、宇宙人の触覚を3本使った不思議なマシーンを地球に持ち込んで、出稼ぎに来たようだ。
この宇宙人の触覚には、銀河の欠片を詰め込んであるようで、その銀河から出る波動?の振動で、私の眉間にある、カチコチの南極をほぐしてあげよう!という、そういう話だった。

確かにそのくらいの威力なら、私の眉間の疲れは取れるかもしれない。しかしせっかく眉間にペンギンを飼ったのだから、彼らの居場所のことを考えるとすぐにはイエスと言えなかった。

しかし、ペンギンたちはいった。

「ちも、いけるよ!僕達は ずっと、ちものそばにいるから!銀河ごときで潰れるもんか!」

じゃあお言葉に甘えて、宇宙人の触覚マシーンで施術してもらおう。

おでこに宇宙人の触覚を当てられた瞬間、

「アッ、チカラカゲン、マチガエタ。ユルセ。」

宇宙人のか細い声。


許さない。許さない許さない許さない許さない。だって銀河の波動って大規模なものだから、触覚当てられた瞬間、私の南極のおでこはペンギンごと破壊されてしまったんだ。ペンギンごと。

皮膚、骨、脳みそ、筋肉、血、ペンギン、南極の氷、全部粉々。
宇宙人に責任とってもらわねば。
私は宇宙人のヌメヌメした体液を剥ぎ取るように、爪を立て、皮膚から粘膜を搾り取り、それをツナギに、さながら粘土のようにこねまくった。皮膚、骨、脳みそ、筋肉、血、ペンギン、そして南極の氷を。

出来上がった新しいおでこは、かき氷みたいにジャリジャリしてて、生臭かった。でも、コリを深部からほぐすというかもはや破壊して最初から無かったことになったので、おかげでおめめはパッチリ。

ただ、適当におでこを作ったものだから、顔がグチャグチャでバラバラのペンギンたちが、顔中に散らばった。

可愛い小さなペンギンたちは、もう私に話しかけてはくれない。でも、物理的にそばにいてくれるし。さみしくはないはず。

ペンギンの目とかクチバシ、羽の色は、新種のホクロといって、明日から誤魔化そう。
また、人間のフリして生きていかなくちゃ。

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