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チーズ、アーモンド、ときどき寒天ゼリー(上)

突然の、異常なほどの喉の渇き

引っ越し作業でドタバタだった昨年10月。

なんだか、やたらに喉が渇いていた

気のせいかな、と思うも、日に日に渇きは強くなっていき、アホみたいに水を飲んでいた。

飲み物を少しでも我慢しようものなら、喉が張り付くように乾燥して、唾すら飲み込めない。1日に飲む水の量は3倍にも膨れ上がった。

飲めば飲むほど、トイレも近くなる。2時間に一度はトイレに行きたくなり、夜中もトイレに起きるようにもなった。

飲んで、出して、また飲んでーー
「なんだか、排水溝の一部にでもなった気分」
そう恋人に言うと、彼は「人間なんてそんなもんじゃない?」なんておどけた顔で言ってこちらを笑わせた。

些細な駅の階段をのぼるのに、ぐったり

バイト先の最寄駅は、一部エスカレーターがなく、階段しかない。

これまでなんてことなくのぼれていたこの階段が、途方もなくしんどく感じた。

こりゃあ、体力が落ちているな。忙しさにかまけて、最近走ってないからかなあ。

そう思い、朝走ろうとすると、あまりに苦しい。気合いだ、となんとか走ろうにも、200mともたない。もともと走るの苦手とはいえ、ここまでの苦しさはこれまでにない。

これが老化というものなのか……?

そういえば、頭もなんだかうまく働かない気がする。引っ越し作業ばかりしていて、疲れているのかな。切り替えがうまくできてないのかな。いや、やっぱり、老化……?

何もしてないのに、2ヶ月で体重5キロ減

「なんか、はな痩せた?」

1年ぶりに会った友人にいきなり言われた。
……身に覚えがないぞ。引っ越し作業で忙しく動き回っているせいかな。引越しの前に発表連続であったから、そこで痩せたのかもしれないなあ。

帰宅後、あまり深く考えずに、久しぶりに体重計にのってみた。ら、メンタルやられて飲まず食わずだったときの水準にまで落ちていた。前回測った2ヶ月前から、5キロのマイナス

その様子を覗きにきた恋人も、「背骨、浮き出てる…」と驚いていた。

ダイエットなどしてないのに、これはおかしい。

恋人が、はたと「糖尿病じゃない?」と言い始めた。
調べてみると確かに、喉の渇きだとか、トイレが近いだとか、書いてある。

「えー、でもこないだの健康診断、異常なしだったよ?」

ちょうど、9月の終わりに学校の健康診断を受けていた。そのときの尿検査も異常なしだったし、8月半ばに婦人科で受けた血液検査も異常なしだった。

「どしたんだろうねえ」

二人で首を傾げていた。「まさかねえ」なんて思いつつ、でもあまりに体重減ってるし、喉が乾いて乾いてつらかったから、病院に行くことにした。

基準値の5倍近い血糖値

インターネットでちょうど近所に糖尿病専門の医院があると知り、予約して受診したのが11月の上旬。喉の渇きなどの症状が出て、1ヶ月が経っていた。

受付で問診票を受け取って見て、あまりに当てはまるものが多くて、ちょっとびっくりした。

・喉の渇き
・多尿、頻尿
・体力の減少
・体重の減少
・足がつる

足がつる!ちょうど受診の前々日、寝ているときに人生で最大級に足がつっていた。あまりの激痛に、「痛い!」と叫んでしまい、横で寝ていた恋人をびっくりさせて起こし、彼にマッサージしてもらいながらゲラゲラ笑われたのだった。

その後の血液検査の結果は、血糖値が基準値の5倍近い水準だった。
HbA1c(エイチビーエーワンシー)という、過去3ヶ月の血糖値の平均的な水準を表す指標も、基準値の2倍近く。

ぽかーんの状態の私に、お医者さんは言った。

「1型糖尿病です」

糖尿病には2種類あるらしい。1つは、よく知られている、生活習慣によって引き起こされるもので、”2型”というらしい。”糖尿病”のうち、大半はこの2型とのこと。

一方の1型は、生活習慣に関係ないらしい。なんでか知らないけど、自分の免疫が自分の膵臓を攻撃しちゃって、糖を分解してエネルギーに変えるインスリンってホルモンがでなくなる病気らしい。なんでアホなことしちゃうのかは、まだ謎みたいだ。

1型はとても珍しく、10万人に1人だとかいう記述もあった。
……そんな珍しいもの、まさか私が当てるとは思わないじゃない。大きな病気したことない、点滴も入院も手術もしたことなかったのに!当てるなら宝くじ当てたかったなー!

ゆるやかーに進行して、健康診断でひっかかることの多い2型と違い、1型の多くは急に発症する。だから、直前の健康診断でもひっかからなかった。

やたら喉が渇くのも、トイレが近いのも、体力が減ったのも、頭がうまくはたらかなかったのも、体重が激減したのも、ぜーんぶ、高血糖のせいだった。

「点滴とインスリンを打ちます」とお医者さんに言われながら、内心、「よかった、老化じゃなかった……」なんて安心していた。

小さな病院のため入院せず、1週間通いで点滴するとのことで、1週間後には、綺麗さっぱり元通りになると思っていた。

(つづく)


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