令和元年会社法改正について

1.はじめに

 令和元年12月4日に、会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が成立したため、今回はそれについてまとめていこうと思います。
 司法試験・予備試験の受験にとって大事なものについては、見出しの後ろに☆マークをつけておきますので、受験生の方は☆マークがあるものだけでもご確認ください。
 なお、令和元年会社法改正は、12月11日に公布されており、公布の日から1年6月以内の政令で定める日(株主総会資料の電子提供制度のみ3年6月以内の政令で定める日)から施行されることが予定されています。
 施行日は,現時点では令和3年3月1日が予定されていますので(改正省令案附則1条本文)、令和3年度の司法試験・予備試験の出題に係る法令となります(司法試験・予備試験では、原則として、試験が実施される日に施行されている法令に基づいて出題することとされています)。
 ※ 内容に誤りがあるおそれもありますので、何かありましたらご指摘ください。
 ※ 参考となるものとして
 ・新旧対照表
 ・法律概要

2.株主総会資料の電子提供制度(325条の2~325条の7)

(1)現行法
 インターネット等を用いた電磁的方法により株主総会資料を株主に提供するためには、電磁的方法による招集通知について株主が個別に承諾していることが必要である(301条2項本文、299条3項)。
 もっとも、電磁的方法による招集通知について承諾した株主であっても、株主総会参考書類について書面による交付を求めることはできる(301条2項ただし書)。
(2)改正法
 電子提供措置をとる旨を定款に定めれば、株主の個別承諾がなくても、電子提供措置をとることができる(325条の2)。
 →株主総会資料をウェブサイトに掲載し,株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供することができる。
 もっとも、書面での資料提供を希望する株主(電磁的方法による招集通知について個別承諾した株主は除く)は、基準日までに、書面での交付を求めることができる(325条の5)。
 →電子提供措置をとる場合には、301条2項ただし書は排除される。
 なお、上場会社は、電子提供制度をとらなければならない(振替法159条の2)。

3.株主提案権(議案要領通知請求権)の濫用的な行使を制限するための措置(305条4項・5項)☆

(1)現行法
 1人の株主が株主提案権によって提案できる議題・議案の数に制限はない。
 もっとも、株主提案に係る議題・議案の数、提案理由の内容・長さによっては、会社・株主に著しい損害を与える権利行使として権利濫用となる(東京高決平成24年5月31日資料版商事340号30頁〔百選31〕参照)。また、株主提案権の行使が、私的な不満を解消するという個人的な目的や、特定の個人や会社を困惑させる目的等、株主として正当な目的を有するとは認められない場合には,権利濫用として許されない(前掲東京高決平成24年5月31日、東京高判平成27年5月19日金判1473号26頁参照)。
(2)改正法
 株主は、1人あたり10個までしか議案の要領を株主に通知することを請求できない(305条4項)。10個を超えた議案については議案要領を通知しないでよい。
 ただし、役員等の選任議案・解任議案、会計監査人の不再任議案、関連性のある2以上の定款変更議案については、議案の数に関わらず1つの議案とみなされる(305条4項各号)。
 また、10個を超えた議案については、取締役がこれを定めるが、株主が議案相互間に優先順位を定めているときにはこれに従う(305条5項)。
 ※ 議案要領通知請求権(305条)についてのみ規定が新設されており、議題提案権(303条)や議案提案権(304条)については特に規定は設けられていない点に注意。

4.取締役の報酬ーインセンティブ報酬(361条1項)☆

(1)現行法
 ① 定款又は株主総会の定め
 ストック・オプション等のインセンティブ報酬については、確定報酬(361条1項1号)かつ非金銭報酬(旧361条1項3号、新361条1項6号)によって処理していた。
 ② 説明義務
 非確定報酬(361条1項2号)及び非金銭報酬(361条1項3号)の場合には、取締役報酬議案の提出に際し、報酬等を相当とする理由の説明義務があった(361条4項)。
 ③ 募集株式等の発行規制・募集新株予約権の発行規制
 募集株式の発行等においては、募集株式の払込金額またはその算定方法を常に定めなければならない(199条1項2号)。また、募集新株予約権の発行においても、募集新株予約権の発行価格を無償にすることはできたが(238条1項2号〔募集事項の決定〕)、権利行使価格又はその算定方法を常に定めなければならなかった(236条1項2号〔新株予約権の内容〕)。
 →報酬等として募集株式等を発行するためには、出資の履行に必要な金銭を取締役の報酬等としていた。
(2)改正法
 ① 定款又は株主総会の定め
 取締役の報酬として、募集株式または募集新株予約権を発行する場合には、当該募集株式または募集新株予約権の種類及び種類ごとの数の上限を定めなければならない(361条1項3号・4号)。
 取締役の報酬が、確定額の金銭の支払ではあるが、募集株式もしくは募集新株予約権の引受けを予定している場合(=当該金銭をもって引受けの対価として払い込ませる場合)にも、同様に種類及び種類ごとの数の上限を定めなければならない(361条1項5号)。
 →従来、ストック・オプション等のインセンティブ報酬については、確定額報酬(361条1項1号)かつ非金銭報酬(旧361条1項3号、新361条1項6号)によって処理していたが、これを(361条1項1号及び)361条1項2号~5号により処理することになる。
 ② 説明義務
 確定報酬(361条1項1号)の場合にも、取締役報酬議案の提出に際し、報酬等を相当とする理由の説明義務が設けられた(361条4項)。
 ③ 募集株式等の発行規制・募集新株予約権の発行規制との関係
 上場会社においては、取締役の報酬等として募集新株を発行する場合には、払込金額(199条1項2号)、払込期間(同項4号)を定める必要はない(202条の2第1項本文)。
 →その代わり、①当該募集株式が報酬として定められる以上、出資が不要であること、②当該募集株式の割当日を定めれば足りる(202条の2第1項各号)。
 また、取締役の報酬等として募集新株予約権を発行する場合または確定額の金銭報酬を引受対価とする募集新株予約権を報酬の内容とする場合には、権利行使価格を定める必要はない(236条3項本文)。
 →その代わり、①当該募集新株予約権が報酬として、または、報酬としての確定額の金銭支払を対価として発行されるものである以上、権利行使の際の出資が不要である旨、②当該取締役以外は権利行使できない旨を定めれば足りる(236条3項各号)。
 なお、当該取締役以外の者は、募集株式を引き受けたり、新株予約権を行使することはできない(205条3項、236条3項2号)。
 ※ 指名委員会等設置会社については、409条3項参照。

5.取締役の報酬ー「報酬等の決定指針」の決定(361条7項)

 ①監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)である上場会社、②監査等委員会設置会社は、取締役の個人別報酬を定款又は株主総会決議により決定しない場合(定款又は株主総会決議で取締役全員の報酬総額だけを定める場合)には、取締役の個人別報酬等についての決定方針を定めなければならない(361条7項)。

6.会社補償(430条の2)

(1)現行法
 役員等の責任を追及する訴えが提起された場合等に、取締役の応訴費用等や賠償金・和解金を会社が補償すること(会社補償)について、直接定めた規定はないが、利益相反性があった。
(2)改正法
 会社が、役員等と補償契約の内容の決定をするには、取締役会決議(取締役会非設置会社においては株主総会普通決議)によらなければならない(430条の2第1項)。
 もっとも、①応訴費用等のうち通常要する費用の額を超える部分、②会社が第三者に賠償した場合に役員等が会社に対して任務懈怠責任を負う部分、③役員等が悪意または重過失により429条の責任を負うべき部分については、会社は補償できない(430条の2第2項)。
 補償契約に基づく補償をした取締役及び当該補償を受けた取締役は、遅滞なく、当該補償に関する重要な事実を取締役会に報告しなければならない(430条の2第4項)。
 なお、利益相反取引規制は、適用除外される(430条の2第6項)。
 →会社補償については、利益相反性があったので、利益相反規制っぽい特別の規定を設けたうえで、利益相反取引の適用を排除している。

7.D&O保険=役員等賠償責任保険契約(430条の3)

(1)現行法
 会社が役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険(D&O保険)に加入することについて、直接に定めた規定はないが、(取締役の会社に対する賠償責任をも填補の対象とするD&O保険に係る契約を会社が締結することについて)利益相反性が認められる。
(2)改正法
 役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには、取締役会決議(取締役会非設置会社においては株主総会普通決議)によらなければならない(430条の3第1項)。
 このとき、利益相反取引規制は、適用除外される(430条の3第2項)。

8.業務執行の社外取締役への委託(348条の2)

(1)現行法
 社外取締役が業務執行した場合には、社外性を失う。
(2)改正法
 会社と取締役の利益が相反する状況にあるとき(356条1項2号及び3号)、その他取締役が業務執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、会社は、その都度、取締役会決議(取締役会非設置会社においては取締役)の決定のよって、会社の業務執行を社外取締役に委託することができる。
 社外取締役が委託された業務執行をしても、社外性を失わない(348条の2第3項本文)。
 もっとも、社外取締役が、業務執行取締役の指揮命令の下で当該委託された業務執行をした場合には、社外性を失う(348条の2第3項ただし書)。
 →業務執行取締役とは独立した立場で、取締役会決議から委託された業務を執行しなければならない。

9.社外取締役の設置義務(327条の2)

(1)現行法
 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)である上場会社が、社外取締役を置いていない場合には、定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない(旧327条の2)。
 =「Comply or Explain(ルールに従え、従わないのであればその理由を説明せよ)」によるソフト・ロー
(2)改正法
 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)である上場会社は、社外取締役を置かななければならない(327条の2)。
 →ハード・ローへの格上げ

10.社債管理(714条の2~714条の7)

(1)現行法
 社債管理の方法として社債管理者という制度がある。
 →原則として社債管理者を設置しなければならない(702条本文)。もっとも、各社債の金額が1億円以上である場合または社債権者が50を下回る場合には、社債管理者を設置しなくてもよい(702条ただし書、会社則169条)。
(2)改正法
 新たな社債管理機関として社債管理補助者という制度が設けられた。
 社債管理者を設置せずに社債権者において自ら社債を管理することができる場合(702条ただし書、会社則169条)には、会社は、社債管理補助者を定め、社債権者のために社債管理の補助を委託することができる(714条の2)。
 =社債の管理は社債権者自身が行い、倒産手続における債権届出等の社債管理の補助を社債管理補助者が行う(714条の4)。
 →社債管理者よりも権限が狭く、その分責任原因も少ない社債管理補助者という制度を設けることによって、なり手の確保・利用コストの低減を目指す。

11.株式交付制度(774条の2~774条の11、816条の2~816条の10)→いずれは☆

(1)現行法
 自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がある。しかし、これは完全子会社とする場合でなければ利用することができない。
(2)改正法
 会社が他社を子会社化するために、当該他社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して自社株式を対価として交付するという「株式交付」の制度を新設した(2条32号の2)。
 株式交付親会社は株式交付計画を定め(774条の3)、株式交付子会社の株式を譲渡してくれそうな人に通知し(774条の4第1項)、それに対し譲渡してもいいという株式交付子会社株主は株式交付親会社に申し込みをする(774条の4第2項)。その後、株式交付親会社は、申込者の中から、株式交付子会社の株式を譲り受ける者・数を定める(774条の5)。
          ・・・以下省略・・・
 →株式交換とは異なり、対象会社の株主のうち希望者のみから、その株式を取得し自社株式を交付することになる。
 なんかね、「株式交換制度」と「募集株式の発行等の規制」をミックスしたような感じです。


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