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『KANのロックボンソワ』第928回(2022年10月15日)を聴いて

KANさんがSTVラジオの『KANのロックボンソワ』に最後に出演したのが2023年10月7日の放送。亡くなったのが11月12日だから、そのおよそ1か月前ということになる。

私が、久しぶりにKANさんのラジオを聴き始めたのはいつかな?と思い、記憶を辿ってみた。なんとなく亡くなる1年ほど前という意識はあったのだが、改めてPCのバックアップを確認すると、2022年10月15日だった。本当に、丸1年前だった。短かったな…もっと聴いていたかったな。そのバックアップを改めて聴いてみた。

STVラジオには番組サイトが残されていて、「選曲リスト」として、どんな曲がかかったか、どんな話をしたかはざっくり書いてあるので、正確な情報はそちらで確認することができる。ちなみに、この番組サイトの各回の「選曲リスト」はKANさん自ら綴っていたようだ。なんとなく、ちゃらんぽらんなイメージのあるKANさんだが(KANさん、ごめんなさい)、いつも放送前にしっかりと構成を考えていたそうで、この「選曲リスト」は放送前にまとめてこれに沿って番組を進めていたのかもしれない。病気公表後に代打パーソナリティをお願いするときも、いきなり番組をやっても大丈夫なように、構成やある程度の選曲までしたメール(メモ)を、代打の人に事前に渡していたとか。けっこうマメな人だったのね。

さて、この日の放送、最終放送回の丸1年前だからというわけではないだろうが、KANさんに身近だった何人かの死にまつわる話題が出ている。

まず、この日は、John Lennonの誕生日(1940年10月9日)が近かったということで、John Lennonの「Mind Games」(1973年)が一曲目。John Lennonが凶弾に倒れたことは有名だが、KANさん、こんな話をしている。

「John Lennonが40歳で凶弾に倒れていなければ今年で82歳。生きていたとしても、もう生きていないかもしれないですね。かたや、Paul McCartneyは2歳年下の80歳で今も現役バリバリです。」

その話に続いて、KANさんとともに音楽活動をしてきた、2人の話が出てきた。一人目は、放送の前月に亡くなった矢代恒彦さん。KANさんは1987年4月デビューだが、矢代さんはそのまえのリハーサル段階から最近までずっとライブに参加していたという。複雑な楽曲でも難なく弾きこなし、手足が4本ずつあるんじゃないかというほどの神業の持ち主。その矢代さんが、2022年9月に癌で亡くなったという。享年62歳。癌を患って、ギリギリまで頑張ってきたが、もうできないと言われてやむなくKANさんは別のキーボードを立てた。吉川晃司さんはそれでも出てほしいと懇願して、矢代さんが弾けなくなってもいいようにキーボードはダブル体制にして2022年5月のライブまで参加してもらっていたという。すごく無口な人で、一番長く一緒にいるのに、一番話した分量は少なく、だいたい「うん」しか言わないので、その「うん」がどういう意味なのか、KANさんやまわりが推し量っていたらしい。その無口な矢代さんがはじめて「この歌詞はいいよ」とKANさんに言ったのが「プロポーズ」という曲だった、とのこと。

ここで、「プロポーズ」がオンエアされる。放送されたのは2007年に発売されたベスト盤『IDEAS』に収録されるにあたって再録音された演奏。ライブでは矢代さんがキーボードだったが、レコーディングは矢代さんが参加したことはほとんどなくて、この録音は小林信吾さんがキーボード(アコースティックピアノ)を演奏している。小林信吾さんは5thアルバム『野球選手が夢だった』(1990年)の頃からKANさんと共同で編曲を数多く手掛け、レコーディングにも参加している、いわばKANさんの盟友とも言える人。曲が終わり、そんな話とともに、この小林信吾さんも2020年4月に癌で亡くなったという話があった。矢代さんと同じく、享年62歳。

この日は、こんな感じで3人の死について語られた。決して意識的にこの3人の話をしたわけではないだろうけれど、この事実は、還暦を迎えたKANさんにとって、60歳を過ぎるということは、もういつ死んでもおかしくないんだな、ということを意識させていたのかな、と思った。そして、John Lennonのように不幸にも若くして死を迎える人もいれば、Paul McCartneyのように、80歳を過ぎても音楽を続けている人もいる、という事実も、また意識させられていたのだろう。

癌という病気について、私の意識としては、部位にもよるかもしれないが、早期に見つかれば、治療(抗がん剤とか、手術とか、その他各種治療法)によって克服できるものと考えていた。KANさんも含めた3人は、見つかるのが遅かったのか、治療の難しい種類だったのか。KANさんについては、根本要さんがラジオで転移について語っていたことを踏まえると、もっと早く見つかっていれば何とかなったのかもしれない。癌は日本人の死因の1位というから、ミュージシャンだから多いというわけでもないだろうが、比較的自由業であるミュージシャンは、定期的ながん検診や人間ドックを受けることが、一般の勤め人と比べて低いような気がする。この文章を読んでくれている奇特なミュージシャンはいないと思うが、もしいたら、自分の音楽活動を続けるためにも、ファンのためにも、定期的な検診を受けてほしい、なんて思った。あ、もちろん、一般の方も。KANさんからは「おまえどうなんだ?」(from「青春国道202」)と言われそうだけど。


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