同人誌ができるまで①前置き

2020年、私は人生の節目を迎えた。今年で10周年だ。6月に23歳になったから、じつに人生の1/3以上、連れ添っていることになる。これなしの人生はこれまでも、そしてこれからも考えられない。一体、何が10周年なのか。友人各位はもうお察しだろう。

そう、2020年は私の腐女子10周年記念の年だ。中学1年生の時にアニメ戦国BASARAにハマって、腐向け同人誌を買い集めるようになった。高校~大学2年夏まではオタク・コンテンツを履修することは無く、オタクのキモさを持つがオタクになり切れないただのキモい人をやっていた時期もあったが、商業BLだけはずっと好きで少ないお小遣いで何とか買い集めていた。オタクではない時期もあったが、腐女子ではあり続けた。だから、私は今年で腐女子10周年記念を迎える、ということにした。オタク10周年ではなく。

では、記念日はいつなのか。オタク記念日なら、間違いなく私はアニメ戦国BASARA弐の放送開始日を選ぶだろう。この日、私のオタク的スイッチが確実に入ったと断言できる。しかし、「オタク」になった時期と「腐女子」になった時期は必ずしも一致しない。アニメ戦国BASARA弐第壱話が放送されたあの日、私は「BL」や「腐女子」といった単語は知らなかったはずだ。

では、腐女子になったのはいつか。当時は替え歌動画がたくさん動画サイトに上がっていた。それを見て二次創作というものを知り、「私は『腐向け』タグが付いている動画が好きだ」と思うようになった。いつしか『腐向け』タグを積極的に探すようになり、これは一般的に「BL」と呼ばれいると、また私はそれが好きな女オタクを「腐女子」と呼ぶと知った。そして、私は腐女子なのだと徐々に自覚していった。

よって、私が腐女子になった時期は分かるが、明確な日付は分からない。私が腐女子となったきっかけの作品・アニメ戦国BASARA弐は2010年夏に放送していた。私の誕生日も夏だ。だから、かなり便宜的ではあるが私の誕生日を記念日とすることにした。

昨年末からぼんやりと、私は自分の誕生日に腐女子10周年記念のホームパーティーをやりたいと考えていた。現在一人暮らし用の狭いワンルームに暮らしており、友人皆を一時に集めて・・・というのは難しいが、何回かに分けて友人を呼び、手料理を振る舞いもてなしたいと考えていたのだ。しかし、このコロナ禍の中、ホームパーティーを行うのはよろしくないだろうと言うことで、このささやかな企画は静かに中止となった。

さて、ユリイカに寄せられたオタクたちのエッセイに触発され自分語りから書き始めてしまったが、ここからが本題だ。とにかく、私は腐女子10周年を記念するホームパーティーを開こうと思うほどに、自分の中のBLというものを自身のアイデンティティの核にしている、ということだ。私はこの10年間、BLと共にあった。繰り返すが、オタクにはなり切れない時期もあったが、腐女子ではあり続けた。さらに、自分の中で記念日を設けたことにより、10周年、という事実は重みを増したように感じた。

そんな中、コロナ禍による印刷所の危機は、私の胸に重くのしかかった。ここでいう印刷所とは、主に同人誌の制作に携わる会社を指す。現在の私の「腐女子」としての活動は、「二次創作」に支えられている。つまり一次エンターテインメントを作っている人たち、それを好きになって二次創作をする人たち、さらにそれを本という「形」にしてくれる人たち、同人作家と私を繋いでくれる本屋さん。このみんなのことだ。

今、「形」を作ってくれる印刷所、「形」を届けてくれる本屋さんは甚大な経済的打撃を受けている。3密を避けられないことから多くの同人誌即売会が中止・延期となった。こうなると、多くの同人作家は本を作らなくなる。その理由は諸々だが、彼らにとって本を作るのはそこに来る人たちと交流するためであるから、また強制的な締め切りが存在しないから、などが主な理由として考えられるだろう。同人誌が作られなければ、それを作ることによって利益を得ている印刷所は経営が難しくなる、ということだ。さらに、同人誌を取り扱う大手書店は、コロナ禍によりいくつかの店舗を閉店せざるを得なくなった。同人誌が作られなければ、新刊販売や通販で得られる利益がなくなるからだ。

印刷所がなくなると、それらの有する印刷技術やサービス、例えば特殊な紙の上への印刷や加工などを、個人向けに提供してくれる会社がなくなると危惧する声を耳にした。そうすると同人作家の求めるクオリティの同人誌が作られなくなり、絵や文章そのものによらない部分での同人誌の質の低下が危ぶまれる。最悪の場合、印刷所が存在しなくなれば、同人誌の印刷そのものができなくなる可能性がある。

私としては、この「最悪の場合」を何としても避けたかった。何かできることは無いかと考えた。答えは1つしかないだろう。私が同人誌を作る。これだけだ。私が作った同人誌なんて欲しい人は限られるし、イベントなどで頒布する予定もない。しかし、少しでも印刷所を応援したかったし、同人誌が必要な人がいることを示したかった。長くなったが、これが同人誌を作ろうと思ったきっかけだ。もともと同人誌ができるまでのプロセスをまとめるために書き始めたが、自分語りが思いのほか長くなってしまったので今回は前置きだけに留めたい。次回から具体的な同人誌制作のプロセスを書き残していくこととする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?