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世界はゆっくりと滅びの道を進んでいる

「もう残ったのは私達だけだねカオリン」
「うん、いろは、うちはでも、もう駄目かもしんない」
「かおりん、私を一人にしないで」
「ごめん、いろは、もう、無理……」
そして、カオリンの意識も消滅した

時は数日前にさかのぼる
彼女達にとって世界は閉ざされた小さな箱の様であった
時折外界と通じる扉が開き、役目をおったものが旅立っていく
誰もが外の世界にあこがれ、自らに役目が来るのを心待ちにしていた
その日々の繰り返しであった

変化は突如訪れた
住人の一人が全身に黒い何かにおおわれ、そして人知れず処分されてしまったのだ
その後も順番に誰かがその黒い何かに侵されていき、いつの間にか処分されていった
仲間の中でも優秀な、陽彩とエリザ、アウァリティアがその謎の黒い物体に黴体生物と名前をつけ、研究を始めた
だが、研究は遅々として進まず犠牲者は更に増えていった

症状はまず体の一部に黒い発疹の様なものが出現する(これが黴体生物なのだが)
これは人によっては白い場合もあった
そしてすぐにそれは全身に広がる
そして時間の経過とともに皮がふやけてちょっとの刺激で剥がれ落ちるようになる
この頃には肉体にも変化が生じており、体組織は水を失い強く乾燥した部分と、水をはらみぶよぶよになる部分とになる
こうなると病状は末期で、後は意識を失いすべては終わる

そしてついにいろはの仲間にも犠牲者が出た
最初に犠牲になったのは意外にもグラであった
食に貪欲な彼女の性格が災いしたのか
ただ、仲間内ではだらしないアケーディアが一番最初に侵されると思っていたから、これは驚きであった
そして、グラと仲の良かった依子と芽依が黴体生物の魔の手に絡み取られてしまう
依子も芽依も最後までアイドルとしての矜持を持って泣き言ひとつ言わず旅立っていった
続けて犠牲になったのは依子と仲の良かったはなびであった
最期の言葉が「ひりつくねぇ」だったのは彼女らしかった
はなびが犠牲になった後はしばらく仲間内での犠牲者はいなかったが、意外な所から次の犠牲者が出た
黴体生物の研究をしていた陽彩であった

「わたくしちゃん様より先に死んだらゆるしませんですわ」
そう言ってエリザは取り乱し、そのせいでアウァリティアも研究がすすめられなくなった
更には陽彩の看病をすると言ってきかないエリザが黴体生物に侵され、続けてアウァリティアも黴体生物に侵された
アウァリティアはしかし、これで研究がはかどると喜々としていた
また陽彩やエリザを誰よりも大切に思っていた丹と蒼の姉妹は、周りの制止を振り切って陽彩とエリザの看病をし、結果二人とも黴体生物に侵されてしまった
だが、陽彩とエリザがほぼ同じ日に仲良く旅立つと、悲嘆にくれた丹と蒼もすぐに後を追うように旅立った

そしてアウァリティアは狂気をはらみ始めた
そして事もあろうにルクスリアを眠らせ、黴体生物を感染させたのだ
怒り心頭のマリアンヌとりりにアウァリティアは事も無げに答える
「吾輩の研究の糧になれるのだ、光栄に思いたまえよ」
だが、結局は治療薬を作る事も出来ずにアウァリティアが先に事切れ、また黴体生物に侵されたルクスリア、マリアンヌ、りりもすぐに後を追った

蒼の死により無気力となっていたスペルビアはしかし、インウィディアと二人で事態の解決法を探り始めたが、結局無為に時間だけが過ぎていった
そうこうしているうちにセイラのおかげで何とか無事でいたアケーディアが黴体生物に侵され、すぐにスペルビア、インウィディアも黴体生物に侵されてしまった
この頃になると、黴体生物に侵されてから最期の時を迎えるまでかなり時間は短くなっていた
泣き崩れるここあとセイラを残し、彼等も旅立っていった

最後に残されたのは、他の仲間達とは生活圏が少し離れていたいろは、花織、セイラ、ここあの4人だった
だがついに彼女達も黴体生物の魔手に絡み取られてしまった

「もう真っ暗だね、何も見えないよ、カオリン、せいらちゃん、ここにゃん、みんないる?」
「うちはいるよ、いろはの隣、ってうちも何も見えてないけど
セイラさんとここあさんは無事ですか?」
「私もいるわ、無事って言っていいのかどうかわからないけど、この暗いのだけは何とかして欲しいわね」
「ここあもいるにゃ、いろはす、かおりん、セイラ、もうここあ達だけだね」

それから彼女達は他愛のない話を続けた
流行りのものの話から、終わりのないしりとりまで
そして、最初にここあが消えた
まるで泡が弾けるような感じだった
そしてセイラもすぐにその後を追った
残されたのはいろはと花織、ただ二人だけだった
そしてとうとう花織も何も話さなくなった

いろはは慟哭の声を上げ続けた
そして世界にただ一人残された事に耐えられず自ら意識を閉ざした
そして世界は終わった

「この箱、そういえば忘れてたね」
「もう、だから旅行前にあれほどちゃんと確認したか聞いたのに」
「もう1週間経ってるから、無理かなぁ」
「無理なんじゃない、捨てようよ」
「一応確認させて、まだ大丈夫なのがあるかもしれない」
「まぁいいけど」
そういって、箱を開封すると、中から刺激臭とわずかな柑橘系の匂いがした
「うっ、クセッ、ダメだこれ、全滅してる」
「あー、やっぱり、全部黴(カビ)だらけ、私おばあちゃんの送ってくれる蜜柑、毎年楽しみにしてたのに」
「だからゴメンって沙奈」
「とびおー、沙奈―晩御飯出来たよー
それから、カビの生えた蜜柑触ったんなら、ちゃんと手―洗うのよー」
「「はーい」」  完

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