業界情報 鉄鋼

業界情報 鉄鋼

⚫️2021.8.31日本経済新聞🗞

「サマリー」
中国の鉄鋼減産、アメリカのインフラ投資等を背景に
鉄鋼堅調😎

「思ったこと」
鉄鋼が堅調だと
数多くいる大手の協力会社さんも
少し安心かなー(*´꒳`*)

「記事全文」

30日の東京株式市場でJFEホールディングス(HD)株が一時、前週末比99円(6%)高の1746円と約2年ぶりの高値をつけた。日本製鉄がトヨタ自動車向けの鋼材を値上げするなど、鉄鋼大手の国内事業に採算改善の兆しが出ている。株価指標からみた割安感もあり、機関投資家を中心に買いが集まった。
終値は5%高の1728円で、売買代金は前週末比2.3倍の約344億円に膨らんだ。日本製鉄と神戸製鋼所の株価もそれぞれ5%上昇した。足元では国内向けの値上げに加え、鋼材の一大生産国である中国の減産や米国の巨額インフラ投資など需給面の好材料も相次いでいる。
JFEHDのPBR(株価純資産倍率)は0.5倍台となお割安感が強く、「株価は上昇余地がありそう」(ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役)との声がある。一方で「好況は新型コロナウイルス禍の影響を受けた一時的なものとみる投資家が多い」(菊池氏)ため、好業績の持続性が焦点になる。

⚫️210827日本経済新聞

「サマリー」
鉄鋼大手JFEもDXに注力

「思ったこと」
関東だと川崎の扇島を中心に、下請けをたくさん抱えている。高炉の廃止、カーボンゼロへの対応、DXへの投資、、、
取り巻く環境に対応するため、大手企業と変化していくが、下請けはついてこれるのか、淘汰されていくのか、、心配
できうる限りのアドバイスを下請けとなっている中小法人さんにはしていきたい
「記事全文」
JFEホールディングス(HD)は26日、2021年度からの4カ年で、データ活用による製鉄設備の自動操業などのデジタルトランスフォーメーション(DX)に約1200億円を投じると発表した。遠隔保守などのデジタル技術を使った新規事業への投資も進める。巨大設備で製造する鉄鋼業は、デジタル化の余地が大きく、DXを収益拡大につなげる。主力の鉄鋼事業では現実空間と仮想空間を融合させる「サイバーフィジカルシステム」の取り組みを進めている。

210709日経

世界の企業別粗鋼生産量で19年ぶりに首位が交代した。2020年は中国宝武鋼鉄集団が中国企業初のトップにたった。中国勢は上位10社のうち7社を占め、その多くが国内再編を繰り返しながら膨大な内需を取り込み成長してきた。一方、1990年には4社入っていた日本企業は20年は5位の日本製鉄のみ。日本勢の劣勢がさらに鮮明になってきた。
粗鋼とは原料の鉄鉱石などを溶かして成分を調整したのち、圧延などの加工に移る前の鉄。鉄鋼会社の生産規模を示す代表的な指標だ。
世界鉄鋼協会(WSA)によると宝武の生産量は前年比21%増えた。国内の太鋼集団を買収し、2位から順位をあげた。河鋼集団と江蘇沙鋼集団もそれぞれ前年の4位、6位から順位をあげた。

再編で規模を拡大してきた中国勢には、新型コロナウイルス禍からの経済の回復も追い風となった。20年は中国の月間生産量が単月での過去最高を3回更新するなど活況が続き、中国企業は旺盛な内需を取り込んだ。
中国企業以外はコロナ禍に苦しんだ。19年まで首位だったルクセンブルクのアルセロール・ミタルの生産量は19%減り、2位に順位を落とした。
前身のアルセロールとミタル・スチールも含め首位からの転落は、統合によるアルセロールの発足が承認された01年以来初めて。同社は02年に正式に発足した。日本製鉄も3位から5位に順位を落とした。
地元の豊富な需要と規模の優位性は収益面にも出ている。粗鋼1トンあたりのEBITDA(利払い・税引き・償却前損益)は、宝武傘下の宝山鋼鉄は106.2ドル。製鉄所が2カ所しかなく生産効率が高いとされるポスコを除けば高水準だ。
1990年 日本勢4社が上位に
20年は中国企業のほぼ独壇場となったが、日本勢が上位を多く占めていた時期もある。1990年は首位の新日本製鉄(現日本製鉄)をはじめ、6位の日本鋼管(現JFEスチール)、9位の住友金属工業(現日本製鉄)、10位の川崎製鉄(現JFEスチール)の4社が10位までに入っていた。
インフラや自動車など幅広い分野に使う鉄鋼産業は、一国の経済の勢いを象徴する。英IHSマークイットによると日本造船業の世界シェアはピークの84年には約53%に達し、90年代まで4~5割台で首位だった。自動車でも日本メーカーが世界市場で販売を伸ばしていた時期に重なり、鋼材需要も豊富だった。
2000年代 欧州勢が台頭、首位に
2000年代に入ると、90年代に欧州連合(EU)の発足をうけて始まった国際再編が本格化する。欧州勢の統合や日韓勢との競争激化、伸び悩む内需などを背景に、勢力図が一変していく。
00年代初頭にルクセンブルクのアルベッドなど欧州3社が統合してアルセロールが誕生。05年にはLNMグループが米インターナショナル・スチール・グループを買収し、ミタル・スチールが生まれた。06年に当時の世界1位だったミタルが2位のアルセロールを買収し、アルセロール・ミタルが発足した。
10年に首位だったのが、そのアルセロール・ミタルだ。粗鋼生産量は2位の中国宝鋼集団を大きく引き離す9820万トン。圧倒的な存在感を誇ったが、その頃には国際再編とは別の地殻変動が起きつつあった。
08年 リーマン危機で転機
きっかけは08年のリーマン・ショックだ。先進国の景気が後退し、買収で規模を拡大したアルセロール・ミタルはリストラに追われるようになる。一方、中国政府は4兆元(当時の為替レートで約50兆円)の景気対策を実行。国内でインフラ用などに鋼材需要が伸び、地元勢の飛躍の素地をつくった。同時に現地での再編も促した。
各社が一斉に能力を拡張した結果、12年には2億トンともされる余剰能力を抱えることになった。効率が低く環境負荷の高い設備や企業の過剰債務の整理を狙い、政府は国営の有力企業を中心とした国内再編に動いた。
その代表例が16年に宝鋼集団と武漢鋼鉄集団が統合して生まれた宝武だ。太鋼集団を傘下に置く前の19年にも馬鋼集団をグループに入れるなど統合を重ねた。4月には鞍鋼集団と本鋼集団の統合計画も明らかになった。
いまや中国の生産量は、世界の約6割にあたる10億トン超。中国勢の動きがアジアの鋼材や原料の市況を左右し「中国次第ですべてが決まる」(日本製鉄の橋本英二社長)ほどだ。
中国勢の脅威は量だけではない。中国勢は売上高に対する研究開発費の比率が2%を超えることが多く、20年度は宝山は2.6%、河鋼は2.4%だった。2%以下の日本勢やポスコを上回り、技術力も高めた。
トヨタ自動車は電気自動車(EV)に使う電磁鋼板の一部について宝武製を品質面で承認した。脱炭素でも研究開発の重みは増す。
中国勢は海外もにらむ。内需は23年前後にピークアウトするとの見方もあり、海外に成長余地を求める。宝武の陳徳栄董事長は「21年はグローバル化の元年。欧米企業の買収も検討する」と話す。日本勢はどう立ち向かうのか。再び大胆な決断も求められそうだ。

210702日経

厚鋼板国内流通価格一割増

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73483610R00C21A7QM8000

考察
【マイナス】
貿易摩擦で自動車減産
中国より少し質の良いものがでる。
インドが国内投資に一息。鉄を外に出している
環境への配慮

【プラス】
世界人口増加
ベトナム等新興国で鉄鋼需要ある


鉄鋼」
181030日経
JFEスチールは西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の高炉1基の設備トラブルで操業を年末まで休止する。同社を傘下に持つJFEホールディングスは30日、減産による業績下方修正を発表した。設備は10月下旬から休止しており、減産は約40万トン。同社の国内の年間粗鋼生産量の1%超に相当する。倉敷地区は建築用のほか造船、自動車など製造業全般に使う鋼材を幅広く生産しており、休止が長引けば供給網に影響する可能性がある。
JFEホールディングスは、2019年3月期の連結業績予想を下方修正した。売上高は9%増の4兆円だが、純利益は当初見通しの1800億円に対して50億円マイナスの1750億円(前年同期比21%増)となる。JFEスチールは自動車や造船などの顧客に対し、納期をずらしてもらうよう要請を始めた。
設備トラブルが発生したのは2003年に稼働した同地区の2号高炉。高炉内で送風ができない状況となっており高炉からの出銑を止めている。復旧作業を進めているが完全復旧に戻るまでに2カ月かかる見通しだ。原因の究明を急いでいる。
倉敷地区の操業は当面、通常の3基から2基体制となる。薄板を供給する自動車、厚板を供給する造船などの製造業に影響が出る可能性がある。
JFEスチールは昨年9月、東日本製鉄所京浜地区(川崎市)の転炉でトラブルが発生し、高炉1基を休止した。今回は昨年より長期にわたり、2カ月におよぶ休止はかつてない規模となる。
需要増で現場に負荷か

国内の鉄鋼業は建設需要など旺盛な内需が続くが、設備トラブルが足かせとなり好況を生かせていない。17年度はJFEスチールのほか、新日鉄住金の大分製鉄所(大分市)の厚板工場でも火災が発生。国内は操業から50年程度たつ高炉も多い。需要増による増産で設備に負荷がかかっていることも背景とみられる。今後もトラブルが続けば、コスト競争力の低下につながりかねなない。
鉄鋼各社はこれまでも老朽化した設備の更新投資を積み増してきた。世界的な鉄鋼の好況下、欧米勢も積極投資に動き、中国や韓国メーカーは最新設備で増産に動いている。休止が常態化すれば日本メーカー全体の競争力の足かせとなりかねない。
(川上梓)

JFE
https://gurafu.net/jpn/jfe

181102ネット情報
鉄鋼業界の業績は、世間の消費行動と密接に関係があるため、景気の動向に左右される業界と言っても過言ではありません。
この世に鉄というものが存在しなかったら、車を作ることも、家を作ることもできません。つまり、鉄というものは目に見えないだけであって、現代の我々の暮らしの屋台骨を支えてくれている重要な材料なのです。2007年に起きた世界金融危機以前の鉄鋼業界は、年々拡大傾向にあり、規模も堅調に拡大してきていました。
しかし、サブプライム・ローン問題を発端とするリーマンショックなどの世界的な金融危機の影響によって、世界的に景気が低迷しました。その影響を間接的に受けた鉄鋼業界は、世界金融危機が始まった2007年以降は需要が急速に衰え、鉄自体の単価を下げざるを得ない状況にまで陥り、一気に業界を収縮させていきました。
ところが、世界的な景気の動向に影響を与えた金融危機も、今では約10年前の出来事となり、数年前からは消費者の購買意欲が戻ってきたことに連動して、業界の業績も上向いてきました。
大手不動産デベロッパーの新規プロジェクトは活況を呈していますし、自動車の販売台数も世界金融危機で世の中の景気の見通しが経たない時期と比較すると、信じられないほど回復しています。
今の就活生には聞き慣れない言葉かもしれませんが、かつて【鉄は国家なり】と言われていた時代があります。この言葉は19世紀にドイツを統一して、ドイツをヨーロッパの中における強国にのし上げた宰相ビスマルクの演説から由来されているもので、鉄鋼の生産量というものは、その国の力を表す指標となる重要な数字になっています。そのため、鉄鋼業界を志望する場合は、この【鉄は国家なり】という言葉や背景は覚えておきましょう。
日本は資源が無いために、原料や素材を各国から集めて、それを元にものづくりをすることで栄えた国です。そのものづくりの基盤となるものが鉄なのです。
鉄は日本の戦後の経済発展を支え、更に世界的にも日本のものづくりの凄さをアピールした立役者でもあったのです。
現状1:基本情報
鉄鋼業界の市場規模は16兆1,282億円になり、昔ながらの業界ということや、ものづくりの基盤になる素材を提供しているため、比較的規模は大きめな業界と言えます。この業界で働いている労働者数は70,331人で、多くは高炉と呼ばれる鉄を作るための工場で働いています。
この工場は一つの街や島なのかと勘違いするほど大きく、敷地内には信号があるほど大規模なものになります。メーカーの工場というのはどこも大きいイメージがあると思いますが、鉄鋼業界の工場というのは群を抜いて大きなものになります。
鉄鋼業界で働く人の平均年齢は38.6歳で、15.5年が平均勤続年数になります。
平均年収は563万円という上場企業の中ではけっして多くない方ですが、サラリーマンの平均年収は400万円程度なので、それから考えるとかなり多くもらえる業界と言えます。
鉄鋼業界における仕事は、鉄を作り、それを国内外に販売する、というシンプルな仕事になります。鉄鋼業界はメーカーになるので、製鋼部と呼ばれる鉄を作る製造現場が花形の職種になります。
円  シェア率:34.2%)
2位:JFEホールディングス(売上高:3兆6,668億円  シェア率:22.7%)
3位:神戸製鋼所(売上高:1兆8,246億円  シェア率:11.3%)
4位:日立金属(売上高:8,079億円 シェア率:5.0%)
5位:日新製鋼(売上高:5,764億円 シェア率:3.6%)
この業界の中で圧倒的な売上とシェアを確立しているのが、新日鐵住金になります。この会社は約5年前に国内首位だった新日本製鐵が、国内3位の住友金属工業を吸収合併して誕生した会社になります。2位のJFEホールディングスも2003年にNKKと川崎製鉄が合併してできたい会社で、再編が進められている業界と言えます。
日本だけではなく、世界的に再編は行われていて、世界首位のアルセロール・ミタルも約10年前に当時の世界首位のミタル・スチールがアルセロールを吸収合併することで誕生した会社になります。
日本が誇る新日鐵住金は、世界ランキングでは2位の規模で、このアルセロール・ミタルに次ぐ規模の会社となっています。日本の市場ではラグビーの強豪で有名な神戸製鋼所が3位にランクインして国内ビッグ3を形成していますが、それ以外のメーカーは売上規模もシェア率も少なく、存在感の小さい会社ばかりとなります。
市場動向を占う業界の営業利益率にフォーカスを当ててみると、鉄鋼業界における営業利益率は、中国の経済発展に伴う旺盛な中国国内需要の拡大によって、2005年の段階では他の業界を大幅に上回る水準を記録していました。
しかし、世界金融危機による不景気の影響を間接的に受けた鉄鋼業界は、車の販売台数、建物の新規建設需要が冷え込んだ影響で、リーマンショック以前の3分の1までに需要が下落してしまいました。それは、景気事態が底をついていたことも理由としてありますが、他にも中国と韓国が生産能力を飛躍的に向上してきたり、鉄鋼の販売価格が悪化の一途をたどった末の結果でもありました。
鉄鋼業界は日本国内に目を向けると景気減退、住宅着工件数の減少、公共事業の発注減、そもそもの日本の人口の減少など明るい要素はあまり見当たりません。それが、海外に目を向けると、人口の多い新興国の発展や有り余る新しい建物の建築需要、旺盛な自動車や情報電子機器の購買意欲、インフラへの投資などなど鉄鋼業界において嬉しいニュースは多々あります。
そのため、縮小する内需を頼りにするのではなく、より外に目を向けて需要を取り込んでいけるかが今後の日本の鉄鋼業界に必要な姿勢と言えます。
鉄鋼は自動車に次ぐ基幹輸出品目であり、日本で生産された鉄鋼の4割は海外向けとして販売をしています。日本における人口減少、内需の縮小、経済停滞の影響を直接受ける業界だけに、海外への販売を強化していくことが業界の底上げになることは火を見るよりも明らかです。
ただ、海外への販売はいくつかの要因により近年は苦戦を強いられています。そのひとつに中国、韓国メーカーの技術力向上による台頭が上げられます。日本が世界に誇る新日鐵住金は、これまで何十年と世界の生産量で世界一を常にキープしてきました。また、それ以下もアメリカのUS Steelや欧州のBritish Steelが上位をキープしていました。
しかし、2013年以降は業界の再編や、新興企業の台頭で世界の勢力図が大きく変わりました。新日鐵住金は2位に落ち、トップの生産量を誇る会社は欧州のArcelor Mittalに取って代わりました。それ以下は中国勢の企業が急伸したり、韓国のPOSCOがシェアの一角を担うようになってきています。特に中国企業の躍進はめざましく、トップ10のうち6社が中国企業という状況になっています。
新興企業の台頭は業界の切磋琢磨、消費者へのサービス改善に非常に良いことですが、この鉄鋼業界においてはその新興企業の成長によって、世界的に鉄鋼の供給過多が起きています。需要に対する供給力が強すぎて、鉄鋼の販売価格にまで影響を及ぼすようになってきています。
売っても売っても利幅が少なすぎて、全然利益が上がらない、という状況に陥っているのです。それもそのはず、中国で鉄鋼を作ることに比べて、日本の人件費は非常に高く、原価率が他の国と比較して高くなってしまっているからです。
また、国内には高炉メーカー(川上から川下まで対応)が4社もあり、日本という単体で鉄鋼業界を見ると、無駄が非常に多くなっています。これまで再編を行ってきたとは言え、高炉メーカーが4社もあることにより、国内需要に対しても有り余るほどの生産力を持っています。
1社に統合したほうがヒト・モノ・カネを効率的に使えて大幅な改善を見込むことができると思いますが、公正取引委員会による独占禁止法の定めがある限り、それは夢のまた夢と言うしかありません。鉄鋼業界の日本企業は、生産規模を落とさずに雇用を維持しつつ、収益を確保するための構造を見直すことが喫緊の課題と言えます。
課題を多く抱えた日本の鉄鋼業界ですが、暗い話ばかりではありません。日本にはこれまで培ってきた高い技術力があります。海外のメーカーでは生産することが難しい高級鋼材と呼ばれる自動車向けの鉄や、石油や天然ガスの採掘に使われる鋼板は、かなり高度な技術が求められ、それらは日本のメーカーの独壇場となっています。鉄鋼の需要は世界的に伸びていることが分かります。
その中での日本企業は、生産量で1位の座こそ譲ったものの、得分野である高級鋼材の品質が世界的に認められており、堂々の2位の地位をキープしています。高い技術力と品質が、自動車や電子機器などの産業では欠かせない存在感を示しています。
また、様々な理由があるにせよ、生産量の約4割は海外向けとして輸出しており、着実にグローバル体制を築いています。世界の鉄鋼業を日本の企業が支えていることは間違いなく、今後も時代のニーズに応えていくことで将来性の期待できる業界と言えます。
鉄鋼業界の課題1:中国鉄鋼業界の国際競争力

日本の鉄鋼業界の強みは、高級鋼と言われています。軽くて丈夫な高級鋼を生産するには、高い技術力が必要になる為、日本の鉄鋼業企業と同レベルの高級鋼を生産することができる企業は、世界でも数少ないとされています。しかし、近年は中国の鉄鋼業界で、再編の流れが強まっています。800社前後もの鉄鋼メーカーが存在する中国ですが、再編により経営力や技術力が低い企業は、淘汰や合併されると見られています。その結果、中国の鉄鋼メーカーの技術力や国際社会における競争力が上がり、やがては日本の鉄鋼業企業にも大きな影響を与える可能性があるのです。(※3)
180531日経
JEEは、18年度は2900万トン、20年度には3000万トンの生産体制を整える予定。

181114日経
バナジウムやモリブデンなど、鋼材の強度を高めるレアメタル(希少金属)の国際価格が大幅に上昇している。需要が増加する一方、主産地の中国が環境規制を強化しており供給が減少。特にバナジウムの価格は前年同月に比べ約3倍に達した。原料高を受け、鉄筋用棒鋼や特殊鋼といった鉄鋼製品価格に波及する可能性もある。

バナジウムの指標となるフェロバナジウムのロンドン市場のスポット(随時契約)価格は11月初旬時点で1キロ122.5ドル前後。前年同月の3.2倍、年初比でも2.2倍となった。モリブデンも指標となる三酸化モリブデンのスポット価格が11月初旬で1ポンド12ドル前後と、前年同月比4割高い。

鉄筋用棒鋼などの製品価格に波及する可能性もある
バナジウムは一般的に鉄鋼製品の副産物であるスラグから抽出して精製する。主産地の中国は17年7月以降、当局が環境規制の強化に伴い廃棄物に近いとされるスラグの輸入を禁止。加えて今年11月から鉄鋼製品に含まれるバナジウム量の検査・取り締まりも厳格化した。
規制強化を前に中国の鉄鋼メーカーが資源確保を急いだ結果、国際価格は6月以降急騰し5カ月で50ドル以上跳ね上がった。専門商社、光正(東京・中央)の八木下智裕氏は「しばらくは需給逼迫が続く。150ドル近くまで上昇する可能性もある」とみる。
同じレアメタルのニオブが鉄鋼添加剤向けの代替候補となるが、設備投資の必要から需要の転換は進んでいない。金属市場調査会社、アイアールユニバース(東京・中央)の棚町裕次社長は「価格が高騰しても鉄鋼メーカーはバナジウムを使わざるを得ない状況だ」と指摘する。
ステンレス鋼などに添加して耐熱性や耐食性を高めるモリブデンも背景は同じだ。世界生産の4割を占める中国で政府当局の環境監査により大手生産者の供給が減少している。「国際価格はしばらく強含みで推移する。15ドルまで上昇してもおかしくない」(八木下氏)。






鉄鋼添加剤に使うレアメタルの高騰を受け、国内の鉄鋼メーカーの間では製品価格の引き上げを検討する動きも出てきた。JFEスチールは「バナジウム高騰に加え、資材費や物流費も上昇しているため製品価格の値上げを視野に入れている」と話す。
ある棒鋼メーカーは主力品の販売価格について、11月の新規契約分から10月に比べて1トン当たり1万円(1割弱)引き上げる交渉を需要家と始めた。鉄筋コンクリート造りの建物の柱や梁(はり)に使われる高強度せん断補強筋(フープ筋)の母材となる棒鋼で、バナジウムを使っている。
バナジウムの値上がりで現状の製造コストは夏場に比べ1トン当たり1万2000円程度上がっているという。国内の鉄鋼業は建設需要など旺盛な内需が続く。鉄鋼製品価格の上昇は建築業界にとって大きな痛手となる。

181115日経
主に鉄鉱石を運ぶ大型ばら積み船の用船料(船のチャーター料)が大幅に下落した。ブラジルから中国向けの鉄鉱石の輸出が一服し、船の引き合いが鈍化。米中貿易摩擦などの影響で中国の鋼材需要が減速するとの懸念もあり、弱気になった海運会社が安値の契約に応じているもようだ。

指標となるケープサイズ(載荷重量約18万トン)の用船料は主要航路平均で1日当たり9300ドル前後。10月下旬からの2週間で5割下落し、7カ月ぶりの安値となった。
例年、ブラジルからの鉄鉱石輸出は10~12月が年間の最盛期だが、10月に出荷が集中した反動で一時的に輸送需要が鈍化。船の過剰感が強まっている。
同じく主産地のオーストラリアで5日に鉄鉱石を運搬する貨物列車の脱線事故が起き、出荷が滞るとの観測が広がったのも弱材料となった。「鉄鉱石輸送の実需はさほど落ちていないが、市場心理の冷え込みで下落にブレーキがかからない状況」(海運ブローカー)との声もある。

181212日経
新日鉄住金は11日、ビルの柱や梁(はり)などに使うH形鋼の流通市場(店売り)向けの12月契約価格について、前月に比べ1トン2000円引き上げると発表した。値上げは6月契約分以来、6カ月ぶり。副資材価格などのコスト上昇分を反映する。東京五輪や都市再開発に関連した建設需要の継続で、需給が締まった状態が続くとみている。
東京地区の流通価格は現在1トン8万9000円前後。鉄鋼メーカーである新日鉄住金の今回の値上げが鋼材問屋などの販価に全額転嫁された場合、2%程度の価格上昇となる見込みだ。
新日鉄住金の鋼材を取り扱う流通事業者でつくる「ときわ会」が11日まとめた11月末時点のH形鋼在庫は、10月末に比べ0.1%減の18万4200トン。ほぼ横ばいだが、需給バランスの目安とされる20万トンを下回り、市中では品薄感が強まっている。需要の底堅さに加え、鉄鋼各社の生産も需要増に追い付いてない。
H形鋼の生産コストや運送コストなども高止まりし、コスト負担は増えているという。H形鋼の流通価格は、流通事業者の間でこれまでのメーカー値上げがまだ完全には浸透していないとの声もある。ただ需給が締まった状態で、新日鉄住金は「コストや需給を総合判断した」(建材営業部)という。

181218日経
電炉大手の東京製鉄は17日、2019年1月契約分の鋼材価格を18年12月の契約価格と同値に据え置くと発表した。建築を中心に国内の需要が堅調な一方、海外相場の下落に伴う影響を見極めるとしている。

鋼材の国内需要は堅調な半面、中国では値下がりしている品種も(千葉県内の鉄鋼団地)
1月の契約価格はビルの梁(はり)や柱などに使うH形鋼が1トン8万9000円、ホットコイルが1トン7万4000円となる。据え置きは11カ月連続。12月契約で1トン2000円引き上げた機械などに使う厚鋼板も、8万3000円と12月分と同値とした。
引き合いは建築・土木向けを中心に底堅い。東京五輪の関連施設向けなどがけん引し、年明け以降も旺盛な需要が続くとみられる。
一方で今秋以降中国でホットコイルなどの価格が下落。安値品の輸入増が、日本国内の今後の価格を下げる可能性が出てきた。東京製鉄の今村清志常務は「中国はこれまでの上昇に対する調整の色合いがあった。ここに来て下げ止まってきた印象もあり動向を注視する」と指摘する。

181221日経
JFEスチールは東日本製鉄所千葉地区(千葉市)の高炉1基に設備トラブルが発生し、生産を休止していると明らかにした。既に操業は再開したが、完全復旧まで1カ月程度かかるため、約40万トンの減産を見込む。千葉地区は自動車に使う鋼材を多く生産しており、今後の供給に影響する可能性がある。2019年3月期の連結業績への影響は現時点で未定。
トラブルが発生したのは1998年に稼働した第6高炉。12月13日から送風ができない状態となり出銑(しゅっせん)を止めた。
高炉はトラブルなどで一度止まると炉内の確認などが必要で、通常の操業に戻るまでに時間がかかる。完全復旧は19年1月中旬の見通し。既に自動車メーカーなどに納期を延ばしてもらう要請を始めた。
千葉地区は同社で唯一、ステンレス鋼も生産しており、休止により他社への代替生産を要請する可能性があるという。
一方、10月下旬に生産を休止した西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の第2高炉も12月下旬の完全復旧を目指していたが、1月中旬に延びる見通し。延期により、10万トンの減産を見込む。
千葉と倉敷を合わせたトラブルによる減産は約90万トンで、同社の粗鋼生産量の3%に相当する。
親会社のJFEホールディングスは倉敷の生産休止の影響で19年3月期の連結業績を下方修正した経緯がある。鉄鋼事業の経常利益は従来予想より100億円減るとしてきたが、千葉のトラブルの影響を加えると減益幅が増える可能性がある。
倉敷の高炉のトラブルは冷却を行う付帯設備によるものとしている。千葉のトラブルの原因は究明中だ。高炉は定期的な改修で設備を入れ替えたり一時的に止めたりしてメンテナンスを行うが、国内の需要増でフル稼働が続き、設備負荷が高まっているとみられる。
17年にはJFEスチールの東日本製鉄所京浜地区(川崎市)でトラブルが発生。新日鉄住金も大分製鉄所(大分市)で火災が発生した。国内の鉄鋼業は旺盛な需要が続くが、設備トラブルが続き好況を生かせていない状況が続いている。

190123日経
中国の鉄鋼の過剰生産能力に対する懸念が再び強まってきた。需要をけん引してきた自動車や家電の販売が減少し、鉄鋼製品価格が下落に転じたためだ。中国政府は2016年から生産設備の削減に取り組み、中国の過剰生産が世界の市況を乱す「鉄冷え」を一時抑えた。だが、需要減で需給ギャップが再び広がることを懸念し、一段の削減を進める必要があると判断したもようで、その布石とみられる人事に動いた。

18年12月、上海で有数の規模を誇る上川鋼材市場に工事用車両が続々と入った。8万6千平方メートルの敷地には中小企業などに鋼材を売る約250店が軒を連ねていたが、ほぼ全て取り壊され、がれきの山と化していた。上海市は再開発を理由に挙げるが、店舗経営者からは販売不振という別の理由が聞こえてくる。
「鉄で商売するのは難しくなっている。もう廃業するしかない」と男性経営者はこぼした。市場に入っていた店舗の半分以上は廃業を決定。男性経営者の店も売り上げはピーク時の半分という落ち込みぶりで「閉鎖はいいきっかけだ」という。
中国政府は15年末時点で年12億トンだった粗鋼生産能力の削減に取り組み、赤字企業の淘汰などで16~17年に1億2千万トン分を削減した。18年も3千万トン分を削減したとみられる。くず鉄を溶かして固めただけの違法鋼材で、統計に載らない「地条鋼」も一掃。中国の過剰生産が国際市況を混乱させているという海外の批判に対応した。
中国は鋼材で年8億トン弱の国内需要(粗鋼ベース)があるほか、年数千万~1億トン程度を輸出してきた。生産能力の削減によって需給ギャップは大幅に縮小し、市況は底入れした。自動車や家電の薄板に使う熱延コイルは15年に一時1トン2千元(約3万2千円)を切っていたが、18年の夏場には4400元前後まで上昇した。
ところが、18年秋からは価格が再び下落傾向となり、19年1月中旬時点では3800元前後となっている。自動車や家電などの需要減退が鮮明になってきたためだ。
中国汽車工業協会によると、18年の中国の新車販売台数は前年比2.8%減となった。28年ぶりの前年割れという歴史的な局面で、協会幹部は「景気減速や米中貿易戦争が消費者の心理に影響を与えた」と分析した。
家電メーカーも消費心理の悪化と市場の飽和に苦しむ。全国家用電器工業情報センターによると、7~9月の家電市場の規模は前年同期比で5.6%減った。17年通年の11.9%増、18年1~6月の9.7%増から潮目は大きく変わった。
国内最大手の宝武鋼鉄集団傘下の宝山鋼鉄は販売テコ入れのため、18年12月から2カ月連続で値下げを迫られた。同社は19日、18年12月期の純利益が前年同期比8~12%増の206億~214億元になりそうだと発表。1~9月期の純利益は前年同期比34%増となっており、10~12月期は減益となった可能性が高い。
日本の鉄鋼メーカーは中国の需要減退の影響を懸念する。JFEスチールの柿木厚司社長は「内需が落ちても鉄鋼業は生産量を一気に落とすのは難しい。短期的に内需が落ちれば輸出が増えるだろう」と語った。
中国政府は鉄道建設の加速などの景気刺激策に取り組むが、現時点で大がかりな公共投資の上積みには慎重だ。鋼材の需給ギャップを埋める効果は限定的とみられる。政府は一段の設備削減が必要と判断し、国有大手の人事によって地ならしに乗り出したようだ。
18年11月末、宝山鋼鉄の戴志浩氏が董事長を辞職し、国内4位の鞍鋼集団の総経理に就任する人事が発表された。中国メディアは一斉に統合が間近に迫ったと報じた。両社側とも「統合の事実はない」と否定したが、日本の鉄鋼大手幹部は「統合は既定路線だ」と語った。16年の大手2社統合による宝武鋼鉄集団の発足でも、13年に布石とされる人事があった。
中国メディアによると、宝武鋼鉄の陳徳栄董事長は「中国の生産能力は依然として過剰で、再編でさらなる能力削減を図るべきだ」と強調した。鉄鋼業界では同社と鞍鋼の組み合わせ以外の統合もささやかれており、19年は再編が一気に本格化する可能性がある。

190131日経
JFEスチールは設備トラブルによる国内製鉄所の生産停止が長引く影響で、約10万トンを追加減産する。西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の高炉復旧が遅れることなどが主因。追加を含む2019年3月期累計の減産量は100万トン程度に増える見通し。経常利益への影響は期初計画に対し200億円程度の押し下げを見込む。自動車産業などへの供給停止が長引く可能性がある。

高炉1基を停止したJFEスチールの西日本製鉄所(岡山県倉敷市)
一連の減産による影響は同社の17年の国内粗鋼生産量の4%弱に相当する。倉敷地区は高炉1基を18年10月末に停止した。1月中旬の完全復旧を目指していたが2月中旬にずれ込む見通しだ。
倉敷地区は西日本に生産拠点を置く自動車メーカーなどに鋼材を多く供給している。既に顧客に納期を遅らせてもらうよう要請しているが、3カ月以上も高炉が止まるのは異例で、停止の影響が広がる可能性がある。
復旧が遅れている要因は、付帯設備の不具合によるものが大きい。製鉄所は操業から数十年が経過した設備が多く、定期的な改修で設備を入れ替えたり、一時的に止めたりしてメンテナンスを行う。しかし、国内の需要増でフル稼働が続くなか設備負荷が高まっていた。
一連の減産で、親会社のJFEホールディングス(HD)は19年3月期の連結業績見通しを下方修正する公算が大きい。18年10月に経常利益の通期見通しを期初予想(前期比20%増の2600億円)から16%増の2500億円に引き下げた。
鋼材需要は建設や自動車向けに旺盛で値上げが浸透。販売価格から原材料費を差し引いた利幅は改善している。前期実績(2163億円)からの増益は確保するもようだが、アナリスト予想平均であるQUICKコンセンサス(30日時点、11社)の2419億円を下回る可能性がある。

190205日経
1992年から務めた川崎製鉄(現JFEスチール)の人事室長時代。足しげく通ったのが都内の大手ケーキメーカーだ。バブル崩壊後の長期不況下で、鉄鋼業は人員合理化のまっただ中。出向対象の社員と面談して新しい職場を探す中で、1人の社員の出向先にケーキ工場が目にとまる。

温度管理などに精通していたその社員は出向先で工場の生産改革を極める。役員になるまで勤め上げたと聞き、「製鉄のノウハウは意外なところで生きる」との思いを強くした。とことん社員と対話し、異色な配置転換でも人物本位で試す。「その職場で本当に良かったのか。今でも面談した全員の一人一人の姿が目に浮かぶ」。技術屋集団の印象が強いJFEスチールにあって一貫して人事畑を歩み、社員から「ミスター人事」と呼ばれるゆえんだ。
02年に旧川鉄と旧日本鋼管が統合したJFEホールディングス(HD)が発足して以降、両社の社員の融和に尽力。製造現場の女性活用や働き方改革にも力を入れてきた。JFEHDの林田英治社長は「現場で人の言うことを聞く力を強く持っている」と太鼓判を押す。若い世代が一気に増え、現場の操業トラブルが頻発する中での登板だ。ミスター人事の手腕が試される。

190206日経
ニューヨーク=中山修志】米鉄鋼業界の先行きに暗雲が漂ってきた。関税引き上げによる鉄鋼価格上昇は自動車などの需要減退の逆風で帳消しとなり、増産・雇用増に前のめりだった各社は事業拡大に慎重になり始めた。鉄鋼産業が集積する中西部の「ラストベルト」はトランプ大統領の支持基盤。復調が揺らげば政権運営や2020年の大統領選に影響する可能性がある。

米鉄鋼メーカーは鉄鋼関税の発動で増産を決めたが…(18年6月に再稼働したUSスチールの製鉄所)
米鉄鋼4位のAKスチールは1月下旬、稼働率が低下しているケンタッキー州のアシュランド製鉄所を年内に閉鎖すると発表した。08年の金融危機以前は年間250万トンの粗鋼を生産したが、現在は一部のメッキ工程以外は休止していた。
ロジャー・ニューポート最高経営責任者(CEO)は「輸入制限によって米国の鉄鋼産業は強くなったが、各社の相次ぐ増産で競争が厳しくなっている」と説明した。生産の一部をオハイオ州などに移し、年間4千万ドル(約43億円)のコストを減らす。

米鉄鋼需要にブレーキがかかってきた大きな要因は、米ゼネラル・モーターズ(GM)が北米5工場の生産休止を発表したことに象徴される自動車販売の減速だ。自動車販売は金融危機後の買い替え需要が一服し、19年は前年割れとの見方も出ている。世界鉄鋼協会(WSA)によると、19年の北米の鉄鋼需要は前年比1.0%増と18年(1.7%増)から鈍化する見通しだ。
需要減を反映して鉄鋼価格も下がっている。自動車や産業機械に用いる熱延コイルの価格は1月下旬に1トン当たり764ドルと昨年7月のピークから24%下落した。鉄鋼関税による価格の押し上げ効果は打ち消された。中国経済の減速による世界的な鉄余り傾向も価格下落に拍車をかけている。

AKスチールは「足元の価格水準が続けば、19年は年間2億ドルの減益要因になる」と説明する。スチール・ダイナミクスのマーク・ミレットCEOは「一段の値下がりを見越して一部のバイヤーが買い控えるケースも出てきた」と明かす。
トランプ政権による鉄鋼の輸入関税の発動で、米鉄鋼業界には心地良い状況が続いてきた。米鉄鋼輸入は18年12月までに前年から12%減った一方、18年の米粗鋼生産は17年比6.2%増えた。その結果、18年10~12月期の鉄鋼4社の純利益の合計は15億ドルと前年同期の2.1倍に押し上げた。
アジア製などの安価な鉄鋼に受注を奪われてきた米メーカーには、関税で輸入を抑えているいまが反転攻勢の好機と映る。USスチールなど鉄鋼大手は増産計画を相次ぎ打ち出してきた。
さびた工業地帯と呼ばれるラストベルトは16年の大統領選でトランプ政権誕生の原動力となった。トランプ氏が今年1月にツイッターに「メキシコ国境の壁は米国製鉄鋼でつくる」と投稿すると、米鉄鋼協会は「鉄鋼は最適な素材だ。300万トンあればつくれる」と応じた。
シティグループのアナリスト、アレキサンダー・ハッキング氏は「供給過剰の懸念が強まっている」と指摘する。需要が弱含む中で、トランプ政権の保護主義的な政策を当て込んだ大手の増産が続いているからだ。だが世界経済の不透明感は強まっており、中国や欧州経済の減速は鮮明になっている。米経済は足元は底堅いものの、市場には先行きを懸念する声が出始めている。保護主義的な政策だけで需要を支えられるかは危うい。

190206日経
電気自動車(EV)の電池や鉄鋼生産に欠かせないレアメタル(希少金属)の国際価格が軒並み下落している。主要消費国である中国の景気が減速し需要が減少。国際価格に波及した。米中貿易摩擦をきっかけにした中国経済の停滞が長引けば、一段と下落する可能性が高い。



 リチウムイオン電池の正極材に使うコバルトの指標となる欧州市場のスポット(随時契約)価格は1月下旬時点で1ポンド20.1ドル前後。直近高値をつけた2018年4月下旬から24ドル(54%)下落した。前年同期比では18ドル(47%)安い。
ステンレス鋼などの耐熱性や耐食性を高めるモリブデンの指標となる三酸化モリブデンのスポット価格は1月下旬時点で1ポンド10.8ドル前後と、直近高値をつけた18年3月下旬から2.2ドル(17%)安い。1月中旬には10.6ドル前後まで下落していた。超硬工具の原料となるタングステンも、指標となる中間原料パラタングステン酸アンモニウム(APT)のスポット価格が1月下旬に10キロ270ドル前後と直近高値の18年6月下旬から80ドル(23%)安い。
下げの要因は中国の需要減少だ。コバルトは昨秋以降、電池メーカーの在庫補充が一段落したところに実需の鈍化が重なった。正極材での使用比率を減らす取り組みも続き、「現在はほとんど買いがない状態」(市場関係者)。18年9月中旬に1キロ480元前後で推移していた同国での取引価格は今年1月下旬に同315元前後まで下落。欧州市場の取引価格に下げ圧力がかかった。
一方、コバルトの世界生産の6割近くを占めるコンゴ民主共和国では生産の増加が続く。スイスの大手資源商社、グレンコアが増産したほか手作業での採掘も増えているとみられる。市場関係者は「世界的に供給過剰なのは明らか。取引価格は当面弱含む」と話す。
モリブデンやタングステンも中国の需要減少が相場の下押し圧力となっている。
レアメタル専門商社、アドバンストマテリアルジャパン(東京・千代田)の松村洋合金鉄部長は「三酸化モリブデンの中国国内の取引価格は足元で反発しているものの、パイプライン向けの添加剤需要が落ちているようだ」と話す。レアメタル専門商社、サムウッド(東京・千代田)の川崎豊副社長は「中国の工作機械需要の減退でタングステン価格は今後も弱基調が続く」とみている。米中貿易摩擦を背景にした中国経済の停滞でレアメタル価格の一段安を予想する声は多い。
液晶パネルの電極材に使うインジウムの1月下旬のスポット価格は1キロ230ドル前後。直近高値をつけた18年3月上旬から112.5ドル(33%)安い。中国政府当局が差し押さえていた雲南省の泛亜(ファンヤ)有色金属交易所の在庫が放出されるとの観測から需給緩和の思惑が広がる。取引価格の下落を映し、DOWAエレクトロニクスは3カ月連続で国内需要家向けの建値を引き下げた。

190728日経
鉄鋼市場が米国の輸入関税を引き金に分断され、供給過剰が起きている。1~6月の世界の粗鋼生産量は最大の生産国である中国が伸び、過去最高だった。中国は国内景気対策で増産が続く一方、あふれた鋼材が輸出されアジアなどの市況を押し下げる。市場を閉じた米国側では輸入材の減少でメーカーが一時増産したが、足元は内需の低迷で対応を迫られる。貿易摩擦で需要が冷え込み需給がさらに崩れれば、世界経済の先行きにも黄信号がともる。
世界鉄鋼協会が29日までにまとめた2019年1~6月の世界粗鋼生産量は、前年同期比4.9%増の9億2506万トンと過去最高だった。世界の5割を生産する中国は9.9%増の4億9216万トンで最高となり、中国の純増分だけで世界全体の伸びを上回った。
米国は18年3月、鉄鋼製品を対象に25%の輸入関税を発動した。中国政府は16年ごろから余剰生産能力の削減に取り組んできたが、足元は米中貿易戦争で減速する国内景気を下支えするためインフラ投資を増やし建材需要が堅調だ。新たな製鉄所の投資も出始めた。宝山鋼鉄は老朽化した設備を統廃合する一方、広東省で最新鋭の製鉄所の第3高炉を18年に稼働させた。生産能力は年1千万トンを超えるという。

ただ貿易戦争の余波で国内の自動車や産業機械など製造業向けの鋼材は伸び悩む。自動車などに使う「鋼板類」の1~5月の輸出は8%増。東アジアの輸出市場で代表的な鋼板である熱延コイルの価格は18年10月の1トン640ドルが足元は550ドルになった。市況悪化でインドネシアのクラカタウ・スチールは本社従業員を3割減らす。
関税で米国向け輸出ができなくなったトルコ産やロシア産は欧州市場を脅かす。英ブリティッシュ・スチールが経営破綻し、業界首位の欧州アルセロール・ミタルは減産に追い込まれた。
障壁を設けた米国側にも影響はある。関税効果で18年の鉄鋼輸入は前年比12%減。18年には米最大手のUSスチールが15年から休止していたイリノイ州の高炉2基を再稼働するなど業界は久々の増産に沸いた。19年1~6月の国内生産も5%増えているが最近は一転、減産表明が相次ぐ。
USスチールは6月、ミシガン州などの2基の高炉の生産休止を発表した。減産の規模は月20万~22万5千トンの見込みで全米の3%に当たる。米4位のAKスチールもケンタッキー州の製鉄所を年内に閉鎖する。

USスチールは増産から1年あまりで再び減産に(イリノイ州の製鉄所)
理由は減速する米国の内需だ。最大需要家の自動車業界では1~6月の新車販売が2%減と2年ぶりに減少。18年7月に1トン1000ドルをつけた米国の熱延コイル価格は630ドル前後まで下落。6月の製鉄所の稼働率は79.5%と関税発動時に商務省が目標とした80%を半年ぶりに下回った。トランプ政権の保護政策は機能していない。
日本にも影響が及ぶ。18年に各社が設備トラブルで大幅に減産をした間に輸入材が増加。19年1~5月の中国からの普通鋼の輸入量は73%も増えた。国内の薄板の在庫は10年ぶりの高水準だ。
18年の世界の粗鋼生産量はおよそ18億トン。中国ではピーク時に年13億トンあったとされる国内の生産能力が16~17年に約1億2千万トン分、18年にも約3千万トン分減った。それでも経済協力開発機構(OECD)の推計によると、世界の生産能力は18年時点で22億3370万トンある。
OECDは18年から3年間で、中国、インドなどアジアがけん引し、世界の生産能力が最大5%程度伸びる可能性があると分析する。SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストは「世界の鋼材は明らかに供給過剰の状況にある」とする。
中国の増産で鉄の原料となる鉄鉱石の価格は上昇し、現状は「原料高、価格安」が続く。もともと供給が需要を上回る中での市場分断により需要が冷え込む恐れが高まる。日本製鉄の橋本英二社長は「貿易戦争が続く限り、こうしたリスクは続く」と、新たな「鉄冷え」に身構える。
(川上梓、岡森章男、上海=松田直樹、ニューヨーク=中山修志)

190825雑誌
鉄鋼生産量は、中国一位、インド二位

190905日経
JFEスチールは国内製鉄所のすべての高炉で人工知能(AI)を導入する方針を明らかにした。2019年3月期に高炉の操業トラブルが相次ぎ、減産が長期化したため、対策を急ぐ。過去の操業の状況をAIが学習し、トラブルにつながる状況などを予測できるようにする。西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)をはじめ、国内に8基ある高炉で進めていく。
西日本製鉄所をこのほど報道関係者に公開し、今後のAI活用の方針を示した。一連のトラブルが発生してから同製鉄所を公開するのは初めて。
同社は19年3月期に国内4カ所の製鉄所のうち、3カ所で高炉のトラブルが起き、年間270万トンを減産した。今期は100億円の対策費を計上。対策チームを設けて再発防止策を進めている。
トラブルからは復旧したが、鉄鋼業界を取り巻く環境は厳しい。米中貿易摩擦の長期化による世界景気の減速と原料高が収益を圧迫している。西日本製鉄所の渡辺敦所長は「付加価値の高い製品の競争力を上げるとともに、長期を見据えた、より効率的な設備の在り方を検討する」と話した。

190919日経

18日の東京株式市場ではJFEホールディングスの株価が一時前日比70円(5%)安い1313円まで下落した。前日に三菱UFJモルガン・スタンレー証券が投資判断や目標株価を引き下げたことが嫌気され、機関投資家を中心とする売りが膨らんだ。終値は64円50銭(5%)安の1318円50銭だった。

三菱UFJモルガンの黒坂慶樹氏は、投資判断を3段階で最上位の「オーバーウエート」から真ん中の「ニュートラル」に見直した。目標株価も1660円と従来の2590円から大幅に引き下げた。黒坂氏は「採算改善に努めるが、鋼材需要が伸び悩んでおり一筋縄では進まない」と指摘。2020年3月期の連結事業利益(国際会計基準)見通しを従来の2000億円から1300億円に引き下げた。
景気の先行き不透明感から設備投資を控える企業が増え、工作機械向けなどの鋼材需要が鈍い。海外を中心に自動車の販売も減少。海外では鋼材市況が悪化傾向にある。
ただ国内では自動車向けなど大口顧客を中心に、一部鋼材の値上げ浸透が見込まれる。PBR(株価純資産倍率)は0.39倍と、企業の解散価値を示す1倍を大きく割り込む。「これ以上の採算悪化がなければ見直し買いが進む可能性もある」(国内証券)との指摘もあった。

190925日経
日本鉄鋼連盟は24日、8月の国内粗鋼生産量が前年同月比7.8%減の811万6千トンだったと発表した。2カ月連続で前年実績を下回った。高炉、電炉とも前年同月より減った。国内の建材市場は東京五輪向け案件が一巡し、人手不足で工事が遅れるなど需要が停滞している。

190926日経
鉄鋼原料の鉄スクラップの取引価格が下落している。電炉の鉄鋼メーカーによる買い取り価格は1カ月で1割下落した。米中貿易摩擦のあおりで内外の市場で鋼材需要が停滞しており、鉄スクラップに緩和感が強まっているためだ。鉄スクラップ安は国内の鋼材価格を一段と押し下げる可能性がある。

輸出向け落札価格は6カ月連続で前月比マイナスに
「H2」と呼ばれる鉄スクラップの指標品種の東京地区の電炉買値は、現在1トン2万3500円前後。ここ1カ月で1割下落した。アジア市場が鉄スクラップ需要の減退で値下がりし、国内市場に波及した。

鉄スクラップの価格は今春半ばから、国内とアジア輸出市場のいずれも値下がり基調だったが、9月に入り下げ足が速まり、従来の底値圏から一段安となったかたちだ。背景には米国の対中制裁関税「第4弾」が9月に発動されたことがある。
中国景気が一段と減速し中国やアジアで鋼材需要が減少するとの観測が強まった。鋼材需要に対する懸念は鉄スクラップの先安観につながり、トルコや台湾の価格も安くなった。
アジア市場の鉄スクラップ安は日本からの輸出価格を押し下げている。鉄スクラップ事業者でつくる関東鉄源協同組合(東京・品川)が9月に実施した輸出向け入札の平均落札価格は8月より10%下落し、8月の下落幅(1%安)を上回った。
アジアなどの鋼材相場の基調が弱くなっていることを反映した。鉄スクラップの取引も様子見ムードで日本からの輸出需要も盛り上がりに欠けている。日本はアジアへの鉄スクラップの輸出が多く、輸出需要の停滞は国内価格にも影響する。
鉄スクラップは国内需要も盛り上がりを欠く可能性がある。日本国内での鋼材需要の停滞が続きそうなためだ。2020年の東京五輪・パラリンピック関連の建築需要が一巡しているうえ、輸出用機械に使う鋼材の荷動きも鈍い。電炉の鉄鋼メーカーは鋼材生産を抑制気味で、鉄スクラップの調達意欲も高くない。

191002日経
日本製鉄が台風15号の影響などで、自動車部品に使う特殊鋼の国内2工場を長期停止することが1日、分かった。同社は自動車の足回り部品やタイヤ向け鋼材の半製品を製造し、国内で半分超のシェアを持つ。主力の千葉県の工場の復旧には最長で約6カ月かかる見通しで、トヨタ自動車などは代替調達に動き始めた。災害被害を最小限に抑える対応力が企業の課題として浮上している。
日本鉄鋼連盟などによると国内の特殊鋼の生産量は2018年度で1931万トン。鋼材生産量の約2割で、その多くが自動車向けとなっている。日鉄は自動車用特殊鋼で国内首位メーカーだ。
長期停止するのは君津製鉄所(千葉県君津市)と子会社の日鉄日新製鋼の呉製鉄所(広島県呉市)のうち、溶けた鉄の成分を調整する「製鋼」とよぶ中核工程の工場。生産能力は2工場で月20万トン程度とみられる。
君津製鉄所は台風15号の際に2つある製鋼工場のうち1工場でガス処理に使う煙突が倒壊した。呉製鉄所は8月末、2つある製鋼工場のうち1つで火災が発生し、運転室などの損傷が激しい。
君津の工場の復旧には最長6カ月、呉は10カ月ほどかかる見通し。2工場の停止は自動車の生産に影響する可能性がある。トヨタや日産自動車は現時点で「車両生産への影響はない」とするが、トヨタは日鉄以外から代替品の調達を始めた。

191015日経
モンテレイ(メキシコ)=川上梓】世界の鉄鋼大手の首脳が一堂に集まる世界鉄鋼協会(WSA)の年次総会が14日からメキシコのモンテレイ市(ヌエボ・レオン州)で開かれる。米中摩擦の長期化や景気減速による鋼材市況の悪化、中国による過剰生産などが重要テーマとなる。このほか鉄鋼業界の環境問題への対応についても議論が交わされる見通しだ。
WSAは世界約160社が加盟する。総会は年に1度開催される。欧州アルセロール・ミタルなど世界大手のほか、日本製鉄など国内大手、韓国ポスコ、米国勢などのトップが一堂に集まる。
世界の5割を生産する中国による鉄鋼の過剰生産は世界の鋼材市況を揺るがしている。米中貿易戦争の長期化による景気減速で鋼材価格がアジアを中心に下落するなか、中国は景気刺激策で鉄を増産している。一方、鉄鉱石など原材料の価格は高止まりが続く。「原料高・市況安」の構図は鉄鋼業界の収益環境を悪化させている。
主要国は16年以降、中国の過剰生産の問題解決に向けた国際的な枠組み「グローバル・フォーラム」を設け、政府間で協議を進めてきた。枠組みは今年、期限を迎える。この点についての議論が交わされるかも注目される。

191016日経
191016日経
モンテレイ(メキシコ)=川上梓】世界鉄鋼協会は14日、2020年の中国の鋼材需要が19年見込み比で1.0%増の9億900万トンになるとの見通しを発表した。米中貿易戦争による内需の鈍化で、伸び率は19年見込み(7.8%)から急激に縮小する。一方、中国の鉄鋼大手は国内の景気対策を受けてあくまで増産を続ける構え。さらなる供給過剰を懸念する声が広がっている。

「貿易戦争の長期化が中国の国内産業にマイナスの影響を与えている」。14日にメキシコで開幕した世界鉄鋼協会の年次総会。同協会のエドウィン・バッソン氏は記者会見でこう解説した。
20年の世界の鋼材需要見通しは1.7%増の18億500万トン(19年見込みは3.9%増)。中国はこの半分を占めるが、自動車や産業機械向けの需要が落ち込む見通し。1%という伸び率は8%前後が続いた17~19年と比べて減速感が鮮明だ。
中国を除く世界の需要も勢いを欠く。20年は2.5%増の8億9600万トンを見込むが、4月に予測した需要量よりも2%強少ない水準だ。インドや欧州連合(EU)も前年比プラスだが、いずれも4月の予測に比べると数量は落ち込む。
鉄鋼業界の最大の懸念は、「こうしたなかでも中国が増産を続けていることだ」(インド鉄鋼大手、JSWスチールの営業幹部)。中国の8月の粗鋼生産量は9.3%増の8725万トンと42カ月連続で増加。年間で過去最高となる10億トンに迫る勢いだ。米中摩擦で減速する景気を下支えするために政府がインフラ投資を拡大しているためだ。18年に米中貿易戦争が勃発して以来、世界の鉄鋼市場では「需要の減速」と「中国の増産」という2つの現象が同時に広がる。米中摩擦が引き起こす新たな「鉄冷え」の構図だ。
「生産の増加は貿易戦争の影響ではない。国内の旺盛な需要に対応するためだ」。中国の鉄鋼2位、河鋼集団の于勇董事長は14日、日本経済新聞の取材にこう語った。
だが、足元の内需は鈍化している。国内で吸収しきれない一部の鋼材が輸出され、アジアの市況を押し下げている。東アジアの輸出市場で代表的な指標である熱延コイル価格は18年10月に1トン640ドルだったが、足元は515ドル前後と2年5カ月ぶりの安値圏にある。
「世界経済の先行きが不透明である限り、鋼材市況は下がったままだ」。英国の鉄鋼業界団体、UKスチールのガレス・スタース代表は嘆く。
一部の鉄鋼大手はすでに生産調整を始めた。アルセロール・ミタルは欧州で域内生産能力の約1割に相当する規模を減産する。米USスチールは6月、ミシガン州など2基の高炉の生産休止を発表した。「米中摩擦を受けた中国リスクは長期化する」(日本製鉄の橋本英二社長)。合理化の動きが今後加速しそうだ。

191129日経

国内鉄鋼大手が持ち合い株などの資産売却を加速する。JFEホールディングスは2021年3月期までに1000億円超の保有株を売却する。日本製鉄は従来の資産売却計画から上積みする予定だ。鉄鋼業は老朽設備の更新に多額の費用がかかるが、世界景気の減速で20年3月期の営業キャッシュフロー(CF)は前期より大幅に減る見通し。資産売却で投資に必要な原資を捻出する。

鉄鋼メーカーは設備の改修に多額の費用がかかる(JFEスチール西日本製鉄所福山地区)
JFEは持ち合い株を中心に約1500億円の資産を圧縮する。主要子会社であるJFEスチールは19年3月末時点で上場、非上場あわせて238銘柄、約2400億円の株式を保有していた。寺畑雅史副社長は「半減させるイメージだ」と話す。

前期までに

トヨタ自動車や川崎重工業などの株式の一部を売却した。保有株は取引先企業が多く、業種も幅広い。保有額上位には、いすゞ自動車やJR東海、大陽日酸などが並ぶ。JFEは保有先企業と売却を協議する。相手側もJFE株を売却する可能性がある。
鋼材の需要減や市況低迷で19年4~9月期の営業CFは1012億円と同期間としては14年以来の低水準にとどまった。一方で20年3月期通期の設備投資額は4100億円と前期比2割増を計画している。19年3月期に国内主要製鉄所の高炉でトラブルが相次ぎ、対策費も盛り込む。事業環境の変化を受け21年3月末までの3年間で1兆円を計画していた設備投資を9000億円に圧縮するが、依然として巨額の資金が必要だ。
JFEは中期経営計画で、有利子負債をEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の3倍程度に収める目標を掲げる。ただ、20年3月期の負債はEBITDAの6.4倍と前期の3.6倍から増加する見込みだ。
負債を増やしにくいなか、投資の原資として見込むのが政策保有株だ。東京証券取引所が上場企業に適用するコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)で政策保有株の縮減が求められており、保有先の理解を得やすくなっている面もある。株式相場が堅調に推移するのも追い風だ。
他の鉄鋼大手も持ち合い株などの資産圧縮を進めている。
日本製鉄は21年3月期までの3年間に保有株や土地などで3000億円の売却にめどを付けていたが、宮本勝弘副社長は「プラスアルファを検討する」と語る。同社は需要減に加え、大型台風による設備トラブルという逆風も吹いた。今期中にも欧州アルセロール・ミタルと共同でインドのエッサール・スチールの買収契約を結ぶ見込みで、資金需要は大きい。
神戸製鋼所も20年3月期に保有株の売却や運転資金の効率化などで500億円のキャッシュを生み出す計画だ。従来予定していたよりも1年前倒しで完了する方向で進めている。
野村資本市場研究所によると、18年度末時点の時価総額に占める政策保有株の比率は鉄鋼が21%。金融を除く全業種平均(6.6%)に比べて高い。同比率は倉庫・運輸(26%)、海運(23%)など社歴の長い企業が多い業種で高くなる傾向がある。取引先などの株式を古くから保有し、簿価が相対的に低いためだ。西山賢吾主任研究員は「海外の機関投資家は持ち合いへの関心が高く、保有比率が高い業種を中心に見直しを促す傾向が強まるだろう」と話している。

200127日経

鉄鋼市況が昨夏から崩れた。米中の貿易摩擦や中東情勢の緊迫で低迷は続くのか。鉄スクラップを原料に鉄鋼製品を製造する電炉メーカーの最大手、東京製鉄の西本利一社長に聞いた。

西本利一・東京製鉄社長
印・ロは輸出増

――鉄鋼市況が崩れた主因は、やはり中国経済の減速なのでしょうか。
「主因は中国ではない。たしかに米中の貿易摩擦が激しくなり、自動車生産が落ちた影響で中国でも鋼板価格は下げた。ただ、中国政府は貿易摩擦の影響を抑える狙いで建設投資を増やし、建材市況は堅調だ。以前のように中国が鋼材輸出を急増させ、国際市況を崩したわけではない。中国の鉄鋼生産が増え続けているため、中国の調達が多い鉄鉱石の価格は電炉が原料に使う鉄スクラップに比べ高止まりしている」
「貿易摩擦の影響で欧州をはじめ世界の経済が減速し、そこにインドからの鉄鋼輸出が増えた。7%成長を前提に設備投資や在庫を増やしていたインドの国内総生産(GDP)は昨年7~9月に4.5%まで伸びが減速し、余った鋼材が国際市場に流出した。ロシアからも同じような状況で鋼材輸出が増えた」
――アジア地域で2018年半ばに1トン600ドル以上あった熱延コイルの取引価格は昨年、500ドル以下に下がりました。
「昨秋は一時FOB(本船渡し)価格で400ドル近辺まで下がった。直近では500ドル弱に反発している。ただ、これはインドなどからの輸出圧力が弱まったことが要因で、鉄鋼製品の需要が戻ってきたわけでない。米中が貿易摩擦を解消し、少なくとも世界の自動車生産が拡大傾向を取り戻さないと鉄鋼市況の本格回復は期待しにくい」
「世界の人口は増えている。新興国ではベトナムも鋼材の需要国として台頭し、アジアのスポット市場で中心的な存在になった。貿易摩擦や中東情勢の緊迫といった阻害要因を取り除けば新興国を中心に成長軌道に戻るはずだ」
――国内ではオリンピックの関連工事が一巡し、建設需要が低迷しています。
「東京五輪が終わるまでは、どんな混乱があるか分からないため停滞した状態が続くだろう。再開発や防災対策のための需要は多いが、それが出てくるのは五輪後、21年に向けてになるのではないか。原料コストを踏まえれば鋼材価格は下がりにくいだろうが、需要面で今年前半は厳しい状況を覚悟している」
環境負荷を低減

――環境問題への関心が高まり、鉄鋼産業も対応を求められます。
「鉄はリサイクルできる素材であり、とりわけ鉄スクラップを原料に使う電炉メーカーは二酸化炭素の排出を抑えられる。日本は資源の乏しい国だが、国内には14億トンほどの鉄鋼製品が蓄積されている。そこから毎年、3000万トン近い鉄スクラップが発生している。電炉による鉄鋼生産を増やせば、国内で効率よく資源を循環できる」
「電炉での鉄鋼生産には電力が不可欠だが、再生可能エネルギーの利用を進めれば環境負荷をさらに抑制できる。当社は50年までに二酸化炭素の排出を5分の1に減らす構想を打ち出している」

200131日経

日本製鉄は呉製鉄所(広島県呉市)に現在2基ある高炉(総合2面きょうのことば)を休止する方針を固めた。国内の生産能力を1割削減する。同製鉄所は鋼板製造ラインも含めた将来の全面閉鎖も検討する。鉄鋼業界は保護主義の広がりと中国企業の大増産で市況が悪化し、日本勢のアジア向け輸出の競争も激しい。世界的に生産能力は過剰で、競争力の低い製鉄所の淘汰が広がる可能性がある。(関連記事企業2面に)

世界鉄鋼協会によると、2019年の世界の粗鋼生産量は18億6990万トン。経済協力開発機構(OECD)の推計では18年時点の世界の鉄鋼業の生産能力はこれを約4億トン上回る。日本の粗鋼生産量の4倍の過剰能力を世界で抱えている計算だ。日本国内も約3割の過剰能力を抱える。
日鉄は2月7日にも呉製鉄所の高炉休止を発表する。数年以内に実施する。同製鉄所の粗鋼生産量は19年3月期で273万トン。生産能力はグループ全体の7%に相当する。呉の高炉は1基を残し能力を増強する計画だったが2基とも休止する方針に転換した。北九州市の1基も21年3月末の休止を決めており、グループの国内の生産能力は現在の5400万トンから1割程度減る見通しだ。
呉製鉄所は子会社の日鉄日新製鋼が運営し、自動車の高機能鋼板などを製造する。規模がグループ内の他の製鉄所と比べ小さく、製鉄所全体の閉鎖も検討する。
閉鎖の場合、1000人程度いる従業員は配置転換を含め検討するもようで、協力会社を含めた3000人以上の雇用に影響する可能性がある。高炉のある製鉄所を全面閉鎖すれば日鉄グループの創業以来、初めてとみられる。
鉄鋼業界の経営環境は急速に悪化している。米国が鋼材への輸入関税を引き上げ、米国に向かっていた製品がアジアや欧州でだぶついた。最大の生産国である中国は、政府の景気刺激策で過去最高のペースで鉄の増産を続ける。鉄鉱石など原材料価格は高止まりする一方、市況の低迷が続く二重苦に直面している。欧州では経営破綻も起きた。

200131日経

日本製鉄が生産能力の大幅な削減に踏み込む。呉製鉄所(広島県呉市)については高炉の休止に加え、同社の歴史で例のない製鉄所の全面閉鎖も検討する。「聖域」なき削減へと背中を押したのは、過去20年で大きく躍進した中国勢の脅威と保護主義の台頭だ。(1面参照)
「世界の半分を生産する中国の存在は脅威だ。今後、ますます厳しい競争が待っている」。2019年4月に新日鉄住金から社名変更した日本製鉄。初代社長の橋本英二氏は就任直後から、巨大化する中国のライバルに警鐘を鳴らしていた。

その膨張ぶりは統計にくっきり表れている。世界鉄鋼協会によると、2000年の粗鋼生産量の上位10社のうち、首位は新日本製鉄(現日本製鉄)で中国勢はわずか1社だった。これに対し、18年は2位の宝武鋼鉄集団をはじめ6社がランクイン。新日鉄住金(同)は3位に沈んだ。世界の生産量に占める中国のシェアは5割を超えるまでになった。
中国は16年以降、国際社会の圧力を背景に生産能力を削減。違法な設備の廃棄も進め、需給は引き締まったかに見えた。 しかし、環境を大きく変えたのが米中貿易戦争の勃発と保護主義の台頭だ。トランプ政権の輸入関税発動に対処するため中国は景気刺激策を打ち出し、再び鉄鋼の増産に転じた。19年の中国の粗鋼生産量は前年比8.3%増の9億9634万トンと4年連続で過去最高を更新。20年は10億トンの大台を突破する見込みだ。
日鉄は昨年11月、国内に16カ所ある製鉄所を20年4月に組織上は6つに集約することを発表した。だが設備維持には多大なコストがかかる。日鉄はこれまで高炉を止めても、加工設備など製鉄所そのものは温存してきたが、そうした経営方針も限界を迎えている。
「内需が減り、保護主義の台頭で輸出も増えない前提に立てば、それに見合った生産体制にシフトするのは当然だ」(橋本社長)。こうした危機感が、製鉄所の全面閉鎖も視野に入れた能力削減に日鉄を突き動かした。
日鉄は設備の集約を加速する一方、自動車向けの高機能鋼板など高付加価値の分野に一段と注力する。今回の能力削減は新たな構造改革の序章にすぎない。

200207日経

日本製鉄は和歌山製鉄所(和歌山市)に2基ある高炉のうち1基を数年内に休止する方針を固めた。日鉄のグループ生産能力の5%程度に相当する。日鉄は呉製鉄所(広島県呉市)の全高炉を休止する方針も固めている。保護主義の拡大や中国など新興国勢との競争激化で需要が低迷するなか、国内の過剰能力の削減を急ぐ。
一連の生産体制の再編について7日に発表する。和歌山製鉄所は2012年に旧新日本製鉄と合併した旧住友金属工業の主力製鉄所だ。粗鋼生産量は19年3月期で432万トン。2基の高炉のうち09年に稼働した「第1高炉」を休止する。稼働から10年程度の高炉の休止を決めるのは異例だ。
和歌山製鉄所で残る高炉1基は19年に稼働。今後は1基体制で生産の効率化を進める。


200304日経





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建設向けの代表的な鋼材でビルの梁(はり)や柱に使うH形鋼の流通価格が下落した。指標品種は1カ月前に比べ2%安い。一巡した東京五輪関連に代わる工事案件が乏しい。景況感の悪化で製造業の設備投資といった需要も鈍い。3月の年度末が近づき、在庫を減らして現金を確保するための安値販売が出ている。

H形鋼の荷動きは低調だ
東京地区の流通価格は現在1トン8万1000円前後。2月に比べ同2000円下がった。年初からの下げ幅は4000円(5%)に達し、2年2カ月ぶりの安値水準だ。補助柱などに使う山形鋼やみぞ形鋼もそれぞれ1トン8万1000円前後と、2月比で1000円下がった。機械など製造業向けが多い鋼板類に比べても、鉄骨向け建材の落ち込みが目立つ。

五輪工事の一服後、鋼材消費を支える建設需要が出遅れている。都心再開発の工事が一部でずれ込んでいる。米中摩擦の長期化などで中国の景況感が冷え込み、同国向け輸出の多い製造業の工場投資の意欲は鈍い。
都心部では中小規模のビルなどの引き合いが細っているとの見方もある。「出荷量は前年の同時期の6割ほどに落ち込んでいる」(大手鉄鋼商社のH形鋼担当者)日本製鉄の鋼材を取り扱う流通事業者で構成する「ときわ会」のまとめによると、直近1月末のH形鋼の在庫量は19万6100トン。需給均衡の目安とされる20万トンは下回っている。
一方で在庫を出庫量で割った在庫率でみると、1月は2.94カ月と2カ月連続で上昇した。流通事業者は仕入れを抑えているものの、出荷の低調ぶりが際立つ。
荷動きが停滞しているところに、新型コロナウイルスの感染拡大が影を落とす。工事の遅れが見込まれるとして、売却を急ぐ流通事業者が出ているようだ。
足元では「個別の建設計画の延期や見送りなど、直接の需要の減退は起きていない」(都内の鉄鋼商社)。ただ問屋や商社の間では、産業活動の停滞が長引けば景気が冷え込み、建設計画の先送りなどを招くとの懸念が台頭している。
販価を引き下げても当面の出荷量を確保する意識が、安値取引を増やしている。全体の相場を押し下げているという。
都心部では、五輪後もインバウンド(訪日外国人)向け需要が旺盛との期待を前提にしたホテル建設計画も控える。都内の形鋼問屋は「訪日客が戻らなければ、今後のホテル事業会社の開業意欲を冷やしかねない」と懸念する。当面軟調な相場が続きそうだ。

200305日経

上海=松田直樹、広州=比奈田悠佑】新型コロナウイルスの流行が続く中国で製鉄所の鋼材在庫量が急増し、過去最高を更新した。供給先の工場や建設現場の復旧が進まず、物流業も停滞して思うように出荷できないためだ。国内価格はこの1カ月あまりで1割近く下落した。世界鉄鋼生産の半分以上を占める中国で在庫の膨張が続けば余った鉄が安い価格で輸出に回り、日本の鉄鋼メーカーの経営にも影響を及ぼしかねない。


中国鋼鉄工業協会によると、加盟大手の2月20日時点の鋼材在庫量は2134万トンで、前年同時期と比べて45%増えた。直近で最も多かった15年6月の1745万トンを2割超上回り過去最高だ。
新型コロナの感染が広がった1月下旬は春節(旧正月)休みと重なり、自動車や家電の工場は休業に入った。一方で高炉の火を止めない鉄鋼メーカーの多くは例年通り休暇中も稼働を続けた。積み上がった在庫を休み明けに出荷するが、今年はできていない。
大きな要因が中国の鋼材需要の半分を占める建設業で工事現場が動かないことだ。交通の混乱で現場で働く出稼ぎ労働者「農民工」は地方にとどまる。交通運輸省は「帰省した3億人の農民工が全て復帰するのは3月以降」とみる。地方政府が建設業者に感染の疑いがある人の隔離を求めており、すぐの工事再開は難しい。同省によると、全国の主要な工事の再開率は2月末時点で国道が47%強、河川など水運関係が48%強となっている。


もう一つの主要出荷先、製造業の停滞も影を落とす。ホンダなどの自動車工場では休暇明けも部品や人員の不足などから再開が遅れた。鉄鋼の生産調整も難しい。大手の華菱鋼鉄担当者は「減産はするが、休業が続く取引先が多く減産の規模が決められない」と嘆く。
物流も足かせだ。通常は生産した鋼材をトラックで運び出すが、道路封鎖が解けておらず思うように進まない。中国宝武鋼鉄集団の張錦剛副総経理は「武漢市を含め全国の拠点で稼働を続けているが、物流の停滞はひどい」と危機感を隠さない。既に減産に動き、同社の1~3月の生産量は前年同期比で5%減る見通しだという。
関係者が警戒するのは、15年前後に中国の生産過剰で起きた大幅な鋼材価格下落の再来だ。
今回の事態を受け、家電や自動車の薄板に使う熱延コイルの中国国内の1トン当たりの取引価格は感染が深刻化する前の1月中旬に3800元(約5万9000円)超だったのが、足元は3400元近くまで下がった。一方、中国政府がコロナ対策を徹底して進めるなか、経済活動の再開を見越して買いに転じる需要家も出ている。
日本製鉄の宮本勝弘副社長は「鋼材の在庫が動き出したときに国内で消化しきれない鋼材が輸出に回れば市況の下押し要因になる」と語る。日鉄などは世界需要の低迷を受けて高炉休止などの合理化を決めた。市況が安値で足踏みを続ければ、追加リストラが求められる可能性がある。

200408日経

H形鋼や大径角形鋼管(コラム)など主な建築用鋼材の取引価格の下げ足が速まっている。東京地区で商社や問屋が扱う流通価格はH形鋼が前月に比べ2%下落した。新型コロナウイルスの感染拡大による経済停滞に東京五輪の開催延期も重なり、流通事業者の心理が急速に悪化している。鉄鋼メーカーも値下げに動いた。政府の緊急事態宣言の発令で荷動きがさらに鈍る公算大で、今後一段と値下がりしそうだ。

問屋の在庫削減の意識は強い(千葉県内のH形鋼の倉庫)
建築用鋼材市況の代表格で、鉄骨造(S造)の建物の梁(はり)や柱に使うH形鋼の流通価格は東京地区で現在、1トン7万9千円前後。前月より2千円(2%)ほど下落した。1年前と比べ1万1千円(12%)ほど安い。昨年夏に3年ぶりに下落に転じたが、今年2月から毎月下落するなど値下がりが加速している。

補助柱などに使う山形鋼やみぞ形鋼も1トン7万9千円と前月比2%下落し、1年前比8千円(9%)安い。
柱に使うコラムも1トン10万6千円前後と前月比2千円(2%)安く、1年間で7千円(6%)安くなった。H形鋼より供給メーカーが少なく値下がりは緩やかだったが、下げ足が加速。いずれも下値余地を探る状態だ。
背景にあるのは、昨年後半から続く建築案件の低調さに加え、新型コロナの感染拡大に伴う市場心理の冷え込みだ。
千葉県浦安市の鉄鋼団地に倉庫を置くH形鋼問屋の加藤鉄鋼は「感染が広がっても受注済み案件での出荷キャンセルは出ていない」と話す。今春や夏は案件が当初から少なかったが、予定する出荷は一部が遅れつつも全体としては進んでいる。
問題はその先の需要が鈍ってきたことだ。「(建築の最需要期である)秋口に出荷する新規物件の引き合いがもっとあってよいのに、今年は例年より動きが乏しい」(鋼材問屋)。新型コロナの拡大で民間の工場やビル、商業施設などの建築計画の一部に延期や見送りのムードが広がる。
五輪が来夏に延びることで鋼材需要のずれ込みが加速するとの見方も出てきた。東京地区ではかねて今夏の五輪中は交通規制などで建築工事が止まるが、五輪後に新規物件が本格的に動き出すとの見方が支配的だった。
五輪延期で来夏までに終わるような小規模の工事が前倒しされる期待もある。だが「完成まで数年かかる大型物件の着手が来秋以降にずれる影響のほうが大きいのではないか」(都内の鉄鋼商社の形鋼担当者)。
案件がずれ込み目先の鋼材需要が鈍るとの観測から、商社や問屋が販売価格を下げ受注の確保に動いている。
在庫を減らしたいとの意識もある。H形鋼の流通在庫は2月末で19万5800トン。需給均衡の目安とされる20万トンは下回るが、「今後の在庫はリスク」(都内の形鋼問屋)とみて処分売りを急ぐ姿勢も強まっている。
電炉メーカーの値下げも響く。H形鋼大手の東京製鉄は4月契約分から問屋や商社向けの鋼材全品種を半年ぶりに値下げした。需要家である建設会社などが東鉄製品を扱う問屋や商社に値下げを要求。流通側が一部で応じ始めている。
目先は移動制限などに伴う工事の遅れのほか、景気が下振れして建築需要がしぼむとの不安が払拭できない状態だ。市況を反転させる材料に乏しく、相場が一段と下がる可能性が大きい。

200528日経

産業素材の代表格である鉄鋼の国内市況における長年の課題を、新型コロナウイルスが際立たせている。需要急減でメーカーが高炉の一時休止を打ち出し、商社や問屋が在庫の重さにあえぐ姿は、内需縮小という課題に向き合う業界の現状を映し出す。コロナの外圧が、需給を巡る構図を新常態へと変えていく。

「一気にそうなっては困るのだが、業界は『粗鋼生産8千万トン』という規模感を、将来の現実味のある数字として意識せざるを得なくなるのではないか」。電炉の鉄鋼大手の経営者は話す。
国内の年間粗鋼生産量は従来1億トン規模だったが、2020年度は大きく落ち込む。約4分の3を占める高炉大手は計25基のうち8基の高炉設備を一時休止。4分の1の電炉も減産する。日本製鉄の橋本英二社長は5月上旬、上半期で収束したとしても年8千万トンを下回る可能性があるとの見方を示した。
コロナ禍による需要減が深刻になる直前、日本製鉄やJFEホールディングスは長期の内需縮小などを踏まえた構造改革として、一部高炉の休止(恒常的な停止)を相次ぎ打ち出した。そこに一時休止が重なった。

製造業の停滞で鋼板類の荷動きは鈍い(千葉県浦安市の鉄鋼団地)
コロナが収束し需要が戻れば、一時休止の設備は再稼働に向かう。しかし電炉大手の経営者は「各社が復活させれば、もともと供給が余剰気味だったという課題を構造改革の分ではまだ解決できない」と話す。
30年で内需は細った。鉄鋼の見かけ消費量(粗鋼換算)でさかのぼれば、ピークはバブル期の1990年度の1億トン。近年は3割減の6千万~7千万トンにとどまる。
一方、相場はどうか。主要品である熱延薄鋼板(薄板)の東京地区の一般流通価格をみると、現在の1トン7万7000円前後という水準は、実はバブル期とあまり変わらない水準だ。
単純比較は難しいが、浮沈を繰り返しながらも価格が支えられている背景は2つある。ひとつは供給側の再編だ。「ゴーン・ショック」などを契機に6社あった高炉大手は日本製鉄とJFE、神戸製鋼所の3社に集約。商社の鉄鋼販売事業の統合も進んだ。
過当競争を抑え大手が存在感を維持することは、一般流通市場における市況の下支えになった。千葉県浦安市の鉄鋼団地の鋼板問屋、奥沢産業の奥沢公明社長は「川上のメーカーの存在感が価格を崩れさせず、市中での安値を抑えてきた側面はある」と振り返る。
他方、メーカー数の集約に比べ、高炉設備の減少は緩やかとの見方もある。相場を支えるもうひとつの背景は輸出の拡大だ。中国などの経済成長と日本の製造業の海外進出にあわせ、2000年代は日本勢の鋼材輸出も活発になった。国内市況が上昇したのも、世界的な資源需要などに加え、アジアの成長が日本の鋼材需要に波及し、国内が余剰となるのを抑えたとみることもできる。
しかしこの構図は未来までそのまま続くものではない。鉄鋼産業の現地化が進んできた。新興国で鉄鋼業が育ち、汎用型の鋼材を中心に地産地消に移りつつある。日本の鉄鋼関連各社も各地への展開を進めている。
日本製鉄の橋本社長はコロナ後に需要が復調しなければ、休止(恒常的な停止)になる設備もありうるとみる。人口減少が進む国で、目先の景気回復も望みにくくなれば、鋼材消費の減退に拍車がかかるリスクはある。
浦安の形鋼問屋の経営者は「高炉も老朽設備のまますべて残していくわけにはいかない。一段のスリム化を前提に、流通市場も集約の波が広がるだろう」と話す。雇用への影響なども考えれば決断は容易ではないが、コロナ禍は業界内の様々な関係者が「次の規模感」を模索する契機となる。

200624日経

世界鉄鋼協会が23日までにまとめた世界64カ国・地域の5月の粗鋼生産量(速報値)は、前年同月比8.7%減の1億4878万トンだった。新型コロナウイルスの感染拡大による需要減少が響いた。一方、世界の粗鋼生産量の約6割を占める中国が景気対策で積極増産しており、同国の生産量は4.2%増となった。中国の「1強」ぶりが、より鮮明となっている。

ティーエスめも

200703日経

鉄鋼大手が政策保有株など資産売却によって設備補修の資金づくりを急ぐ。JFEホールディングスは2020年3月期にSUBARUや日本郵船の株をすべて手放した。21年3月期もペースを速め、資金の捻出は大手3社合計で前期並みの3400億円と高水準が続く。鋼材需要の落ち込みに新型コロナウイルスの流行が重なる一方、老朽化対応の費用を大きく減らせない。

東証業種別株価指数「鉄鋼」は19年末から20年6月末までに3割強下げ、東証33業種では「空運」などに次ぎ3番目に大きい下落率だ。日本製鉄と神戸製鋼所を含めた大手3社の株価は、QUICKでデータがわかる1974年以降(JFEは02年の統合後)の最安値圏に近い。今期は自動車など主要顧客の生産が減っている。他の産業に比べても稼ぐ力の落ち込みが懸念されやすい。
遊休資産や保有株の売却、在庫を販売して減らす現金化を鉄鋼メーカーでは「資産圧縮」と呼ぶ。資産を売って現金を得てもバランスシートの規模は変わらないが、自由に使える資金の確保に向け例年取り組んでいる。
「原則持たない」

JFEは今期の資産圧縮を前期比3.2倍の1150億円と予定している。同社は政策保有株について20年から「原則持たない」(寺畑雅史副社長)という方針を掲げる。3月末時点で中核子会社JFEスチールが持つ政策保有株式は約1660億円。前期は住友金属鉱山、国際石油開発帝石、川崎汽船などの株も一部を手放した。

神戸製鋼所は同様に4.8倍の1000億円強を、日本製鉄は前期に政策保有株などの売却が膨らんだ反動で減るが1200億円強の資金捻出を、それぞれ計画する。
鉄鋼大手が資産の売却を急ぐのは、国内の鉄鋼需要が大きく減り現金を稼ぐ力が落ち込んでいるためだ。前期は事業で得られる正味の稼ぎを示す「EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)」が、3社合計で約8400億円と前の期から4割減った。米中の貿易摩擦によって鋼材の販売量が落ち込んだうえ市況が低迷した。
一方で設備の老朽化が進み修繕や更新費用がかさむ。投資額は1兆1000億円を超えて増えEBITDAを逆転した。
生産体制の抜本的な見直しに向け、日本製鉄は瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)の閉鎖や関西製鉄所和歌山地区(和歌山市)の高炉1基の休止を決定。JFEも東日本製鉄所の京浜地区(川崎市)の高炉休止を決めている。ただ新型コロナが追い打ちをかけている。
負債も膨らむ

今期の業績予想は3社とも公表していない。国内全体の粗鋼生産量は前期までの数年間は1億トン前後で推移してきたが、日鉄の橋本英二社長によると「今期は8000万トンを切る可能性もある」。証券アナリストによる3社合計の予想EBITDAは平均で約6700億円と、前期より2割減る見通し。8700億円強が見込まれる設備投資を上回る。

鉄鋼大手はすでに有利子負債が膨らんでおり、さらに負債だけに頼る資金調達には慎重だ。JFEは今期まで3年間の経営計画で当初、有利子負債をEBITDAの3倍程度に抑える目標だったが、前期末時点では6.7倍になった。
大和証券の尾崎慎一郎氏は業界全体の課題として「大規模な構造改革による固定費の大幅な削減や、付加価値の高い分野への経営資源の集中、鋼材の値上げが必要」と指摘している。

200707日経

鉄鉱石や穀物などを運ぶ外航ばら積み船の市況が活況だ。鉄鉱石を運ぶ大型船の用船料(チャーター料)はこの1カ月で10倍近くに急騰。勢いは中小型にも及び2倍に迫っている。景気対策で粗鋼を積極増産する中国で鉄鉱石の需要が旺盛で、ブラジルの穀物輸出も高水準が続いており、用船料を押し上げている。

旺盛なばら積み需要が中小型にも波及している

主に鉄鉱石を運ぶケープサイズ(載荷重量約18万トン)の1日当たりのスポット(随時契約)用船料は、7月3日時点で3万2000ドル強。3万ドル台に乗るのは2019年9月下旬以来9カ月ぶり。海運市況は上下の変動率が大きいのが特徴とはいえ、6月1日時点の3700ドル弱から1カ月で9倍まで急騰した。
中小型船の用船料も軒並み上昇。穀物や石炭を運ぶ中型のパナマックス(同約8万トン)も1カ月で7000ドル弱から1万1200ドル弱へと約7割上昇。穀物などを運ぶ小型のハンディマックス(同約5万8000トン)も7700ドル程度と1カ月で4割高くなった。
中小型の用船料上昇は「ケープサイズの急騰に引っ張られている面が大きい」(日本郵船の片山純バルク・エネルギー輸送統轄グループ長)とみる関係者が多い。

コロナ禍が欧米より早く一服した中国では4月以降、鉄鉱石需要が急増。ブラジル資源大手ヴァーレの出荷が増えた。「ケープサイズだけでは足りず、パナマックス2隻で鉄鉱石を運ぶケースもある」(別の海運大手)
加えて、春から南米産の穀物の輸出が順調なことも中小型船需要を下支えしている。とりわけ穀物が豊作の状況で、対ドルでのレアル安が続くブラジルの出荷が旺盛だ。
世界最大の大豆輸出国であるブラジルの出荷は例年4~5月をピークに一服するが、今年は6月に入っても衰えていない。1~6月の輸出は過去最高を更新するペースで、特に中国向けの輸出が堅調だ。
中小型船の市況は今後も底堅く推移しそうだ。ブラジルの大豆出荷が一服する代わりに、7~8月にはトウモロコシの出荷がピークを迎える。7月からはロシアやウクライナ産の小麦の出荷も盛り上がる。アフリカからインドまで広がったバッタの食害による食糧不安もあり、穀物の輸送需要が高まる可能性がある。
穀物の主産地であるブラジルやロシアでは新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。ブラジル国内の物流が停滞する懸念があるものの、「現時点で船腹の需給に大きな影響はなさそうだ」(海運大手)という。
一方、ケープサイズは見方が分かれる。「中国の鉄鋼需要は堅調が続く」(海運大手)との見方がある。半面、調査会社トランプデータサービスの海老原良社長は「コロナの感染再拡大や長江流域の洪水、香港国家安全維持法に絡む米中緊張など、中国の鉄鋼需要の先行きには不安材料がある」と指摘する。

200714日経

電気自動車(EV)に使う電磁鋼板と呼ばれる高機能な鋼材について、トヨタ自動車が中国最大手の宝武鋼鉄集団の製品を一部で採用することが13日、分かった。同鋼板は高い生産技術が必要で、これまでは主に日系の製鉄大手から調達してきた。中国の鉄鋼業界は汎用品の大量供給を強みとしてきたが、質でも日本勢を追い上げ始めた。
(関連記事企業2面に)
トヨタが国内で生産するハイブリッド車(HV)とEV向けに、このほど品質面での承認を出した。宝武はすでに中国からの輸出を始めたもようだ。日本車大手が国内で生産する乗用車に中国メーカー製の電磁鋼板を採用するのは今回が初めてとみられる。
電磁鋼板は電動車の基幹部品であるモーターなどに使う。特殊な処理で鋼材に磁気を持たせており、不純物を取り除くなど高度な生産技術が必要になる。モーターの効率的な駆動には欠かせず、航続距離など省エネ性能に直結する。高い品質が求められるため、トヨタ向けなどの製品を供給できるのはこれまで日本製鉄など一部の鉄鋼大手に限られていた。
採用数量はまだ限られているもようだが、トヨタ幹部は「品質は日本製と遜色ない。電動車の普及が見込まれる中で調達先を多様化する」と語る。日本鉄鋼連盟の調査によると宝武は米テスラにも供給を始めたもようだ。
中国政府は2025年に環境対応車の割合を18年の4%から25%に高める計画を掲げる。宝武は中国での電磁鋼板シェアが6割に上っており、2023年までに上海市の製鉄所に24億元(約400億円)を投じてさらなる増産体制を整える。
中国は世界の6割の粗鋼を生産するが、汎用品が中心だった。先端分野で中国が追いついてくれば、日本勢が収益源にしてきた高機能品も価格下落が進みかねない。

200805日経

日本製鉄は4日、2021年3月期の連結事業損益(国際会計基準)が1200億円の赤字(前期は2844億円の赤字)になりそうだと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大で自動車など製造業の生産活動が停滞し、鋼材需要が減る。修繕費などを削減するが補えない。中間配当はゼロ(前年同期は10円)とし、4年ぶりに見送る。

当初予定より早く7月に休止した日本製鉄の九州製鉄所八幡地区小倉第2高炉(北九州市)
21年3月期の予想を初めて開示した。事業損益は売上高にあたる売上収益から売上原価や販管費などを引き、持ち分法投資損益などを加えたもの。市場予想平均は約240億円の赤字だった。厳しい事業環境を受け、宮本勝弘副社長は同日の電話会見で「(高炉休止など)発表済みの構造対策の前倒しや追加を検討する」と述べた。
今期の事業損益の赤字幅は前期から縮むように見えるが、前期は製鉄設備の減損損失など一過性の損失による下押しが大きかった。これを除く実質ベースの事業損益では前期は765億円の黒字のため、今期は赤字の大きさが際立つ。
コロナ影響が上期を中心に業績を押し下げるためだ。20年4~9月期の事業損益は、1500億円の赤字(前年同期は731億円の黒字)の見通し。需要減少は在庫量をみると分かりやすい。日本鉄鋼連盟によると国内の普通鋼鋼材の在庫率(在庫量を出荷量で割った値)は5月で約155%とデータが残る1975年以降で最悪の水準だった。

下期の需要回復も鈍く、事業損益の予想は300億円の黒字にとどまる。日本製鉄の21年3月期通期の連結粗鋼生産量は3630万トン程度と前期から2割強落ち込む見通しだ。「製造業など顧客の活動水準が落ち、回復に時間がかかる。リーマン・ショックよりも厳しい」(宮本副社長)
同社は中核となる国内製鉄事業を示す単独ベースの営業黒字化に力を入れている。20年3月期は1193億円の赤字だった。今期は修繕費の圧縮などで固定費を2000億円減らし、変動費も歩留まり向上などで圧縮して損益分岐点を引き下げるが、早期の黒字化実現は危うくなっている。追加の構造対策に加えて「(採算のよい)電磁鋼板などの販売を増やし、利益率を高める」(宮本副社長)方針だ。
資金面の対応も急いでいる。6月末時点の現金及び現金同等物は3906億円と3月末から約1000億円増えた。7月には格付け会社が一部を資本として認めるハイブリッドローンで4500億円を調達した。5年前に実施した分の借り換えに必要な3000億円を上回る。設備投資の圧縮や株式などの資産売却とあわせ、修繕などにあてる。

200812日経

トランプ米政権が2018年3月に発動した鉄鋼とアルミニウムの追加関税について、約7割の日本製品が適用を除外されていることが分かった。米国のメーカーでは自動車用の高機能な鋼材などの分野で十分な量を作れず、日本の鉄鋼大手から購入しているためだ。自国産業の保護を掲げるトランプ大統領の初期の目玉政策だが、思惑通りには進んでいない。
(関連記事企業2面に)
米国は18年3月に輸入規制を発動し、鉄鋼とアルミにそれぞれ25%、10%の追加関税(従来の関税率は10%未満)を課した。日本企業が輸出する製品への影響も大きいとみられていたが、経済産業省の分析によると、重量ベースで今年5月は78%、6月は64%が除外されていた。
6月時点で免除対象となっているのは、自動車のボルトやナット向けの強度に優れた線材や、油田の油井管に使う耐久性の高い鋼管など。品目ベースでは鉄鋼が1万2149製品、アルミは114製品だ。
米政府は追加関税の対象品目であっても、自国内で代替調達しにくい製品には適用しない方針を示している。日本製品を必要とする米自動車メーカーや商社が除外を申請すれば審査に入る。
除外認可は1年ごとに更新する必要がある。6月時点で鉄鋼は63%、アルミは76%が適用除外になっている。残りも大半が除外へ向けた審査中だ。経産省によると、新型コロナウイルスの影響で更新認可が遅れており、手続きが進めばさらに除外対象が増える可能性がある。
他国も追加関税の免除を受けているが平均42%にとどまる。鉄鋼では日本の63%に対しドイツは52%、中国は43%となっている。

200812日経

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【ハノイ=大西智也】ベトナム鉄鋼大手のホアセン・グループは南部で計画していた高炉一貫製鉄所建設の中止を決めた。総投資額100億ドル(約1兆円)で国内最大級のプロジェクトだった。中国などからの安い鋼材の輸入圧力が強まり、安定収益が見込めないと判断した。母材の国産化を掲げるベトナム政府の支援も得られなかった。
ホアセンがこのほど発表した。「もはや会社の成長戦略に合致していない」とコメントしている。同社は建材用の薄板や鋼管の生産が主力のベトナム鉄鋼大手。ホーチミン証券取引所に上場し、約10カ所の鉄鋼加工工場を抱える。鉄の母材を生産する高炉などの「上流工程」への進出をめざし、プロジェクトは2016年に政府の中期計画で認められた。
南部のニントゥアン省で17年から工場建設に着手し、19年に生産を開始する予定だった。最終的に現在の約10倍の生産量に当たる年産1600万トンの高炉設備を設ける計画を描いていた。

中止の背景には、東南アジア鉄鋼市場の供給過剰問題がある。ベトナム国内では業界最大手で台湾系のフォルモサ・ハティン・スチール(FHS)や2位で地場のホアファット・グループが17年以降、高炉を相次いで新設した。世界鉄鋼協会によると19年のベトナムの粗鋼生産量は前年比3割増の2千万トンに達し、タイの5倍の規模を持つ。ベトナムは生産、消費で東南アジア最大になった。
世界の過半の粗鋼生産を誇る中国の動向が決定打になった。中国企業は国内での生産過剰の解消や米中貿易戦争の影響を避けるため、東南アジアシフトを急ぐ。中国企業は同地域で年4千万~5千万トン規模の能力増強計画があるとされる。中国系のアライアンス・スチールは18年にマレーシアで同国最大の高炉一貫製鉄所の稼働を開始した。
中国勢の攻勢で東アジアの熱延コイル価格は18年以降に低迷。輸入に頼るベトナムは熱延コイルの輸入関税を設けておらず、安い輸入鋼材の価格圧力にさらされやすい。
東南アジア鉄鋼協会(SEAISI)のヨウ・ウイ・ジン事務局長らは現時点で域内で年2千万トンの過剰能力があるとみる。中国勢を含む各社の計画が実行されれば、東南アジアで日本の年間粗鋼生産に匹敵する「最大8860万トンの需給ギャップが生じる」という。

もともとベトナムは機械や家電など幅広い製品の母材となる熱延コイルを輸入に頼ってきた。国内需要の6割程度が輸入で、多くが中国産とされる。ベトナムは南シナ海の領有権問題などで中国と対立しており、安全保障の面からも政府は母材の国産化を進めてきた。
だが、ライバル企業が起こしたとされる環境汚染問題が痛手となった。16年にFHSの工場周辺の海域で大規模な海洋汚染が発生。100トン以上の魚が大量死する環境事故となった。国民の批判を懸念した政府は慎重姿勢に転じた。17年にはグエン・スアン・フック首相がホアセンの製鉄所計画を「非常に敏感な問題」と表明し、計画を再検討するよう指示した。
ホアセンのレ・フオック・ブー会長は「高い利益が期待できる。FHSのような問題を恐れないでほしい」と株主に訴えたが鉄鋼市場の急速な変化で撤回を迫られた。結局、政府の支援も得られなかったもようで、国の産業育成は岐路にある。
石油化学製品の一部でも中国で大規模プラントの建設が進み、東南アジアの市況悪化を招いている。東南アジアは中国との距離が近く、中国勢の供給過剰に翻弄される状況が続く可能性がある。

200812日経

トランプ米政権が2018年3月に鉄鋼などに追加関税を課した背景には、過剰生産を続ける中国に圧力をかける狙いがあった。日本など他の輸出国はそのあおりを受けた形で、適用除外が広がる現状は政策のちぐはぐさを浮き彫りにする。目標とした米国メーカーの競争力向上にもつながっていない。(1面参照)
米国は中国からの輸入には反ダンピング(不当廉売)課税を課していたが、他国を迂回する輸入も防ぐために追加関税の網をかけた。1トンあたり700ドルほどだった米国内の熱延コイル価格は上昇し、18年6月には1000ドルを超えた。米高炉大手のUSスチールなどは好転する事業環境を支えに国内工場への投資を進めた。
しかしトランプ政権が中国との貿易摩擦をエスカレートさせた結果、景気は低迷し自動車などの需要が減退。米鉄鋼大手は強気の投資から一転、19年以降は減産を余儀なくされた。USスチールの19年12月期の最終損益は3期ぶりの赤字(約6億4200万ドル)となり、ニューコアも純利益が40%以上減少した。
外国勢に比べた競争力の低下という問題は容易には解決しない。「代替ができない製品は買ってもらえるので結局は米国の需要家の負担になる」(国内鉄鋼大手幹部)
日本勢の製品は追加関税の発動から1年後の時点で、適用除外は約4割にとどまっていた。除外される割合が高まったことは技術力の証明ではある。ただ、米国の需要減退を受け、同国への輸出量は19年で128万トンと17年比で約3割減った。全輸出量に占める割合も4%程度だ。
中国勢などとの競争激化で日本製鉄やJFEスチールは20年3月期に巨額の赤字を計上した。新型コロナウイルスの逆風もあるなか、収益構造の抜本的な改善に悩む構図は米国勢と変わらない。

0821日経

経済の回復が進む中国で鉄鋼製品の輸入が急増している。公共工事などの景気刺激策が本格化し、7月の輸入量は前年同月比3倍になった。鉄鋼大手の東京製鉄は10年ぶりに中国に鋼材の輸出を再開した。大量輸出で価格下落の主因だった中国だが、一転して需要の下支え役になり始めた。
東鉄は7月から中国に建材などに使う汎用鋼材の輸出を始めた。対中輸出は2010年以来になる。約10万トンを輸出する。日本製鉄などの輸出も増えているとみられる。
中国は大規模な景気刺激策によるインフラ整備や住宅建設などが計画され、鉄鋼製品の需要が急増している。7月の粗鋼生産は前年同月比9%増の9336万トンと、単月として過去最多になった。需要の伸びに国内での生産が追いつかない。
7月の輸入量は261万トンと3倍に拡大。輸出は減少し、7月は25%減の418万トンだった。
アジア市場の価格も上昇している。春先は汎用鋼板の価格が1トン当たり400ドルを割ったが、7月末には約480ドルに回復。これまでは中国で余った鋼材が各国に流れて市況は悪化していた。
中国の鉄鋼生産能力はなお過剰だ。政府は16年に5年以内に生産能力の1割にあたる1億~1億5千万トンを削減する方針を示したが19年で約4千万トンの減少にとどまる。
中国の需要増は一時的な要因が強い。現在は中国勢がフル生産しても需要を賄いきれないが、景気刺激策の効果がなくなれば、再び鋼材市況が悪化する可能性がある。

201211日経
⚫️日本製鐵は、水素製鉄法を導入して、二酸化炭素排出量0を目指す
2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする方針を決めた。20年度中に作成する長期の環境経営計画に盛り込む。二酸化炭素(CO2)の排出を大幅に抑えることのできる水素製鉄法(総合2面きょうのことば)の導入を目指すほか、排出ガスの少ない電炉の活用を広げる。鉄鋼は製造業でCO2排出量が最も多い。最大手の日鉄が実質ゼロとする初の削減時期の設定に踏み切ることで、国内企業の脱炭素の取り組みに弾みがつきそうだ。

国立環境研究所によると、国内における19年度のCO2排出量(速報値)の10億3千万トンのうち、製造業は3億6400万トンを占めた。鉄鋼業は最も排出が多く、1億5500万トンを出し、日鉄は19年度のCO2排出量は9400万トンと国内企業で最大級だ。
これまで日鉄は温暖化ガスを実質ゼロに削減する時期を定めていなかった。
このほど日本経済新聞の取材で、日鉄の橋本英二社長は「政府が掲げる50年のゼロ目標に合わせて、鉄をつくる過程で発生しているCO2ゼロを目指す」と述べた。50年の実質ゼロに向けた目標を初めて設定し、削減の具体策を検討していく方針も明らかにした。
日鉄は現在、30年時点と50年時点の環境分野の経営計画の策定作業を進めており、21年3月末までに公表する予定。50年の温暖化ガスの実質ゼロ目標は同計画の柱として盛り込む。
日鉄が温暖化ガス削減の切り札に位置づけるのが従来方式より二酸化炭素を大幅に削減できる水素製鉄法だ。鉄鋼の製造工程では石炭由来のコークスを還元剤に使い、鉄鉱石から酸素を取り除いて溶けた鉄をつくる。研究を進める新技術は還元剤のコークスを水素に置き換える。
日鉄はJFEスチールなど鉄鋼大手や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で水素製鉄の実証プラントを稼働中。30年までに鉄を溶かす工程で出るCO2排出量を3割減らす技術の実用化を進める。
石炭を使用せず電気で鉄スクラップを溶かす電炉活用も進める。日鉄は瀬戸内製鉄所広畑地区(兵庫県姫路市)で23年3月期に最新の電炉を導入する。改修費用が過大な高炉設備の更新で電炉を活用する。CO2の回収・貯留(CCS)など技術を総動員して排出ガスゼロの達成を目指す。
欧州勢もCO2排出削減を急ぐ。欧州アルセロール・ミタルは50年までに全世界でCO2排出の実質ゼロを目指す。水素製鉄法などの低炭素技術の確立に400億ユーロ(5兆円)を投資する。
世界の鉄鋼メーカーは実質ゼロ達成に向け動き始めているが、道のりは険しい。研究開発に多額の費用がかかるほか、新技術のカギを握る水素調達などで課題も多い。
欧州や中国は政府主導で多額の資金を投じて鉄鋼の水素戦略を後押ししている。橋本氏は「安価に水素を調達できるインフラ整備など、国や業界を超えて総力を挙げた取り組みが必要になる」とし、民間の研究開発を支援する取り組みの必要性を強調した。
大量の石炭を使用する鉄鋼業界は大幅なCO2削減が難しいとされ、業界団体の鉄鋼連盟は温暖化ガスゼロの達成時期を2100年としていた。
しかし、環境対応を重視するESG(環境・社会・企業統治)投資が世界的な潮流となり、日鉄はCO2削減策の検討を社内で進めていた。10月に政府が50年までに温暖化ガス実質ゼロとする目標を打ち出したこともあり、数値目標設定で業界の脱炭素の取り組みを先導する。水素製鉄法など新技術確立でも先行することで、温暖化ガス削減で優位に立ち国際競争で勝ち残りを目指す。

201223日経

経済産業省は22日、2021年1~3月期の粗鋼生産が前年同期比2.5%減の2350万トンになりそうだと発表した。自動車向けの需要回復をうけ、前年実績比の減少幅は20年10~12月期見込みの7.4%減から縮小する。自動車生産の回復は鉄鋼業界の想定以上で、日本製鉄は一部鋼材の一般流通向けの受注を見送る。
20年度の粗鋼生産は前年度比16.2%減の8249万4千トンまで落ち込む見通しだ。8千万トン台となるのは1971年度以来で、約50年ぶりの低水準となりそう。
それでも、四半期ベースでみると回復傾向は鮮明だ。粗鋼生産量の減少率は、4~6月期(30.6%減)や7~9月期(22.7%減)と比べても大幅に縮小する。用途別に鋼材需要をみると、国内メーカーの生産に左右される製造業向けの21年1~3月の需要は1.9%減の620万トンとなる見通しだ。
日本鉄鋼連盟(鉄連)が同日発表した11月の粗鋼生産量も前年同月比で5.9%減と10月(11.7%減)から減少幅は縮んだ。
需要回復をけん引するのは、新型コロナウイルスの影響で生産量を絞っていた自動車各社だ。トヨタ自動車など国内の乗用車メーカー8社の10月の国内生産は前年同月比8.6%増の80万5153台となった。
こうした急激な需要回復に素材の供給体制が追いついてない。日本製鉄とJFEスチールは感染拡大が本格化した4月以降、改修工事の前倒しも含めて計7基の高炉を一時休止。在庫削減を急いでいたところ、需要家が相次ぎ生産を増やし、需給が逼迫した。
日本製鉄は22日、21年1月積みの一般流通向けの薄板の受注を見送ると発表した。1カ月にわたり薄板の受注を見送るのは初めて。自動車会社など大口顧客にも発注量の抑制を求めている。

201228日経

三菱重が水素製鉄設備
CO2排出ゼロに 欧州で来年稼働へ
2020年12月28日 2:00 [有料会員限定]







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三菱重工業は石炭の代わりに水素を利用して鉄をつくる設備を欧州に建設する。二酸化炭素の排出を実質ゼロにする製鉄設備(総合・経済面きょうのことば)としては世界最大級となる実証プラントをオーストリアの鉄鋼大手と開発し、2021年にも稼働を始める。温暖化対策を成長戦略に据える欧州は水素製鉄の実用化を急いでいる。次世代環境技術の開発競争が激しくなってきた。

国際エネルギー機関(IEA)によると鉄鋼業界のCO2排出量は18年に約20億トンと00年の2倍に膨らんでいる。全産業に占める割合も、25%と同期間で5ポイント上昇した。従来の鉄をつくる一般的な工程では鉄鉱石を石炭由来の原料で還元するため大量のCO2を排出する。
鉄鋼の製造工程でCO2を大幅に削減するには、水素製鉄法が切り札的な手段だ。三菱重は製鉄設備世界3位。100%出資する英国の製鉄設備会社を通じてオーストリアの鉄鋼大手、フェスト・アルピーネの製鉄所で水素製鉄の実証プラントを建設中。21年にも試運転を始める。
鉄鉱石を水素で直接還元するDRIと呼ばれる手法を使うプラントで、年間25万トンの鉄鋼を生産する。稼働すれば水素を使った製鉄プラントしては世界最大となる。
日本製鉄など国内の鉄鋼メーカーが開発を進める水素製鉄は高炉をべースにしている。高炉の製鉄所新設には兆円単位の投資が必要だ。DRIは高炉に比べ生産量は少ないものの、投資額は半分以下で済むとされる。
従来の製法と同レベルの価格競争力の実現には、安価な水素が必要だ。経済産業省の試算では現在、水素の流通価格は1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり100円程度だ。
日本政府は大量生産などで30年に同30円を目標としている。ただ製鉄での実用化には「10円を切るレベルにする必要がある」(鉄鋼大手幹部)。安い水素を大量に供給する技術が求められる。
水素製鉄法を巡っては製鉄設備1位の独SMSや同2位のイタリアのダニエリなども事業展開を急ぐ。欧州鉄鋼メーカーも、アルセロール・ミタルが21年にドイツで水素製鉄の実証プラントを建設する計画を打ち出す。ドイツのティッセン・クルップやザルツギッターなども水素DRIへの投資を急ぐ。
三菱重は水素の調達網も確立する。10月に水素製造装置を手がけるノルウェー企業に出資した。オーストラリアなどでは、水素を製造する現地企業に相次ぎ出資を決めている。グループで水素の供給から設備の建設、エンジニアリングまで一貫で手掛ける。

201228日経

日本では鉄鉱石に石炭由来の原料をまぜて酸素をとりのぞく「高炉法」が主流で、国内粗鋼生産の7割を占める。米国などは鉄くずを溶かしてつくる「電炉法」が主流だ。自動車向けなど高い品質が要求される鋼材を大量に生産するのには高炉が向く。

▽…一方、天然ガスを使って鉄鉱石を還元する直接還元法(DRI)がある。インドや中東などに多い。高炉では鉄鉱石を高温で溶かして還元するが、DRIは溶かさず、固体状態のままで還元する。製鉄工程のCO2排出量は、高炉法に比べて2~4割程度少ない。日本は大量生産に向く高炉一貫製鉄所で先行したことから、DRIは定着してこなかった。
▽…脱炭素に向けて鉄鋼業界は、鉄鉱石を水素で還元してCO2排出を減らす方法を探る。主に2通りあり、日本は高炉を使った水素製鉄の実用化を目指している。一方、欧州などは初期投資が少ないDRIを使った水素製鉄の技術開発が進む。脱炭素に向けては、水素製鉄だけでなく、電炉やCO2回収など異なる製鉄法や関連技術の組み合わせも課題だ。

210219日経

日本製鉄は茨城県鹿嶋市の製鉄所で、基幹設備である高炉(総合2面きょうのことば)1基を休止する方針を固めた。広島県などでも高炉3基の休止を決めており、国内の生産能力は現状から約2割減る。足元では自動車向けの需要が増えているものの国内能力にはなお過剰感がある。政府の脱炭素政策で二酸化炭素(CO2)を大量に排出する高炉の操業がコスト要因にもなっており設備削減に踏み切る。

高炉は鉄鉱石を高温で溶かし、様々な鋼材の原料を生産する製鉄所の中心設備。いったん稼働させると十数年止めず、休止後の再稼働には多額の投資がかかる。日鉄は全国に14基の高炉を持ち、東日本製鉄所鹿島地区(鹿嶋市)に高炉は2基ある。そのうちの1基を数年以内に休止する。単純計算では日鉄の生産能力の約1割に相当する。
圧延など加工ラインの統廃合なども進めるとみられる。約3千人いる従業員の一部は配置転換を検討するもようだ。
休止の背景にあるのは国内製鉄所の稼働低迷だ。20年秋から自動車の生産が回復し鋼材の引き合いは強まっているが、製鉄所はフル稼働に至っていない。経済協力開発機構(OECD)の推計では、19年時点の日本の粗鋼生産能力は1億3千万トンだが、実際の生産量は9900万トンと、約3割が過剰な状態だった。さらに新型コロナウイルス禍が拍車をかけ、20年の生産量は8319万トンと6割弱の能力が余った。
今後も造船や油ガス田開発に使う鋼管などの需要は伸び悩みが続き「コロナ収束後も生産は9千万トンまで戻らないだろう」(鉄鋼商社首脳)との指摘もある。
急速に進む脱炭素の流れもある。政府は50年までに温暖化ガス排出を実質ゼロとする目標を掲げる。高炉は石炭を原料とするコークスを使うため、大量のCO2を排出する。産業界のなかでも鉄鋼業は温暖化ガスの削減で遅れており、日鉄の19年度の排出量は9400万トンと国内企業で最大級にのぼった。
現行の高炉をつかった製鉄手法では今後脱炭素を進めるうえで限界が生じる。さらに設備の改修には数百億円規模の投資が必要で、将来の経済合理性も踏まえて追加の高炉休止に踏み切るとみられる。
中国勢の台頭も国内高炉の存続を難しくしている。中国勢の増産影響による原材料価格の高止まりや鋼材市況の落ち込みをうけ、日鉄は20年3月期に連結最終損益で4315億円と過去最大の赤字を計上した。

210219日経

とっくりのような形をした製鉄所の中核設備。製鉄工程の上流にあたる高炉には鉄鉱石と、石炭を蒸し焼きにしたコークスを交互に投入。炉の下部から熱風を吹き込み、鉄鉱石を溶かしながら酸素を取り除く。炉内の温度は2千度以上になり、「銑鉄」と呼ばれる溶けた鉄をつくる。不純物を除去する製鋼工程と圧延工程を経て、最終製品の鋼材になる。一般的に15~20年は生産を続けることを前提に稼働しており、一度休止すると再稼働までに長い時間や多額のコストがかかる。
▽…日本で高炉を持つ一貫製鉄会社は日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の3社になる。ただ高炉3社の収益は足元で軒並み悪化しており、収益改善を図るため20年には日鉄が2基、JFEが1基の高炉を休止する計画を発表した。
▽…急速に進む脱炭素の潮流も高炉を取り巻く環境を厳しくしている。日本は粗鋼全体の約4分の3を高炉で生産。製造業で排出するCO2のうち、4割超を鉄鋼業が占めており環境対応の観点からも設備集約の必要性が高まっている。

210405日経
3月5日午前10時すぎ、日本製鉄本社14階。取締役会で社長の橋本英二は問いかけた。「ご質問があれば頂戴したい」
居並ぶ取締役17人に示したのは2025年度までの経営計画。橋本の落ち着いた様子とは対照的に内容は大胆だった。
東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)では基幹設備の高炉を1基休止。ほかの拠点とあわせ生産能力を2割減らし、協力会社を含め1万人規模を合理化する。
経営陣には概要を説明してあり、会議は円滑に進んだ。一方、その数時間後に本社9階の会議室で橋本たちから正式に知らされた従業員側への衝撃は大きかった。
「驚きを禁じ得ない」。同日中に会社が受け取った労働組合の意見書にはこう記された。無理もない。1年前にも瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)の閉鎖など大規模な合理化を発表。高炉休止を2年続けて決める異例の事態となったからだ。
□   □
衝撃は製鉄所のお膝元に広がる。「がくぜんとした。市の人口がさらに5千人ほど減ることも覚悟しなければ」。一報に接した鹿嶋市の市長、錦織孝一もうなだれた。
日本の近代化を支えた鉄鋼業と、再編を繰り返しながら国内では最大手として君臨し続けた日本製鉄。内需低迷と中韓勢の台頭で、かつてない苦境に追い込まれている。
合理化の予兆はあった。「構造改革を断行する年になる」。1月、橋本は新年のあいさつで社員に危機感を訴えた。4315億円と過去最悪の最終赤字だった20年3月期に続き、21年3月期も1200億円の最終赤字を見込む。
特に本丸の国内製鉄事業は厳しい。在庫評価損益を除く真水の単独営業損益は20年3月期まで3年連続で赤字だった。以前は単独の損益を知るのは限られた部署のみ。それを橋本は19年5月に社内に危機感を植え付けるため初めて公表した。
その翌月、本社で一つの部署が本社12階から13階に移った。「生産設備企画」。製鉄所の設備計画を中長期で考える部門だ。同時に所管は技術を統括する部署から経営企画に移管。生産設備企画と経営企画が連携し、今回の計画をまとめた。
日鉄は事務系が経営企画を牛耳る一方、設備計画は技術系や製鉄所に任せる傾向が強かった。
「(自分は企画部門で)珍しがられている」。19年4月に名古屋製鉄所(愛知県東海市)所長から経営企画担当の常務執行役員に就いた今井正も当初、そう感じるほどに組織の壁は厚かった。
結果として両者の情報共有は遅れがちに。現場で目立つのは生産性が落ち、補修費がかさむ設備。その稼働を維持するために安値で売る悪循環に陥った。今井は「事務だ、技術だといってる時代じゃない」と訴える。
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住友金属工業や日新製鋼との統合を重ねた日鉄。各地での設備の老朽化は操業トラブルという形でも出ていた。
「足場が狭く、危ない」。19年8月初旬、呉の拠点を訪ねた橋本は現場で胸騒ぎを覚えた。直後の8月末、予感は的中する。中核設備で火災が発生。自動車用鋼材の供給に支障がでた。最近では名古屋製鉄所でも火災が起きている。
採算改善にむけ、余剰設備の集約はかねて課題だった。ただ製鉄所は地域経済の要であり「鉄は国家なり」との自負もある。アベノミクスで事業環境が好転し、実力値がみえにくくなっていた。
「つくれば売れるとの発想から抜けきれなかった」。旧住金出身で統合後に副社長も務めた本部文雄は嘆く。
そこに政府の脱炭素政策が追い打ちをかける。政府は50年ゼロにむけ、炭素排出に値段をつけるカーボンプライシング(CP)も検討する。
いまの製鉄法は、石炭を使い二酸化炭素が多く発生する。そのためCPは日鉄にはコスト増と同じ。「CPは市場をゆがめる」。橋本は2月に官邸で首相の菅義偉に反対を訴えたが、CP構想がとまる保証はない。
技術革新で対応しようにも、切り札の水素製鉄などの実現には4兆~5兆円かかり、1社で負担できる範囲を超える。
内外に強まる逆風に日鉄の橋本はつぶやく。「脱炭素の競争にも遅れたら日本の鉄鋼業は存亡の危機に陥る」

210407日経

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「2021年の粗鋼生産量は20年より減るだろう」。21年1月下旬、中国の工業情報化省が開いた記者会見で、運行監測協調局長の黄利斌は自ら減産の可能性に触れた。
新型コロナウイルス下でも増産を続けてきた同国が生産抑制に言及するのは異例だ。
広東省に人影もまばらな製鉄所がある。現地の鉄鋼最大手、宝武鋼鉄集団とJFEスチールの合弁会社の拠点だ。人工知能(AI)を活用し、鋼材をほぼ自動で生産。JFEのノウハウも使い、自動車部品などに使う特殊鋼を次々に生み出す。
「量から質へ」。中国勢は鉄鋼業の近代化に躍起だ。背景にあるのは、緩い環境対策や過剰生産を放置すれば、国際社会から取り残されるとの危機感だ。
中国の粗鋼生産は20年までの20年間で8倍強に増加。あふれ出す鋼材による市況悪化に、世界の鉄鋼各社は悩まされ続けた。中国政府は設備を廃棄し、鉄くずを使う違法な「地条鋼」も一掃。改革は進んだと訴える。
額面通りに受け止める人は少ない。上海から広州にかけた沿岸部には、19年以降に稼働した新鋭の製鉄所が並ぶ。「新しい設備は従来のものよりも生産能力が高い」とJFE社長の北野嘉久は警戒する。
コロナ禍を克服し、いち早く経済が回復した中国。好機とみるや一気に増産する姿勢はいまも変わっていない。
あおりを受けるのが日本だ。中国の鉄鋼増産で原料の鉄鉱石需要が急増。日本の調達価格は9年半ぶりの高水準に達した。日本製鉄などは建築用鋼材などを値上げせざるを得ない。
ただ日本国内の建材需要は低迷。問屋は鋼材の仕入れ値が上がっても、売値に思うように転嫁できない。問屋大手、中央鋼材(東京・中央)社長の後藤信三は「国内景気とは関係なく中国に振り回される」と嘆く。
「21年はグローバル化の元年。欧米企業の買収も検討する」。宝武鋼鉄集団の董事長の陳徳栄は高らかに宣言した。
宝武は16年に当時5位の宝鋼集団と11位の武漢鋼鉄集団が合併して発足。国内再編を主導してきた同社が外に目を向け始めたのは、内需の頭打ちを見越してのこと。インフラ投資を支えとする需要は23年前後から下げに転じるとの予測もある。
旺盛な内需と再編で力を蓄えた中国企業。世界市場への攻勢を強めた時、日本勢は勝てるのか。構造改革が途上のままでは心もとない。

210518日経

ベトナム政府が鉄鋼メーカーに増産と輸出削減の要請を始めた。最大供給国の中国産の供給減少などが影響し、国内の鉄鋼価格が年初から最大で5割上昇しているため。価格転嫁が難しい建設業界が苦境に陥っており、一部のプロジェクトにも遅延が発生している。
「価格を安定させるために、国内市場向けの供給を優先すべきだ」。ベトナムのレ・ミン・カイ副首相は5月上旬、政府の公文書で鉄鋼価格の急騰に苦言を呈した。同国で主に建材の母材となる「熱延コイル」の輸入価格は1トン1000ドルを超え、13年ぶりの高値圏にある。業界内では、共産党政権下における幹部の異例の発言と受け止められている。
鋼材価格の高騰の主な要因は世界生産の過半を占める中国だ。新型コロナウイルス禍でも旺盛な鋼材需要につられ国際価格もじわじわと上昇。それとは別に年初から、鋼材輸出の増値税(付加価値税)還付の撤廃が噂され、思惑買いを誘った。実際、5月1日から主要製品で撤廃され、その後も価格高止まりが続く。
ベトナムは東南アジア最大の鉄鋼輸入国だ。2020年の鉄鋼輸入量は1320万トンで、主に中国に依存している。中国からの安値鋼材の流入に長年悩まされたため、これまでは政府も自国企業の設備増強の許認可に慎重な姿勢を示してきた。ただ、当面は高い価格が維持される可能性を見越して「政府が増産の推進にカジを切ったのではないか」(鉄鋼商社)との見方も出ている。
鋼材のコストは建設工事費全体の1~2割程度とされる。現地メディアによると、ベトナム建設業協会(VACC)のヒエップ会長は「多くの建設会社が鉄鋼価格が高騰しても、契約額を変えられない」と語る。政府の「介入」で年約1千万トンの輸出鋼材が国内に戻ってくるか注目される。

210526日経

JFEホールディングスは25日、メタンを使った製鉄法の実証実験を2024年をめどに始めると明らかにした。国内の製鉄所に小型高炉を新設し、27年までに技術の実用化などを判断する。主に石炭を使う従来の製鉄法よりも二酸化炭素(CO2)の排出量を3割削減することを目指し、脱炭素化を進める。
25日に開いた環境経営ビジョンに関する説明会で、JFEスチールの北野嘉久社長が明かした。24年をめどに新製法の実証に向け、容積150立方メートル前後の小型高炉を建設する。現時点では東日本製鉄所の千葉地区(千葉市)を候補地としている。
JFEの新製法では高炉が出したガスからCO2を分離回収する。太陽光など再生可能エネルギーでつくった水素と、回収したCO2を反応させてメタンを合成する。
メタンをコークスの代わりに還元工程で使い、再び出たCO2をメタン合成向けに使う。循環させる仕組みで高炉プロセスでの排出量を減らす。 現在の製鉄法では鉄鉱石から酸素を除去する還元工程で主に石炭由来のコークスを使う。このため大量のCO2を排出している。

210625日経

神戸製鋼所は24日、自動車や家電などで幅広く使う薄鋼板(薄板)の価格を、7月出荷相当分から1トン1万円引き上げると発表した。鉄鉱石などの主原料の価格上昇で生産コストが上がっている。製品価格に転嫁して採算を改善する。
対象は熱延、冷延、表面処理の3品種で、値上げは3カ月連続。昨年10月分からの値上げ幅は累計で1トン5万円以上となった。


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