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「消えた左投手」 <夕闇迫るここ所沢球場では今世紀最大の対決とまでいわれた大熱戦、三星のクラウンズ対読売ジャイアンツの日本シリーズの決着が今まさにつこうとしております。球界の盟主の座につくのは三星か?巨人か?3勝3敗でむかえた第7戦、得点は3―2とクラウンズわずかに1点のリードです。三星あと1人で日本一!しかしツーアウトながらファーストランナーは俊足の松本です!> どこかの新聞社のヘリコプターが上空をゆっくりと旋回している。1塁側ダッグアウトでじっと戦況を見まもっている三
「いったい、どうなっとるンや?」 連日30度を超す8月の第2金曜日。東京・築地の喫茶店で遅い昼食をとっている日日スポーツの高橋大祐記者に話しかけたのは、同新聞社の専属評論家・星野仙一だった。 元中日ドラゴンズのエースでかつては巨人キラーの異名をとった星野も昨年いっぱいでユニフォームをぬぎ、将来の指導者として目下のところ充電中である。高橋とは現役の頃からの付きあいで、常に星野にとってよき助言者だった。 「どうしたもこうしたも、こっちが聞きたいくらいだよ。」 高橋は野菜サ
「あなた、お身体にはくれぐれも気を付けて下さいね。」 羽田空港まで見おくりにきた妻・桂子の姿がやけにはかなげに見えた。無理もない。前年の暮れに巨人を退団して以来、収入は一切途絶えたままだった。そのうえヨチヨチ歩きの長女・京子と生まれたばかりの克美を残して、夫は一人アメリカへ発とうとしているのだ。今でこそ海外旅行も身近なものとなっているが、当時はやはり大変なことだった。 しかしそれでも国政は行かねばならなかった。13年間巨人を愛し巨人のために闘い続けてきた国政だった。が、彼
―本場のアメリカに行って野球を一から勉強しなおそう・・・! 夢中になって英会話を学びはじめた国政の姿に妻も何も言えなかったに違いない。帰国後解説者を経て広島カープのコーチになるまで心理的にも経済的にも一番苦しい時期だった。 平凡な生き方をしようとすればいくらでも楽な道があったのに、屈することなく闘い続けてきたのは、すべて今日この瞬間のためなのである。日本シリーズというひのき舞台で巨人を倒してこそ、国政の野球は巨人を超えるものであり、ひいては国政の生き方が正しかったことが