大好きなママがいるカラオケスナックとバイトの話

私は土曜日の夜だけバイトに出かける。
バイト先はお義母さんがママをしている場末のカラオケスナック。
お客さんはみんな大体還暦を越えている。

私は昔からカラオケスナックが好きだ。
カラオケスナックで歌うお客さんは大体人前で歌うのに慣れていて歌が上手い人が多いし、昭和の名曲をたくさん聴けるから。
お酒も出す場所なので面倒なこともあるけれど、基本的にバイトは楽しい。
私も歌うのは大好きだけど、店の従業員として働いていると自分が歌いたい歌は歌えない。
それは当たり前のことなんだけど、楽しそうにしているお客さんを見ていると私もお客さんみたいに楽しく歌いたいと思ってしまう。

2年前くらいに、たぶんバイトで嫌な気持ちになって疲れた帰り道に、家の近くにあるカラオケスナックに入った。
客として一人でそういう店に行くのは結婚してからは初めてだった。
ビルの2階にあるこじんまりとしたお店。
看板には"BAR"という文字があったので、『カクテルとか出してるお店なのかな…』とずっと気になっていた。

お店に入ってみると、めちゃくちゃカラオケスナックだった。
ただ、初めて行ったその日、どこの者ともわからない私みたいな若造に、ママだけじゃなくて常連さんたちも優しくしてくれた。
ママは料理上手で、いつも笑顔で、みんなに優しくて、初めて会った日から大好きになった。
お客さんはみんな歌が好きで、お店の雰囲気がとにかく暖かかった。
初めて入った店がこのお店で良かった、私は運がいいなと思った。

『どうしてこの店に一人で来ようと思ったの?』と聞かれて、『私もここから少し離れた所のカラオケスナックで働いていて、自分もカラオケスナックのお客さんになりたいと思ったんです』『あと家がここからめちゃくちゃ近いので』と答えた。

初めてお店に入ってからもうすぐ2年くらいになるけど、私は3ヶ月に1回くらいしか顔を出せない。
だけど行く度にママは優しくしてくれるし、好きな歌を歌うと褒めてくれるし、これからもずっと通いたい。
行くといつも元気になれる、私にとって特別な場所になっている。

私には友達が少ないけれど、優しくしてくれる人はいて、そういう人達に出会えたことはとても幸せなことだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?