ショートショート表紙

MMミリオンセラーショートショート8番「1円玉と10円玉の憂鬱」


こちらはアマゾンキンドルストアで発売中の「バレンタイン掃討作戦(MMミリオンセラーショートショート1番~10番)」からのショートショートです。


オチを有料設定にしています。(このスタイルで販売している、ぴこ山ぴこ蔵さんの「ちょっぴり厭な物語マガジン」のショートショートもおすすめですよ~)


なお、無料のサウンドノート「コミュ障の個人作家が自分の作品(バレンタイン掃討作戦)を語ってみました」で、本作についてトークで裏話もしていますので、ご興味がある方は合わせて御覧ください。


八番 1円玉と10円玉の憂鬱


 
 
「よう、おまえ。ここんとこ、ずいぶん景気がいいじゃねえか」
 ある男の財布の中で、10円玉が1円玉に話しかけた。

「あーた、何言ってんスか、10円玉さん。俺なんか今だけッスよ。来年10%になったら、絶対10円玉さんが一番になりますって」

「まだどうなるか、わかんねーよ。100円玉だっているしな。でもよ、どいつの財布に入っても、『だら銭足らねえ。8%なんて、めんどくせえ』って、ぶつくさ言ってやがるんだな。そういや、3%の時も、そんなこと言ってたな」

「まあ、俺たちは基本、されるがままなんで。関係ないッスよ。人間なんざ、何やったってひと文句言うんですから。俺なんか、『ちっ、財布ん中、1円玉ばっかじゃねえか。邪魔くせえ』って、言われちまうんですから。へっ、一万円札なんてデカイ面してやがるけど、俺らが1万個あってこその一万円ですからね。そのうち、やつらに『1円で泣く』って目にあわせてやりますよ」

「そうそう。昔は、俺らを瓶詰めにして、銀行に持っていく奴がたくさんいたのになあ。最近じゃ、500円玉のほうが人気だからな。ま、あいつは謙虚なやつだから、憎めねえが」

「10円玉さんも、500円玉さんも、自販機に入れるんですから、うらやましいッスよ。俺は一生、入れませんからね。そういや、二千円札ってかわいそうなやつでしたね。『やあん、二千円札、超やだー。千円札にしてください』って、女にめっちゃ嫌われてましたよ。千円札さんは誰にでも好かれますから、しょうがないッスけど」

「ああ、見た目はさほど悪くなかったのにな。それに比べて、五千円札は堅実な野郎だよ」

「あいつ、地味なふりして要領いいんスよ。一万円札のパシリですから」


 10円玉と1円玉が世間話にふけっていると、 「お会計、3558円になります」という声と共に、財布が開かれた。


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