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魔法少女★ミソラドエジソン ①

ご一読ください。

この作品は個人的に作られた非公式ファンフィクションです。ミソラドエジソンを題材にしておりますが実在の人物や団体様などとは一切関係ありません。

本作の無断転載等は何卒ご遠慮願います。



魔法少女★ミソラドエジソン ①

20XX年X月… 大阪MINAMI某所

頬にかかる髪を揺らす秋の夜風がいつもより冷たく感じた。

細い三日月が浮かぶ紺青色の空の下に広がる、日本最大の繁華街・大阪MINAMI。日没後、夜が色を深めていく中にあってもネオンライトの看板が散らばるこの街は、なお明るい。人通りは絶えず、賑やかな笑い声がそこここに反響し、建ち並ぶ飲食店の窓からこぼれる灯りがその快活ぶりを窺わせる。

騒がしく行き交う人々から目を逸らし、少女はひとり立ち止まると空を見上げた。


明るい街並みをフレームにして見る夜空は、星の輝きもその光を霞ませ、地上にまで届かない。再び視線を落とした黒い瞳はアスファルトを見つめる。

どうしてだろう。いつも、どこにいても、孤独だった。


口数は少ないけれど優しくて働き者の父と過保護に感じることはあっても姉妹のように仲が良い母、少し歳の離れた可愛い盛りの弟がいて、長期休みには必ず家族旅行に行くほど、恵まれた家庭環境。


勉強は嫌いだけど成績は中の上、得意な世界史はクラスで一番になったこともある。
学校には何気ない事で笑ってはしゃぎ合える友達がたくさんいて、家に帰ってからもラインの通知が鳴らない日はない。インターネット上で知り合った顔の知らない友人を含めれば数え切れない程になる。

最近よく話すようになった隣のクラスの彼。次の休日に遊びの誘いをしてくれたのが密かに嬉しかった。今はまだフワフワした関係だけれども、きっとクリスマスには一緒にイルミネーションを見ているだろう。


順風満帆な毎日に不自由なんてなくて、
充実した生活を送っているはずなのに……


ふとした瞬間に襲う寂しさと孤独に胸が引き裂かれそうになる。

私はひとりじゃない。それなのに、
どうして――……

友達や家族、誰かといる時ほど寂しくて、自分だけ一人ぼっちのような気持ち。理由のつかめない不安が焦燥感を掻き立てるのだ。


「……そろそろ、ウチに帰らなきゃ」

呟いた言葉は街に溢れる人々の声に掻き消され、少女自身の耳にすら届かない。
うつむき加減のまま、ゆらりと歩を進めた。


―――どんっ!

「……っ!」

ふいに肩へ受けた重たい衝撃。身構えることもできずに足がもつれ、膝から倒れるように地面にへたり込む。

「いってーな! 邪魔なんだよ!」
男は吐き捨てるように言うと、仲間たちと高笑いをしながらネオンの中に溶けていく。


少女はペタンと地べたに座り込んだままだ。
ぶつかられたことに後から気づくほど周りのことが見えていなかった。
こんなに明かりだらけの街だというのに、光はまるで視界に入ってこないのが不思議と冷静に受け入れられる。


「……あはっ、邪魔だって」
自嘲が頭に残響する。まるで釣鐘をかぶったかのよう。

打ち付けた膝の痛みよりもリアルに感じる頭痛。いっそ体中が痛みを訴えて、悲鳴を上げてしまいたくなるくらい――……


痛い

虚しい

イラナイ

全部


もう、いらないよね、私。


その瞬間、街から一斉に灯りが消えた。
否、何も見えない真っ黒な場所だった。そこに自分だけがぽっかりと存在して見えている。

「……え?」
無意識に戸惑いの声が出る。
自分の身に何が起きているのだろう。


「要らないナラもらおうカ」
金属がぶつかり合うような音の混じった不気味な声だった。思わず肌が粟立ち、あまりの不快さにギュッと目を閉じる。

恐る恐る目を開け、見回すとまたいつもの繫華街の中だった。けれどそこに人の姿なく、音もない。
見慣れた風景はどこか薄暗く煙色を帯び、言い表せない違和感を与えられる。


「お前は邪魔ダ。ならバもらっていくゾ」
声とも音ともつかないそれが再び聞こえ、ほぼ同時に手足が強い力で掴まれたのを感じた。


何かがそこにいる。
はっきりと像を結ばないものがそこに存在しているのがわかる。
肩に、後頭部に、背後から、自分の内側からも、この体をどこかへ引っぱろうとする圧がかかっている。

体が動かない。どんなに力を入れても指先すら微動だにしない。


それの正体を確かめようと辛うじて自由の効く視線が、自身の体の異変をとらえた。
掴まれたと感じた手足の先が黒く染まっていたのだ。黒い色はみるみるうちに浸食を進め、腕や下半身全体へと広がろうとしている。


違う、黒いんじゃない! 消えてるんだ!

黒く染まった部分だけ感覚がないことに気づく。いつの間にか声を発することもできなくなっていた。


恐怖に支配されゆく中、声の主がニヤリと笑いかけてくるのが「見えた」気がした。


そうしている間にも体から感覚が失われていく。抵抗する術がない。

―――消える

自身の終わりが迫っているのがわかり、死の恐怖が襲ってくる。


でも――……

もう、私なんていても意味がない。それなら消えちゃばいいや。


少女から希望の光がなくなろうという時。

「待ちなさい!」
凛とした女性の声が空気を震わせた。


『ポイントTR0037……座標軸―正常、システム―異常ナシ、
転送準備―完了、ゲート開放!』

機械の作動音を背景に電子合成化された声が不可解な言葉を連ね、同時に強い光があたり一面を覆い尽くしていく。


「その子から手を離しなさい」
真っ白な光の中から放たれる声は澄み透っていながらもどこか可愛いらしい。

その閃光が少女の体を蝕まんとする者の姿を浮かび上がらせた。


人の形をしてはいるものの手に鋭い鉤爪を携え、猛々しい体躯の背中からは飛膜型の羽が生えている。全身漆黒の色を成し、その顔をはっきりと確認することはできない。
唯一わかる大きく裂けた口とそこから覗く尖った牙から西洋の怪物・ガーゴイルを彷彿とさせる。


少女は異形な怪物のおぞましさに改めてぞっとした。

怪物が牙をむき出しにして咆哮する。
「誰ダ!」
真近で吼えた金属混じりの声が、皮膚の上を気味悪くなぞっていく。


ゲートといわれるものが閉じていくにつれ、弱くなる逆光。少女が目を凝らすと、そこには四人の女の子が立っていた。



②へ続く

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