【第五人格】呪術師の黒塗りメイクについて

世界でのユーザーが2億人を突破した大人気のソーシャルゲーム「第五人格」。舞台版での”黒人キャラを表現するにあたって役者を黒塗りすること”が物議を醸しています。

まずそもそもの知識として、黒人を表現するときに肌を黒く塗るということは「ブラックフェイス」と呼ばれ世界的にタブーです。このことを知らない人は、私の話の前に以下の記事を読んで下さい。

ここからは上記の内容を踏まえた上で、今回の件について話をしていきます。

始まりは第五人格の舞台公式アカウントが「呪術師」という黒人女性のキャラビジュアルを発表したこと。他キャラに比べて役者の深い色の肌に、海外から「ブラックフェイスをしないで」とリプが届きました。(実際、黒塗りをしたのか編集なのか役者の地の色なのかは今のところ不明)

これに対して多くの日本人の反応は「キャラクターを忠実に表現しただけ」「人種差別の意図はない」というものでした。勿論その通りです。

ただこの時点で、双方の論点が既にズレてしまっています。

海外からの指摘は「黒人を表現する際に肌を黒くしないで」というもの。一方日本人の主張は「人種差別なんてしていない」というもの。

多くの海外勢は「黒人差別をするな」「日本人は黒人の演技をするな」とは言っていません。その方々は恐らく役者が肌を黒く塗っているからといって、日本人が黒人を差別しているなんて思っていないでしょう。ではどういう意味か。それは黒人を表現する際、肌を黒くする行為に人種差別の歴史があるということ。日本人が日焼けをして黒くなることや、メイクで黒い肌を作ることは全く問題ありません。ただそれを「これは黒人のモノマネです」と言った瞬間にブラックフェイスの問題になるのです。この話に於いて最も重要な部分です。

つまり日本人の「人種差別していない」という主張はそもそも本質を捉えていません。それ以前の話なのです。彼らが伝えようとしているのは、世界にはブラックフェイスという悲しい歴史があって、今現在進行形で苦しんでいる人がいるということ。それに配慮してほしいということ。黒人へのリスペクトがあるというならば、娯楽の範疇である舞台のために、わざわざ差別の歴史が詰まった「黒塗り」を押し通す必要はないはず。少なくともそこに真のリスペクトは存在していません。「自分たちは黒人差別をしていないしするつもりもない」「これは単なる表現の自由」などという話ではなく、黒人の表現に黒塗りを用いることは黒人の尊厳を傷つけている。私たちはそれについて根本的に理解し、自覚しなければいけません。

たかが舞台のビジュアルで過敏になりすぎだと思うかもしれませんが、日本はアメリカを初めとする他の国々よりも黒人差別の認識や関心が薄いのは事実です。実際にブラックフェイスについてどれだけの人が知識を持っていたでしょう。人種を理由に差別された経験、目の当たりにした経験、どれだけの人が実感として差別を知っているでしょう。黒人の考える差別が日本人よりも敏感なのは至極当然のことではないでしょうか。「差別だという方が差別」という言葉が横行していますが、今回のケースは本当にそうでしょうか?”差別表現”として深く根付いている黒塗りを”差別表現だ”と指摘することに、一体どんな差別があるのでしょう。

ファンが呪術師の背景を重んじる気持ちはとてもよくわかります。彼女の肌色はキャラの生い立ちを考えると非常に重要な意味を持っています。しかしそれは脳内補完でもなんら問題はありません。呪術師の肌色が違うからといって一生の傷を背負う人はいませんが、ブラックフェイスによって一生の傷を負っている人はいます。だから歩み寄らなければいけないのは、黒人ではない私たちではないのでしょうか。舞台が素晴らしい娯楽であるために、ブラックフェイスの問題を見過ごすことはできません。ましてやこの問題を認知してほしいと声を上げた人々(中には丁寧に日本語へ翻訳しているものもあった)に、「外国人には関係ない」や「日本の2.5次元文化を理解しろ」というのは、少々乱暴で自分本位なのではないでしょうか。

運営側はキャスティングの時点で黒人女性を起用するなり役者の本来の肌で演じるなり、こういった問題を最初から回避する方法はあったはずです。今になってそれを指摘しても仕方ありませんが、是非問題が良い方向で解決され、多くの人が楽しめる素晴らしい舞台になることを祈ると同時に、世界からあらゆる人種差別が根絶されることを願います。

最後に。舞台で黒塗りを行わなかった実例とその理由が明記してあるので、是非目を通してみて下さい。