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イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

行っていたのにレビューを書いていなかった展覧会、シリーズ第5弾。2023年秋に国立新美術館で開催された「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」です。クリスチャン・ディオール展が開催された年にサンローランまで開催されるなんて、ここは見ておかなければと、行ってきました。


20世紀後半を代表するファッション・デザイナーの回顧展

1936年、当時フランス領のアルジェリアに生まれたイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent) は、18歳でクリスチャン・ディオールのメゾンに入り、彼の突然の死により、1957年にメゾンのデザイナーに大抜擢されます。

ディオールのコレクションで3年間デザイナーを務めましたが、アルジェリア戦争への徴兵(!)を機に解雇、これが実業家ピエール・ベルジェ(Pierre Bergé)と自身のブランドを立ち上げる契機となります。以降、このサンローランとそのブランドは2002年にサンローランが現役を退くまでに、ファッションの世界において、ジェンダーレスに向かうスタイルの提案だけでなく、既成服であるプレタポルテへの進出など、ビジネスのあり方にも新しい風を吹き込みました。

この展覧会は、サンローランの没後に日本で初めて開かれる大回顧展で、デザインしたワードローブやアクセサリーのほか、ドローイングや彼の写真など約300点を通じて、現代では当たり前となったスタイルだけでなく、非日常のアーティスティックな側面も合わせて、彼の功績を紹介したものです。

YSLに至るまで

この展覧会、主役は110体のルック、しかも自身のオートクチュール・メゾンのデザインだと思うし、確かに圧巻だったんですけれど、サンローランの少年時代やデザイナーとしてデビューした頃を紹介する展示が面白かったです。

特に、イヴ少年が作ったペーパードールのためのワードローブ。紙の人形に紙で描いた服を着せ替えるとか、私に限らず昭和世代までの元・女の子はやった経験あると思うんですけれど、実物を見るとクオリティーが違います。

あと、ディオール時代の『品行方正 (Bonne conduire)』と名のついたシャツ・ドレス。裾に向かって広がるエレガントなディオール風のデザインを踏襲しつつ、丈を短くしたAラインは、多かったと思われるメゾンの制約にデザイナーの個性を出した、本当に優れたデザインだと思います。

デザイナーとともに成熟するデザイン

サンローラン自身の一連のルックについては、「クリスチャン・ディオール展」と比較しながら見ていた感じがします。

それで思ったのが、歴代のデザイナーによって引き継がれるディオールの「メゾン」重視に対して、一代で閉じたこのブランドは、イヴ・サンローランそのものだったのだな、ということです。

1960〜70年代のコレクションで次々と発表された、ピーコート、サファリ・ルック、パンツ・スーツやジャンプスーツなど、今となっては当たり前で、その多くはいまだに古くなっていないスタイルを見た後に、1980年代後半以降にデザインされたドレスを見ていて、「老けたカトリーヌ・ドヌーヴが着てそう」って思ったんです。

彼女、サンローランのミューズの一人だったんですね。

自身ではなくて他者が着るためにデザインするのだから、自分の服を着る親しい人が歳を取れば、イメージも年齢に合わせて変わるだろうし、本人も老いることで、作品にも若々しさや新しさの代わりに、成熟さや個人の世界観が色濃くなっていくのは当然ですよね。他分野のアーティストと一緒で、人生の中でスタイルが変容していくというのがよくわかりました。

1965年の秋冬コレクションはすごかった

展覧会で実物を見るのを楽しみにしていたのが、ポスターにも使われていたモンドリアン・ドレス(『カクテル・ドレスーピート・モンドリアンへのオマージュ』)でした。

ドレスがどうの以前に、モンドリアン、大好きなんです。

意外だったのが、このカクテル・ドレス、秋冬コレクションのドレスなので生地がウールだったということ。なので写真で見るよりも、サンローランが影響を受けたモンドリアンの絵画よりも色のトーンが穏やかです。やっぱり服の素材って、大事なのですね。

あとは衝撃的だったのが、『バブーシュカ (Babouchka)』というウェディング・ドレス。マトリョーシカを想起させる繭の塊みたいな白いニットで、ドレスというよりは被り物。これを着てランウェイを歩くモデルのイメージが全然湧かなかったのですが、確かな手仕事の装飾といい、その奇抜なフォルムといい、オートクチュールならではだなぁ、と思わされました。

このレビューを書くためにパリのイヴ・サンローラン美術館(Musée Yves Saint Laurent Paris) のウェブサイトを見ていたんですが、この2作品、どちらも1965
年の秋冬コレクションのものだったことを知りました。

当時のファッショントレンドに対して、サンローランがこの年に打ち出したもの・その背景についても、サイトの中で詳しく説明されており、しかもコレクションのスケッチや写真も掲載されています。この美術館のコンテンツ、ものすごく充実していて、展覧会並みに興味深いです。

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