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夢枕 : 神様との約束

昨晩のこと。夢枕に、男が立っていた。

男:Hey Hey Hey 時には起こせよ・・・
俺:フガッ・・zzzz
男:おい
俺:zzzz
男:おい!
俺:zzzz
男:おい!コラ!!起きろ!
俺:フガッ!ん?誰だ?

こうして、夢現の間で、男と俺の会話が始まった。


昼間の出来事の所以

目を開けた俺がまず明らかにしたかったのは、彼が何者なのか?ということだった。

俺:あのぉ・・・あなた様は一体・・・?
男:神さまじゃろうが

男は、神さまだった。

男 改め 神さま:お前、昨日の日中、原付でこけたじゃろ?
俺:はい、よくご存知で。
神さま:ワシが仕組んだことじゃけぇの。
俺:えぇぇぇぇ!何とご無体な!

そう、昨日の午前、俺はいつもの山道で泥に前輪を取られて転倒していたのだ。幸いにもヒラリと身をかわして、俺自身は無傷だったのだが、原付のウィンカーは割れてしまったのだった。

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神さま: 上手いこと怪我せんかったじゃろ?それもワシの仕込みじゃけぇ
俺:怪我無かったのはありがたいことですが、バイク横転させなくても良かったじゃないですか!
神さま:アレで済んだんじゃけぇ、感謝せぇ。うまいこと直線の道の真ん中でコケられたじゃろうが。事前の神さま会議では、他の神さまから、断崖カーブでコカして崖から落としたらどうかとか、お前に骨折させてお灸据えたらどうじゃという提案があって、ワシも抑えるのに必死じゃったんじゃけぇ。

俺は、アレで済んだことに確かに感謝と安堵の念を覚えたものの、その本筋と別のところに食いついてしまった。

俺:神さまって合議制で物事決めてるんですか?
神さま:当たり前じゃないか!アマテラス姉さんだって、独断なんぞせんもんよ。お前は聖徳太子の十七条の憲法を読んどらんのか?明治天皇の五箇條の御誓文を読んどらんのか?しっかり和議して事を進めるのは日本人の常識じゃろうが

なるほどぉ、と俺が妙に感心したところに、神さまは続けた。

神さま:ワシはの、お前にガッカリしとるんよ。
俺:何かお気に召さぬことでも?
神さま:お前が逃げ腰じゃけぇ、詰まらん男じゃのぉ、と落胆しとるのよ。
俺:えぇぇ!?俺が何か逃げてましたっけ?
神さま:じゃけぇ、バイクをコカして気付かせようとしたんじゃがの

俺が昼間にバイクでコケたのは、神さまが俺に何か逃げていることを気づかせようとして仕組んだものだった、と分かった。


与えられたチャンス

しかし俺には未だに、何から逃げ腰だと見られていたのか、見当つかなかった。

俺:・・で、私のどこが逃げ腰とお思いなんでしょうか?
神さま: つくづく、ガッカリな男じゃの。分からんか?
俺:・・・残念ながら。
神さま:はぁ〜。しゃあない、言わんと分からんようじゃけぇ、言うてやろう。お前は裏山を毎日掃除して、「綺麗になった〜」と自己満足してSNSに自慢げに投稿したりして、良い気になっとろうが。ほじゃが、一番肝心なところをちぃとも綺麗にせんと、放っておろうが!
俺:!! それが、俺のコケたアソコ、ってことですか。
神さま: 言うまでもなかろうが。
俺:確かに、あそこが一番綺麗にするのが大変そうで、ちょっとやそっとで片付かないだろうから、余裕が出てきた時にいつかやろう、と思ってたのは確かです。

ここで神さまの神コメントが。

神さま:「いつか、いつか」で5日以内に始動せんものは、いつまでも実現せんものよ。

俺は、ぐうの音も出なかった。確かに、最も大変な箇所を後回しにして、早く成果が出る箇所ばかり手をつけていたことは否めない。神さまは続けた。

神さま:で、どうすんな?
俺:どう・・と仰いますと?
神さま:何遍も言わすな。どうすんな?
俺:あ、いや、えーと・・・近々やります!
神さま:ああぁん!?「いつか」と「近々」ほど永遠に来んものは無いじゃろうが!
俺:いや、えーと、じゃあ1週間以内にやります!

それで許す神さまでは無かった。

神さま:今日やれぇや。
俺:は?
神さま:起きたらすぐに今日やれぇや。
俺:きょ、きょ、今日ですか?
神さま:ほうじゃ。お前、特に何も予定なくて暇じゃろうが。
俺:え、あ、まぁ。
神さま:起きたらすぐに着手せぇ。そんで、転ぶ危険が無いくらいに綺麗にするまで、山降りて来るな。

神さまは容赦なかった。さらに、神さまはとどめを刺してきた。

神さま:お前、もし今日やらんかったら、どうなるか分かっとろうな?
俺:ど、ど、どうなるんでしょうか?
神さま:神さま会議では、もしこれでお前がやらんかったら、いよいよ骨折かそれ以上の事故を起こさんと分からんじゃろ、という話になっとるけぇの。ワシに手間を掛けさせるなよ。事故起こさせるのだって、神さま会議やらんにゃならんし、手続きも面倒じゃけぇの。神さまも役所みたいなもんじゃけぇ。

俺は神さま合議システムの冷徹さにおののきながらも、一つの疑問をぶつけた。

俺:神さまって、もう少し厳かで、つつがない感じじゃないんですか?
神さま:誰がそんなこと決めた?そんな訳がなかろうが!スサノオ兄さんは荒くれものじゃし、アマテラス姉さんは引きこもるし、神さまは激情型が多いじゃろうが

言われてみると、その通りだ。

神さま:ワシもせっかちな性分じゃけぇの。こうやって1回チャンスを与えたけぇの、これで分からんようじゃったら、覚悟せぇよ。
俺:わ、わ、分かりましたよ・・。
神さま:今のところ、今日中にお前がやる方に賭けてるのはワシだけじゃけぇの。他の神さまは、みーんな、お前は今日やらんじゃろう、言うて見くびっとるけぇ。ワシに恥かかすなよ。
俺:俺をダシにして、神さまでゲームみたいに楽しんでるじゃないですか!
神さま:当たり前じゃろうが!アマテラス姉さんが引きこもりになった時も、アメノウズメのストリップショーをやった位じゃけぇの。

確かに、日本の神さまは宴会上手だ。ここで、俺はあることに気づいた。

俺:もしかして、貴方様は、アメノタヂカラオ兄さんでは?私は昨年、戸隠神社で兄さんの御霊を分けていただいたもので。
神さま:フッ。そこはお前の想像に任せようじゃないの。

結局、この枕元の神さまがどなたかは、はっきり教えてもらえなかった。

神さま:ほんなら、ワシはもう行くけぇの。起きたら必ずやれよ
俺:あ!神さま!もう一つ質問させてください!
神さま:ほんまに手間掛けさせるの、お前は・・
俺:神さまは広島弁を喋っておられますが
神さま:当たり前じゃ。お前も比婆山に吾妻山は知っとろうが。
俺:あ、あの古事記に出てくる地名が散在する霊山でしたね。
神さま:じゃけぇ、ワシらは広島県人での。
俺:ということは、神さまもカープファンですか?

最後の質問は聞き遂げられること無く、神さまは姿を消してしまった。


滑り泥との格闘

気づくと朝日を拝んでいた。俺は、夢の中での神さまとの約束を果たすべく、裏山に上がった。原付に、ポータブル電源、ブロワー、スコップ、草刈機を積み込んだ。

昨日転倒した箇所へ、一目散に向かった。到着すると、そこは転倒した昨日とそう変わらない、落葉と泥が広がる危険な斜面だった。イノシシの足跡がくっきりついたヌタ場もできていた。

俺はまず、現場を歩いて状況確認し、頭の中で作業計画を組み立てた。スコップでまずは泥をかき、ブロワーで積もった落葉を吹き退けるつもりだった。8時15分ころ、スコップを使った泥かき作業を開始した。

野球の内野手のように、膝を折って身をかがめて、中腰で泥をすくっては藪の方に捨てる。ひたすら4時間、これを繰り返した。左手首が、腱鞘炎のように痛んだ。しかし、4時間ひたすらやっていたら、ヌタ場も完全に消滅し、スリップを誘う危険な泥の層は路面から取り去ることができた。

その後、ブロワーによる落葉の吹き上げは、バッテリーが思いのほか保たず中途半端になったが、ひとまず泥の層を解消したので及第点と言って良いだろう。

果たして、神さまは今日の俺の成果に満足してくれただろうか?俺の枕元に立ってくれた神さま兄さんの面目躍如になったことを祈るばかりである。

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