見出し画像

夕刻、夢ト見紛ウ


既に桜が散りおわって、春の日差しが目に刺すようになった日の夜、ある楽曲が投稿された。

「夕刻、夢ト見紛ウ」After the Rain


After the Rainはネットを中心に活動しているアーティストのそらる、まふまふから構成されたユニットで、主に中高生達から多大なる支持を集めている。また互いにソロでも活動しており、今後も多岐にわたる活躍が注目されている。

2人の楽曲には四季折々の景色が描かれていることが多く、特に『桜花二月夜ト袖シグレ』『四季折々に揺蕩いて』『マリンスノーの花束を』など、細やかな言葉使いと目に浮かぶ景色に思わず聴き惚れてしまう楽曲が軒を連ねる。

そんな彼等が今楽曲に大切に詰め込んだのは美しき春の情景と、淡い恋心だ。


ゆっくりと歩み始めた甘酸っぱくて胸を締め付けられる物語は桜の花弁が風に揺られてふわりと散るようなピアノから始まった。

そらるの酷く甘い低音が穏やかな別れをそっとベースラインに誓って、抑えきれない胸の騒がしさはドラムの鼓動にひた隠した。

雨はまだ、降りそうににない。

ポツポツと木の枝を濡らし始めた雨に気づいて、まふまふのオルゴールのように繊細な広がりをみせる歌声はゆっくりとヴェールを捲り、リボンを結ぶ。

相合傘の思いやりの分だけ冷たく濡れる右肩には見ないふりをした。

交互に響く2人の優しい歌声は降りしきる雨に良く馴染んでは、虹色に光った。

しとどと降って止まぬギターの雨粒は、柔肌を弾いては深い恋心に染み入り、足下に広がる桃色の絨毯を濡らしては行く末を違う。

1文字1文字に感情を宿す丁寧なフレーズは、聴く度に頬を赤らめてしまう程に彩やかで、キラキラと光るキーボードの音色と合わさっては心根を癒してゆく。

揺らぐ事なき信頼があるからこそ彼等は繊細で複雑な恋心をしっかりと歌い上げることが出来る。背伸びした互いの瞳に映す恋模様は水たまりにぼやけては徒情けに消えた。


『この世は等しく単純だ』

『咲けば散る花のように』


覚悟した震える想いを伝えると、全て分かっていたかのように優しく受け止められて、本気だったはずの恋は悪戯に消えていった。

頬を濡らしたのは、きっと雨粒だ。


彼等の作り出す音楽の背景には少し切なくて、ハートフルな物語がある。

After the Rainの凄みは、インストにすらも物語を組み込んでしまう所だ。今楽曲も目を瞑り、流れるギターを聴くだけでも物語の情景の変化を感じる事が出来る。

今回の楽曲の概要欄にバンドメンバーの名前があったのには、再生ページを開いた誰もが気づいているだろう。
彼らはバックバンドとして2人の歌声にさらに香りを纏わせ憧憬を映し出す、信頼おけるアーティスト達だ。

彼らは2人の想いを上手く汲み上げ、物語の世界観を忠実に奏でる正確さと高度なテクニック、そして真剣に一音一音に寄り添える愛情を持ち合わせている。
だからこそ間奏や後奏もしっかり聴きたい、もっと聴いていたいと思わせることができるのだろう。

沢山の音楽家達によって織り上げられたAfter the Rainの小さな恋の物語はきっとこれからも、沢山の人に愛されるに違いない。


貴方も、私も、桜を見る度にきっと彼らを思い出し、胸を焦がしてしまうのだろう。


writer: momosuke


【MV】夕刻、夢ト見紛ウ/After the Rain【そらる×まふまふ】 https://nico.ms/sm36763184?cp_webto=share_others_iosapp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?