「モノノ怪 唐傘」 感想 考察

公開おめでとうございます!

劇場版モノノ怪 唐傘 公開おめでとうございます!
劇場版がやると発表されてからずっと楽しみにしてて、途中色々ありましたが公開されて大変嬉しく思っております。
中学生の頃にたまたまテレビで流れていたテレビアニメに衝撃を受け、ずっと忘れられなくて気がついたらBDBOXを買ってしまったくらい好きな作品です。一番好きなエピソードは「鵺」。

2回鑑賞。パンフレット、ノベライズは未読時点での自分の感想や考察をまとめてみます。


「乾く」とは何なのか

今回のモノノ怪は「唐傘」。
唐傘に殺された人たちはみんな体の水分を搾り取られミイラのようになっていました。
「乾く」とは自分が欲しているのに手に入らなかったり、捨てたくなかったものを捨てたり、自分が満たされてない状態のことなのかなと思いました。
認められたいという思いを皆抱えているが、それを満たしてくれる隣人は同時にポジションを奪い合う立場みたいな台詞からもそういうことなのかなと。
ではそれぞれなぜ乾いてしまったのか。

北川

唐傘の「真」であった北川。
彼女はとても優秀な女性で、歌山からも認められどんどん出世していく。北川には仕事のできない同期がおり、彼女のことを次第に疎ましく思いクビにしまう。
これでスッキリするかと思っていたら、知らず知らずのうちに彼女が自分の捨ててはいけない大切なものになっていたことに気づき、現代で言う鬱のような状態になってしまい、最後には自殺してしまった。
北川とアサが似たような道を歩んでいたとして、きっとその優秀さやどんどん出世していく様に反感を買って孤立していたところがあったと思うんですよね。アサも最後の大餅曳き開始のときに総スカンされてましたからね。そこでカメだけがリアクションをしていて、それがアサにとっての勇気になる。
北川の同期は恐らくカメと似ていただろうから、きっと孤立していた北川の支えとなっていたはず。
北川は最初の大奥に来たときに大切なものを捨てることが苦じゃなかったと語ってるように、大奥で働くことを夢見て、そして覚悟ができている人だった。そんな北川にとって大切なものは実は大奥の中で培った人間関係であったというのが皮肉。これを失ったことで憧れていた大奥での仕事もできなくなり、乾いてしまう。
大奥に馴染めない人間を排除し、大奥のためになることをしたと思ったのに、まさか自分がダメージを受けるなんて思いもしなかったろうなぁ。
仕事が円滑に回るためには、みんな完璧な歯車になるしかないし、そのためには無駄なものは排除しなければならないのかもしれないけど、その無駄こそが捨ててはいけない人間らしさであったのだろう。
もしかしたら、アサのように純粋な友愛の気持ちだけじゃなくて、仕事ができない同期と比べることで得られる優越感とか色々あったのかもはしれないとは思うけれど、いずれにせよ、知らず知らずのうちに自分を満たしていたものを切り捨ててしまい、憧れていた仕事もできなくなってしまうのは皮肉。

アサが北川は誰も恨んでなかったと思うと言っていたけど、北川自身、誰かが悪くてこうなってしまったと思ってないからだろうなと思う。
大奥という組織を守るために必要なことをみんながしていたらこうなってしまった、という感じな気がする。本当に恨みがあるんだとしたら、アサに乾いてはいけないとわざわざ忠告したりしないと思うので。
ただそうはいっても人間誰しも不平不満はあるし、みんながみんな納得して歯車になりきれるわけじゃない。そんな感情が北川とたまたま結びついてしまった…?

麦谷

麦谷はカメを折檻しているところで唐傘に殺されてしまうんですが、部屋にあるこけしであったり、襖にキノコがかかれていたり、あからさまに男性や色恋が乾きの原因。
カメのように若く可愛くて愛嬌もあって男性に好かれるだろうなという女性への嫉妬がもうありありと出ていましたねw
男子禁制の大奥で異性との接触もない中、お目付役としてきた2人の男性もアサとカメに注目している、天子にも選ばれない、異性から選ばれたいのに選ばれない、そんな自分の満たされない思いに気づき乾いてしまった。
本当は大奥じゃなくて市井にいて、普通に恋愛して結婚とかしてたら満たされたのかもしれない。

淡島

淡島もまたカメを折檻しているところで殺されちゃう。
カメは出世していくアサに焦り、夜伽の間に入ろうとしたところを淡島に見つかって折檻されるんですが、カメが仕事をサボったというよりも、それによって自分の上司としての資質を問われポジションを追われることを恐れ、更には最初に大切なものを捨てるように強要した自分や麦谷をカメやアサが恨み、2人が共謀して麦谷を殺したのでは?とカメを責める。

淡島、きっとすごい無理して今のポジションやってるんだろうな〜って思った。
最後に捨てたくなかったって言ってたから、無理して自分を変えて頑張ってたんだろう。
カメやアサが自分を恨んでると思ったのも、大切なものを捨てたくなかったのに捨てさせられた恨みが自分の中であるからだと思う。
そんな中で、カメは大切なものを捨てたはずなのに大奥に馴染む気配がないし、アサは大切なものを捨ててないのに出世していくしで、大切なものを捨て、自分を変えてついたポジションを脅かされるということで乾いてしまったんだろうなぁと。

カメ

淡島が殺されてしまったところで、カメも唐傘に捕まりかけていたので彼女も乾く寸前だったはず。
カメの場合は大奥に来たときの荷物が多く、大切なものがたくさんあって、だから櫛を捨てたくらいでそう簡単に大奥に馴染まないし、乾くことも無かった。
そんな彼女が乾きかけたのは、彼女が誰からも必要とされなくなってしまうとう危機感を抱いたからかなと思った。

大奥は当時の女性の憧れの職場だろうし、そこに行けるってことで家族からも相当期待されてたはず。でも来てみたら、仕事を満足にこなすこともできないし、同期はとんでもなく仕事ができるしで、じゃあ天子様に選ばれるしかないと思ったところで髪を切られてしまい女性らしささえ失ってしまう。
大奥で天子様に選ばれることや御中臈への憧れが強かったカメだから、髪を切られたことがダメ押しとなり乾いてしまう。
でもそのあと、アサに必要とされていることに気づいたから、唐傘に殺されずに済んだのかな~って。

歌山

最後に唐傘に殺されたのは大奥のトップである歌山。
彼女は自分が最初に大奥に来たときに何を捨てたのかさえ忘れており、手のしわやシミが目立つ年齢になるまで大奥にいることから、かなり長い年月を大奥の中で過ごしてきたことがうかがえる。
彼女の乾きは、トップである御年寄のポジションにいるが故の孤独なのかなと思った。
2番手ポジくらいの淡島さえ大奥にきて6年だと言ってたから、大奥に長年いる人ってすごい稀なのかな。
北川もアサみたいにスピード出世したっぽいので、歌山は年功序列というよりは実力主義のようですが、歌山とその他の女中の大奥歴はかなり差がありそう。
実力主義なので、優秀な人材に重要な仕事を任せてみたり、ポジションにつけてみたりしてるけど、きっと北川のように潰れてしまった人もいたんじゃないかなと。
自分の後継者になれるような部下が潰れてしまい、いつまでも自分が高みにいることへの孤独(映画開始からずっとそばにいた御中臈のボタンでさえ、部下では無いと歌山を突き放している)が彼女の乾きなのかなと。
井戸の底に沈んでいた乾いた死体は歌山が引き立てた女性たちが「乾いてしまった」末路だったりしたら面白い。そしてそれこそが彼女が水底へ捨ててしまった大切なものだったのかもしれない。

歌山さま、江戸時代の価値観でみたらどうかはわからないけど、令和視点だとけっこう良い上司だよね。部下の実力、やる気をみてポジションを与えるし、唐傘からもアサを守ろうとしている。大餅曳にも唐傘に殺される覚悟をしているから参加せずにいる。
ただ、実力ある部下を重用するあまり、それによる周囲の反感や摩擦はあまり気にしてないようにも見受けられる。
歌山自身が大奥という組織で歯車として過ごすこと、高い位置にいることで全てを俯瞰して観ることに慣れてすぎて、人間らしい割り切れない感情を忘れてしまったんだろうな。

アサ

歌山が唐傘に襲われているときに、一緒に唐傘に襲われていたのがアサ。
アサの大切なものはもちろんカメであったり、カメとの友愛。
しかし、彼女も北川同様にカメをクビにしてしまう。
アサと北川は似ていて、それ故に北川が乾いてはいけないと忠告しにきているんだけど、アサの場合、カメをクビにした理由は「カメを疎んで」ではないと思う。カメが大奥に馴染めてない、向いてないと思ったから、敢えてクビにしたんだと思う。
唐傘に襲われる前に「もっとカメちゃんと過ごしたかった」的なことを言うのも、カメを疎んでたとしたら出てこないと思うので。
敢えて自分が悪者になってカメにクビを出した寂しさがアサの乾きであり、カメを想うあまり、カメともっと過ごしたいという自分の気持ちを殺したことがアサの捨てた大切なものなのかなと思った。
だからカメを井戸に捨てたようでいて、井戸に落ちかけていたのはアサ自身だった。
だけど、カメがアサのことを助けにきてくれたから、自分の気持ちをカメに伝えることができ、最後にはカメはスッキリとした表情で大奥を去ることができた。

今作での大奥

お仕事ドラマの舞台としての大奥

今回の舞台が大奥ときいて、女同士のドロドロした感じとか愛憎劇なのかな~と思っていたが、観てみて大奥がお仕事ドラマの舞台として描かれていることにまずびっくり。
憧れの超大手企業に入社した新入社員や働いてる人達を描いているお仕事ドラマを見ているようだった。
というか、社会人なら多かれ少なかれ共感する点が多いんじゃないだろうか。
私はぶっささりすぎて死にかけた。
希望を胸に入社したけど自分の実力不足に悩むとか、仕事ができる同期と比べて辛くなるとか、自分の気持ちを押し殺して上の言うことを聞くとか、そんなことは現代社会でもあふれているよね…。
仕事はできないけれど愛想がいいカメの、仕事を頑張ろうとして空回っていく様とか、能力が高いアサの優しさに甘える様とか、あまりにも「あり得る」風景すぎて苦しくなるほどだ。
そしてこれがシンデレラストーリーであったなら、カメが天子に見初められ…ってことになるんだろうけど、全くそうはならなくて、ひたすらカメが大奥とは不釣り合いな人間であるということが突きつけられるのがあまりにも「現実」でありすぎる。

大奥で働くということ

大奥は天子様の世継ぎを生むための場所、そのためのシステム、組織としてあるというのが強調されている。
そしてそこで働く女性達は組織の歯車。
大奥にきた女性達ははじめに自身の今まで1番大切にしてきたものを捨てさせられる。
また御中臈以外の女性はアサとカメ以外は歌山、淡島、麦谷など通称(で合ってる?)を名乗っているのも、天子に選ばれなかった人たちは本来の名前を捨て、個性を捨て大奥の歯車になるということなのかな。
毎朝の水も、水が合わないという言葉通り、2人が馴染めてないから臭くてまずく感じるんですが、馴染んで歯車になれたアサは水に慣れてしまう。
最後まで馴染めなかったカメは水を飲むことすら拒否して捨ててしまう。
そもそもあんなに色んなものを投げ捨ててるとこの水がうまいわけない。…が、大人が色んな感情を飲み下すのがうまくなるように、色んなものが混じり合った水をうまく飲み下せるようになるのかもしれない。

最後に

今作の薬売りさんもめちゃくちゃ良かったってことを最後に言いたい。
私は中学時代にCV櫻井氏の薬売りさんが癖に突き刺さった人間だったので、色々あって変更になったことに関しては本当に残念でならないんだけど、CV神谷氏の薬売りさんもとっても良かったし、あの薬売りさんとはまた別ってことにしてくれて助かったとも思う。
CV神谷氏の薬売りさんは神谷氏の清々しい声質の効果か、本当に祓い清められている感じがしてよかった。
あと、ハイパーさんになるときに天地が反転するときの目を閉じるあたりの薬売りさんの表情の色っぽさと顔の角度があまりにも美しくて最高です、ありがとうございます。

というわけで、次回の火鼠も楽しみです!

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