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動画クリエイター養成科 #4キネティック・タイポグラフィ

「家に着くのが遅くて、色々していたら毎日寝るのが3時過ぎになってます。完全に昼夜逆転ですよ~」

休憩時間中、クラスのどこからか聞こえてくる。

一部の受講者は他府県から通っており、夜間コースのこのクラスでは授業を終えて帰宅すると深夜になる受講者もいた。

わたしは比較的短時間で帰宅できる距離に住んでいたが、にぎやかなクラスから自宅に帰っても、その余韻が残りすぐには眠れない。

規則正しい生活をして身体を整えないといけないのに、同じく3時頃に就寝することが多かった。

うん、わかるよ。
そんな生活リズムになるわな。

心のなかで静かに共感していた。


***


カリキュラムはアフターエフェクトの授業に入っていた。

略してA.Eとはロゴやテキスト、キャラクターなどを動かしてアニメーション動画制作ができるツール。

ここでわたしが学びたかったのは、プレミアプロの操作であり、すでに簡単な操作は習得し講師によるレクチャーは終了していた。

だからこのときは、動画と視聴者を結ぶ導線の引き方や、マーケティングについての知識をより深めたいと思っていた。

広告をつくるということは、そういった知識が重要だと思っている。

プレミアプロを学ぶためにきたクラスで、たまたま授業のカリキュラムに組み込まれていたアフターエフェクトは、わたしにとってはおまけにしかすぎなかった。

また同じアドビ社からの動画編集ソフトでありながらも、プレミアプロとは異なった操作方法であるため、一から覚えないといけないことがたくさんあり、少し煩わしい気がしていた。

だけどこの半年間を有意義なものにすると、ほんの数日前に決めたところだった。

この授業を終えたら、おそらくこれを使うことなんてもうないだろう。

こんな経験もめったにできないし


まずは夢中になることから始めてみよう。


***


数週間の講師によるレクチャーのあとはお決まりの課題制作が控えていた。

今回アフターエフェクトを使った課題制作は
キネティック・タイポグラフィ。

きねてぃっく タイポぐらふぃィ?

キネティック・タイポグラフィとは
文字を動かすアニメーションをさし、文字を動かすことにより特定のアイデアや感情を伝える。

とりあえず今回の課題は文字を動かすことができたらクリアできる。

クラス中が参考動画さがしにキネティックタイポグラフィのワードを検索しはじめる。

わたしもユーチューブでいろんなアニメーションの動画を検索。

途中トイストーリーの動画に遭遇した。

アニメーションといえばピクサーアニメーション。

大好きなウッディとバスを画面越しに眺めながら、わたしでは到底再現できるはずのないCGアニメーションを、課題制作の時間を削って堪能していた。

やっぱりピクサーはすごいね。トイストーリー好きだわ〜と再認識。

みんなが課題の参考動画を必死で探すなか、わたしは好きなトイストーリーに浸り自分ワールド全開だったことを、周りに気づかれていなかっただろうか。


***


A.Eは動画のオープニングや広告、ミュージックビデオなどさまざまなシーンで利用されている。

ポートフォリオのことを考えると、今後の進路も意識した課題制作をしたほうがいいのはわかっていた。

だけど、A.Eでつくられた動画広告をいくつかみたけどピンとこなかった。

ミュージックビデオなんて、わたしにできるはずがない。

しかしユーチューブで探せばたくさん出てきた。

そのなかでもリリックビデオが目に留まった。

リリックビデオとは、ミュージックビデオの一形態であり、歌詞の表示を主体として構成されたコンテンツ。

音楽に合わせて文字がおどる世界観に引き込まれた。

音楽コンテンツの表現方法が多様化しているなか、わたしはこんなジャンルの動画が存在していたなんて知らなかった。


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授業を終え自宅に帰ってからも、海外アーティストのリリックビデオを、イヤホン付けてみあさった。

リリックビデオにはファンによる二次創作も存在しており、アーティストに対する理解や表現力の多彩さに目をひいた。

面白い。これわたしにもできるかな?

ハマってしまったから、つくってみたい。

いつも聴いているThe chainsmokersのリリックビデオを見つけたときは、テンションがあがった。

こんな感じだったらわたしにも再現できるかも?

どの曲にしようか、The chainsmokersのリリックビデオを無我夢中でいくつも確認した。


いつもどおりの日付が変わった週末の深夜。

静かな部屋でイヤホンから流れる音の振動が、わたしのカラダに流れる水に波打つ。

それがとても心地よかった。


***


曲は決めたものの、類似した表現をしても面白くないので、参考になるさまざまなジャンルのアニメーションを片っ端からみた。

どんなキーフレームの打ち方をしたらこの動きが再現できるのか?
そのうちアニメーションを純粋な目でみれなくなるくらい熱中していた。

上手くできたらアーティスト本人たちに送りたいな。

曲の著作権があるので、世にだすことは出来ずポートフォリオとしても使えない。

今回の課題制作発表にしか使用できない制作物なのに心は弾んでいた。

そしてもうひとつこの時期に頭から離れなかったこと。

ピクサーアニメーション

どうして、あんなに人を喜ばせられるアニメーションをつくることができるんだろう。

気づけば英語で記されたピクサーのホームページに辿りつき、クリエイターの求人ページまで眺めていた。

ピクサーが目指すところは?
どんな人材を求めているのか?
ポートフォリオの提出方法は?

もちろんわたしに挑戦できるわけがない。

だけど組織としてどういった考え方で、世界にアニメーションを発信しているのか知りたかった。


***


アフターエフェクト課題発表の日、わたしはリリックビデオにしたThe chainsmokersのCloserをクラスで共有した。


他の受講者たちも、好きなアニメやアーティストのミュージックビデオだったり、文字を動かしたVlogだったりを発表した。

動画制作を学びはじめて3ヶ月が経過していた。

初めのころはあまり活気のないクラスも、課題発表のたびにみる制作物で、受講者それぞれがどういったパーソナリティー、思考のもとで制作をしているのか、互いに理解しはじめていた。


アフターエフェクトを学び始めたころ、わたしは煩わしささえ感じていたのに、これほど没頭するとは思っていなかった。

ポートフォリオにもならない、成果や利益を求めない制作をしたから?
アニメーションが面白かったから?
新しい分野を学んだから?

どうしてこんなに楽しかったのかわからない。

だけど文字通り、夢中になることができた。



***


動画編集は次のステージに向かうための、サブスキルにするつもりだった。
だけど気がつけば進路変更を考えていた。

動画をメインに仕事をしたら毎日どんな人生になるだろう?


街に溢れる金木犀の香りが、さらにわたしを上機嫌にした。



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