動画クリエイター養成科 #2いまを生きる
夏になると、アメリカに住んでいる高校からの友人が一時帰国した。
帰国のたびに再会する友人との時間は、心安らぐ小さなイベントだった。
会うたびに成長する友人の子供を見るのも楽しみのひとつ。
SNSで互いの投稿をみていても、実際に会うとまた違う。
包み隠さず近況報告をするつもりだった。
世の中が一変してわたしに起こったこと
今は動画制作について勉強をしていること
しかし自分が決めた選択にも関わらず、わたしは不安定だった。
キャリアをストップして、動画制作を勉強することに焦りを感じていた。
いつも頭にまとわりついていたこと
わたしの貴重な30代が過ぎ去っていく。
これは本当に正しい決断なのか?
制作のスキルを磨きたいと思う一方で、キャリアを築きたいと強く思う気持ちの狭間にいた。
だけどまだ十分に睡眠も摂れない。
人生のペースを落として、療養しないといけないこともわかっていた。
しかし心情は穏やかではなかった。
授業を受けていても心ここに在らず。
そんな状況が数週間続いていた。
さらにジリジリとした夏の暑さが拍車をかけて、わたしをイラつかせる。
***
友人との再会は子連れでも気負いのしない、ファミリー層向けの賑やかなカフェで過ごすことが多かった。
今回は友人のパートナーも一緒に帰国しておりファミリーと合流し、すこしの時間を過ごしたあと、子供を任せてわたしと友人は静かなカフェに移動した。
30代ともなれば、女性の生き方もさまざま。
出産を機に家庭に専念する子もいれば、自分でビジネスを始める子もいたり、
その両方に奮闘する子だっている。
友人はワーキングホリデーで渡米したのちパートナーと出会い、今はアメリカで根付いた生活を送っていた。
同世代がそれぞれの舞台で生きるなか、その年わたしは何者でもなかった。
これまでにも苦境に追い込まれる経験なんていくらでもあったし、その度に乗り越えてきた。
厳しい状況でも、この試練が間違いなく今後の糧になることは、今までの経験上認識していた。
いつかは良い思い出話になることもわかっている。
先のことばかりを考えすぎて、現在に想いを込めて生きないと、のちに後悔してしまうことさえ知っていた。
だけど、これほど理解していても先行きの不透明な状況に、リアルタイムでは平静ではいられなかった。
***
わたしと友人はガラス張りのカフェで、多くの人が行き交う街の風景を眺めながら、ソファーに横並びで深く腰掛けた。
どのように切り出したらいいか、会った瞬間から考えていた。
ドリンクのグラスについた水滴が流れる様子をみながら、ゆっくりとここ数年に起った出来事を話した。
わたしの選択に否定も肯定も驚きもせず、ただ聞いてくれた。
友人はわたしが動画制作を学ぶことに興味をしめした。
そして次第にわたしの話から友人の話に変わり、そのあと共通の友人の話に変わり、アメリカに住む見栄張りな日本人の話になって、気づいたらお互い笑っていた。
笑うって大切。
くだらない話で笑うのも久しぶりだった。
物事が上手くいっているとき、周りに自然と人が集まるのは当たり前のこと。
大切なのは困難なとき誰がそばにいたのか。
互いを理解し合える友人の存在は大きかった。
自分の問題なのだから、ネガティブな話は他人に迷惑や心配をかけることなく解決しようとしていたけど、ひとりで抱え込まず信用できる人と共有するやすらぎを知った。
近すぎるとなにも見えない。拡大顕微鏡で見ていたわたしの世界が少し広がる。
いまの自分自身にうしろめたさを感じていたけど、わたしだけでなく、みんながそれぞれのステージで悩みを抱えながら、たくましく生きていた。
そして何気なく友人が言った言葉
長く働いてきたんだから、休むことも大切
たったその一言で全ての迷いが飛んだ。
将来を心配しすぎて、この瞬間に生きれない自分をやめる。
目の前にあることに注力すると心に決めた。
***
毎年誕生日にはジュエリーを購入していた。
だけどその年は購入しなかった。
その代わり、自分のためにスキルを磨く半年をプレゼントした。
今まで購入したどんな高価なジュエリーよりも、価値のある誕生日プレゼントになると信じていた。
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