MLBのコンテンダーのチームは外野手の守備力をとても重視しており、しかも改善に成功している

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2019年1月6日にJD・デービスはアストロズからメッツにトレードされた。

今季450以上の打席に立ったナ・リーグの野手で、彼は10位となるwRC+136を記録した。これはエウヘニオ・スアレス(CIN)やノーラン・アレナド(COL)をも上回る。打撃だけでなく、外野と3Bを守るユーティリティ性も彼の魅力だ。

もし彼がトレードされていなかったら、アストロズ打線はさらに強力だったはずだ。チームの得点を増やすためには、wRC+で100を下回ったジョシュ・レディックやジェイク・マリスニックよりデービスを起用した方が効率が良いように見える。しかし彼らはそうしなかった。どうしてアストロズは打撃での貢献が限定的なマリスニックを残して、デービスを放出したのだろう?

3月23日ヤンキースはロッキーズとのトレードで、マイク・トークマンを獲得した。トークマンはMLB.comのチーム別プロスペクトランキングにも入った経験がなく、無名に近い存在だった。そんな彼は今季僅か87試合の出場でfWAR2.6を出して、故障者が相次いだチームを救った。

この2つの動きは無関係に思えるが、ある共通点を見出す事が出来る。その共通点こそが今回のコラムのテーマである。つまり“コンテンダーの外野手の守備力の高さ”だ。それを象徴するプレーは先日行われたALCS第6戦でも見られた。7回のマイケル・ブラントリーのダイビングキャッチである。

ここからは具体的な数字を用いて検証していこう。

*表1

取り急ぎ

今季の外野手のチーム別DRS(表1)を見ると、今季プレーオフに進出したチーム(緑字)は全てDRSがプラスであり上位15チームに入っている。さらに今季のチーム別の平均DRSは0.2であるが、プレーオフに進んだチームの中で1番DRSが低いカージナルスも5を記録している。この事からもプレーオフに進出したチームの外野手の守備力が高い事が分かる。

*表2

2017-2019DRS合計

上の表2は、過去3年間の各チームの外野手のDRSの合計を順位付けしたものである。赤くしているチームは3年間の間で、ALCS・NLCSに進んだ8チームである。これを見ると、

・DRS上位12チームのうち7チームが過去3年の間にリーグ優勝決定シリーズまで進んでいる

・唯一の例外WSHも1番目の表から分かるが、今季大幅に外野守備を改善している

事が分かる。

*表3

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続いて表3は2019年と2018年の外野手のチーム合計DRSの差を表したものである。プレーオフに進出したチーム(青字)に限定して見ると、ナショナルズ・ドジャース・アスレティックス・アストロズの成績が大幅に改善しているのが分かる。

大幅に悪化しているブレーブス・レイズ・ブルワーズ等に関しては前年の数値が高かった事も影響している。また今回は外野手の守備成績に特化しているので、特定の選手の不調等の影響を受けやすい。ブレーブスのエンダー・インシアーテ(17→-1)などが最たる例である。

*グラフ4

3年間のDRSの変化1

ところで過去3年間毎年プレーオフに進んだチームは3チームあった。ドジャース・アストロズ・ヤンキースだ。ここでこの3チームに所属する外野手の合計DRSの3年間の変化(グラフ4)を見てみよう。彼らはいずれもデータ分析に定評があるチームで、現在のMLBを牽引する存在である。このグラフを見ると

・3チームはいずれの年も外野手のDRSがプラスになっている

・アストロズが毎年DRSを向上させている

・NYYは3年間毎年+20以上を記録している

という事が分かる(ちなみに過去3年間+20以上を毎年記録しているチームはNYYだけである)。

*グラフ5

3年間のDRSの変化2

続いて2017年はプレーオフを逃したが2018年以降は2年連続でプレーオフに進出したブルワーズ・アスレティックス・ブレーブスの外野手の3年間のDRSの変化(グラフ5)を見る。このグラフからは

・彼らがプレーオフを逃した2017年はいずれもDRSがマイナスになっている

・アスレティックスが毎年DRSを向上させている

という事が分かる。

ここまでの内容をまとめると

プレーオフに進んでいるチームは、進んでいないチームと比較してDRSが高い。

HOU,OAK,WSH,LAD,MILのようにコンテンダーが外野手の守備成績の改善に取り組んで、成功している。

となる。

ここからは、コンテンダーがどのように外野手の守備成績の改善に取り組んでいるかを見ていく。

・ヤンキース

今シーズンヤンキースの多くの外野手が故障者リストに入った時、多くのファンはクリント・フレイジャーが出場機会を得ると思ったはずだ。しかしフレイジャーは今シーズン僅か69試合しか出場しなかった。彼は自身の出場機会の少なさについてブライアン・キャッシュマンGMと話した内容を、ニューヨーク・タイムズに打ち明けている。キャッシュマンからフレイジャーへの要求はシンプルなものだった。「マイナーでは守備の改善に取り組んで欲しい。」

キャリアを通して1度もDRSがプラスになった事がないフレイジャーの代わりに、起用されたのは昨年までMLBで69打席しか経験していないトークマンだった。彼が今季外野で記録したDRS+16はMLB全体で6位だった。しかも彼はこれをたった694.1イニングで達成している。以上の話からキャッシュマンGMがどれだけ外野手の守備力を重視しているかよく分かるだろう。

・ドジャース

ドジャースは自軍の外野守備を強化するために、守備位置の変更を行った。その典型がジョク・ピーダーソンだ。彼は2年前にセンターでDRS-12と酷い成績を残した。おそらくこれで彼はセンター失敗の烙印を押されたのだろう。ここ2年で彼の守備位置は両翼へとシフトしている(今季センターを守ったのは5イニングだけ)。その結果彼は今季外野で+11のDRSをマークした。

さらに彼らは昨年オフにヤシエル・プイグを放出して、FAでAJ・ポロックを獲得した。プイグは主にライトを守り2017年にDRS+18を記録したが、翌2018年は+6と一気に数字を落とした。一方でポロックはセンターを主戦場にしながらデビューから1度もDRSがマイナスになった事がない安定感を備えていた。プイグは問題児と言われる事も多くさらに今季オフにはFAとなる。

これらの条件が重なり、彼の放出が決まったと想像するがその裏にはプイグを放出しても、彼が抜ける事でできる守備面の穴はポロックで埋められるとの算段もあったに違いない。実際外野両翼よりもセンターを守れる人材の方が少なく、レフトはピーダーソン、ライトはコディ・ベリンジャーに任せられる目処がついていた。

その結果今季ピーダーソンだけでなく、ベリンジャーも+22をマークして期待に応えたのでドジャースの狙いは見事にハマった。一方でプイグは今季0と期待はずれに終わった。ドジャースで唯一残念だったのは、ポロックが今季キャリアで初めてDRSマイナスを記録した事だ(ドジャースの外野手でDRSマイナスになったのはポロックだけだった)。

・アストロズ

ここまで読んでくれた読者の方には、記事の1番初めに触れたJD・デービスが放出されて、wRC+が100を割るジェイク・マリスニックやジョシュ・レディックがチームに残っている理由は説明するまでもないだろう。因みにデービスは今季585.1イニング守った外野でDRS-11を記録している。一方でレディックとマリスニックは合計で+10を記録している。

・ナショナルズ

ナショナルズは上記3チームと少し異なる感じで、外野守備の強化に成功している。最大の要因は昨年-26を記録したブライス・ハーパーが移籍して、今シーズン+24を記録したビクター・ロブレスがハーパーの代わりにレギュラーに定着した事である。それに加えて、両翼を守るホアン・ソト(-5→+1)とアダム・イートン(+2→+3)がそれぞれ数字を改善した事も大きい。

最後に2017年と18年にプレーオフに進みながら今季は91敗を喫したロッキーズについても言及したい。表2のようにロッキーズの外野陣は過去3年間合計でDRS-104を記録した。これはトップのヤンキースと190ポイント差であり、間違いなく改善が必要と言える。

昨年センターで-28と悪い意味で歴史的な数字を出したブラックモンをライトにコンバートしたにも関わらず、ロッキーズの今季の外野手のチームDRSは-47に悪化している。さらにロッキーズでレフト・センター・ライトの各ポジションで最多イニング選手だった選手(ライメル・タピア,イアン・デズモンド,ブラックモン)はいずれもそのポジションでマイナスを記録した。

レフト・センター・ライトで最多イニングに出場した選手のDRSが全員マイナスになったチームは他にオリオールズ,ブルージェイズ,タイガース,エンゼルスだけである。これらのチームは多くが再建期にあるチームで、その中にプレーオフを狙っていたロッキーズも名を連ねているのは寂しい限りだ。さらに皮肉なのは、ロッキーズで出場機会を得られなかったトークマンがヤンキースで躍動していて、移籍したヘラルド・パーラがナショナルズで活躍している事だろう。もし彼らがロッキーズで出場機会を与えられていれば、ロッキーズの2019年は異なったものになっていたかもしれない。

今回見たようにコンテンダーと呼ばれるチームが外野手の守備を重視する傾向が強くなっている現在のMLB。今季のオフのFAやトレードで各チームが、どのように外野手を編成して外野守備を強化するのかを注目していきたいと思います。

Photo BY:Eric Drost