どうかその手を添えてくれ

ショックなことがあった。


御託はいらない。ただ書き散らす。有益な情報など何もない。ただただ僕の身に起こった今年一番ショックな出来事を書き散らすだけの駄文である。覚悟を持ってお付き合いいただきたい。


ことのはじまりは、チョコモナカジャンボだ。

ことのはじまりはたいていチョコモナカジャンボだ。

みなさんはチョコモナカジャンボをご存じだろうか。チョコモナカジャンボは、モナカ、アイスクリーム、板チョコの3層から成る、森永製菓のアイスクリームだ。モナカと板チョコがパリパリゆえ、アイスクリームのまろやかなくちどけが憎たらしいほどに際立ち、財布からとめどなく金をむしり取っていく魔のアイスクリームである。

一体どれだけの人がチョコモナカジャンボに心を狂わされ、コンビニ通いの日々を強いられているのだろう。実態を突き止めねばならんと正義心を燃やした僕は、チョコモナカジャンボのホームページにアクセスをしてみた。


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> 0.24秒に1個売れてる! <
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この国はもうジャンボチョコモナカの手に落ちていると言っていい。1秒に4人のペースでジャンボチョコモナカが消費されているのだ。はい今「1秒に4人のペースで〜」という一文を打った18秒の間にもこの国のどこかで72人もの人々がジャンボチョコモナカとデレデレしている。あっ、ずるい、ずるいぞ!!!!

1分で240人。1時間で1万4400人。1日で34万5600人。成人した日本人の髪の毛の平均本数は約10万本と言われているが、僕が毎日神経をすり減らしながら死守しているこの髪の毛を全て差し出しても到底追いつかない量のジャンボチョコモナカが、毎日人々のお腹に収められているのだ。


そしてお気づきだろうか。僕は途中から、ジャンボチョコモナカ、ジャンボチョコモナカと連呼しているが、チョコモナカジャンボである。普通に間違えている。ダメだ。完全に集中力が切れている。なぜなら僕もついさっきチョコモナカジャンボとデレデレし始めたからだ。タイピングどころじゃないのだ。書いていたらもう我慢ができなかった。

ああ美味しい。チョコモナカジャンボはどこまで僕を、人々を幸せにしてくれるのだろう。これからも、買います。食べます。森永製菓さん、よろしくお願いします。





何が書きたかったのかわからなくなったので、一番上から読み直した。

そう、ことのはじまりは、ことのはじまりはチョコモナカジャンボだったのである。何も進んでなかった。

とある土曜日。僕は例によってチョコモナカジャンボを食べたくなって、家の近くのコンビニに足を運んだ。

そのコンビニにはいつもチョコモナカジャンボのストックがある。1秒に4人消費しているとは思えないほど常に充実している。買いそびれる心配もない。ワクワクしながらウィィンと言って入店した。

おっ、いるいる。今日は君か、よろしくな。

目についたチョコモナカジャンボを両手でそっと抱き取ると、レジに並ぶ。ポケットの中で小銭を握りしめ、待つ。僕の番が来る。レジの女の子に僕のチョコモナカジャンボを手渡す。彼女が僕のチョコモナカジャンボを丁寧に扱ってくれているのを見て、ホッとしながらお金を支払う。僕は手を差し出し、おつりを受け取れる態勢をとった。


次の瞬間だった。


彼女は、右手で無造作にレジの小銭をつかむと、手も添えず、不自然なほど高い位置から僕の手目がけておつりを落としたのだ。

それは明らかに、「触りたくないの、アタシ。」だったのである。


僕の脳内に雷が落ちた。


脳内でほのぼのチョコモナカジャンボ体操を踊っていた数千人の僕が雷に撃ち抜かれ一斉に膝をついていった。焦げ臭さと埃っぽい黒煙が立ち込める中、ついに最後の一人も「この子あれだ…妙に高い打点から塩をふりまくあのダンディーなおじさんと同じフォームだわ…」と呟いて動かなくなった。

ぼ、僕そんなダメだったか。そんなに触れるの嫌だったか。いやもちろん触れる必要はまったくないんだけどせめて添えちゃくれないかあからさまに避けられるとめっちゃきついんだぞLしっているか

今年一ショックな出来事を前に脳内部隊は瞬時に全滅したが、本丸である僕本体はまだ倒れずに立っていた。何とかさらりとした表情でお礼を伝え、店を後にする。

そこから家に辿り着くまでの記憶はない。気づけば鏡の前にいた。僕はチョコモナカジャンボを食べることも冷蔵庫に入れることもせず、鏡を凝視していた。


なるほど。なるほどね。

鏡の前には、なるほど確かに相当の破壊力を誇る男が立っていた。

僕には、日ごろよりお世話になっている3種の神器がある。ストレートアイロン、コンタクトレンズ、髭剃りシェーバーのお三方だ。僕は、この3種の神器を使ってはじめて人前に出ても罪悪感のない姿になることができる。恋人は鏡の前で悪戦苦闘する僕を見て、「町を追われたかわいそうなバケモノが人間と仲良く暮らしたくて見様見真似で人間に近づこうとしてるみたい」と言い放ったことがある。心は痛まないのだろうか。

ともかく、僕は何の手入れもしなければ、「どぎつい天パ」に「分厚い眼鏡」をかけた「ヒゲの濃い」バケモノなのだ。

そしてバケモノはその日、バケモノのまんま外に出てしまったのだ。

彼女はバケモノを恐れたのだろうか。

バケモノの、バケモノの心はただただチョコモナカジャンボでいっぱいなだけだったのに、それでも彼女を怖がらせてしまったのだろうか。


ただ、ただね、言わせてもらうけど、3種の神器を使った時の僕は、正直そんなに悪くはない。いやほんとに。いや、ほんとに。

佐藤健、坂口健太郎、伊勢谷友介。竹ノ内豊、伊藤英明、イチロー、そして、マイケル・ジャクソン。

似ていると言われたことのある芸能人の、氷山の一角だ。それはそれは層々たるメンバーだ。真の姿を知る恋人は失笑だが、実際にそう言ってもらえるんだから仕方がない。それもあって、努力に努力を重ね辿り着いた三種の神器使用後の自分の姿には、無駄に自信があった。

だから僕は次の土曜日、リベンジに出かけた。三種の神器を使って。どうしても彼女に、一人の人間として認めてほしかった。俺は何をしているのだろうか、などと思ってはいけない。思ったら負けだ。動けなくなる。動かなければ、彼女にとって僕は一生バケモノのままだ。僕は、俺は何をしているのだろうかと思いながらコンビニに向かった。この時ほどチョコモナカジャンボがおまけだった日はない。




添えた。手、添えたよ彼女。

置いた。手のひらに、小銭を置いたよ彼女。


人間として認められた瞬間だった。

カタルシス。一週間前に僕を襲った今年一ショックな出来事は、僕の中で完全に浄化されていった。もう、これ以上、なにもいらない。いりはしない。


それからしばらくが経った。


僕は、ある計画を実行に移そうとしていた。人は何をもってバケモノと人間を区分するのか、それを特定するための大義ある実験だ。

僕のバケモノ要素は3つ。「天パ×眼鏡×ヒゲ」だ。2の3乗で8通りの組み合わせがある。(天パ、眼鏡、ヒゲ)=(○、○、○)、(○、○、×)、(○、×、○)、(×、○、○)、(○、×、×)、(×、×、○)、(×、○、×)、(×、×、×)の8通りで、○は三種の神器使用、×が使用しないパターンだ。手を添えたら人間判定、添えられなかったらバケモノ判定。※(○、○、○)と(×、×、×)は実証済み。

それぞれの組み合わせでセットを完了した僕がコンビニに登場し、人間判定、バケモノ判定のどちらが出るのかを確認し、人間とバケモノの境目を分析する。決行は毎週土曜午後6時。コナンの時間だ。今週から6週間、コナンが謎解きを始める時、僕は彼女の前に現れる。ここまで来たら徹底的に行きたい。彼女にとっては酷な話だが最後までとことん付き合ってもらうぞフハハッ覚悟しておけと恋人に伝えたところ捕まるからやめなさいと指導が入った。ありがとう。

でも僕は、諦めない。バケモノだってかっこつけれるんだってこと、証明してみせる。

いつか必ず証明してみせる。


だから君よその時は、どうかその手を添えてくれ。


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