YOASOBIの『ハルカ』について

今回はYOASOBIの『ハルカ』についての考察。この曲は鈴木おさむ氏がパーソナリティを務めるラジオ番組にYOASOBIがゲスト出演した事がきっかけで実現したコラボレーション作品。原作のタイトルは『月王子』。

この小説の主人公のボク(原作では僕)はマグカップ。そのボクが、持ち主であるハルカ(原作では遥)に買われる場面から、そのハルカの成長を常に傍で見守り続けて行く様子を回想している話。なぜ回想なのかは終盤になればわかる事だが、このボクであるマグカップは最後に割れてしまう。マグカップにとって割れるという事は役目を終える事でもあり、人間で言えば走馬灯のように思いが巡るといった状況だろうか。このマグカップのハルカへの想いに、私は涙を抑える事が出来なかった。

1番の歌詞はボクとハルカとの出会い。雑貨屋で売れ残り埃を被っていたボクをハルカが見つけ出してくれる所から始まる。歌詞にある『見つけ出しくれた救い出してくれた』とは、まさに売れ残っていたボクの気持ちであろう。ボクにとって誰にも使われず売れ残る事は何よりも辛い事だっただろうから。『暮らしのすきま夜更けの祈り』の部分は、中学生だったハルカが高校受験の為夜中まで受験勉強をしていた時も共に過ごした様子が描かれている。

2番の冒頭の『訪れたよろこびの春は旅立ちの季節』の部分は、ハルカが大学に合格、実家を離れ一人暮らしを始める情景だ。その際にボクも一緒に持って行ってくれた喜びを表している。その後の歌詞は、一人暮らしで寂しがるハルカを慰める情景、恋をして失恋したハルカを傍で見守るボクの姿が歌詞となっている。そして、歌詞には表現されていないが、その後ハルカが就職・結婚・出産までボクが見守ってきたことが原作では描かれている。『君のよろこびはボクのよろこびで』の部分は、ハルカが旦那様と幸せになるのを傍で見守っている描写でもある。

そして突然訪れる『ねぇ君のそばにはもうたくさんの愛があふれてる』の流れ。たくさんの愛とは、結婚した旦那様や子供の事を言っているのだろう。『だから今はどうか泣かないで』とは、ハルカが長年愛用したボクが割れてしまった事を悲しんでいる事に対し、ボクは大丈夫だと言っているのだろう。原作を見ると、この時ボクを落としてしまったのはハルカの息子3歳の時。息子もハルカの大事なマグカップを割ってしまい泣いてしまっていた。でもボクはここで自分が役目を終えた事を悟り、これからハルカを守るのは息子の役目だと後を託す。

そしてラストの部分。改めてハルカと過ごした日々を振り返るボク。ハルカの幸せを見届けて今役目を終えた事に、改めて感謝の言葉を綴る。そしてもうそばで見守ることはできなくてもずっとハルカの事を愛しているとも。

私はYOASOBIに出会ったのは比較的遅い方なので、最初に覚えたのは『夜に駆ける』で、二番目に覚えたのは実はこの曲『ハルカ』である。たまたまMVの公開に立ち会えたこともあって、この曲を覚え始めた。歌の歌詞とMVだけでほぼ小説の概要は網羅していたものの、やはり小説を読んでからの想いは格別だった。YOASOBIの世界に強く惹き込まれたのは、むしろこの曲の影響なのだろう。ボクのハルカへの想いを知り、何度も号泣して聴いたものだ。

この曲はMVが本当に原作をよく表している。ハルカとの出会い、受験勉強をしている様子も表現しているし、電子レンジで温められているボクが、回転しながら正面に向くたびに、ハルカとの思い出の場面転換として表現しているのがとても面白い。2番に入るとメガネからコンタクトに変えて大人になったハルカの姿も見る事ができる。そしてボクが割れてしまったシーンはほんの少しだけチラッとだけに留めている。そして最後の最後、レンジで回るシーンは今まで左回りだったのが右回りになっている。今までは過去から順番に流れていた事が、実は回想だった事を逆回しで表現して居るのではと私は思っている。そして、背景が黄色い事や途中黄色い液体が滴る描写は、ハルカの好きなリンゴジュースの色を表しているものと考えられる。

この曲を聴いていると、形あるものはいつかは壊れる事、でも物は大事にすべきこと、さらには物から愛されるぐらいの人であれと言われているようにすら感じる。自分がこのマグカップのボクように愛されるほど大切にしている物があるかと考えても思いつかないのは少し悲しくもある。

YOASOBIと言えば『夜に駆ける』や『群青』に軽快なリズムの曲が人気ではあるし、私ももちろん好きではあるが、この『ハルカ』のようにゆったり目でikuraちゃんがしっとり歌う歌の方が私は好きだ。優しい透き通った声で、でもどこか切なくノスタルジックな曲に乗せた彼女の声が私はとても好きだ。その声が私の琴線に触れ、私の涙腺をいくらでも(ikuraだけに)崩壊させる。

#YOASOBI #ハルカ

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