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silent第3話 湊斗から見た紬の立場

人は自分でしか痛みを測れないから、言葉を選ぶ時にその経験をもとに選ぶ。より痛みを感じやすい人は配慮した話し方になるし、鈍感な人は雑に言葉を選べる。

戸川湊斗はとにかく繊細なんだろうなと、節々から感じるのはなにも言葉からだけじゃない。話し方、声のトーン、表情、話す話題。彼女の青羽紬に対して、かける言葉が、教えてくれる待ってる間の時間の使い方が、いつだって紬が心地よく過ごせるように湊斗から与えてくれる繊細な優しさだ。どちらかというと後者の紬にはたぶん全部伝わっていないけれど、湊斗が優しいのは感じる。ただ、そこに湊斗の繊細さまでは推し量れていない。だから紬では湊斗を癒せない。強引なポジティブさで明るく引っ張ってくれるには、時と状況によるから、場合によっては逆に傷付けるのだ。


紬の鈍感さ、は湊斗の感情の分類にも表れている。いつもと違い、言動が荒いのは「怒」。その奥にある「やり切れなさ」「嫉妬」「悲しさ」までは及ばない。なぜそうなったかも深く考えない。わかりやすい分、自分の行動も安直だ。辛い、悲しい、話したい。行動に至るまでの考えが一直線だから近道。湊斗の嫉妬はこのシンプルさへの羨ましさもあるだろう。


湊斗だけがずっと佐倉想が聞こえなくなったことを受け入れていない。春尾先生や紬の行動がそれが悪いかのような気持ちにさせるけれど、受け入れるには実感が湧く過程を共有していないからだ。湊斗だけが想から何も受信していない。

湊斗だけがいつも与えてる。訴えている。

でも繊細で背景まで推察できる湊斗には、想の気持ちも紬の気持ちも分かるから、責められない。やり切れない湊斗の気持ちを吐露したところで想には聞こえない。聞こえないから吐露できたのかもしれない。


湊斗が想のことを考えるには外野がうるさい。高校の同級生がうるさい、紬がうるさい。手話を教えている居酒屋で知り合った先生がうるさい。誰も湊斗の気持ちを教えてくれないし、一緒に考えてくれない。自分も分からないのに周りばかり変わっていって追いつけない。自分ばかりが進めない。

視聴者のわたしたちは場面場面のシーンを見てその時どんな感情から行動したのか、行動した結果どういう感情になったか考察できるけれど、当事者はそこまで自分の気持ちを言語化できているだろうか。全てに説明がつくような行動をするだろうか。

湊斗がようやく自分が何に憤っていて納得できていないのかを気付けるのも、また紬や視聴者と同じく湊斗が想に対して、紬に対して言葉にしたそのタイミングだったんじゃないかなと思う。

けれど、結局複雑な心境も言葉にすればシンプルに伝わる。

「名前を呼んで、振り返ってほしかっただけなのに」


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