3.2 Subwoofer systems / 3.3 Additional sound sources and other considerations / 3.4 PA shoot-outs

メインシステムに使われるラインアレイスピーカのトランスデューササイズとアレイ長には限界があるため,周波数スペクトルの低域(100Hz以下)を補強/再生するためには,通常,サブウーファーシステムが必要となります。このようなシステムは,一般的にメインシステムに近接して(カップリングできるように)フライングアレイとして設置されるか,あるいはグラウンドスタックシステム(多くの場合水平アレイ)として設置されます。それぞれのアプローチには利点と欠点があります。


3.2.1 Ground-based

グラウンドスタックのサブウーファーシステムは,ステージの両側にポイントソーススピーカを積み重ねていた時代の名残と考えることができます。フライング可能なポイントソースアレイが一般的になると,フルレンジスピーカはステージ上方へ移動し,サブウーファーシステムだけが地上に残されることも多くなりました[22]。当初,サブウーファーは左右に配置され,3.1節 で述べたコヒーレントな干渉問題を引き起こしていました。このような構成では,客席の中央を通る強いパワーアリー(左右対称のサブウーファーレイアウトを想定)が,低周波数が著しく小さい領域(これらのデッドスポットの正確な位置は周波数依存)に囲まれ,さらにステージの両脇にサイドローブも発生することになります。個々のサブウーファーが全指向性である場合,このパターンは後ろ方向(つまりステージ)にも反映されることになります。

その結果,客席全体に大きなスペクトルのばらつきが生じ,ノイズに敏感なエリアにも音が伝搬してしまいます。この問題を回避する唯一の現実的な方法は非相関化手法の適用であり,左右のシステムにそれぞれ個別のEQ/オールパスフィルタを使用する(これは知覚できる信号歪みの可能性あり)か,DiSPのようなよりロバストで知覚的にトランスペアレントなアプローチが考えられます。これについては3.1で既に述べたとおりです。

ステージの前方に自由なスペースがあれば,サブウーファーシステムを水平アレイとして配置することができます。このアプローチにはいくつかの利点があり,主に従来のLRシステムよりもシステムの音響放射パターンの制御が改善されることに基づいています。グラウンドスタック形式の水平アレイのステアリングと最適化技術はよく知られており研究もなされています [10, 22, 106-108]。一般に,サブウーファーの周波数帯域にできるだけずれを生じさせないように,アレイの各素子について電子的な遅延,極性,振幅を調整することで指向性パターンを作り出します。

メインシステムのラインアレイスピーカと同様,このようなサブウーファーアレイ最低周波数(場合によってはインフラ帯域まで [43, 106, 109])の指向性を正確に制御するために,かなりの長さと深さが必要になります。一般的に,波長がアレイ全体の幅以下の周波数を制御することができます(ただし実際の経験に基づくと,この限界の設定方法は低周波数での効果を過大評価する可能性があります)[110]。

騒音公害に関して,グラウンドスタックサブウーファーアレイは,(一般的に言われているような)観客の吸音による場外での低周波数ノイズレベルを下げることはありません。したがって、グラウンドスタックサブウーファーシステムとフライングサブウーファーシステムの間で,場外への騒音公害の差はほとんどないはずです(システムが適切に構成されていると仮定した場合)。しかしこれらのシステムは,たとえ水平方向に均等にカバーするように設計されていても,インピーダンスのミスマッチにより低周波数が客席の境界で反射して客席内でスペクトルのばらつきが生じることがあることに注意することが重要です。この影響は密度の高いオーディエンスが突然途切れるような場合で最も顕著に現れます。オーディエンス密度を緩やかにロールオフすることでこの問題を回避することができますが [111],実際にはこれを実現することは不可能です。

グラウンドスタックでの水平サブウーファーアレイは,少なくとも水平方向に(前後方向はなくとも),騒音に敏感なエリアへの放射を最小限に抑えながら観客エリアを厳密に制御したカバレージを容易に実現できます。しかしこうしたシステムによる深刻な健康リスクが存在し,過去の論文 [21, 49, 68] で指摘されてきましたが,この問題に取り組むことはほとんど行われていないようです。

このようなグラウンドスタックサブウーファーシステムは,通常ステージと観客席の間に設置され,最初の列の観客とサブウーファーの間には,1~2メートルしかないことも多くあります。メーカーが提供するデータシートを見ると,多くのプロ仕様の大型サブウーファーでは,1mで140 dB(またはそれ以上)のピークレベルを発生させることが可能です[112-115]。観客の音響暴露に関して,このようなシステムは2.1節で詳述したすべての規制と勧告にほぼ確実に違反することになります。観客席の前方にいる観客は,通常ステージ上の演奏者の最大のファンであることを考えると,平均的な一般市民よりも多くのコンサートに参加することが推察されます。つまり人気音楽グループの最大のファンは,このファン活動(彼ら自身ではシステムを全く制御できない)により,聴覚に永久的な損傷を受ける危険性が著しく高くなってしまいます。

2章で詳述したように,音は耳だけでなく体内の骨や組織も通過するため,低周波数では従来の聴覚保護具はほとんど役に立たないことを示す十分な証拠が研究によって示されています。外耳道を塞いでも伝達経路を1つ塞いだに過ぎず,他の経路はすべて空いています(ただし以前の研究ではこれらの残りの経路は空気中の騒音を体内に伝達して内耳に到達させる効率が低いことが示されています[14])。空母に導入されているような全身スーツやヘルメットを着用して周囲の音響環境から人を切り離すといった明らかに非現実的な方法がグラウンドスタックされたサブウーファーの近くにいる観客にも導入されない限り,これらのサブウーファーシステムによる音の暴露を回避する方法はありません。この場合,システムエンジニアやオペレーターの注意義務は軽視されるべきではありません(しかし通常は無視されます)。

これに加えて,最近の研究ではグラウンドスタックサブウーファーは,観客席の前列と後列の間の伝搬経路が大きく異なるため,観客席の前後でのレベル変動を最小限にすることはできないという明確な証拠が示されています[99]。テストケースでは30dB以上の前後差が定期的に観察されました。これは低周波のレベル分散の観点からは容認できるものではありません。スペクトルの分散(ばらつき)の観点からは,メインシステムが前後で10dB以上のレベル変動がない場合でも,問題のあるサブウーファーのレベル変動によって,システム全体としては客席で最大20dBのスペクトル分散をもたらすことになります(これは受け入れられません)。

さらにグラウンドスタックサブウーファーシステムは,メインシステムとのタイムアライメントという点でも困難があります。メインシステムとサブウーファーにコヒーレントな信号が供給されており,クロスオーバー領域で観客がサブウーファーシステムと他のシステムから同様の音圧レベルを受けると仮定すると,スペクトルの分散やトランジェントの観点から適切なタイムアライメントが必要です。
ミスアライメントはクロスオーバー領域におけるコムフィルタリングだけでなく,低周波数領域におけるトランジェントの不鮮明さをもたらします。音質が低音の明瞭さと正確さに密接に関連していることを第2章で示した証拠を考慮すると,これは確実にリスニング体験を損なうことになってしまいます。

しかし,このような構成ではサブウーファーをメインシステムにタイムアライメントして,すべての客席の位置が正しく揃うようにすることは不可能です。アライメントは1つの場所でしか行えず,この場所から離れれば離れるほど,受け取る応答はさらにズレてしまいます。しかしこのようなシステムで最も効果的なタイムアライメント手法を特定するための研究が進行中です[116]。

上記のようなグラウンドスタックサブウーファーの問題点を考慮すると,なぜこのようなシステムが大規模なライブイベントで一般的に導入されているのか疑問に思われるでしょう。その理由は導入の容易さ(ステージ屋根のリギングパワー,所要時間,関連コストなど),ミックスポジションの音圧レベルが高くなる可能性(必ずしもそうとは限らない)などにあると思われます。グラウンドスタックシステムはリギングが不要なため,導入が非常に早く(そして安く)なります。中央配置のグラウンドスタックシステムはコヒーレント干渉の問題をほぼ回避できるため,(少なくとも水平方向の)観客は一貫したリスニング体験を得ることができます。前方から後方へは大きなレベル差はあるものの,サブウーファーレ帯域の音色の一貫性(スペクトルのばらつきの少なさ)の恩恵を受けることができます。また全指向性サブウーファーのグラウンドスタック水平アレイを使用する場合,ステージ上で深刻な問題(許容できない低周波音レベル、フィードバックの問題など)が発生する可能性があります。このような場合アレイはカーディオイドサブウーファー(またはカーディオイドアレイ)で構成する必要があります。

3.2.2 Flown

前節のグラウンドスタックサブウーファーシステムに関する分析を考慮すると,大規模なサウンドシステムの設計にはフライングサブウーファーシステムがより賢明な選択であることが論理的にわかります。しかしその一方で,フライングサブウーファーシステム設計の際には注意深く考慮しなければならない欠点もあります。

フライングサブウーファーシステムは,メインシステムのすぐ横や後ろに垂直アレイを吊ることが一般的です。この場合の主な利点は,サブウーファーがメインシステムに直接カップリングされることで,グラウンドスタックのシステムでは避けられないタイムアライメントという厄介な問題を回避できることです。このカップリングはリアリジェクション(メインシステム後方の音圧キャンセル)の面でも有益であり,広帯域のラインソースアレイとサブウーファーシステムのカップリング帯域においてカーディオイド動作を実現することが可能です。これは大規模なK1またはK2ラインソースアレイとK1SBフラインドアレイを組み合わせ,アライメント戦略としてエンドファイア処理を適用したL-Acousticsのアプローチです。広帯域ソースに対するサブウーファーアレイの相対的な位置関係により,キャンセル方向を選択することもできます。

しかし残念ながら,LRシステムではメインシステムと同様にコヒーレントな干渉の問題に悩まされ,聴衆全体に大きなスペクトルのばらつきを生じさせます。先に述べたようにこれはDiSPのような非相関化(必要な周波数帯域にのみ知覚的にトランスペアレントな方法で実装可能)を用いて,(少なくとも部分的には)軽減することができます[102]。DiSPのような信号処理は,特にサブウーファー帯域においてより真剣に検討されるべきで,より一貫した聴衆のリスニング体験(知覚的なアーチファクトが最小限またはゼロ),ひいては音の暴露レベルをより正確に監視・管理することが可能になると思われるためです。

「中央でフライングされたサブウーファーアレイは,上述したすべての考慮事項に関して可能な限り最良の選択肢である [22, 43, 99, 106, 117, 118]」というのがフライングサブウーファーアレイを研究する研究者の共通した結論です。中央でフライングされたサブウーファーアレイは、一貫性のある周波数に依存しないカバレージを,前後,左右両方から観客に提供することができます。観客のカバレージという点で懸念されるのは,メインシステムとのタイムアライメントです(一般的なLRシステムの場合)。しかしサブウーファーから客席/メインシステムから客席への伝搬距離差はグラウンドスタックシステムほど大きくないので,この問題は多少解決しやすいでしょう。しかし完璧なタイムアライメント手法はまだまだ存在しないでしょう。

フライングサブウーファーシステムに関して一般的に信じられているのは,ウォーターハウス効果(直接音と地上の反射音とのカップリングによる音圧上昇 [360])がないため,グラウンドスタックシステムよりも 6 dB低効率であるということです。しかしフライングサブウーファーシステムで効率が低下すると考えられていたことは,最近の研究 [99]で真実でないことが示されました。一連の電気音響モデルと数学的分析により,研究者は6dBの効率損失が実際には1dB程度であることを発見しました。中央でフライングされたアレイなどの特定の構成では,6dBの効率向上が達成されることが示されました(ここで彼らは,効率をサウンドシステムの絶対出力という観点ではなく客席全体に届くサウンドエネルギーという観点で考えています)。前後方向の一貫性が改善されていることを加味すると(フライングアレイはメインシステムの挙動にほぼ沿った減衰となるが,グラウンドスタックシステムは客席の長さ方向に30dB以上の減衰となる),多少の効率の低下は正当化されるでしょう。

これによってDHER(Distance-to-Height Efficiency Ratio: 距離対高さ効率比)として知られる有用な指標が考えられています。これはフライングシステムが,同等のグラウンドスタックのシステムから1dB以内に収まるリスニング距離と,最も低いフライングのサブウーファーまでの高さの比のことです。DHERは,サブウーファーシステムの効率が発揮できる最小のリスニング距離を指定したり,良好な効率を確保するためのサブウーファーアレイの最大の高さを決定するために使用します。論文では,立見客(DHER = 5)がいる奥行き50mの会場を例にしています。この場合サブウーファーアレイを地上から10mまで吊ることができ,観客席の後方で効率を落とすことはありません(前方から後方への減衰量は同等の地上システムより12dB低くなります)。
[補足]要は会場の奥行方向の長さに対して,どの程度の高さまでサブウーファーを吊りあげてもグラウンドスタックのサブウーファーと遜色ない音圧を得られるかについて,DHERという指標から求められるということです。観客の耳の高さが地上ならDHERは2,着席なら4,スタンディングなら5というように定められています。詳しくはこちらの文献に記載されています。

フライングサブウーファーアレイのもう一つよく知られている欠点は,直接音の経路に吸音物(空気吸収の無視できる効果以外)がないほか,気象効果により,場外に伝搬しやすいという問題です[119]。このため,アムステルダムではフライングサブウーファーアレイは禁止されています(ケーススタディは5章で紹介します)。フライングシステムの場合騒音公害のリスクになりえますが,この領域に関する現在までに発表されている研究では結論が出ていません。いずれにせよこの問題に対する簡単な解決策は,(どういうわけか標準的な方法としてあまり普遍的に採用されていない)ラインアレイ指向性制御をフライングのサブウーファーアレイにも適用することです。プロダクションによってはアレイが客席に向かって下向きになるように物理的に角度をつけることもありますが,リギングポイントに許容できない負荷がかかる可能性があります。その代わりに現代のライブサウンド技術で十分に可能な解決策として,アレイを観客の方へ(そして近隣のコミュニティや現場のステージから避けるように)電気的にステアリングする方法があります [22, 106, 118]。

低周波数におけるアレイステアリングの有効性は,アレイの長さについての直接的な関数です。例えばアレイの長さが 8 m の場合,約 45 Hz までの正確なビーム幅のステアリングが期待できます。サイドローブを削減する(騒音公害の原因となりうる)ために,アレイに振幅のテーパーを適用することが望ましいでしょう [97, 120, 121]。つまりサブウーファー帯域の最低周波数は会場外で問題になりえますが,そもそもそのような周波数帯域では観客や地面の吸収レベルが低いため,グラウンドスタックのサブウーファーシステムと同程度の問題になる可能性があります [111]。フライングサブウーファーアレイのメインビームを観客や地面に向けると強烈な地面からの反射が大きくなり,音の伝搬に対する環境的影響によって,騒音公害の問題に発展する可能性があります。これに関しては5章では扱いますが,この分野ではさらなる研究が必要であることをここで述べておきます。低周波数の地表反射の影響は,風力発電所に携わる研究者にはよく知られていること[122]に留意すべきです。

また多くのメインシステム(メインアレイ)が70Hz,場合によっては50Hz以下の周波数で動作していることも忘れてはいけません。その結果メインシステムとサブウーファーシステムとの間に大きなスペクトルのクロスオーバーが生じ,低域のステアリングはサブウーファーアレイの処理に限定できない課題となり、許容できる結果を得るためにはメインPAも考慮する必要が出てきます。サブウーファーシステムは一般的にメインPAのセンドとは別にAUXセンドで駆動するため,サブウーファーとメインアレイは部分的に相関があり、効果的な低域ステアリングの課題は再び増加します。(筆者主観ではこれに関しては懐疑的で,近年のシステムでAUXサブをプランすることはあまり多くないかと思います)ほとんどの先行研究は2つのシステムを分離して扱っているため,メインシステムとサブウーファーシステムを合わせた文脈でこのテーマを調査する研究が必要です。

3.2.3 Performance quantification

ライブサウンドシステムのパフォーマンスを定量化するために,実務者(現場のエンジニア)がアクセスできる方法は明らかに不足しています(ただし最近リリースされているメーカーのシステム設計ソフトウェアにはこれが変化する可能性があることが示されています [123])。明確な性能指標の代わりにシステムエンジニアが行うことは,メーカー提供のソフトウェアで予測されるシステム性能の空間プロットやスペクトルのプロットを確認することです。経験豊富なシステムエンジニアはこれで十分でしょうが,経験の浅い人は表示されたデータを有意義かつ合理的に解釈するのに苦労するかもしれません。このような人間中心の分析手法では,ヒューマンエラーや誤解の可能性があります。

最近行われた 2 つの研究 [99, 121] では,サブウーファーシステム性能のさまざまな側面を定量化する方法が提示されました.これらの測定基準のいくつかはシステム性能の広帯域分析にも使えると思われますが,これを検証する作業が必要です。

このテーマで発表された最初の論文[121]は,ライブイベントにおけるサブウーファーシステムの性能について,3つの中心的な目標を提示しています:

  1. 観客全体での音色の一貫性

  2. システムの十分なヘッドルーム

  3. ミックスポジションと平均的なオーディエンスレベルでの差の最小化

この研究の結論として、このテーマに関するさらなる研究に含めるべき第4の指標も提案されています:

  • ノイズ-センシティブなエリアへの音漏れの最小化

2番目の論文[99]は[121]の勧告を改良したもので,(システム効率を決定する際に使用する)十分なシステムヘッドルーム(これはもともとFOHでの目標SPLと達成SPLの差に基づいて計算されていたもの)の代わりに,L-Effという遠距離SPL効率基準を提案しました。これはフルシステムでの観客席後方の平均SPLと1つのサブウーファーでの観客席後方の平均SPLとの差分で計算でき,L-Effが高いほど「費用対効果 」は高くなります。

さらに論文[99]では,FOHとオーディエンスレベルの整合性(3)をオーディエンスの平均レベルで考えるのではなく,オーディエンスSPLの95%区間を用いることで,広いエリアにおけるサウンドエネルギーの広帯域をよりよく捉えることを推奨しています(特にリスニングポジションに近いオーディエンスに注目する:要は外れ値を考慮しすぎず,カバーエリアを中心的に考慮するということです)。

最初の論文[121]では,さらに一歩進んでシステム性能に関連するすべての関連指標を0~1の単一の値(Array Performance Rating (APR))に統合しました。個々の指標は設計要件に応じて重み付けすることができ,全体的なシステム性能をクライアントやその他の非技術的な利害関係者に簡単に伝えることができるように,AからFのグレードで評価することができます。

APR のような指標に含めるために調査する必要のある追加の項目は,サブウーファーシステムの波形の忠実度(またはインパルスの完全性)の尺度です。2章で記したようなオーディエンスの主観的な好みを考慮すると,サブウーファーシステムの過渡的なパフォーマンス(正確さ)は,定常応答以上に重要です。APRや類似の指標にこのような時間領域ベースの指標を含めることで,メインシステムの他の要素と組み合わせたときにも高品質のリスニング体験を提供できるサブウーファーシステムの設計が効率的に行えます。また,サブウーファー帯域まで再生周波数を下げることが可能な広帯域のメインシステムを使用する場合,サブウーファーシステムとメインシステムのそれぞれをAPR(または同様の指標)で分析し,フルシステムで動作した際に一貫した低周波数のカバレッジを確保する必要があります。

測定基準にかかわらず,両論文はサブウーファーシステムに関する効率性を再定義しています。長年,システムエンジニアはシステムの効率をスピーカーに送られる電力で語ってきました。そのため,振幅のテーパリング(アレイなどによって指向性をつけること)は多くのプロから強く抵抗されてきました(アレイ外側に向かって信号を減衰させる必要があり,パワーアンプの資源が無駄になるからです)。確かに振幅のテーパリングはすべてのパワーアンプのリソース全てをカバーエリアに対して使用するわけではありませんが,多くの場合サイドローブの除去によって,広範囲により均一な音を提供することが可能になり,客席のSPLが高くなることが示されています [121, 124] 。このようなシステムは振幅のテーパリングがない場合よりもはるかに効率的であることは明らかでしょう。より少ない電力でより多くの音響エネルギーをより安定した方法で聴衆に届けることができます。しかし,プロセッサーやアンプでのコンプレッション/リミッティング,スピーカーでのコンプレッションを考慮した現実的なサブウーファーシステムでの振幅テーパリングの効果を検証するためにはさらなる研究が必要です。このような非線形性は振幅のテーパリングの効果を制限する可能性があります(これは通常線形時不変システムとしてモデル化されるためです)。これらの不確定要素のため,現在多くのメーカーはサブウーファーアレイの振幅テーパリングをあまり推奨していません。

3.3 Additional sound sources and other considerations

メインシステムとサブウーファーシステムとは別に,大規模なSRシステムには,(会場によって)フロントフィル,アウトフィル,インフィル,ダウンフィル,ディレイタワー/ユニットが含まれる場合があります。これらのサブシステムは,一般的にメインとなる客席以外のエリアを十分にカバーするためのシステムに含まれます。

フロントフィル,インフィル,ダウンフィルは,一般的な左右のメインシステムではカバーしきれない観客の最前列中央部をカバーするためのものです。これらのエリアの観客は,一般入場者向けのイベントでは演奏者の最大のファンであり,着席型イベントではチケットの高額購入者であるため,これらのシステムを正しく設定することが不可欠であることが多くのサウンドエンジニアによって強く指摘されています[43]。これらのシステムは適度な音量しか必要とせず,サブウーファーシステムの指向性が緩いことから重要な低周波数信号を再生しないため,現場での音響暴露や現場外の騒音公害の主要因とはならず,この文献ではこれ以上議論しません。

アウトフィルは通常メインシステムに近接して配置され,メインシステムよりも小型なラインアレイが頻繁に使用されます。このように近接しているため,アウトフィルアレイは少なくとも低周波数,中周波数帯域においてはメインシステムとカップリングしていると考えることができます。これらのサブシステムはステージから外側に向けてサイドエリアをカバーするため,意図しない騒音公害のリスクを抑えるために観客エリアをオーバーシュートしないようにアレイを設計することが重要です。実際にはアウトフィルが騒音公害の原因となっていることがよくあります。多くの場合,対称的なシステム設計がイベント会場のレイアウトを考慮すると適切ではなかったり,アウトフィルがフェンスやツアーバス,トラックなどの大きな反射面に音を放射していたりしていることが原因となっていることが分かっています。会場内外のアウトフィルカバレッジには,メインシステムと同じ程度に注意する必要があります。

ディレイタワーは,スピーチの明瞭度に悪影響を及ぼす長距離での中高音域の減衰や,サブウーファーが地上に設置されている場合の低音域の減衰に対処するために一般的に導入されています。サブウーファーを吊っている場合,サブウーファーからの音響エネルギーは観客席で減衰する可能性が低いため,低周波数の重要なコンテンツを再生するためのディレイシステムはそこまで必要ではありません。ディレイタワーはアウトフィルと同じように、意図しない騒音公害を避けるための慎重な設計を考慮する必要があります。
(これは私の私感ですが,ディレイシステムやフィルを適切に設計することで会場外への音漏れをある程度制御できると考えています)

SRシステムにおいて,騒音公害を考える際に無視されがちなのがステージモニターシステムです。モニターウェッジは通常立っているミュージシャンに向けられ,低周波のコンテンツは限られていますが,サイドフィルやドラム/DJフィルは通常小規模から中規模の屋内会場にあるようなサウンドシステムに似ており,かなりの低周波数(場合によっては高周波数)のコンテンツを観客やその向こう側に放出する可能性を秘めています。このようなシステムは,サウンドシステム全体のタイムアライメント [10] や潜在的な騒音公害の問題 [119] に関して考慮する必要があります。

通常,noise-sensitiveなエリアへの音漏れを避けるために,客席に面したシステムには適切な指向性を実現するためにかなりの努力が払われますが,ステージモニターシステムは一般的に見落とされています。ステージモニターは,最近の研究で場外騒音の大きな原因であることが示されており[119],5章でさらに議論しています。

最後に,サウンドシステムとは別の共通の要素として,観客のカバーエリアと現場での騒音の両方で非常に問題となる仮設の「ソフト」な構造物(テント,ひさしなど張った布で束ねられたフレームで構成されるもの)があることがあります。このような構造物は(特に低周波において)大きな放射面として機能し,内部では一貫性のないカバーエリア,外部では予測不可能な騒音公害を引き起こすことになります。この報告書の著者の知る限りでは,このような構造物に関する詳細な研究は行われていません。このような構造物の音響励起および放射特性についてより深く理解するためには研究プロジェクトが不可欠です。このような知識を得ることで,構造物の内部や周辺にSRシステムを導入する際に,より的確な情報に基づいたアプローチが可能になり,観客に良い視聴体験を与えると同時に,近隣のコミュニティへの迷惑を抑えることができます。

3.4 PA shoot-outs

エンジニアや経営者がイベントに使用するシステムや自社に投資するシステムを決定するために,「PAシュートアウト」と呼ばれる方法で複数のサウンドシステムを直接比較することがよくあります。このようなシュートアウトは屋内と屋外の両方で長年行われていますが,テスト手順が完全に明確ではなく,結果があいまいであることがよくあります[125]。

二重盲検法によるスピーカーのテスト方法は以前から標準化されていますが,大型のSRシステムには物理的な大きさやリギングに制限があるため,この原則を適用することは困難な場合があります。そのため,多くの場合屋外でテストが行われます。

ただし,このようなテストを屋外で実施しようとすると,主に動的な気象条件などの問題が発生します。これらのシステムはノイズに敏感な場所(現場や現場外)で客席でのカバレージとnoise-sensitiveなエリアでのリジェクションをテストすることが多いため,測定と主観的評価はサウンドシステムからかなり離れた場所で行わなければなりません。テスト中に風速,温度,湿度が変化した場合,その結果はほとんど無効なものとなります [116, 125]。

さらにPAシュートアウトの問題点として,対象のシステムの比較が相当に難しいことが挙げられます。これはシステムの設計やサイズが大きく異なることが原因の場合もあり得ますが,ほとんど場合システムの配置が大きく異なることに起因しています。その結果あるシステムが他のシステムよりも有利に設置され,測定値や主観的評価に歪みが生じることがあります[125]。

したがって大規模なスピーカーのテストと評価(別名PAシュートアウト)を標準化することは必須となります。様々な実用上の制限を考慮し,特に屋外でのテストに関連する多くの問題に対処した大規模システム用の特注的な規格が必要です。このレポートを書いている時点ではこの問題を検討する初期作業がすでに始まっています[125]。これが実現するまではほとんどのPAシュートアウトは非常に論争的な結果をもたらし,その結果サウンドシステム設計の選択を誤る可能性があります。

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