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"ストーリーとしての競争戦略"を読んで

はじめに

ずっと読みたかった楠木健先生の"ストーリーとしての競争戦略"をやっと読む事が出来ました。色んな著名な方やビジネスサイトでの紹介を見て、興味は持っていましたが、ようやく、ようやく完読しました。ただどの本もそうかもしれませんが、その時々の自分の置かれている状況によって本から感じ取れる事は違いますし、ましてや一度読んだだけで本のエッセンスが吸収したとは思わないけど、今時点での感じ学べた事を書き記しました。

全体の感想

とにかく楠木先生の人柄や実直さが随所に垣間見えた本でした。途中地方の女子高生とコギャルファッションで話をする下りがありますが、常に周りの出来事を研究対象にしようという心掛けを持たれており、かつ面識もない女子学生に対して興味本位で話し掛けようとする楠木先生のキャラクターと行動力に可笑しさを感じました。本は約500ページ程有り全て目を通しましたが、書かれている事は至ってシンプルで企業のブランド作りや販売戦略におけるストーリ作りの重要性及びその根拠となるロジックを実際のケースを用いて説明しています。読んでいて面白かったのはガリバー・インターナショナルのケースです。中古車市場の中でガリバーという存在や事業運営が如何に異質であったのか、普段見聞きする事が多い会社ですが深い理解は出来ない会社だと思います。彼等は普通の中古車ディーラーがやる顧客への中古車販売を行わず、オークション運営会社への販売に徹底した事業活動を行ってました。それがガリバーのストーリーの中で、キラーパス(サッカーで言う所の得点となるシュートをお膳立てするパス)となるクリティカル・コアとうものになります。通常中古車ディーラーは利益率が高くなる可能性がある中古車の買取販売を行う事が王道で、これを行わないガリバーの戦略は一見非合理(意味が分からない)極まりない無いものです。一方で、ガリバーの考え方はオークションサイトへの販売に徹底する事で、買取値付け方法の一元化や素人オーナーでのフランチャイズ展開、また買取台数を増やし規模の経済効果を効かせ、コストの合理化に成功しました。ここで面白いと思ったのは、自分の携わっている事業に当て嵌め易いという事です。特に中古車市場という成熟された業界でも、アイデアや戦略一つで強い競争力を作れるという事は、非常に勇気が湧く話だと思いました。自分が所属している企業もそうですが、成熟した業界は違いを作りにくく、結局少しの製品差別化と価格差が決定打となるケースが多いです。でも本書に書かれている事は、違った視点を持って粘り強く事業に当たれば、どんな業界でも道は切り開けるというすごくポジティブで未来志向なメッセージになっていて、是非企業に所属しているサラリーマンはもちろん、起業家や個人のフリーランスの人まで読んで欲しいという本です。

競争戦略とは?

本書では競争とは何ぞやという所を解説されていて、ファイブフォース(※)を使って業界の競争強度を説明してました。まず業界の内情が書かれていて、例えば製薬業界は政府や医者(製品採用者)、患者含めて色んな点で守られているハワイみたいな場所であり、業界競争度は低いという記述です。一方でPC業界はPCメーカー自体が製品のコア技術を持っておらず、サプライヤー(MS、インテルetc)の提供する部品がそれになる為、自然と価格交渉権もサプライヤー側になり、業界の競争強度としては非常に高くなります。この業界競争度が高い中にいるプレイヤーにとって競争戦略は必須で、楠木先生はSPとOCという2つの観点で企業を切り取っています。SPはポジショニングというもので、マイケル・ポーターが提唱されているものは有名です。企業は業界内での立ち位置を明確にし、一見して他社との差別化が分かる施策に従い企業活動を進めるというものです。一方でOCは企業の中に内在するノウハウを昇華し、施策や事業活動自体は他社とそれ程変らなくとも、内在している独自のノウハウで競争力を高め、市場を席捲するという能力です。例えばトヨタがそれに該当し、カンバン方式やカイゼンといった生産方式は非常に有名ですが、他社は真似したくともその神髄が分からない為、トヨタの独走を許すという状況になっています。日本企業はこのOCが卓越していますが、これは文化や人種的な由来が大きいと思います。

コンセプトが必要

戦略ストーリーには、基点となるコンセプトが必要と楠木先生は話しています。コンセプトとは何か?これは事業の目的と言い換えられ、コンセプトを発射点にして、誰に何を届けるか(顧客価値)が大切という事です。コンセプトが無い事業は、幾ら秀逸なビジネスモデルを組んで側から見ても時代に即した様な形になっていても、長続きはしません。スターバックスは『第三の場所』というコンセプトを掲げ、単に上質なコーヒーを提供するというあり触れたコーヒー店から大きく飛躍しました。この際、スターバックスは全ての顧客から好かれようとするのではなく、『第三の場所』にそぐわない様な忙しいビジネスパーソン等には目もくれませんでした。誰に嫌われるのかという意味がはっきり分かるコンセプトこそストーリーメーキングに必要という話です。また、コンセプトは人の本性を良く理解したもので無いといけないと本書で語られています。楽天市場の例は分かり易かったのですが、市場の出店者はWebを通じ、顧客とアナログな関係を作る事を目指していました。当初Eコマース各社ではこの様な発想は全く無く、効率性ばかりを重じていたのに対し、出店サイトをエンターテインメント化するという楽天のコンセプトは明らかな差別化を行いました。僕はFtoFでの営業をベースとし、昔ながらのスタイルを大事にする業界を相手にしていますが、やはり顧客との会話を大切にし、業務自体に関係ない事含め、いかに顧客と良い(楽しい)関係を作るかに努めています。会社の名前や提供するプロダクトの前に、自分という個人(商店)を前に出せないと顧客との長い関係性は作れないと考えており、楽天市場の例は非常に共感しました。

競争に勝つ為のキラーパス

ガリバーのケースでもありましたが、キラーパスとは一見、市場や競合他社からみると不合理なものです。本来取るべきであろうと思われる打ち手を簡単には取らず、周りから見て上手くいかない様な、不可解な打ち手を実行する事になります。ただ実際、その会社の中にあるストーリーにおいては整合性が取れているのです。スターバックスの例だと、『第三の場所』というコンセプトがあり、それに基づいた打ち手を行っています。スターバックスは全店直営方式を取っていて、数多くのコーヒーチェーン店が行っているフランチャイズ方式は行っていません。人件費というコスト面を考えれば、直に抱える従業員が少なくなるフランチャイズ式の方が良い様に思えますが、スターバックスは『第三の場所』というコンセプトを徹底する為、敢えて全店直営にしています。仮にフランチャイズオーナーに店を任した場合、店の売上げや回転率に意識が行ってしまう為、『第三の場所』という落ち着いた空間が保てないというのがその理由です。加えてスターバックスは密な範囲の中で店を立地しています。お客の食い合いを避ける為、近隣に店を設けないというのが常套手段ですが、スターバックスは口コミの効果を狙い、あえて近くにお店を立地しています。このキラーパスは目から鱗でした!僕は全てにおいて合理性を追及するのが良い打ち手であると半ば決めつけていて、部分的でも不合理な事は頭から排除していました。これはある意味、思考停止状態であり、"違う視点からの想像性"を大事にしなくてはいけないと気付かされました。

最後に

本書は大作であったので、上手く要点を纏めるのは難しかったのが正直な感想です。ただ、楠木先生はさすがビジネススクールの教授であり、単にビジネスに対する学問的な切り口だけでなく、読者の好奇心に寄り添い訴えてくれた内容になっていると思います。
以上になりますが、本の感想や要約は内容を自分へ腹落ちさせる事に打って付けで、今後もぜひトライしていきたいと思います。



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