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【レビュー】『斎藤慎太郎の将棋観』がよかった

最近出版された斎藤慎太郎先生の本が面白かったのでレビューしてみます。

この本は斎藤先生が指した2019年から2023年の公式戦を題材に、実戦での読みを披露していく自戦記本です。1局につき15ページくらいをかけて仕掛け~終盤の入り口くらいまでの攻防を紹介しています(全12局)。類書としては永瀬先生の「全戦型対応版 永瀬流負けない将棋」や、古くは「戦いの絶対感覚」シリーズがこれに当たるでしょうか(初手から終局までを解説しているわけではないですが、参考棋譜はついています)。


▲郷田―△斎藤(2020年順位戦B1)

例として最初に紹介されている郷田九段戦の中盤の局面を載せてみます。
ここから後手番でどのように考えるかは本書に譲りますが、手なりで進めているとこのような単純棒銀に困ってしまうことがよくあるのではないでしょうか。

もちろんトッププロのことですからここに至る変化に関しても準備があるのですが、とりあえずこの局面を見て自然な指し手としては①△8五歩、②△6二飛、③△3一角、④△1四歩などの手が見えるかと思います。しかし実戦の進行はそのいずれもなく△4五歩。▲1五銀への対処は?後手の狙いは?などわからない点もあるかと思いますが本書を読み進めていくとその疑問も氷解します。

このように、プロの実戦は狙いを持った駒組み(速攻への対処、手詰まりの回避など)に工夫が凝らされているわけですが、このような解説がないと棋譜並べをしていてもただなんとなくで通り過ぎてしまう点が多くありますね。

ただなんとなく定跡だから、プロがやっていたからという手を指すのも悪くないですが、序中盤か思考を巡らせて構想を練るのは将棋の醍醐味の一つです。ある局面を見ても「何を考えていいのかわからない」「駒がぶつかるととたんに先が読めなくなる」といった方にもヒントになると思います。


▲斎藤―△冨田(2023年朝日杯)

もう一例挙げてみます。いま四間飛車が△4四銀と上がってきた局面。形の知識だけで指すと▲3六歩と突いて△3五銀を防ぐのが形ですが、本局で選らばれたのは別の手でした。

たとえば図から「▲9九玉▲8八銀▲7九金」と「△7一玉△8二玉△5四歩」の6手が入っていれば先手も▲3六歩だったでしょう。このように、微妙な形の違いによって指し手が変わってくることも将棋の深い理解のためには欠かせません。

以上見たように、本書ではプロが何を考えて指し手を選んでいるのかがわかりやすい言葉で(斎藤先生の丁寧な言葉づかいで)説明されています。対象棋力としては有段者以上と思いますが、日ごろ棋譜並べの習慣のある方なら級位者から読んでいけると思います。

斎藤慎太郎八段の奇をてらわないきれいな指し回しを身につけられること間違いなしですのでぜひ手に取ってみてください。

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