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project_おにどこ

1.プロジェクト背景

 この記事では、「おにどこ」プロジェクトにまつわるこれまでの活動について紹介していこうと思います。
 このプロジェクトは近年、主に地方都市を対象に「祭り」に関連した賑わいの創出方法が重要視されている現状を背景に、「祭り×ICT」の名の下、「祭り」をより魅力的なものとするために、国の重要無形文化財にも指定される豊橋鬼祭に、祭りの運営・魅力発信に資するアプリケーション「おにどこ」を導入し、その効果を実証実験を通して分析する実践的研究です。

2.豊橋鬼祭について

  安久美神戸神明社豊橋鬼祭とは、毎年2月10日、11日の2日間にわたり行われる豊橋市で1000年以上続く伝統的な祭事です。
(詳しくはリンクを参照)
 本祭の主要な祭事の一つである「門寄り」では、毎年、氏子町内の定められたルート(約10キロ)を赤鬼・天狗が白い粉(小麦粉)や厄除タンキリ飴を撒きながら練り歩きます。

門寄り

門寄りの様子

 この豊橋鬼祭を対象とし、実証実験を行う理由については、豊橋鬼祭が持つ3つの特徴に基づいて語られます。
その三つの特徴とは
①都市空間全体を利用した祭りであること
②地域住民全体から愛さる1000年以上の歴史を持つ祭りであり、地域文化の 
 継承、魅力向上に重要であること

③氏子域が中心市街地に隣接し、アプリの活用が将来的な中心市街地の活性
 化につながる可能性を持つこと

 こうした背景を基に「おにどこ」プロジェクトでは都市巡行型祭礼である豊橋鬼祭にICTシステム(アプリケーション「おにどこ」)を導入し、都市空間の活性化・魅力づけを目指し、実証実験を2018年度から継続しています。

3.「おにどこ」とは?

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 「おにどこ」とは、おにどこ実行委員会(豊橋技術科学大学水谷研究室大村研究室、株式会社Web Impact)によって開発されたアプリケーションの名称です。
 「おにどこ」は、「門寄り」の際に、アプリケーションを通じて、都市を歩き回る赤鬼・天狗の位置情報を、祭り参加者へと発信するアプリケーションです。
 「おにどこ」利用者はアプリを開くと(下に示すUI参照)、「自宅の近くに赤鬼・天狗が来ている!」、「赤鬼・天狗が来るまでにあと○○分くらいかかりそうだ」など、位置情報の取得により、効率の良い祭りへの参加が可能となります。 
 赤鬼・天狗の位置情報を取得することは、祭り運営者にとっても、各会所(経路内に点在する赤鬼・天狗が休憩する場所)における迎え入れの準備作業の効率化など、若者の祭り参加者の減少が危惧される伝統的な祭事の継続的な運営を守るうえでの役割も果たします。

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4.「おにどこ」の開発

 「おにどこ」の開発は、アプリ内のシステム開発等を大村研究室、Web Impactが担当し、水谷研究室では、門寄りの順路作成、地理情報の登録といった都市空間利用にまつわる部分、アプリ内のUI(ユーザーインターフェース)デザイン、アイコンの作成等の情報伝達に関わる部分を担当しました。

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おにどこのUIデザイン

 アプリ開発の他にも、水谷研究室では祭りのチラシデザイン、2019年、2020年と行ったクラウドファンディングの返納品である御朱印長・絵馬のデザイン等を行いました。

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2020年度のチラシ(左)とクラウドファンディングの返納品(右)

5.プロジェクトの歩み(2017年度から2019年度)

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2017年度~2019年度のプロジェクトの歩み

 こうして、「おにどこ」ver.1.0を2017年度に開発したおにどこ実行委員会は、そこから2019年度までの3年間、実証実験を通して、アプリの有用性及び利便性の評価、アプリ利用者の行動変化への影響、都市空間利用への影響等をwebフォームを用いた利用者へのアンケート調査により、分析していきました。

 アンケート回答の分析では、
①参加者の90%以上が「おにどこ」を便利・有用であると回答
遠方からの参加者が散見:市外、県外だけでなく海外からのアクセスも。
③従来の静的な祭りへの参加:赤鬼・天狗が来るのを自宅近くで待つ
        ⇓
    動的な祭りへの参加が誕生  例:何度も会いに行く、追いかけるetc...
都市回遊行動を促進する可能性の示唆
「赤鬼を待つ間に近くの喫茶店に立ち寄ってから会いに行った」(抜粋)

などの結果が得られ、こうした祝祭空間へのICTシステムの導入から得られた効果を将来的には都市解析、都市空間設計などへも応用していくため、今後も継続した実証実験を行っていく予定です。

6.中止になった「門寄り」の仮想上での再現
 ~2020年度の「おにどこ」~


コロナ禍による「門寄り」中止
 2020年度に世界的に流行した新型コロナウイルスの蔓延は、豊橋鬼祭においても大きな影響を及ぼしました。不特定多数の参加者が境内や氏子域で入り混じる「門寄り」は感染症対策の観点から中止を余儀なくされ、実証実験の継続は困難な状況に陥りました。

仮想上での門寄りの再現
 1000年以上続く伝統が失われかねないこの状況で、2020年度の実証実験ではこれを技術の力でカバーしようとおにどこ実行委員会では中止となった門寄りの仮想上での再現を目指し、アプリ開発を行いました。

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2020年度のプロジェクト年表と追加された新機能

 新機能の開発では、これまでの実証実験から得たアンケートの要望や意見にもあった遠隔での祭りの参加・楽しみ方の充実にも重点を置き、新たに3つの機能を追加しました。
①おにストリートビュ―
360°カメラ(Go Pro Max)によって撮影した、赤鬼が見るまちの風景を時々刻々と変化させることによって、門寄りの疑似体験を行う。

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アプリ画面

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360°ストリートビューの撮影風景

②おにカメラ
アプリ内に表示される赤鬼の位置と方向に対して、アプリ内専用のカメラを向けるとAR表示された赤鬼と仮想上での遭遇ができる機能。

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スマートフォンでみたAR赤鬼

2020-11-21 19.59のイメージ

Substance Painterで色付けされた赤鬼の3Dモデル

③AIR門寄り
アプリ内の専用カメラをチラシ、または、HPから印刷できる専用マーカーにかざすことでAR赤鬼を自宅に招きいれる。

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アイコンから出現したAR赤鬼

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AIR門寄りを行う氏子たち

 2020年の「おにどこ」は例年とは少し異なる形での実証実験でしたが、こうした3つの新機能を用いてより多くの人に祭りを楽しんでもらうため、催事当日には新機能をまとめた説明動画を配信すると同時に、氏子町内を回りながら、出会った氏子の方々と共に仮想上での「門寄り」を体験する貴重な機会ともなりました。

配信した新機能にまつわる説明動画

7.Open data活用

 実証実験により得た赤鬼・天狗の位置情報データログ及び2020年度に撮影された赤鬼の360°ストリートビュー、赤鬼の3Dモデルは地域文化に関連した情報としての今後の活用を図り、個人情報を削除のうえ、それぞれOpen-Data-Higashi MikawaMapillaryといったオープンデータを扱うプラットフォームで公開されています。興味のある方はぜひこちらもご覧ください。

8.まとめ

  ここまで「おにどこ」プロジェクトについて紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
 水谷研究室では今後もおにどこ実行委員会の1研究室として、「おにどこ」の機能の充実を図り、新たな祭りの楽しみ方の模索や、祭りの運営において有益な情報の蓄積・有効活用を継続した実証実験によって行っていこうと思います。
 この記事を通して、少しでもこのプロジェクトに興味を持ってくださった方は、ぜひ来年2月10日・11日に行われる豊橋鬼祭にお越しいただき、実証実験にご協力いただけると幸いです。
 4年分の活動のまとめということもあり、大変長文になってしまいましたがお読みいただきありがとうございました。

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おにどこプロジェクト
主催:おにどこ実行委員会
 豊橋技術科学大学 ユビキタスシステム研究室(大村研究室)
 豊橋技術科学大学 建築設計情報学研究室(水谷研究室)
 株式会社 ウェブインパクト
協力
 安久美神戸神明社
 豊橋鬼祭保存会
 Code for MIKAWA(うずらインキュベータ)

記事編集者
水谷研究室 修士2年 徳原崚人


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