【森ミス】名前がコロコロ変わる「彼」の人物像と疑惑について
森博嗣作品のネタバレ満載の記事です。
「彼」は様々な作品に登場したり、影響していたりするため、真賀田四季の一連の作品をすべて読んでいるという方向けの記事です。ネタバレが気にならない方にお読みいただければと思います。
あと、色々考えてはみたのですが結局よくわからなかったので、考察とはとても言えない、単なる憶測というか願望というか感想というか、そんな感じのものです。期待しないでライトな感覚でお読みいただければ幸いです。
読んでくださった方の意見も聞かせていただけると嬉しいです。
彼はいったい何者か
この記事で取り上げるのは、保呂草潤平です。
初登場時は「保呂草潤平」を名乗っていますが、その場に応じて(?)臨機応変に偽名を使い分ける男です。
その彼の名前が久々に「オメガ城の惨劇」でほのめかされて歓喜したのですが、それもつかの間、「χの悲劇」と「オメガ城の惨劇」の記述を合わせるととんでもない事実が導かれることになってしまい、驚愕しました。
セザイマルの話では、サイカワを名乗っていた人物は保呂草潤平の可能性が非常に高い。保呂草は夫婦で真賀田研究所に勤めていたことがある、という(オメガ城の惨劇)。
保呂草の最も親しいパートナーは各務であるが、二人はお互いから逃げたり逃げられたりしている(Vシリーズ、四季シリーズ)。
各務は「小山田」とともに飛行機事故を起こした(χの悲劇)
各務と「小山田」は海月及介の両親である(χの悲劇)
ここから考えられるのは「保呂草は小山田と同一人物なのではないか」ということですが、これがどうにも納得がいかないのです。感情的な意味で。
もし保呂草=小山田だとしたら、保呂草が飛行機事故を起こし、海月及介の父だということになってしまう。
あいつは、そんな奴じゃない! と感情的に思ったので私の印象を列記してみます。
彼はどういう人物か
保呂草は、作中で泥棒をしまくっているし、人をだましまくっているし、人の死に直面しても飄々としている。しかし彼は決して何でもありの人物ではなく、美学があります。
あくまで私がとらえている保呂草像ですが、彼は完全な一匹狼でなく、各地を転々としながらも拠点を作り、そこで自分の名前や出自を偽りながらも人間関係を築いていく。
人たらしで、思わせぶりな態度もとるし、そういうスリリングな人間関係を楽しむ様子もある。
若い人には基本的に優しく、おせっかいをすることもあるし、古い友人のために義理堅い行動をとることもある。焦ったり怒ったり、人間臭いところも多分にある。
彼の行動理念は「美しいものを見たい、あるべきところに移動させたい」であって、それ以外のことはその場のノリで決めちゃったりする。
スリルを感知する感覚がぶっ壊れているが、危険予知は最高に精度が高い。そして、人を信用しておらず自分が不利になりそうな行動は取らない。
そして「オメガ城の惨劇」に登場した彼は、これまでの人物像と矛盾しない、あまりにも変わらずに保呂草で、元気に女性をたぶらかし、泥棒をしていました。彼の人格は小説の中の記述を見る限りVシリーズからオメガ城まで一貫しているように思えます。
四季の物語における「彼」の立ち位置
そもそも、彼は四季に対して中立的に見えます。四季の存在、力を面白がってるし興味もあるけど、でも、あがめているわけではない。
四季と保呂草が初めて出会った場面が非常に象徴的ですが、保呂草は、本能的に四季を怖いと思うけれども、話すうちに
と言い出し対等に会話をします。
(彼のクレイジーぶりが良く出てて好きなシーンの一つです)
「四季秋」に四季の行方を追う場面がありますが、あくまで各務の行方を知るためです。各務には執着していますが、四季はあくまで各務を探す手掛かりといった様子です。
保呂草は数々の品物を盗んできましたが、「オメガ城の惨劇」では、なんと四季の城で盗みを働きます。
四季が神として君臨する一連の物語の世界の中で、保呂草は、四季を崇めない人物として描かれます。
彼は髪をあがめず自分自身の目的、美学にのみ沿って動いているように思われます。トリックスターみたいだなと思います。
(保呂草がトリックスターなら、紅子は四季のシャドウかな、などと妄想が広がる)
というわけで…
保呂草=小山田説には異を唱えたいと思います。私の心情的に(根拠薄弱)。
あの保呂草が飛行機事故なんて、やるかな。美術に関わらないことで危ない橋を渡るだろうか? 各務が頼んだとしてもやるだろうか? やらないんじゃないか。
割に合わないし、彼の得にならないし。美しくないし。四季関連の出来事に積極的にかかわると思えないし…
知らなかったのかもしれないが、「古い友人」の恩師が乗っている飛行機を。
もしやってしまったとして、そのあとも「古い友人」と呼べるだろうか?
だいたい、保呂草が各務ときちんと(?)付き合う(各務の亡夫のボナパルトの墓参りに行くと言う)のは海月が生まれたずっと後のこと。
海月がすでにいるのに、改めてそういう話になるのも不思議。ただ、常識でははかれない二人なので、何でもありと言えばありですし、私がそう思いたくないっていうだけではあるのですが。海月があんな壮絶な人生送っているのに、保呂草が自分の息子くらいの年齢のよその若者と小粋な会話を繰り広げてたなんてあんまり考えたくないし…。
しかしそうなると、小山田や海月は一体何なんだということになりますし、セザイマルがどうして小山田と混同させるようなミスリードをしたのかも大いに疑問です。
この辺はまだよく考えられていませんが…。
というわけで、ほぼ妄想と印象の話でしたがお付き合いいただきありがとうございました! 読んでくださった方が何か思いついたらぜひ教えていただきたいです。
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