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「行政訴訟」の3類型について

「行政訴訟」という言葉は、報道でもよく見かけます。
ざくっとしたところでは、「行政相手の訴訟」というイメージで捉えることはできますが、実は「民事訴訟」や「刑事訴訟」とは異なり、「行政訴訟」というタームは法律上の用語ではありません(「民事訴訟法」や「刑事訴訟法」はありますが、「行政訴訟法」はありません。後述のとおり、「行政事件訴訟法」です。)。
「行政訴訟」をイメージしやすくするため、「行政訴訟」の3類型について、簡単に説明いたします。

1 「行政訴訟」の3類型

「行政訴訟」には、大きく次の3類型があると理解していただくと、イメージがしやすいです。
「行政訴訟」の全体像の理解のポイントは、①の類型を意識することと、②と③は本来的に「訴訟手続の種類」(民事訴訟法136条参照)が異なることを押さえることです。

① 一般の民事事件とほぼ同様の訴訟
② 行政事件訴訟法が定める「行政事件訴訟」
③ 国家賠償請求訴訟

以下、順に見ていきましょう。

2 一般の民事事件とほぼ同様の訴訟

私人が所有する土地と行政が所有する土地の間の境界紛争や、私人と行政が締結した契約をめぐる紛争など、当事者が行政というだけで、ほぼ一般の民事事件と同様の訴訟の類型があります。
行政側が被告ではなく、原告となることもあります。
決裁や予算の仕組みなど、行政内部のことを知っておいた方が争いやすいとはいえますが、基本的には、一般の民事事件と同じイメージで捉えていただいてよいといえます。適用される法律も民事訴訟法です。

この類型の訴訟が具体的にどれだけの数あるのかについては、統計が取られておらず、正確なところは分かりませんが、実務感覚的には多くあります。

3 行政事件訴訟法が定める「行政事件訴訟」

(1)「行政事件訴訟」とは

行政事件訴訟法の適用がある訴訟です。
同法は、「抗告訴訟」「当事者訴訟」「民衆訴訟」「機関訴訟」の4つを「行政事件訴訟」と定義し(2条)、これらの訴訟の審理や裁判のあり方などについて規定しています。

「抗告訴訟」は、大きくは行政の「処分」を争う訴訟です。運転免許取消処分、公文書非開示決定処分、難民不認定処分などを争う局面です。
「当事者訴訟」は、行政に対して金銭の請求をしたり(俸給請求、助成金請求、損失補償請求など)、一定の法的地位の確認を求めたりする訴訟です。2で述べた通常の民事事件と区別が付きにくいことはありますが、両者を区別する実益は、実務上はほとんどないといえます。
「民衆訴訟」は、「選挙訴訟」(一票の格差をめぐる訴訟など)や、「住民訴訟」など、「自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する」訴訟です。個別法に定めがある場合のみ、訴訟が可能です。
「機関訴訟」は、行政機関相互間の紛争についての訴訟です。これも個別法に定めがある場合のみ、訴訟が可能です。

(2)「行政事件訴訟」の数

「行政事件訴訟」の数については、裁判所は統計を取り公表しています。
1年間に新たに提起される「行政事件訴訟」の数は、日本全国で2000件程度です(令和3年度の第一審の新受件数は2019件。最高裁判所事務職局行政局「令和3年度行政事件の概況」より)
この数を聞いて、「そんなに少ないのか」という印象をもたれるのではないでしょうか。
訴訟の数が多ければよいわけではありませんが、少なくとも私が理解するところの「行政の実態」に照らせば、この数はあまりに少ない(もっと訴訟が提起されて然るべきである)と考えています。
この原因としては、行政事件訴訟法の使い勝手の悪さ、弁護士が事件を掘り起こせていないことなど、様々な理由が考えられますが、ひとまず、その程度の数なんだ、ということを押さえていただくとよいかと思います。

4 国家賠償請求訴訟

一言で言えば、行政の不法行為(違法な「公権力の行使」)に対する損害賠償請求訴訟です。民事訴訟法の特則として、国家賠償法が適用されます。

「国家」といいますが、自治体の不法行為に対する損害賠償請求訴訟も、国家賠償請求訴訟に含まれます。
国家賠償法が適用される「公権力の行使」の範囲は広く解釈されており、行政の不法行為に対する損害賠償請求のほとんどは、国家賠償請求にあたると理解していただいてよいです(国家賠償請求にあたらない場合は、2の「一般の民事事件とほぼ同様の訴訟」にあたることになります。)。

国家賠償請求訴訟は、それ特有の論点はありますが、実務上、一般の民事事件とほぼ同じ扱いです。
国家賠償請求訴訟については統計が取られていないため、正確な数は分かりませんが、前記3で述べた「行政事件訴訟」よりは数が多いとはいえます。

「行政事件訴訟」と国家賠償請求訴訟は、「訴訟手続の種類」(民事訴訟法136条参照)が異なる訴訟ではありますが、行政事件訴訟法は一定の要件のもと併合提起することを認めており(16条1項・12条1号。逆にいえば、この規定があるため併合提起ができます。)、実務上、併合提起されることも少なくないです。

5 さいごに

報道などでは、「行政事件訴訟」を「行政訴訟」と表現したり、これに国家賠償請求訴訟を含めて「行政訴訟」と表現したりすることが多いです。
他方で、2で述べた一般の民事事件とほぼ同様の訴訟の類型を含めて、広く行政相手の訴訟という意味合いで「行政訴訟」との表現が使われることもあります。
文脈によって指すものが違うというのが実際であり、そういったものなんだ、と理解していただければ十分かと思います。

いくらかでも「行政訴訟」がイメージしやすくなれば幸いです。

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