「福島研修旅行2022」質疑応答

質問1:隣接する地域で震度が異なるのはなぜ?

Q1:
隣接する地域で震度が異なるのはなぜでしょうか。例えば、浪江町では震度6強ですが、隣の葛尾村では震度5強となっていました。地盤による違いかなと私は考えたのですが、葛尾村は周りの地域に比べ地盤が異なっているのでしょうか。

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https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/486636.pdf


A1:

これは、とても良いご質問です。私はちゃんと見てなかったです。確かにご指摘の不思議は、あります。津波被害と原発災害で、気づいてませんでした。以下、推測ですが、書いてみます。

まず、ご指摘の、「地盤が異なっている」と言う影響はありうると思います。

しかし私の推測では、福島県での震度のマダラ模様の理由は、それだけでもなくて、以下の二つの影響も、あると考えます。第1に、もっと深い場所の岩盤の影響。第2に、非常に長かった震源域の影響です。

第1に岩盤の影響です。阪神淡路大震災の時には震度7の帯、というのが起こって有名になりました。この時は、震源は淡路島の左、中央より少し北(野島断層)、だったのですが、神戸の市街地に、横に長い「震度7の帯」が出来ました。これは六甲山の岩盤で反射した波と、直接にきた波とが、重なり合って、干渉して、波の振幅が大きなったのが原因らしいという、後のシミュレーション計算を見たことがあります。つまり、地表面付近の地盤だけではなくて、もっと深くの岩盤の影響もありそう、ということです。

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https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/1995_01_17_hyogonanbu/data.html

このような意味で、福島県内の震度のマダラ模様は、これと似たような、岩盤の分布の具合による効果の可能性があります。加えて、あのあたりの奥羽山脈では、岩盤が結構、複雑であることも知られている。

しかし原因はそれだけでもないと思います。第2に、非常に長かった震源域の影響です。つまり、阪神淡路大震災では、震源が長さ14km程度でほとんど短かったのに対して、東日本大震災では、震源(ズレた岩盤)は南北に非常に長く伸びていてました。連鎖的に岩盤破壊が広がり、長さ1000kmにもなっていてました(プレート型の地震)。つまり海底での非常に長距離の震源領域(プレートの一部)で、がさ〜〜〜っ、と(50mくらいものズレ幅の落差で)数分の時間をかけて、ズレたんですよね。だから震源域が広がっています。この南北の距離の長さが影響した可能性もあると思います。つまり複数の異なる場所で時間をかけて発生した地震波が複雑なタイミングで届いたはずです。すると波の重なり(強弱)の仕方も非常に複雑になったはずです。

そういう二つの理由(複雑な岩盤と、非常に長い震源域)の結果で、ああいった、複雑な、単純ではない、震度分布になったのではないか、と思います。

なお、奥羽山脈の岩盤が複雑である根拠ですが。これは、「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」でも見られた現象です。つまり、震源からかなり離れた場所で震度最大が、普通に起こってました。その結果として、予想外の場所の山が崩れてしまったり、という一見して、不思議な被害が出しました。

地盤の違い、という最初のご指摘に戻ると、あのあたりは、奥羽山脈と阿武隈高地の間の盆地なので、地盤の性質(分布)が複雑である可能性もありそうです。加えて、あのあたり(郡山市から下のあたり)は、奥羽山脈の下端あたりで、さらに複雑に、地盤が折れ曲がっているかもしれません。よく見ると、猪苗代湖があんな場所にあって、その南側が強く揺れたのも、そう言う地質学的に複雑な地形という理由もありそうです。

最後のコメントとして、例えば神戸大学の物理学者の上野宗孝教授は、次のような意見を持っておられます。「最近は,色々な方法で,地盤強度の分布が可視化されており,一般的に軟弱地盤地域では地震の揺れの増幅率が大きく,強度の大きな場所では,確かに揺れません.大阪府北部地震の際には,私は神戸大学の六甲台のキャンパスに居ましたが,確かにあまり揺れませんでした.一方で,海岸側は結構揺れたようでした.これに対して,阪神淡路大震災の際の被害状況を見ると,ある程度の軟弱さの地域の被害が大きいように見え(その帯状の地域),極端に軟弱な海岸沿いや埋め立て地の方が,思ったほどの被害が出ていません(もちろんそれなりに被害はありましたし,液状化も発生しました).これを見ると,揺れの周期や振幅に対して増幅率が高くなる強度範囲があったように思えます.ただし,私は専門家では無いので,単なる感想ですが.」と述べておられます。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%A5%E7%BE%BD%E5%B1%B1%E8%84%88#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Geofeatures_map_of_Tohoku_Japan_ja.svg

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https://www.nippon.com/ja/features/h00357/

質問2:北西方向に放射線量率が高いのはなぜ?

Q2:
空間線量率マップを見たときに、同心円状に同量の放射線量になるわけではなく、北に向かって放射線量が高くなっていましたが、それはどうしてでしょうか。

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A2:
これも良いご質問です。これは、2011年3月15日の朝6時〜昼12時頃にかけて、実はいまだに原因不明なのですが、福島第1原発の2号機(爆発しなかった原発1基)から、静かに、放射性物質が漏れ出たことが、知られていて、それの影響です。

それが煙みたいになって(これを放射性プルームと呼びます。)、それはふわふわと風に乗って、北西方向に、流れて行ったのです。しかしこの日はたまたま、雪だったのです。それで、空中の上の方を流れていった放射性プルームの中の、煙みたいな放射性物質のチリが、地面に落ちつつ、流れて行ったのです。

それで、その風の方向が、そのまま、放射線量率の高い場所になってしまったのです。つまりは、それが土壌の放射能濃度が高い場所、でもあります。


質問3:除去土壌をきれいにする方法はないのか?

Q3:
除去された土壌はきれいにされて元の場所に戻されることはないのですか。まず、土壌をきれいにする方法はないのでしょうか。

A3:
これも良いご質問です。それは、最初はみんな、そういう方法を探して一生懸命、研究も行われたわけです。しかし、最終的には、それは無理であることが判明しました。その理由はこういうことです。

今回の震災では、セシウムという元素の、放射性同位元素である137Cs が、残ってしまいました。セシウムは周期表で言うと、アルカリ金属(イオンになりやすい金属)の一種です。しかも実は、セシウムと言うのは、偶然にも全元素の中で、イオン化傾向(イオンになりやすさ)が最大であることがわかっています。

他方で、日本の田畑や市街地の土壌では、粘土質の土が多い。粘土というのは、その中の分子構造が独特でして、層構造になっていることがわかっています。その層の中に、セシウムの原子でイオンになったやつが、スポッとはまりこんでしまうのです。

それで一旦、放射性プルームから、土壌に降ってきた、セシウムは、粘土の分子にはまり込んで、抜けなくなる、吸着してしまう。それも非常に強固に。

だから、土を土ごと捨てない限り、セシウム原子だけを分離できない。
そういう面倒なことになっているのです。

https://www.env.go.jp/.../h29kisosh.../h29kiso-04-04-03.html

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質問4:ALPS処理水で「国が前面に立ち」とありましたが、国は具体的に何をしているの?

Q4:
ALPS処理水のところで、『国が前面に立ち』とありましたが、国は具体的にどのようなことをしているのでしょうか。県の対策は資料に書かれていたので国のことが気になりました。また、『関係省庁が一体となった万全の対策を講じる必要があります。』とあり、『講じている。』ではなかったので気になりました。

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https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/486636.pdf

A4:

「国は具体的にどのようなことをして」いるのか。国がやることは、予算の確保とか、人員配置計画(これらは国がやることなので、全て法律と関係しますので)を確認することとか、実施計画の進捗の全てに責任を持ちます。つまり、それらが問題が起こらないように、することです。具体的には、関係各部署に指示を与えること、だと思います。要するに事務処理ですね。事務処理なんて簡単だ、などと勘違いしないで下さい。円滑な事務処理ができれば、それで90%の仕事は終わります。実際に、これらの「上からの」指示に従って、具体的な作業を行うのが、県であり、事業者、なのだと思います。

『関係省庁が一体となった万全の対策を講じる必要があります。』とあり、『講じている。』ではなかった理由ですが、今後に延々と、続くことなので、だろうと思います。


質問5:「戻らない」とか「判断がつかない」という人たちがその町に戻りたいと思うような魅力的な取り組みとは?

Q5:
住民帰還意向調査で、福島第一原発周辺の地域では「戻らない」という回答が多かったです。避難先での生活がよいなどの理由もあると思いますが、危険だからという思いもあるのではないかと思います。このように「戻らない」とか「判断がつかない」という人たちがその町に戻りたいと思うような魅力的な取り組みを何かされているのか気になりました。

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https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/486636.pdf

A5:

これは人間という存在の深いところに触れる問題だと私は思っていて、簡単には論じられません。被曝はもう危険でないことは、みんな分かっています。大規模に除染して、いや「やりすぎ除染」という言葉もあるくらい、十分に対応して、被曝を減らすことに成功しました。もう「危険だから、ではない」のです。あえていうと、危険だと騙されたことに対する(あるいは、簡単に騙された、自分に対する)やるせない感情の問題が大きいと思います。遠隔避難者は、せっかくの県からの情報提供も、みたくもなく、破り捨てているとおっしゃいます。
こういう人の気持ち、難しいです。最初は自分は放射線のことをよく分かっていなくて、周りのマスコミから、危険だと言われるがままに、一時的なつもりで遠方に避難してしまった。あるいは実際に被曝線量率が高くて一時的に避難した。しかしその後に、何が起こったのか。3年くらいすると、放射線のことも、被曝のことも理解できるようになります。そして、福島県内の安全なところに戻れると分かってきます。その段階で、自分の人生をどうするのか、決断する機会が訪れます。その時には、みんな迷うと思います。当たり前です。
その時、子供にせっかく友達ができたから、とか、田舎の生活よりも都会の生活は意外に便利だから、とか、特段に地域に愛着があったわけではないから、転勤族だったから、とか。
「このように「戻らない」とか「判断がつかない」という人たちがその町に戻りたいと思うような魅力的な取り組みを」という視点は、とても重要です。しかし、「魅力的な取り組み」は、なかなか難しいとも思います。でも、それは可能であることも、分かってきていると思います。
さまざまな取り組みがありました。
4年くらい前に、訪問した、楢葉町の西崎さんの実践は、そういう試みのひとつでしたね。自分の街を自分たちで、再建しようという、取り組みに、みんなが当事者になり、一緒にワークショップをやりながら、ついに、集会のための建物まで、作ってしまった、という(当時の)学生さんの取り組みです。結局、西崎さんは、この実践の途中で、楢葉町の職員として採用された、そういう人です。そういう「魅力的な取り組み」も可能であることがよく分かると思います。


質問6:チェルノブイリ原発事故の対策から何か取り入れたり参考にしたりしたことは?


Q6:
原発事故といって思い浮かぶのがチェルノブイリ原発事故なのですが、チェルノブイリ原発事故の対策から何か取り入れたり参考にしたりしたことはあったのでしょうか。

A6:
ありましたね。逆の意味で。日本では、ああいうことは起こらない、という逆の神話(安全神話)ができてしまった。そういうことがありました。

もちろん、それ(日本ではああいう事故は起こらない)は事実でした。元々、日本では、「チェルノブイリで起こったような再臨界」にはならない、というタイプの原子炉(軽水炉)でした。そしてその通りに、再臨界にはならなかった。加えて、チェルノブイリで起こったような、原発全体を吹き飛ばすような、いわゆる水蒸気爆発も、日本では(福島では)起こっていません。そこは正しかった。(日本の福島第1原発で起こったことは、水素爆発です。水素爆発は、水蒸気爆発とは全然、違います。水蒸気爆発の方が遥かに恐怖です。)

しかし、そこが問題なのではなかった。むしろ、福島では、1979年にアメリカのスリーマイル原発事故で起こったような、冷却水喪失事故(LOCA (Loss of Coolant Accident) と呼びますが)、が、起こってしまいました。

これは、やはり、日本ではチェルノブイリのようなことは起こらない(それは事実だったし、正しかったのですが)という 過信 が、あった。その過信が、ありうるはずの過酷事故(スリーマイル事故のようなタイプの事故まで含めて)を軽視することにつながり、過酷事故対策を怠らせ、甘くみさせ、不十分にさせ、そして結果的には、福島原発の事故につながってしまった、と思います。




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