新型コロナの変異株の名前について

2020年のコロナ禍に加えて、英国発のVOC-202012/01と、南ア発の501 Y.V2という面倒なヴァリアント(変異株)が出てきてうんざりの今日この頃です。私自身は、まずこの名前が良くわからずに混乱しました。そこで以下では、これらの名前の由来について、書きます。調べたことを自分の言葉で書いただけですが、お役に立てば幸いです。

今回の新型コロナ、SARS-CoV-2のヴァリアントには、もう4000種類くらい(2020年12月現在)あるらしいので、騒ぐほどのことはないと、当初は思っておりました。

しかし今回のものは、どうもそうではなく、この4000種の中で、特段に、取り上げるべき、関心を強めて推移を見守るべき、(嫌な)ヴァリアントだということでした。

実際に、VOC-202012/01は、当初は、変異した場所の名前をとってB.1.1.7
と呼ばれていました。しかしNHKニュースにも出てくる忽那賢志先生が
解説を書かれた2020年12月21日頃には、英国ではすでに、VUI-202012/01という名前からさらにVOC-202012/01と変更された、数日後だったようです。この2段階目の名前の VUI の意味は Variant Under Investigationでした。(なお、名称がさらに VOC-202012/01 に変更された後の段階でも、忽那賢志先生の解説では、古い名前のまま VUI-202012/01 と書かれているので、要注意です。)

英国では、2020年12月18日のリスク評価の結果、この変異株の問題性が確認され、確定し、その名前は変更となり、VUI-202012/01ではなく、VOC-202012/01(今の名前)になりました。(資料2)

このVOC の意味は、Variant Of Concern(関心を持つべきヴァリアント)です。

いろいろなメディアで、これらの名前が混同して使われているようです。でも同じもののことです。要注意だと思いますが、その記事を書いた人が、いつの情報を元にしているかで、違った名前になっているということのようです。

この VOC-202012/01 と言うネーミング・スキームは、英国特有のものだそうです。他方で、南アの変異株は、501 Y.V2という別のネーミングの仕方をしているようで、さらに混乱します。しかし、仕方がありません、当面は。

この南アのコロナ変異株の名前、501 Y.V2 の由来は、多分、コロナに特有のSタンパク質(スパイクタンパク質)の中で変異した部分の名前からきているようです。

南アの変異株も、今回の英国の変異株も、どちらも、スパイクタンパク質の
N501 Y という部分が変異しているそうです。しかし遺伝子変化の系統樹的には、関連がないそうです。

そして、英国の変異株はN501 Yを含む23箇所で変異がある。他方で南アの変異株は、N501 Yを含む8箇所での変異だったそうです。

どちらの場合も、Sタンパク質の部位のN501 Yは、(相手細胞の受容体、レセプターという言葉を使うと)、レセプター結合部位として重要な3箇所(K417N, E484K, N501Y)の変異の1つらしい。

ですが南アでは、新型コロナの変異株の全体の名前に、このN501 Yが使われたようで、501 Y.V2 と呼ばれています。この意味で、こちらの変異株も、今後名称が変更になる可能性があるかもしれませんが、現状ではこのままです。

以上2020年の12月に注目されるようになった「最近の」話題ですが、多分今後も無視できないと思います。ここでは、そんな厄介なヴァリアント(変異株)の、名前の由来について、書いてみました。私はこの分野も素人なので、誤解もしているかもしれず、間違いがあればご指摘をお願い致します。

なお、この変異株の社会的影響ですが、流行の強さが(英国ジョンソン首相も言ってましたが)従来型の新型コロナウイルスよりも、56%とか70%とか、より強いことは、確かのようです。その根拠の詳細はこちらで納得できます。(小野昌弘「英国と世界がコロナ変異株に警戒する理由」2020/12/26(土) https://news.yahoo.co.jp/byline/onomasahiro/20201226-00214563/)

その影響で、今後、厄介なことになるかもしれません。しかし対応するワクチンは変異株に対しても、6週間程度で、出荷できるそうです。この意味で人類はなんとかするだろうとは思えます。

なお、上記の内容は2020年年末に書いたものですが、国立感染症研究所の2021年1月2日15:00時点の情報でも、上記の内容に変化がなさそうなので、このまま公開します。(国立感染症研究所「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について(第4報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10090-covid19-30.html )

なお、英国のこの変異株(VOC-202012/01)について、欧州のCDCであるECDC (European Centre for Disease Prevention and Control) は、2020年12月29日公表のレポートで、「EU内にVOC-202012/01と501Y.V2が輸入され蔓延するリスクは高い」としているそうです。また「振り出し」に戻るのは、ちょうど1年後で分かりやすいとはいえ、御免被りたい思いです、個人的には。

以上、今回の変異株の「不思議な名称」の交通整理に、この投稿が少しでもお役に立てば幸いです。

資料(詳細はこちら):
1)忽那賢志「イギリスの新型コロナ変異ウイルスは何が問題なのか」
2020年12月21日
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20201221-00213726/

2)国立感染症研究所「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について (第3報)」2020年12月28日14:00時点
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10087-covid19-29.html

3)小野昌弘 「コロナ変異株にワクチンは効くのか」、2020年12月27日
https://news.yahoo.co.jp/byline/onomasahiro/20201227-00214716/

4)「変異種はどのくらい心配? 注目される二つの理由と対策」聞き手・野口憲太、2020年12月26日
https://www.asahi.com/articles/ASNDV61W2NDVULBJ001.html

5)その他(色々あります)


追記1:変異株の命名法の暫定定義(WHO)

変異株の命名法について、2021年2月25日にWHOは、次のように決めています。該当する部分を以下に紹介します。(ただしその後、この命名法を目にする機会は私にはなかった。代わりにα、β、γ、δ(デルタ)株など、ギリシャ文字になってしまった模様です。いずれにしても。)

資料出典「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第7報)」(国立感染症研究所、2021 年3 月3 日14:00 時点)からの転載です。
========================
VOCの分類について
2021年2月25日、WHOは「注目すべき変異株(Variants of Interest; VOI)」「懸念される変異株(Variants of Concern; VOC)」の暫定定義を以下の通り公表した(1)。

注目すべき変異株(Variants of Interest; VOI)
SARS-CoV-2分離株が以下の場合、注目すべき変異株(VOI)と定義
• 標準株(reference isolate)と比較して表現型が変化しているか、表現型への影響に関連することが明らか又は疑われるアミノ酸の変化につながる突然変異を有するゲノムを有する場合
かつ
• 市中における散発例/複数のCOVID-19症例/クラスターを引き起こすことが確認されているか、複数の国で検出されている場合
または
• それ以外にWHO SARS-CoV-2ウイルス進化作業部会(Virus Evolution Working Group)へのコンサルテーションのもと、WHOによりVOI としてアセスメントされる場合

懸念される変異株(Variants of Concern; VOC)
VOI が比較アセスメントにより以下と関連していることが実証された場合、懸念される変異株
!#!
(VOC)と定義
以下のうちいずれかがみられる場合
• 感染・伝播性の増加又はCOVID-19の疫学に有害な変化
• 毒力(virulence)の増大又は臨床像の変化
• 公衆衛生・社会的措置又は流通する診断法、ワクチン、治療薬の有効性の低下
又は
• WHO SARS-CoV-2ウイルス進化作業部会(Virus Evolution Working Group)へのコンサルテーションのもと、WHOによりVOCとしてアセスメントされた場合

今後この定義に基づき、WHO による変異株の命名が行われるが、本文書では従前の呼称を継続する。本文書では、「VOC」と総称する際には、WHOが現在VOCとして取り扱うVOC-202012/01, 501Y.V2, 501Y.V3を指すものとする。
=========================
出典:
1)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000755160.pdf
2)元のWHOの文書(2021年2月23日付文書の補足2021年2月25日付)
"Weekly epidemiological update - 25 February 2021"


追記2:変異株のギリシャ文字(WHO)

2021/5/31にWHOは再度、SARS-CoV-2の変異株の命名法を提案しました。それが今につながるギリシャ文字となっています。
"WHO announces simple, easy-to-say labels for SARS-CoV-2 Variants of Interest and Concern", 31 May 2021
https://who.int/news/item/31-0

この名称提案に対するマスメディア報道も出ていました。
「変異株に「アルファ」や「デルタ」…なぜギリシャ文字?」『アピタル』、2021年6月27日



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?