オミクロン株(新型コロナ)の致死率の分かりにくさ

コロナのオミクロン株の致死率は、なかなか、厄介だと思います。みな、よく分からなくて、困惑していると思います。以下、1ヶ月くらい前に調べたことをメモします。最初に結論を書きます。「オミクロン株の感染ピークは、時間的に左右非対称であり、感染のピークと死亡者数のピークが、かなりズレるので、致死率の判断が混乱するのではないか」、ということです。

■はじめに

流行の最初から、コロナはただの風邪、という人は、いました。

なぜなら、高齢者は普通の肺炎でバタバタ死んでいるのに、何を言っているんだ、コロナなんて大したことない。ということだったと思います。それ自体は、その通りだったと思います。

しかし、当初のコロナの平均の致死率は約2%程度であり、これは、季節性インフルエンザの場合(日本では致死率0.1%程度)の、約20倍でした。

20倍の違いを、同じには、出来なかったと思います。

コロナの致死率は、2020年前半のイタリアが特に酷くて、当時の致死率を見てみると、20%とか14%とかで非常に高かった。これはその後の世界平均(2%程度)の数倍であり、当時の欧州での大騒ぎの理由が理解できます。

次の図は、世界各国の累積の致死率です。2020年前半の武漢株(欧州株)、2020年12月以降の英国のアルファ株、2021年中頃のデルタ株、そして2021年11月以降のオミクロン株と、大きな流行の波が来るたびに、罹患者数が上がっていきました。このため、累積の致死率は事実上(近似的に)その時々の波の致死率を表しています。

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https://bit.ly/3I04e3v


致死率というのは、罹患して死亡する率のことです。英語ではCFR (Case Fatality Rate)と呼びます。新型コロナの致死率は、目安としては2%程度というのは世界の共通理解だと仮定します。専門家の見立てを見ても、インフルエンザの致死率は日本で0.1%程度、コロナは大雑把に(初期には)2%〜数%程度でした。

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https://honkawa2.sakura.ne.jp/1955.html


■オミクロンの致死率:カナダの結果

しかし、みなさまご承知の通り、オミクロンの致死率は、かなり低いです。
実際、オミクロン株の致死率は、デルタ株の1/6程度という結果が、カナダの初期の分析で、出ていました。

引用:「カナダのオンタリオ州の SARS-CoV-2 感染例データを 2021 年 11 月 22 日から 12 月 25 日まで抽出し、全ゲノム解析ないし SGTF(50%を超えた 12 月 13 日以降は全例)によって探知されたオミクロン株とデルタ株を性、年齢群、ワクチン接種歴、タイミング、地区と発症日による調整後に比較したところ、入院ないし死亡リスクは 65%減少(95%CI 54-74)しており、ICU 入室ないし死亡リスクは 83%減少(95%CI 63-92)した(Ulloa, et al.)。」(出典:「SARS-CoV-2 の変異株 B.1.1.529 系統(オミクロン株)について(第 6 報)」2022 年 1 月 13 日 9:00 時点、1 月 20 日 一部修正、国立感染症研究所、https://www.niid.go.jp/niid/images/cepr/covid-19/b11529_6.pdf

つまり、オミクロン株の致死率 = 2%x (1/6) 〜 0.3% 程度になってきています。これは普通のインフルエンザ(致死率0.1%)の約3倍程度です。

3倍の致死率と言われると、まだまだ高い、と思う人と、ほとんど変わらないと感じる人の両方が、おられるような気がします。


■英国の場合

英国でのオミクロンの致死率については、2022年2月の詳細な分析が出ています。

このデータでは、英国でのコロナ・オミクロン株の致死率は、英国でのインフルエンザの致死率(0.05%程度らしい)の2倍程度まで、下がってきたことがわかった、という報告です。これは、まだまだ下がる様子です。

画像3

https://twitter.com/jburnmurdoch/status/1492138139103768576

さてこれをどう考えるか。


■英国の致死率データの解釈

上で紹介した英国のオミクロンの致死率のデータは、不思議に綺麗だと思うし、今まで見たことがなかったので、調べてみました。


1)このデータを出した人は、英国のFT(Financial Times) でデータ分析が専門のJohn Burn-Murdock氏。彼は、London School of EconomicsのLSE Data Science Instituteにも所属。恐らく十分の専門性を持つ。
https://twitter.com/jburnmurdoch


2)英国では、細かいデータを、サンプリングではあるが、継続的に追跡できている。細かいデータとは、一人一人の追跡調査です。こういうのを個票と言います。日本ではこれが出来ていません。

ちなみに、日本では最初から全数調査で個票調査をやろうとしました。しかも国は、すぐに終わる と思っていて、人員を増やさない。この結果、作業量的にパンクしてしまいました。だから今では、こういうデータは日本では分からない状況です。

例えば大阪府では、2020年11月から個票を諦めました。つまり、追跡できない状態になっています。しかし英国では、サンプリングではあっても細かい追跡が 世界で唯一できています。

英国で、細かいデータを全部、取れていることはここに出ています。
https://twitter.com/jburnmurdoch/status/1492138146661818372

非常に印象的なので引用します。
“A reminder that UK is only country in the world with regular, reliable data on total infection numbers (not just cases), thanks to @ONS random sample representative survey.”
この英国のONSとは、Office for National Statistics、です。


3)英国での致死率は、全部の平均を見ると、この数字とは異なっている。現在の致死率は、英国平均では約0.3%程度です。これは私が上で紹介したデータ(0.1%を下回っている)とは違います。

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https://bit.ly/3GSKoHe


以下、これらが、違っている理由を推測してみます。


上に書いた二つの理由から、紹介したデータは信頼して良いと思われます。

つまり個別に追跡すると、致死率が分かり、それは低い。

しかし、平均してみると、高く見える。

これは、オミクロンの特性だと思います。

実際に、この添付の図のように、英国のオミクロンは、2022年1月8日の前後で、新規陽性者数はピークになった。しかしその後、死亡者数に、ピークが見えていない。つまり、非常に長引いでいることを意味します。

だから、これらの違いが発生しているという説明が可能です。

次の図は、この説明を、図にしたものです。

2022年2月英国の致死率の推移


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