僕は君の乳腺を未だ見たことがない
「水野さん、私も長くこの仕事をやっていますが、こんな乳腺は見たことがないです。」
え?
この人は一体・・・
ナニヲイッテイルノダ?
これは上記の言葉を聞いた瞬間の率直な疑問でした。
乳腺甲状腺外科のF先生は、長年お世話になっているクライアント様のお一人です。
メディカルイラストレーションに対してのご理解もあり、これまで多くご発注いただいている『お得意様』です。
裏返して言えば、求めていらっしゃるクオリティも高い、ということになります。
乳房再建術のラフスケッチが完成しご確認いただいてる時に、この苦言を呈されたのです。
その時私が描いたのは、いわゆる解剖図にあるような構造の乳腺でした。
でも、手術という現場では、このような乳腺を見ることは出来ない。
なぜこんなことになってしまうのか?
これはアナトミカルイラストレーションとメディカルイラストレーションの違いの一つなのです。
アナトミカルイラストレーションとは、文字通り解剖学的な知見を図像に落とし込んだものです。
例えれば、文法を厳守したアナウンサーのしゃべりのようなもの。
一方、メディカルイラストレーションは、文法的には間違っていても実生活に即した日常会話に近いものに例えられるでしょう。
私が描いた乳腺は解剖学的な構造としては妥当だけれども、執刀医の目線ではリアリティが感じられない。
、
F先生の言葉の意味するところは、そういうことだったのです。
メディカルイラストレーターとしての立ち位置は、あくまでもクライアント様のイメージを画像化することです。
解剖学的な『お約束』を踏まえて描くのは当然ですが、それに反すること、曲げざるえないことはいくらでも起こります。
『お約束』にこだわらず、「まあ、そういうこともあるよね。」と修正していく柔軟性も、メディカルイラストレーターに必要な資質かもしれません。
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