「自分の顔が嫌いなので、頭をレンジにしてもらった。」第21話

「次に再び、特務級危機名称ヤマタに分類されるシナゴが出現した場合のみ、バトルスーツの着用と武器使用、及び臨時招集をお願いする」

 ビシっと敬礼をした真波司令に正式に告げられ、私も慣れない敬礼を返した。
 幸い私がスーツを着用しなくなって三ヶ月が経過し、私の体も元に戻ったが、今のところは武器開発はさらに進んでいるし、シナゴは私が対処しなくても良くなっている。

 この日、私はその脚で自室へと戻った。
 本日で、このカプセルホテルみたいな部屋ともお別れである。
 と、いうのは、本当に景くんが掛け合ってくれたため、私はお引っ越しが決まったのである。本日、新居に引っ越す前、二人で籍を入れに行く。

 地球防衛軍の意向で、私は日本には残って欲しいと請われたのと、景くんがOKだったので、今後は都内の邸宅で暮らす。一等地に謎の森林があり、その中央にぽつりと建っていた洋館を、景くんが購入したので、今後はそこで暮らすことに決まった。遙くんと月ちゃんも一緒であり、それぞれには乳母さん、及び邸宅には汀さんという執事さんがいると聞いた。乳母さんは代理母の方とはまた別なのだという。

 基地のエントランスへ向くと、高崎博士と遠藤さん、それから真波司令が見送りに来てくれていた。それぞれに言葉をかけられて、照れくさくなってしまった。

 そこへ汀さんが運転する車から、景くんが降りてきた。

「皆様おそろいで」
「――景氏。きちんと梨野を幸せにしてね」

 高崎博士がそう言うと、景くんが笑った。

「勿論です。お任せ下さい」
「あ、あの、私十分幸せだよ?」
「奇遇ですね、私もです。梨野さんが隣にいて下さるだけで、私は幸福です」

 景くんが私の肩を抱いた。
 そんなこんなで見送られ、私は景くんと共に車の後部座席に乗り込んだ。
 走り出した車の中でも、ずっと肩を抱き寄せられている。

「これからは、ヤマタ系は出ないことを祈らないとなぁ」
「出ても、可能な限り、梨野さんが動かなくて言いように、私が対処します」
「うーん」
「これでも昔の私よりは精進しているんですよ?」

 くすりと笑った景くんは、それからじっと私を見た。私も視線を返す。

 このようにして、私達は新しい出発を果たした。考えてみると怒濤であったが、今、私は大変幸せである。新しい生活がどのようになるのかは、まだ未知だ。子供と上手くやっていけるのかだとか、様々な課題もあると思う。けれど、今、私は頑張りたいと思っているから、勢いに乗ろうと思う。

「新型の武器にも慣れてきたところです」
「そうなんだ」
「ええ。それにしても、小児用のバトルスーツの研究が進んできたとはいえ、まさか遙が適合者になるとは……想定してはいましたが」
「それを使用せずに、シナゴが滅びればいいのになぁ」
「同じ心境です」

 世界からは、シナゴという脅威が去ったわけでは無い。あくまで私に平和が訪れたと言うだけだ。それも、あるいは、つかの間のものかもしれない。先のことは全然分からない。

 ただ一つ分かるのは、現在自分が幸せだというそのことのみだ。

「それはそうと、梨野さんは、無理をしないで下さい。一人の体ではないのですから」
「う、うん」

 実は、私は妊娠している。
 第三子となる子は、自分で産むこととなった。退院したある夜、押し倒された病室に、ゴムが無かった。高齢出産は危険だし、私は病み上がりだし、という理由で、いざ妊娠が判明したら深刻な顔で景くんには謝られて、堕胎の検討も勧められたのだが、判断したのは私である。私の最終判断を、なんだかんだで、景くんは喜んでくれた。

 来年の今頃には、五人家族となる。果たして私が元気に出産できるかは不明だが、その子が仮にカボチャに見えても、きっと景くんは愛情を注いでくれると信じている。おそらく景くんは、愛情量というか興味関心の問題で、人の顔に興味があまりないだけだ。ナルシストというか、彼は根本的に完璧主義者のきらいがあって、完璧じゃないのを許せるのが、私と子供達だけという事なのだと思う。

 車はその後、高速道路に入った。帯田市の風景が遠ざかっていく。
 今後も勿論、有事の際は、私はこの土地に足を運ぶ所存だ。

「そういえば、『rhume chronique de type anal』のワクチン、完成して効果を発しているそうですね」
「うん、今日のトップニュースだったね」
「これで、病魔に関しては、一段落ですね」
「そうだねぇ。あとは、シナゴさえ来なくなったらいいんだけど」

 私は景くんの肩に頭を預けつつ、そう呟いた。なお、バトルスーツは有事の際の転移に備えて、所持するように私に改めて渡されている。だから私の腕には、時計型のバトルスーツがある。

「シナゴとはなんなのでしょうね」
「端的に言えば宇宙人じゃないの?」
「――ある意味においては、私達の愛のキューピッドですが」
「そういうこという?」
「言いますよ、いくらでも」

 クスクスと不謹慎なことを言う景くんを見て、つられて私も笑った。
 その後は役所で入籍した。
 可愛い婚姻届で評判の、都下のある市で提出した。

 それから私達は都内の新居を目指して改めて進んだ。今後、世界がどうなるかは分からないけれど、私はこの幸せを、大切にしていきたいと強く願っている。

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