私たちはなぜ大会で札を並べられるのか

私たち選手は当然のように大会当日に番号の座席に着席をし、対戦相手と向かい合って札をかき混ぜる。そして札を並べて暗記時間が計測される。

でも当たり前のように集まる会場は当たり前に用意される訳では無い。当たり前に座る畳すら、わざわざ搬入して敷いて片付けていることも多い。

当たり前のように揃えられている何百組の札も自動札分け機械がある訳では無いし、何百人もの申込が勝手にリスト化されて対戦カードになるわけでもない。お金が湧いてでるわけでも勝手に計算してくれる訳でもない。

私たちが大会で札を並べるという、まだ勝負も何も始まっていない段階において、既にもうとんでもない労力を運営サイドがかけてくださっているのである。

ある会議で関東圏の学生の中には運営の経験がない人も多いということを聞いた。関西の学生は主に高校選手権で全大学の総動員で個人戦の受け入れ態勢を整えるため、A級に限らずみんな運営の経験があるのが普通なので、私はちょっとカルチャーショックを受けた。かるた界全体の何%がその労力を知っているのだろうかと思った。始めたばかりの初心者や高校生以下にもきちんと知っておいて欲しいと思った。

運営をして下さっている方々は、平日の毎日の仕事が終わってから夜に作業をし、貴重な休みを自分が出る訳では無い大会に費やして下さっている。これがどれほど献身的なことか想像してみてほしい。ひとつの大会に何人が関わってくれているか想像してみてほしい。そしてそれを恩返しできるタイミングがあれば、どんな形でも自分が出場した大会の数だけかるた界にお返しをしてほしい。みんながそうすれば運営の負担が減り、結果として自分の大会出場機会が増えることに繋がるのだ。

運営をしてみて気がついたこともたくさんある。手を真っ直ぐ挙げろ、着席に遅れるな、読みと読みの間は動くな、会場では静かにしろ。それはどうして口を酸っぱくして言われることなのか。一度運営を経験して実感してみてほしい。なぜ正当な主張なのに何度もモメると怒られるのか?なぜ畳を叩くのはダメなのか?選手としてのマナーも、お手本となるような選手になる為のヒントも、運営をすれば見えてくる。もし運営を募っていたら協力してほしい。級が下でもできる仕事はたくさんある。高校選手権では、競技かるた自体が未経験の大津あきのた会の保護者の皆様がたくさん動いてくださっている。運営というのは、モメの仲裁だけが仕事ではない。もっと言えば運営というのは、当日役員として動くことだけが仕事ではない。

前回の高校選手権でD.E級のある会場を担当していたのだが、負けてしまった高校生の選手が畳の撤収作業に気がついて手伝ってくれたことがあった。会議室だったのだが、疲れているだろうに机と椅子の搬入まで手伝ってくれて、すごく早く片付けが終了した。朝早くから働いていた体力のない私には物凄くありがたかった。このように、選手として出た大会でも言葉や行動で感謝を示すことができる。

競技人口の増加で申し込んでも大会に出られない人も増えた。コロナによる相次ぐ大会の中止で大会そのものが貴重になった。かるたの大会はやってもらって当たり前のものではない。抽選も中止も難しい級の移行も、過渡期であるかるた界の運営の人達が苦しみながら選択をしているものである。決して一方的に文句は言えない。文句ではなく案を練ってほしい。みんなで考えることが絶対になにかに繋がる。

いつまでもお客さん気分の選手ばかりだと、大変な労力のかかる大会は、大変な労力のかかる一部分の人達だけの運営になってしまい、続けられないだろうと思う。自分がかるた界の中にいること、自分もかるたの世界を回す1人であることを選手全員が理解しておいてほしい。

自分のかるたのための努力なら誰にでもできる。自分がかるたを取れるのは色んな人に支えてもらってのものだ。かるた界に恩返しをしながら強くなれる選手に私はなりたい。

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