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エンドレスヒール#23 -3.11

3月11日(金)18時すぎ(被災当日)

和美は、真っ暗なコンビニの店内に足を踏み入れた。
足元に何か散乱している。
暗くてよく見えない。
つまずかないように注意して歩く。
本当に出遅れたようだ。

いわゆる食品の代表格、おにぎり・弁当・おかず・パン・そして水やお茶など、一番大切なものはすでに売り切れている。
さらにカップラーメン・電池・充電機。災害時に必要なもの、蓄えとして役立つもの、それらは何一つ残っていなかった。

一瞬 途方に暮れる。
何のためにここにいるのか。
買わずに帰るのか。
それとも何か、手に入れるのか。

和美は目の前で、どんどん買い物カゴに入れてゆく人々を見ながら、頭の中でパチン!と自分をはじいた。
そして、おもむろに買い物カゴを手に取ると、残り少ないワンタンスープや菓子類をカゴに入れ始めた。

甘いの、塩辛いの、甘いの、塩辛いの。ピーナッツ、チョコレート・おせんべい。
本当にお菓子だ。しかし、何も買わないよりいい。

私が、この仙台で一人かもしれないこと。
この先、自分だけを頼りに生きなければならないかもしれないこと。
生きている。そう信じながら、もしもの半分の確立を、完全否定できない自分がいた。

だったら、今、たとえお菓子でも、無いよりはいい。
いや、家に帰れば、三日程度のものは冷蔵庫にある。
電気は止まったが、なんとか食いつなげる。
水も、自分一人なら、節約すればかなり持つ。

もともと水道水は、沸かしたものしか飲まない。
持病があって薬を飲むため、水は買って飲んでいる。
しかも2リットルを6本入りの箱で。
乾パンもある。缶詰もある。当面大丈夫のはずだ。

しかし、集団の恐ろしさ。
真っ暗な店内でのレジへの行列。
家族の安否も確認できない状態。
それが、和美の冷静な思考をストップさせ、三日分くらいの食料となるお菓子を買い求めた。

続く
2011年4月9日(土)

エンドレスヒール#23 -3.11

かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね

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