オレオレって、最近は言わないのね

あぁ、なんて忙しんだろう

子供の法要を今年初めから計画し、寺院に通ったり、仏事用具店にも何度も足を運び、さらに当日の供物から花など、様々な手配。
自分が、きちんとやりたい、絶対にやり遂げたいから、必死になって。

休みの日には、卒寿を過ぎた義父のもとに通う。
義母を十年前に亡くし、ひとりで暮らしているが、認知症、進みが激しく、夫や夫の兄弟とも相談しつつ対応しているが、結局、介護のため通っているのは、私ひとり。

施設入所が望ましいが、福祉法が改正されてから、本人の意思重視のため、今言ったことを忘れる義父の意思を明確にするのが、難しい。

それでも仕事はやめられない。
仕事している8時間だけが、私がなにもかも忘れられる時間。
子供のことで、立ち直っても乗り越えてもいない私には、人生において、その8時間は、必要な時間だと思っている。

今日は、やっと義父を説得して、施設見学に行く日。やっと見学だけ、承諾してくれた。
午後から行けばいいよね。家事もたまってるし。

ジリリリ！
固定電話が鳴った。

「はい」
「・・・誰か、わかる・・・？」

「・・・」
「わからない？」

「どちら様でしょうか？」

ガチャ！
切れた。
新手のオレオレ詐欺？

ふざけんじゃねぇよ！
こっちは忙しんだよ！！！

今度電話きたら、子供の名前を言ってやろうか。そっちはどう？って、聞いてやろうか。
死んだ父母や、義母の名前を言ってやってもいいかも？

･･･最近は、「オレオレ」って、言わないんだな。

私は、止めていた手を動かし、フル回転で家事終了に向けて動いた。

了

※事実をもとに、完全フィクションで創作しました。
ま、いずれにしろ、ひましてる高齢者ばかりではないと思いますが。