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元祖 巴の龍#70

兵衛は桐紗に近づいた。
「桐紗殿、あなたを信用するに足るものが、何かおありですか」


桐紗は少し斜めにうつむいて
「今の私には何もありませぬ。もしあるとすれば、菊之介への愛のみ
と頬を染めた。兵衛と大悟が菊之介を見ると、菊之介も赤くなってうつむいている。

菊之介のためなら、この命惜しくはありませぬ
兵衛は少し考えていたが、菊之介と桐紗を交互に見ると
「わかった。二人を信じよう。良いか菊之介、二人を信じるのだぞ
と念を押した。桐紗の顔がぱっと明るくなった。

「いやしかし、わたしは義姉上を連れて行くのは反対なのですが…」
菊之介は不満そうだった。すると大悟が笑いながら
「女にこれほど言われたら、男冥利に尽きるではないか」
と言ったので
「大悟、二人は真剣なのだから、そのような言い方をするでない」
兵衛にたしなめられた

菊之介は桐紗と歩きはじめて、いろいろなことが頭をよぎった。
菊之介と大悟の道中、いつも密かについてきて、いろいろ助けてくれたこと。
大物妖怪との戦いで必ず加勢してくれて、そのおかげで勝てたこと。
これらの心労がたたって、あの龍車との戦いで倒れてしまったのではないか。
それもこれもすべて菊之介のためなのか。そう思うと、いじらしく愛しく思う菊之介であった。

南燕山(なんえんさん)は殊のほか険しい山並みだが、桐紗は女の身でよくついてきた。いくつ目かの山を越えた時、急な斜面の岩山に出逢った。
菊之介らは、這うようにして山を登っていった。山の中腹辺りに来た頃であった。どこからか、恐ろしい声が響いてきた。

我が体を這い登るのは、誰じゃ
菊之介たちが周りを見廻したが、何も見えない。そのまま登り続けようとすると、ズルリと岩山が動いた。しかも、うねうねととぐろを巻くように、岩肌がくねっていく。

「こ、これは、まさか…」
兵衛が山の頂上を臨むと、彼らが登っていたのは山ではなく、大きな蛇のような妖怪の体だった。

これは燭陰(しょくいん)です。身の丈千里、人面蛇身にして、赤色なりと。私たちは、燭陰の体を登ってしまったのです」

続く
ありがとうございましたm(__)m

※燭陰(ショクイン)も今までの妖怪も、江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕の妖怪画集から、調べたものです。(ゲゲゲの鬼太郎のファンですから(´艸`*)※

「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ


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