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エンドレスヒール#50 -3.11

2010年7月末

介護タクシーでの実習は、病院と家を往復するのが多かった。
予約されている利用者さんのお宅に伺い、通院・または入院の方、そして付添いの方を乗せて病院へ行く。
様々なお宅があり、必ずしも車いすが出しやすいバリアフリーではない。
車いすに乗せたまま、持ちあげて階段を上り下りする場合もある。

驚いたのは、利用者さんとの会話だ。
普通のタクシーでは、あたりさわりのない話をする場合、また話したくない時は黙って流してしまう時もある。
しかし、介護タクシーの運転手さんは、いつも利用される利用者さんをきちんと覚えていて、その介護の障害の状態も覚えている。
まるで家族か親戚のように話し、利用者さんも当然何もかもわかっている、と信頼している話し方をしている。

何かから何かに移動することをトランスファー(移乗)という。
ベッドから椅子、椅子から車いす、車いすからベッド等へ乗り移る時にサポートする、様々なトランスファーがある。

これもヘルパーという資格なしでは出来ないことだ。
正直、初めて座学でトランスファー(移乗)と聞いた時、トランスフォーマーというアニメを思い出した。
トランスファーの意味が移乗、乗り移る、と考えると、トランスフォーマーというアニメの意味もわかり、なるほどと納得したものだ。

そのトランスファーは、介護ではとても大切なことで、一連の動きは実技で何度も練習した。
しかし、実際のトランスファーは、習った通りではなく、ケースバイケースで利用者さんの障害の度合いによって、サポートする範囲が違ってくる。

見たこともない やり方の、車いすから車いすへの移乗。
和美は、利用者さんをタクシーに乗せるたび、新しい初めてのやり方に目を見はった。
何人かの方が乗り降りされた後、渋沢さんは移動中の介護タクシーの中で和美に語った。

「寝たきりにするのは簡単だ。何でもしてあげて、自分でさせない。
やって上げた方が楽だから、何でも手を出す。
すぐに何も出来なくなって、寝たきりになる。

自立支援とは、残存能力をいかに生かして、その能力を出来る限り残せるよう努力すること。
少しでも出来ることは、時間がかかっても、自分でやっていただくこと。

そして、さらに、出来ることが増えていけば、本来の自立支援へ繋がって行く」

まさに実践の自立支援 まさに福祉。
そして、利用者さんとのコミュニケーションによって信頼関係を築いている。
和美は、ヘルパーになるための最後の実習で、本物の福祉の姿を、この介護タクシーで学んだ。

遠い 遠い 荒浜だった。
帰りも2時間かけて帰った。
しかし片道2時間かけて行って学んだことは、和美のその後の福祉と向き合う姿勢に大きな影響を与えることとなる。

続く
2011年5月6日(金)

エンドレスヒール#50 -3.11

かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね

次回 エンドレスヒール#51 へ続く
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前回 エンドレスヒール#49 は こちらから
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