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落ちてゆく

ふと見ると 何かがはらはらと落ちてゆく。

桜の季節じゃあるまいし・・・。

眼前が揺らいで 何も見えなくなる。

「何見てんだよ」

男が後ろから首に腕をまわし 私は息苦しさに少しむせる。

のぞきこむようにして 男は私の肩越しに窓の外を見る。

そして 首をかしげると 顔をすりよせて つぶやく。

「泣いているのか。」

見えなくなったのは 私の涙のせい?

男は乱暴にその手で私の涙をぬぐうと 抱き寄せて唇を重ねてくる。

私の心には さっきの光景が焼きつき こたえる気持ちになれない。

何が落ちていったのか?

うつろな眼をした人形のような私に 男は不機嫌になり

苛立ったしぐさで タバコの火をつける。

「そんな態度なら、今夜はもう帰るぞ」

私は言葉を忘れてしまったように 押し黙ったまま。

男はさらに不機嫌になり おもむろに服に袖を通し始めた。

きちんと身支度し、最後のネクタイを締め終わると鞄を持つ。

「あ、そうだ。今日子供の誕生日だった。プレゼント買って帰らないとな」

捨て台詞を残し、去ってゆく足音。

また 眼前が揺れて見えなくなる。

落ちてゆくのは・・・。

窓の外に立ち去る男の姿が見えるはずだが、

もう そんなことは どうでもいい。

私はベッドの上で 笑い転げた。

                      byあすか

2000年代の初めころ


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そして、またどこかの時代で


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