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AIとの対話は「訊く力」が9割。

わたしが常にリビングに置いて、いつでも手に取本があります。古賀史健さんの『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』です。この本はコミュニケーションの核心となる「聞く」という行為を深掘りし、取材やインタビューの秘訣を紐解いています。

ここで書かれている話は、わたしたちがAIとの対話において重要な「聞く」という行為についても考えるフレームワークを与えてくれます。

この本では、古賀さんは「聞く」という概念を以下の3つに分けています。

  • 「聞く」:英語のhearに相当し、受動的な聞き方を指す

  • 「聴く」:英語のlistenに相当し、能動的な聞き方を指す

  • 「訊く」:英語のaskに相当し、相手に問いかける形の聞き方を指す

取材やインタビューでは、「聞く」から「聴く」へとシフトすることが重要で、この「聴く力」が取材の成果の7割を占めると古賀さんは述べています。そして、残りの3割は「訊く力」が担っています。相手が人間である場合、能動的に「聴く」姿勢をみせることで、相手は気持ち良くしゃべってくれるからです。

ですが、AIとの場合、その「聴く」姿勢はAIの返答に直接的な影響を与えません。むしろ、この場合、「訊く力」が重要となってきます。

では、AIとの対話における「訊く力」とは一体何なのでしょうか?

私の考えでは、大きく2つに分けられると思っています。

一つ目は、「正確な情報を引き出すための訊く力」です。多くのプロンプトエンジニアリングと呼ばれるテクニックが、この力を強化するためのものです。代表的なものには、いくつかの例を示すfew-shotsプロンプトや、順を追って考えましょうと伝えるstep-by-stepプロンプト(zero-shot CoT)などがあります。詳細は次のnoteでも紹介しています。

この「訊く力」は、対話相手がAIとなることで新たに必要となったスキルでもあります。どのような問いを投げると、AIがより正確な答えを返すのか、その研究が日夜繰り広げられています。新しい生命体、たとえば宇宙人と遭遇して、コミュニケーションの方法を模索している感じですね。

二つ目は、「面白い回答を引き出すための訊く力」です。ここで言う面白いというのは、他では得られない、そこでしか得られないという「情報の希少性」を指します。そしてそのために必要な能力には、人間に問いを投げる時と同じような「訊く力」が求められると私は考えています。

たとえば「人工生命の専門家」に、「AIが生命化するとどうなるのか?」というテーマでインタビューする場合を考えてみてください。もしも人工生命とはそもそも何なのか、専門家がどのような研究をしているのかを全く知らずにインタビューに臨むと、記事にするためには何を問うべきなのかわからず、面白い記事にはなりません。

AIとの対話でも、事前準備をせずに突然訊きたいことを訊ねるのは、ぶっつけ本番ででインタビューに臨むのと同じです。そうすると、どうなるか?AIから引き出せる情報は「いつもの話」になります。それは他の誰が聞いても同じ話で、面白みがありません。そこには情報の価値は存在しません。

では、どのようにして「面白い回答」を引き出すのでしょうか。

その技術はプロンプトエンジニアリングの別の側面にあります。たとえば、ペルソナ(Persona)を設定して、面白い話が引き出せそうな状況を設定します。たとえば、先程の人工生命の専門家なら、AIに面白そうな話を引き出せる人工生命研究者のペルソナや研究しているテーマを設定します。そして、そのためには、人工生命がそもそも何なのか、専門家が何を研究しているのかといった事前準備が必要となるのです。

このように、面白い話をAIから引き出すためには、人間から面白い話を引き出すときと同じような「訊く力」が求められるのです。

たとえば、古賀さんの本では、取材における「質問する力」を考えるために、「接続詞」をうまく使うことを提案しています。

  • 「でも、〇〇じゃないですか」

  • 「つまり、〇〇ということですか」

  • 「ということは、もともと〇〇じゃなかったのですね」

AIへ訊くときも同じように、回答をさらに深掘できるような質問力を持つと、他の人では引き出せない回答をAIから引き出すことができます。

AIとの対話には、「正確な情報を引き出すこと」と「面白い回答を引き出すこと」という二つの質問力が存在します。多くの場合、正確な情報を引き出すための質問力に注目が集まりますが、古賀さんが提唱する接続詞を使用した手法のように、より面白い回答を引き出す質問力にこそ、今後のAIとの対話の可能性が秘められていると感じています。なぜなら、単に事実を追求するだけでなく、AIとの対話によってわたしたちが新しい視点を見つけたり、深い洞察を得たりするための道が開け、よりAIと共に進化していく未来につながると思うからです。

それでは、また。ciao!


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