『スリル・ミー』 2023 木村前田ペア 感想

9月13日昼、観劇してきました!
まだまだ余韻に浸っていますが、忘れないうちに感想をまとめます。「スリル・ミー」という演目についてはショッキングな内容で注意が必要と聞いていましたが、私個人としては具合が悪くなったりもせず最後まで観ることが出来ました。以下、ネタバレしかしていないのでご注意を!




①ストーリー全体について
この物語、殺人さえなければ、ありふれた青春だと言うのが第一印象でした。
憧れの気分屋でつかめない友人、それを追う「私」。ちょっと荒れてはいるけどこの年代の若者がやる悪さとしては珍しくもないことばかり。後にそんな単純な構造ではないことが明らかになりますが…。あと追いかけ方がとんでもない。

作中、2人は意外にも生粋のサイコパスとしては描かれていませんでした。もしこれがエリート達の完全犯罪的な物語なら、ある意味他人事として冷静に観劇出来てしまうところ、この2人に普通に人間味があるから逆に怖く、そこにこの作品の意図があるんだと受け取っています。美しい楽曲と危険な恋愛関係に惹きつけられながら観て、終わってみたら登場人物の言葉の真意や本質を探りたくなる舞台でした。

②役者さんについて

「私」
(木村達成さん)
欲しいものを欲しいと言える、その為にみっともなくもなれる。「私」は色々なものに縛られず、自由に見えました。
「彼」には縛られていると言えるのかも知れないけど、あくまで自分が好きだから追っているだけ。他人に強制されたり、何か他に思惑があって仕方なくやってることじゃないんですよね。
…これ、後述するインタビューで木村さんが「私」の気持ちを『欲しいから買いたい』(https://ideanews.jp/archives/141349 記事の無料部分にある小見出しにこの発言があります、詳細は有料部分)と仰っていたのですが、それでより解像度が上がりました。ほんとにシンプル。でも「彼」の方では他者に優越的に振る舞いたいとか、虚栄心を満たして欲しいとか、色々な思惑があって「私」と一緒にいる。それが分かってるから、少年の事件以前の盗みの段階から証拠を保存していて、何かあればそれを利用して「彼」を支配下に置くことで一緒に居続けるつもりだった。

なんかこう、「私」は「彼」が自分と一緒にいるのは今その条件が揃っているからであって、愛情があるからではないと感じていたからそうやって少しずつ外堀を埋めていったのかな〜と思いました。そして自分だけ先に捕まってみて様子を伺い、それを確信したから支配関係を逆転させて手中に収めた。
そして愛情がないと分かるのは、自分はあるから。愛を行動でも言葉でも示すし、「私」は与える側の人間なんですよね。でも結果彼を陥れたりして、相手不在の愛情でもある。愛してるが故に憎い、「彼」の中に自分が存在できるなら、もう手段は選ばないところまで来てしまっている。

私が観た回ではあまり「私」の毒性みたいなものが強くなくて、「彼」が死にたくないと叫ぶシーンでも表情が読めないし、ラストもかなりほろ苦いハッピーエンドだな…(木村さんの『僕はハッピーエンドにしますよ!』という発言が下記のインタビューにありましたhttps://lp.p.pia.jp/article/news/280834/index.html?detail=true&page=3)と思ったらカーテンコールでも木村さんが恐らく役を引きづって泣いてらして、その印象も相まってより切なかったんですよね。何も手のうちに残らなかったね、みたいな…。もうこれは完全に私の主観なので分かんないんですが。ただ正直、「私」にはその心情にともすれば流されてしまいそうな部分がある一方、その愛に利用されてしまった少年の命は…?という、重い罪がそれを許さない、この作品が描こうとしていることを象徴する人物に思えました。

「彼」役
(前田公輝さん)
最初からずっと高圧的で、張り詰めた緊張感を抱かせる人物でしたが、見事に「私」の罠にかかってましたね…。

人は悪意より、好意を向けられると身動きが取れなくなると言いますが、本当にそんな感じの「彼」でした。きっとあんな熱烈な愛した方してくれる人他にいないから、手放せない。「私」からの好意を維持する為に、突然姿を消して自分への思いを募らせるよう仕向けたり、時には身体まで使って繋ぎ止めようとしたり。そこまでしても満たされなくて、より非行に走ったり、恐らく「彼」の外見やお金目当てであろう仲間とつるんで遊びまわってるのも虚しい。見てくれが良くて裕福で、だけど愚かで圧倒的に奪われる側の人間でした。

「彼」、「私」のこと全然好きそうじゃなくて、少年の事件で「私」だけが捕まった時も迷いなく見捨てるし、満たされなさを他人への攻撃でごまかしてるのも共感出来なくて、最後は天罰が下ったなと思ったくらいだっんですが、絶対拾えてない台詞とか表情とかあるはずだから、もう一度観たら印象が逆転するかも知れない。その幼さで周囲の全てを壊してしまう「彼」でした。

③その他について
舞台の内容について書いてきましたが、ミュージカルという点で言うと木村さんと前田さん、歌声が重なるととても美しい旋律になって、ずっと聴いていたかった。そもそも声が音として好き!CDください、切実な願いです…。

④読み物について
観劇前後で読んだインタビューや本を記録として下記にまとめておきます。

・ぴあ

初対面の2人の会話に、この舞台絶対観たいなとなりました。木村さんの変化球(的な発言)を鮮やかに打ち返す前田さん、打てば響くみたいな相性の良さめっちゃ出てる!観たい!!もう今観たい!!!の衝動が抑えられなくなる最高のインタビューでした。

・アイデアニュース

写真が劇中の2人そのもの、パワーワードも満載で読み応えが凄かったです。上下あって、無料部分が良すぎて残りもどうしても読みたくて会員になってしまいました…。有料部分もハイパー好きだった。上演後の続編記事も欲しいです、本気で!

・NHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラ 
→読めば読むほど、「彼」がニーチェの思想を正しく読み解いていればどうやってもこの思想からあの事件には辿り着かないことが分かってしんどいです。この本単体で、純粋に読む分には名前しか知らなかった哲学者の人生と何を目指してその思想に行き着いたのか知れて楽しい。

以上、書いても書いても終わらない感想でした〜!ほんと長いので、お好きなところだけ読んでいただければ…!それでは。

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