ミュージカル 『CROSS ROAD』 2024 感想



観劇のきっかけ&作品の印象



観劇のきっかけはエリザ役の元榮菜摘さんです!「四月は君の嘘」で主人公のライバル絵見で拝見して、迫力ある歌声と存在感で凄い、カッコいいなと思っていたところ、今度はプリンシパルキャストなんだ〜!嬉しい!!!と思って観劇に至りました。

主人公のバイオリニスト、パガニーニについては、やまみちゆかさん(@yamamichipiano)の漫画を読んだことがあり、子ども時代をしっかり描くとかなりシリアスになるけどどうするんだろう?と思ったらそこはマイルドになっていて、あくまで主題は音楽だったので今回はそっちの側面をピックアップするんだ!と思いました。演奏が素晴らしすぎて「悪魔と契約した」と噂されていた史実をもとに「本当に悪魔と契約していた」という設定にするの、フィクションとして楽しすぎる。


各キャストさんの印象


アムドゥスキアス(音楽の悪魔)
中川晃教さん



お茶目でふざけたところがあるけど油断ならない人物。なんならそのお茶目な性格、人間に警戒されないために身に付けたものですよね…?神に見捨てられ、契約した人間に音楽を奏でさせそれでもって神を圧倒することでしか翼をもがれた惨めさを癒せない彼ですが、孤独でありながらそれを楽しんでもいて、そこが悪魔たる所以かなと感じました。

歌は圧巻!ご本人も歌う楽曲を「超絶技巧」と評していたけど、それにより一層彼が人ではない存在であることが示されていて、お茶目さとのギャップが凄かったです。一番好きなのは初登場でストーリーテラー的に「1840年〜悪魔との契約で全てを手に入れた男…」って歌い始めるところ。(♪「CROSS ROAD」、https://youtu.be/90MZUQgekSg?si=tS2zp6XCppMpoEyy  ミュージカル、映像化されない作品ばかりだから歌唱動画あるの嬉しい。何回も聴いてます)一気に作品に引き込まれました。

ニコロ・パガニーニ ※ダブルキャスト

相葉裕樹さん


序盤のアーシャとの「失せろ」の一連のシーン、「この俺様にはそれだけの価値があるからな。ハッハッハ!」みたいな雰囲気で、じ、自分のこと大好きだな?!ってちょっと面白かった。あとエリザへの「そうだな」が甘い。

バイオリンなんかやってなかったらもっと天真爛漫な、僕愛されて育ちました!みたいな少年だったんだろうな〜と思いました。なまじバイオリンの才能があったばっかりに…。思うように弾けなくてプライドはズタズタになっていくし、母親を楽させたいのにお金はないし、まさしく「若き虚栄心」で悪魔と契約したなという印象。母親のことは最後の一押しで、弾けない自分が許せなかったという部分もそれなりに強そう。

エリザとパガニーニの関係は微妙だなと思ったけど、バッチーニはエリザのこと少しは恋愛的な目線で見ている…?なんか彼、モテるしそれを嬉しくは思ってるけど、恋愛に夢中にはならない人なんだろうなぁと感じました。それこそ、他人からの好意は望まずとも手に入るから、欲しいと思ったことがないのかも。でもエリザに見せる笑顔とか、甘い喋り方で「それは好きになっちゃうだろ!!!」って頭抱えた。いやさり気ない感じなんですけどね。逆にアーシャとは兄妹みたいな、「こいつ、こんなに邪険にしても全然めげない…」という敗北感もありつつの賑やかな関係で、それも可愛かったです。

木内健人さん


序盤のアーシャ追い出すシーン、めちゃ怖い。神経質な人を怒らせてしまった!!!って感じ。私が子どもだったら客席で泣いてたと思う。あんな態度とられたのにアーシャよくそんな元気に追いかけ回すね?!でもあんなに壁を作ってるのに、それでも何回も何回も「あなたの音楽が好きなの!」って太陽みたいなアーシャに追いかけて来られたら、心も開くよな…と。繊細で優しくて、バイオリンやってなくても子どもの頃から家の経済状況とか心配するような大人びた子どもだったんじゃないかな。 

悪魔との契約ではもう壊れそうというか、頭の冷静な部分では自分が何を売り飛ばそうとしてるのかは分かってるけど、今の状況に耐えきれなくてその条件を飲んだのかなと感じた。彼の繊細さや優しい気質が仇になったというか…。

エリザのことはビジネスパートナーとして大切にしてそうだったから、寝ながら手を握ってるシーンで「えっ、エリザにちゃんと気持ちあったんじゃん!」ってびっくりした。エリザだけが彼のこと好きなのかと思ってた。
一方、普段が落ち着いてる分、アーシャには完全にペース乱されてる感があって面白可愛かった。あの関係性大好き〜!!!
後は酔って寝てるところをアルマンドにトランプ入れ替えられちゃうシーンで「やめて…」とかむにゃむにゃ小声で言ってるの可愛いかったな〜、ぽわぽわしてる。次は悪魔との契約なんて背負わない人生を生きて欲しいな…。

アーシャ ※ダブルキャスト


加藤梨里香さん


情熱的でアグレッシブ。心の炎のままに音楽を求めていて、パガニーニの周りの闇なんて全部焼いちゃいそう。パガニーニにギャンブルについて教えてあげるシーンもえーいっ!って彼の横に座りに行ってて可愛いかった。パガニーニにバイオリンのケースをアゴにゴンって(うっかり)当てられるやつも好き。「どうしてそんな契約したのよ!」の台詞もうわぁ!ってパガニーニに食ってかかりながら泣いてて、こっちももらい泣きしそうだったな…。

有沙瞳さん


のびやかな歌声が好き!おおらかで滅多な事では動じないアーシャ。パガニーニに怒鳴られてもめげず、しっかりと自分の意見を言い返す。場面によってはパガニーニより精神年齢が高そう。自分が何者でありたくて、何が欲しいかきちんと分かっている聡明さに惹かれる。透明感があって素敵でした。

アーシャはジプシーとして大変な人生を送ってきて、「だから音楽が欲しい」と言いますよね。「音楽に差別はない」「音楽が私を自由にする」と。パガニーニを見ている我々観客は、音楽が時に人を苦しめ、絶望の淵に落とすことを知っているけど、アーシャが力強く語る「音楽」こそが本当の音楽であって、それを彼女は守り続けていくのかも。 
(この楽曲も大好き!もっともっとアーシャの歌声聴きたかったな。https://youtu.be/zld6dmz1byA?si=UnmruLMQ6v9LtcIo

エリザ・ボナパルト
元榮菜摘さん


色んな人のファンとして生きてきた人間として我が身を省みるというか、誰かを絶対視する暴力性みたいなものが見えて辛かった。彼女はあくまでパガニーニの音楽に救われる側で、彼女がパガニーニを救うことはない。彼女こそ彼の音楽だけを求め、パガニーニ自身を見ていないのかも。彼女は彼が自分を「エリザ」として見てくれたことにこそ救われているのに…。だからこそ最後そうしたように、もう離れるしかなかったんだろうなと。
楽曲の中ではアムドゥスキアスと踊りながら歌う「Tango To Sin」カッコよくて好きでした。

コスタ(パガニーニのバイオリンの先生)
/ベルリオーズ(破産寸前の音楽家)
坂元健児さん


コスタ先生としてはあの愉快な「才能〜才能〜♪」のお母さん(テレーザ)とのダンスから教会にパガニーニを悪魔と契約した元教え子として突き出す変わりようが印象的だった。全体としてはベルリオーズとしての姿が思い浮かぶけど、どんなかっこ悪くても必死に自分と向き合い、他人をさえ守ろうとする姿を見て、パガニーニにもこの強さがあれば悪魔と契約はしなかったんだろうな…と思った。ベルリオーズみたいに悩み苦しみ、それでも諦めない心を持っているのもまた人間という希望があった。

アルマンド(パガニーニの執事)※ダブルキャスト


山寺宏一さん


明るくサービス精神旺盛。ちょっとおっちょこちょいで、くるくる変わる表情が楽しい。こんな何でも出来て、周りの人からも愛されていそうな人きっと引く手数多なのに、パガニーニの死後塀に落書きされ、庭を踏み荒らされ、どの教会にも引き取ってもらえないご主人様が眠る御屋敷を一人ぼっちで守っているの想像するだけで辛い。でも離れたくないんだろうな…。提案なんですが、もうアーシャがあの御屋敷に住んじゃうのはどうですか?絶対毎日楽しいよ〜!お願いします。

アーシャにパガニーニの人生を説明する前の台詞、ヤママンドさんはこれだったかな?
「(かなり長くなりますよ。)お話しした後、30分ほど休憩をいただいても宜しいでしょうか。何かお食べになります?」今回、一幕のあとの休憩30分だったもんね!博多座さんは座席で食べ物食べれたりもするしね、うんうん。

畠中 洋さん


本来は静かでスマートな人なんだけど、ご主人様のことが大好きすぎて心配すぎてキャンキャン言わざるを得ない。多分他の人に仕えてたらあんな彼の可愛い一面は引き出されないんだろうな〜と思った。微笑ましい関係…余計に別れが切ないよ。

パガニーニの人生説明する前、ハタマンドさんが言ってたのはこれだったはず!
「(〜長くなりますよ。)まずは私の生まれから」いやどんだけ話すの?!!もしかしてハタマンドさん、自覚なき天然…?ますます人として可愛くて好きになってしまう…!

テレーザ(パガニーニの母)
春野寿美礼さん


なんの根拠がなくとも信じて突き進む強さ、それが息子を追い詰めてしまったところもあるけど、最後は自分のことをいつも誇りに思ってくれてる人がいるという事実で息子を守った。

なんかこう、ある意味母親としての業もあるんだけど、女神みたいだったな〜。時に残酷だけど常に正しい。このストーリーに神は現れないけど、彼女がその役割を務めていたのかも。春野さんの凛とした佇まい、素敵でした。

・悪魔との契約


強烈な惨めさ、しんどさ。「どうしてもこれが欲しい」という欲求。この作品の登場人物たちは、これ以上なく切実に求めているのに手に入らないものがあるから、十字路で悪魔に出会うんですよね。 皆さんは、悪魔に願いたいほど欲しいものって、ありますか?

その意味でいうとアーシャはバリバリに素質があるから、ほんとにあの時パガニーニがいて良かった。アーシャのこともベルリオーズのことも守り切ったのはパガニーニだよ。(エリザも直前でアーシャに悪魔がどんな時に現れるか、何が狙いか教えてあげてたよね。皆で守った!)

ただ結果として、パガニーニも命や平穏な生活と引き換えに音楽を奏で、それをきっかけに色々な人と出会って変わって行くんですよね。皮肉にも「悪魔と契約しなくても良かったのかも」とその出会いを通じて気付いていく。その先に何があるのか…。最後の賭け、本当に心に残りました。

以上、いつものことですが長い長い感想でした。気になるところだけでも読んでもらえていれば幸いです。それでは!

#ミュージカルクロスロード