実際の判決文を読んでみる(令和3年度共通テストを踏まえて)

序論(物好きな方は読んでください)

「考える力」を念頭において、従前の「大学入試センター試験」から傾向が一新された「共通テスト」の令和3年度試験(今回は新型コロナウイルス感染症による種々の影響から本試では第一日程と第二日程が設定された(※1))が実施されてから、早1ヶ月が経過した。

「公民」においては得点調整が実施され、「現代社会」と「政治・経済」は得点が上昇し、「倫理」は得点が低下する調整がされた(『倫理,政治・経済』は設問の特性上得点調整はされない)(※2)。私は受験生でもないので難易度について所感を語るのは適していないので差し控えるが、どうやら「政治・経済」はやや難しめだったようだ(※3)。

私が注目したのは、(法学部生として)当然第2問のA問題である。

種々の権利の関係上、問題は直接掲載するのが難しい(※4)が、内容は問1が判決文を2箇所引用し、資料1で三菱樹脂訴訟の話だと気付き、資料2でその判決の内容を踏まえて判決の趣旨に沿うように穴埋めをするもの。問3が義務教育教科書被告費負担請求事件判決文とそれに関連して義務教育の無償化について論評した2つの著作を引用し、内容に合致する記述を選ぶものだった。

特に法学部を目指していない一般の受験生の、法律に対する興味が如何ほどかいまいち認識していないが、判決文そのものに目を通したことのある人は極少数だろうというのは分かる。私もあまりに長い判決文を読むのは嫌いだ。

しかし、公的機関の発する文章は、ただでさえ堅苦しくて一般には読みにくい文章であるのに、裁判所の発する判決文は、やけに格調高く、また事例や法律に対して慎重に扱うため、日常では一言で済んでしまうような単なる事実を数ページにも渡って長々と述べたりするものだ。

今回はそこまで踏み込んでない5~8行程度の引用でも、慣れていないと読みにくいものであるのは間違いない。試行調査では、過去に見ず知らずの法律の条文を引用したり、他にも政令その他の命令が引用され問題文に登場する可能性も大いにある。

そのような場合でも共通テストの公民(「倫理」を除く)で高得点を狙うために、公的機関の発する文書に書かれているような文章を読むことに慣れてほしいという思いから今回これを執筆している。


※1:日程の設定については、1月16・17日が本試験、1月30・31日が追試験及び再試験、2月13・14日は特例追試験(追試験の追試験という名目)ではあるが、事実上1月の2回が本試で、2月が追試験の扱いであった。また、特例追試験は以前のセンター試験の予備問題として作られた問題で、形式もそれに則る。(参照:「共通テスト、高3生の希望で日程選択…大学側は特例追試の扱い困惑」読売新聞オンライン2020年7月1日https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20200701-OYT1T50044/)

※2:共通テスト(1月16日・17日)の得点調整について - 独立行政法人大学入試センター https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/tokutencyousei.html

※3:参考までに、大手予備校による分析は代ゼミが難化(試行調査との比較では変化なし)、河合塾と東進と駿台・Benesseがやや難化と評価した。

※4:大学入試センターは2月28日時点で問題を掲載しておらず、同時点で予備校のサイトや新聞等からの入手するしか手立てがない。問題自体の著作権はないと思われる(あるとしても独立行政法人大学入試センターだが、著作権法第13条は独立行政法人の「発する告示、訓示、通達その他これらに類するもの」は著作権等の対象にならないと定めている。ただし、問題がその他これらに類するものに該当するかは解釈の余地がある)が、問題をスキャンした画像についていかなる権利が発生するかはイマイチ分かってない(発生しないと思っているが)。参照は前述の方法で各自で願いたい。




本題

趣味で高校時代はセンターを模した問題を作って友達に投げつけてた。そんなものを受け取ってくれる友人がいない今は、インターネットの海に放流するしかないが、如何せんTwitterでは様々な制約があるので、このためにわざわざnoteのアカウントまで作ってしまった。

私は問題を作るときは、先に必ずひとつやりたいことを決める。例えばリード文となる文章のテーマ。例えば出したい問題や取り上げたい分野。

そして今回は、かの最高裁大法廷令和3年2月24日判決を問題に資料として引用して問題を作りたいという思いから問題を作る運びとなった。

あの日本の最高裁がそうそう出さない違憲判決が出るなんて、と誰しもが耳を疑うであろうが、驚くべきことにこれは事実なのである。

とまあ大々的に話を盛ったり自分語りをしたところで誰も見てくれやしないので、さっさと下に自作の問題を掲載します。

All rights reserved.


解答及び解説は、やる気と余力があったら後で作って、追記の形で添えます。




余談 その1

この問題を作成するにあたって、当然今年度の共通テスト以外に、平成30年に行われた共通テスト試行調査等も見たのですが、中には何を思ってこんな問題にしたんだってのがあってね……。


平成30年度試行調査_問題、正解等https://www.dnc.ac.jp/sp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1111.html


現代社会第3問の問5。

一体何を思って並び替えにしたんだ?という。

この試験を通して法的三段論法を身に付けさせたいという動機がセンターにはあったのでしょう。そうじゃなきゃこんなの現代社会で扱わんし(すなわち、この意図あってこの問題あり、この問題あってこの意図ありという必要十分の関係になっている)。(※5)

法的三段論法なんて、やるなら数学か国語だって相場が決まってるだろうに。なぜここで出したのか意味が分からない。

ていうか、そもそも法的三段論法なんて六字もある熟語だけど、やってることは中学生でも理解できる。やろうと思えば、知らなくてもまともな学部1年生であるなら進級するまでに身にはつくし苦労しない。そのレベル。

確かに、内容が真正面から法学と向き合ってる科目はないにせよ、法学に触れたいって気持ちはあったとしても、やり方が気持ち悪い。

気持ち悪いというのは、あからさまに実務を意識した作問であること(法的三段論法は法学の学習の目的ではないし、使用する場面は、レポート書くときか法曹実務について裁判するときぐらいでしょう。法学だって言って出すトピックではない)。ああ、こんなとこにもいろんなところ()からの影響が来てるのか、と(実用英語とか、国語で小説消そうとするとか、今更だけど)。


※5:「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性等と本年11月に実施する試行調査(プレテスト)の趣旨について―独立行政法人大学入試センター、平成30年6月18日https://www.dnc.ac.jp/sp/albums/abm.php?f=abm00035410.pdf&n=%E5%8F%82%E8%80%83%E8%B3%87%E6%96%99_180618%E5%85%B1%E9%80%9A%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%95%8F%E9%A1%8C%E4%BD%9C%E6%88%90%E3%81%AE%E6%96%B9%E5%90%91%E6%80%A7%E3%81%A8%E6%9C%AC%E5%B9%B411%E6%9C%88%E8%A9%A6%E8%A1%8C%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E8%B6%A3%E6%97%A8.pdf




余談 その2(というかここが一番重要かもしれない)

こうやって判決文を引用して問題を作ってみたわけだが、実際に本番でどれだけ引用された資料に丁寧に目を通しておけるか、不明である。

自宅で個人的に共通テスト解いたときは、『倫理,政治・経済』を40分かけて解いたが、昨年度までのセンター(30分で解き終わっていた)からしたら長くなっているが、その実政治・経済の方は15分程度で解き終わったので、それほど解くのに時間がかかるようになったわけではなさそうだ。形式に慣れていれば猶更。

判決文の引用に関しては、資料1を斜め読みして、所謂「私人間効力」について判示された三菱樹脂訴訟の判決文だとわかったら、資料2の方は選択肢と空欄の場所だけ見てから1秒で終えてしまったが(あまりにも選択肢もそれはねーよみたいなものしかなかった)、これは流石に大学でやったからなのだろうな、とは感じる。受験生にここまでのものを求めるようなことはない。

とはいえ、何についての判決かもピンとこず、資料問題だからと資料だけで解くには少々法学について進んだ知識が必要になる。

受験生としては、どの程度までの理解をしておけば十分なのか(多いに越したことはないが、キャパシティ等の関係から多少の制約はある。その中で効率的なパフォーマンスを発揮するにはどうすればよいのか)というラインである。

勿論、私は受験指導を生業にしているプロとは違うし、自分が常に満点を取れるようなスペシャリストであるわけでもないので、あくまでも参考になれば参考にして、ならなければ忘れるぐらいでいいと思う。

以下に、この類の問題を得点するための勉強法や勉強量の指針を示す。 

① ​法律についての基本的な知識や考え方を知る。

  「法律」は定義上憲法を含まない、国会で制定された法を指す。ここでは、いわゆる「六法」に行政法を加え(これを含めた「七法」が司法試験の必須科目)たものについてで十分だろう。あまり詳細を述べると長くなるので簡単に「民法」にだけ一言で説明すると「財産の取引を円滑に行い、私的社会の健全な発展」が基本理念だろう(家族法分野に言及がないのはご愛嬌)。

② 何度か、自らの手で判決文を読んでみる

  これはあくまでも文章の形式に慣れることが目標である。教科書に載ってるような重要な判例のうち、上級審判決ならば確実に載っているはずだから、まずはそこから当たってみるといいだろう。と言っても、判決文はときには最高裁のものでも20頁以上に及ぶこともある。これについてはもし機会があれば別に記事を書くかもしれないが、少なくとも全部はいらないから、(裁判所が判決文に付している)下線の付近は読んでおいた方がいいだろう。最初は結構読みにくいが、数をこなせば多少は慣れるし、知ってる資料が出題されたらアドバンテージである。


以上が目安である。②は毎日やれとかじゃなくて、1ヶ月に1度でも、受験までに3個でもいいから読んでみた方がいい。

あと、以前弊学の赤本に書いてあったが、MARCHや関関同立以上のレベルの政治・経済を入試で使う場合は、多少進んだ法学の勉強が必要らしい(個人的に必要に感じた記憶はないが)。

これは上記の①に繋がるが、本を読んでみるといいかもしれない(というか読書は高校生のうちからやっておけ。その方が絶対いい)。

高校生まで本を読む習慣が本っ当に無かったからどの本がいいかは分からないが、1冊だけ薦められるのが『高校生からの法学入門』(中央大学法学部、2016年)は勉強の役に立つことが期待できる。取っ掛かりとしては良いだろう。

他に何がいいかは正直知らないし、多くは少なくとも学部1年生以上向けだから難しいかもしれないので、「入門」等の文言が付いた厚すぎないものでいいかもしれない。



というところで、余談の方で長くなってしまった。元々ここは書くつもりなかったんだが、文字数見て、少ねえなぁ…なんて思ってしまったがために。

まあ多分、今後も大学入試や「公民」という科目、他法律関係のあれこれ(勉強法でも最近の事件でも何でも)で気が向いたら書こうかな…なんて思っていたり。毎回140字の制限を気にする必要がないしね。

ただ多少ソースとかはしっかりしないとなあ…とは思……っても面倒じゃないね(自分で気になって調べたものを貼ればいいだけだし)。

こんな感じで、エッセイ形式で書いてくのがTwitterで慣れてる自分にはちょうどいいね。

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