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高校演劇がアツい理由~今年もやってきた『青春舞台2023』

青春舞台…毎年秋頃にNHKで放送される全国高校演劇大会の様子を撮影したドキュメンタリー。トップに輝いた最優秀賞作品も丸々放送される。


今年もこの季節がやってきた。私にとっての甲子園はここである。

「演劇の大会って何するの?」と思うかもしれないが、実のところその審査基準を上手く説明することは難しい。プロみたいに大がかりな舞台や衣装を用意していれば賞が取れるということでもないし、インパクトのある脚本なら取りやすいかというとそれも違う。最終的には「審査員の好みでは?」と言われてしまうこともあるが、正直否定は出来ない。しかし、芸術は比較的、個々人の感性にその評価基準が委ねられる。むしろそうでないと"良い演劇"という型が決まってしまうので、文化は衰退するとすら思っている。その結果として審査結果に不満がある人が出るのはある程度必然にはなってしまうのだ。

ただ、私なりに高校演劇大会の最優秀作品を過去何作も観てきた中で、受賞する作品の共通項を見出している。それは「高校生が演劇というフィクションに向き合えているか」ということだ。

高校演劇大会ではその時の時勢を反映した演目が取り扱われることが多い。一方で、それを飛び道具のように使っているだけでは内実伴わない作品になる。画の美しさや脚本の素晴らしさに頼るのではなく、それを舞台でやる意味を見出せるような作品が受賞している印象だ。

さらに、高校生が部活動を通してこの大会で演じることの意義も感じられるとより評価されやすいようにも思っている。
高校演劇がアマチュアの劇団と違うのは、それが高校野球のように"高校演劇"という一つのジャンルとして成り立っているからだ。等身大の高校生が「この作品を演じることで何を伝えたいのか」という視点をしっかり持って舞台に立つということが重要になる。
もちろん、プロの劇団も役者や裏方はみなそういう意図で芝居をすると思うが、組織として運営しているそれと高校生の部活動は確実に異なっている。「顧問の先生に言われたので」という言い訳も出来る。しかし、大抵全国大会レベルに出場している学校は、自分達が作る作品に対して向き合う覚悟があるように思う。演劇は自分との対話でもあると言うが本当にその通りで、十代の若い高校生達が今の世の中に対して感じていることや訴えたいことを自らの芝居経験を通して昇華していく様子があるから、高校演劇はアツいのである。


さて、今年の頂点に輝いたのは徳島県立城東高等学校の『21人いる!』。

舞台は現代の高校演劇部。色の名前でネームドされた高校生達は部活動に勤しむが、一方で男子は順々に“ボランティア”に駆り出されていく。
このボランティアの正体とは観ていれば分かってくるのだが…その実『21人いる!』という作品は戦争という言葉を一切使わずに現代日本で戦争が起きたifを描いている作品なのである。
高校生達は私達もよく知る等身大の令和の子ども達。恋愛の話をしたり、動画配信してみたり…これらは過去の戦争を題材にした作品では見ることの出来ない光景だ。よく知る当たり前の日常に投下されるボランティアという言葉は、観客へ様々な感情を与えてくれる

登場人物が色の名前でネームドされているのもニクい。21人も舞台にいると正直誰が誰だか全く分からなくなるものだが、皆が一様に自分の名前になっている色を何かしらの形で身に付けているから、誰について話しているのか分からなくなることがあまりない。その上で“戦争が生む激しい管理社会”も体現しているから見事だ。

そしてラストシーン。色から個を表すそれぞれの名前が戻り、姿はなくとも21人全員が揃うシーン。これは圧倒的フィクションだが、現実にどこかで起きていて、これから起きるかもしれないという気持ちにさせられる。

この素晴らしい脚本ありきの舞台ではあるが、何よりそこに等身大で真剣に向き合った部員達が素晴らしいと思う。“現代を舞台に戦争を描く”という重い課題にしっかり取り組んだ結果が何より選ばれた理由なのだろう。


他にも番組でインタビューされていた高校はどこも題材から興味深く、生徒の舞台に対しての姿勢も非常に真剣さが感じられ、実際に演目を観てみたいと願っている。しかしこの一度限りの時間というのもまた高校演劇の醍醐味だ。

毎年NHKで本当に良いものを観させてもらっているな…と思いつつ、実は現地の全国大会を観たことはほぼない。遠方であることが多くなかなか都合も合わないが、いつかは高校生達の熱い勇姿を肉眼に焼き付けたい。

おめでとう! 徳島県立城東高等学校!!

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