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「あわい」を表現する

「あわい」中村宏太展開催中です。
みぞえ画廊福岡店では2回目の個展となります。
前回個展の様子は↓こちら

前回は、弾丸を用いた美しさと危うさの同居する緊張感のある作品がメインでしたが、本展では平面、立体、インスタレーションなど過去の代表作も交えて幅広く展示されています。素材も様々ですが、そこには通底するテーマがあります。
それは、あらゆる物事の境界を表現している点です。

相反するものが境界を超えて同居する

「beyond」 2019年
「beyond」 2019年 部分

ガラスの他、様々な素材を重ね合わせ、弾丸で撃ち抜いた作品。
その下にある太く黒い木は、築60年ものの古民家に使用されていた梁です。年輪からして樹齢も相当なものであることが伺えます。
衝撃を受けた瞬間のガラスの儚さと激しさ、長く年輪を刻み木材として久遠の時を生きる有様が同居する作品です。
その姿は、衝撃を受けた瞬間のまま静止し、元の姿より確かな存在感を持って生まれ変わったかのようです。ガラスは壊れてしまっているのに、不思議ですね。

アーティスト同士が時空を超えて共有した世界

その向こうにはひときわ目を引く、ヒト型のオブジェが浮かんでいます。この作品では、中村宏太氏が夢で見た不思議な光景が再現されています。真下に寝転ぶことで、鑑賞者はその夢を追体験できます。

「女」 2021

金縛りになったと同時に頭上に現れた得体の知れない人影。鼻から息を吸うと女性っぽい香りがしたことから、「この人影は女性なんだ」と思ったところで目が覚めたのだそうです。
その印象的な夢での出来事を、親しくしている美術館の学芸員の方にお話ししたところ、「その光景は見たことがある、これじゃないか?」と見せてくれたのが、若林奮氏の画集にあるドローイングでした。それはまさしく、中村さんが夢で見た光景そのものでした。

夢と現の狭間にあるもの

これは、木?煙?それとも、脳の毛細血管のスキャンでしょうか?
その枝分かれは無限に広がっていくかのようです。

その根元は、よくみると、柔らかそうな枕。
その色合いは、見る角度によって繊細に移り変わり、幻想的な夜を連想させます。
枕を通して垣間見ることのできる無意識の世界。その枝の先は時空を超えて誰かと繋がっているのかもしれません。

中村宏太的日本。和紙、扇、透かしブロック

中村宏太さんは、海外の総合大学で哲学他様々な分野を学んだ後に、アーティストとして歩みを進めました。その経験からか、日本的なものについては特に意識的に向き合っているように思われます。
和紙は、以前から中村宏太さんの作品に頻繁に使用されています。ポートフォリオも和紙で作成されています。

「和紙の椅子」 2016年
墨を吸い上げて無垢さを失ってゆく和紙。しかし、心臓の位置を示す朱色の線は、その現実に力強い心拍をもって対峙する。
「与一」 2023年
平家物語に登場する弓の名手・那須与一から着想を得た作品。
和紙に扇を摺り上げたものを、銃で射抜いた。左下には中村家の家紋がある。
平家物語では与一の的中によって形勢逆転となったという。
「ズレ」 コンクリートブロック、鉄
かつて城下町だった町で多く見ることのできる透かしブロックだが、時代と共にその姿は失われつつある。日常の中で気が付かないうちに失われ、いずれ人々の記憶のなかでわびさびとして思い起こされる。鎌倉在住のアーティストならではの着眼点。

視覚と触角のあわい

丸とも四角ともつかない、金属の塊。
この作品は、座ってご鑑賞いただくことができます。不思議なことに、座った方はみんな笑顔になります。なぜだと思いますか?
是非ご体感ください。

「□→〇」 金属
WTC追悼コンペティションに出品した作品が元になっている。
人間よりも少し大きなスケールを想定されており、本作品はマケット。

写真では分からない、体験するアート。

現代アートはよくわからない…。
ならば、分からないまま、触れてみましょう。
画面越しで見るのではなく、ぜひ、体験をしてみてください。
分からない、これは何だろう?でも面白い?
そんなあなただけの感覚のあわいを発見することでしょう。

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