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君の居場所になりたい【シロクマ文芸部】


 ”舞うイチゴ 世界の頂上取った!!”

 新聞の一面を飾る記事は、隣の家に住む幼なじみのイチゴが新体操の世界大会で優勝を飾ったものだった。コーヒーを飲みながら新聞を眺めるケイタはイチゴが遠い存在になった様に感じてしまう。

 昨晩のスポーツニュースもイチゴの話題で持ちきりだった。テレビを見ながらケイタはイチゴに祝福のLINEを送ったものの、メッセージの数がハンパないのだろう。既読は付いているが、まだ返信も来なかった。

 ケイタは立ち上がると、冷蔵庫から苺を出してきて器に盛った。苺は赤くてツヤツヤで甘そうだ。一口かじったケイタは「すっぱ!」と顔をしかめた。どうやら苺の見た目にごまかされたようだ。苺に練乳を掛けながらケイタは独り言を言った。

 「甘いと思ったら甘くないな。まるであいつと一緒じゃん。あいつも見た目はかわいいのに、かわいくないんだよな」

+ + +

 ケイタはぼんやりとイチゴの事を考えていた。

 イチゴは世界で優勝したけど、その道のりはけして楽なものではなかった。小学生の頃から新体操のクラブに入り練習をしていた。始めてすぐに頭角を現したイチゴは強化クラスに入り、毎日練習に励んでいた。

 大会で結果を残していくイチゴは、友達と遊ぶ事もほぼせずに新体操に打ち込んでいる。その上、勉強も手を抜かないイチゴを見るたびに、ケイタはイチゴの体の心配をするのだった。

 「お前、そんな無理ばかりして大丈夫か?」
 「大丈夫だよ。あたし、新体操も勉強も好きだから。ケイタもね、あたしの心配する前に自分の心配しなよ!ケイタ、この前の数学のテスト散々だったじゃん」
 「人がせっかく心配してんのに。お前ってほんとかわいくないよな」
 「かわいくなくて結構です!だって、ほんとのことだもん」

 たまにイチゴの時間が空いた時は、ケイタの家に遊びに来ていた。その時のイチゴは小さい頃と変わらない様子で、その姿をケイタはやさしい眼差しで見つめるのだった。

+ + +

 あいつ、こっちにはいつ帰るのかな。帰ってきたら、角のお好み焼き屋さんのお好み焼きと焼きそばのフルコースに連れて行こうか。普段は体重制限で好きな物なんて食べられないからな。あいつ、あそこのお好み焼きが大好物なんだよな。

 朝のワイドショーのイチゴの話題を見ながら、ケイタはそんな事を考えていた。テレビの中のイチゴは満面の笑顔で金メダルをかじっている。そんなイチゴにたくさんのフラッシュが向けられている。”舞うイチゴ”新聞の見出しが頭をよぎり、ため息をそっとつきながらテレビを消した。

 窓の外を見ていると、LINEの着信音が鳴った。イチゴからの返信が来たのだ。

 ケイタのおかげで優勝できたよ🏆🏅
 ありがとう😊💕
 離れていてもケイタを感じられるから
 あたしは安心して演技ができたんだよ⭐
 あさって帰るから、ご飯に行こうね🍚
 角のお店に連れて行ってね♪
 いつもかわいくない事ばかり
 言ってごめんね💧
 ケイタ、だいすきだよ💛💛💛

 LINEを見たケイタは驚き過ぎて、何回も画面を見直した。そして、改めてイチゴを好きだという自分の気持ちとイチゴの居場所になってあげたいという思いを感じた。

 スマホを片手にリビングをうろうろするケイタを母が訝し気に眺めている。

 「ちょっと、ケイタ。あんたさっきから何やってるの?あ、ねぇ。イチゴちゃん今度いつ帰るか知ってるー?」


おしまい


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小牧幸助さんのシロクマ文芸部に参加しました!
今回のお題は「舞うイチゴ」です。
幼なじみの恋のお話です。
かなりベタですが・・・。



今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪


#シロクマ文芸部



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