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性暴力被害に遭ったらどうする?

そもそも、「性暴力」ってなんだろう。
性暴力とは、望まない性的な行為、同意のない性的な行為を指す。
言い換えれば、「性的な行為に関連して自分の権利が侵害されること」とも言えるだろう。強姦(レイプ)やステルシング(相手に隠してコンドームを外す、穴を開けるなど)、痴漢、セクハラなどがこれに該当する。

※被害者が男性であるケースもあるが、今回は女性が被害者である場合の話が多くなってしまう(私が婦人科なので)。それについては申し訳ないが、妊娠の可能性がない以外、流れはだいたい同じなので参考にしてほしい。

いつもとは異なる文体なので読みづらいかもしれませんが、大切な内容なので最後まで読んでいただけると嬉しいです。
(読んでいて心苦しい気持ちに思う箇所があるかもしれないけど、そこはごめん!)

性暴力とは

性暴力と聞くと “夜道で突然見ず知らずの人に襲われる” “レイプは自分とは程遠いおはなし” “自分とは関係ない” と思う人は多いだろう。私もそう思っていた。
しかし、内閣府が行なった調査によると、女性のうち6.9%は過去に1度以上同意のない性行為を経験している。そして、そのうち初対面の相手からの被害は11.2%のみで、無回答を除く残りの87.2%は恋人、配偶者、学校や職場の同僚等、顔見知りからの被害であった。そう考えると、少し身近なこととして感じられるかもしれない。
(参考リンク:https://www.moj.go.jp/content/001347785.pdf)

司法における性暴力の認識

先に述べたように、基本的に私たちは同意のない性的な行為は全て性暴力として考えている。しかし、司法ではそうもいかず、一定の条件を満たしているもののみが性暴力として扱われる。細かい基準については長くなるので省略するが、大事なポイントのみざっくり書いてみる。
2017年の法改正によりいくつか変更が加えられた。110年ぶりの改正によりニュースなどで大きく取り上げられたため、目にしたことがある人もいるかもしれない。
強姦罪から強制性交等罪に名前が変わり、厳罰化され、膣による性交に加えて口腔性交も認められるようになり、男性も被害者として認められるようになったことなども大きな変更とえるだろうか。

性暴力被害にあった場合に考えられるリスク

妊娠

膣を使った性行為で、コンドーム等の使用がなく、女性側もピルやIUS等を使用していなかった場合、妊娠のリスクを考えなければならない。まずはアフターピルを適切に内服し、3週間経ったら妊娠検査薬にて妊娠の有無を検査する。アフターピルの副作用が出るかもしれないが、後遺症が残ることはないので安心して内服してほしい。(アフターピルに関する過去の記事)
もし妊娠してしまった場合には人工妊娠中絶をするか、出産をするか選択することになる。どちらにせよ身体的、精神的、社会的、時間的負担を負うことになる。しかし、すぐに決断できるはずもなく、時間だけが過ぎていく。そして、時間と共にどんどん愛着が湧いてきて正常な判断ができなくなるケースも多い。
人工妊娠中絶をする上で12週と22週は大きな分岐点となるため、それを過ぎると選択肢が減ってしまう。人工妊娠中絶に関しては別で記事をもうすぐ公開するので待っていてほしい。

性感染症

コンドームを使用しなかった場合にはこのリスクが高い。性暴力加害者は他にも複数の人と性的な関係を持っている(加害している)ケースが多いため、その分リスクも高い。血液検査等を行い、陽性の場合には適切に治療に繋げる必要がある。しかし、即日検査できるわけではなく、潜伏期間を加味すると数週間後に検査を実施する必要がある。さらに採血後も結果が出るまで数日待つことになるため、何もできずにただただ待つというつらい時間を過ごさなければならない。

身体的な負担

性暴力の中で薬を飲まされる、殴られる等の暴力を受けた場合、その負担も負うことになる。場合によっては違法薬物が使われることもある。当然、性暴力時の違法薬物使用は同意がないため罪に問われることはないが、事件のあと違法薬物に手を出してしまうケースもある。
※妊娠や性感染症も身体的な負担に該当するが、上記でまとめたため割愛します。

心理的な負担

妊娠していたら?性感染症をうつされていたら?という心配はもちろんのこと、加害者と一定の信頼関係があった場合には、信頼を裏切られることに対するダメージも加わり、うつやPTSDのきっかけになってしまうケースも珍しくない。場合によっては一生の傷になってしまうこともあるのだ。私は事件のあとから男性と手をつなぐ、ハグをする、密室で二人きりになるなど、自分の動きが拘束されかねないような状況が怖くなった。きっと一生怯えて生きていくんだろうな。

レイプ被害にあった時は

レイプの基本についてなんとなくわかったところで実際被害にあったらどうしたら?といった内容に触れていこうと思う。

被害を被害として認識する

これくらいみんな笑って流してるとか思う必要はない。我慢する必要ないよ。

身の安全を確保する

被害者と同じ部屋にいる、あとをつけられているなど、身の危険がある時は110番通報しよう。お店に入るなど、人目につく場所に移動するのも大事。

専門機関に連絡する

#8103と#8891という短縮番号がある。これについては後でまとめる。

病院早期受診

これについても後でまとめる。

自分は悪くないと認識する

自分に落ち度があったとか、断りきれなかったからとか、短いスカートを履いていたからとか、露出の多い服装だったからとか、派手な洋服を着ていたからとか考えなくていい。100%加害者が悪いと理解してほしい。

加害者を責めてもいいことを理解する

それまでに関係性のある相手が加害者になった場合、「お世話になったから」「今まで優しかったから責められない」、といった思考に陥りやすいが、それとこれとは話が別。性暴力被害にあった時はそれまでの関係は関係ない。今までのこととは切り離して別の問題として認識してほしい。

また、「自分だけが我慢すればいい」という考えの方もよく見かけるが、そうではないことを知ってほしい。性犯罪加害者の多くは同じような行為を繰り返している。加害しているという認識すらないケースも珍しくない。(事件のことについて話を聞くと「喜んでいた」と話す加害者は少なくない)被害者の一人が声を上げれば、加害を自覚させたり逮捕に繋げることにより、同一の加害者によって生み出される第二の被害者を減らせるかもしれない。

一人で抱え込まない

専門機関(後ほど別項目で詳しくまとめる)や家族やお友達など、信頼できる人に相談してほしい。被害にあった時に周囲の人に言い出せない気持ちはすごくよく理解できるし共感もできるが、一人で抱えるには限界がある。周囲の人間は助けてあげたいと思っていても、当事者がたすけを求めてくれないと周りは助けてあげられない。できるだけ誰かを頼ってほしい。

専門機関に連絡しよう

迷ったらどこに相談してもいい。犯罪だからとりあえず警察に電話しようとか、性行為に関連する話だから婦人科に行こうとか、どこかしらに相談してくれたら適切なところまで繋げられる。どこでもいいが、迷った場合はこの先の「専門機関の連絡先」を参考にしてほしい。

これらの専門機関に連絡する場合は、直後だと一番いいが(証拠、身体的、精神的、法的)、もし期間が開いてしまっていても電話してOK。期間が空いている場合はワンストップ支援センターをおすすめする。

これらの番号はできれば覚えておいてほしいと思っているが、難しければ「こんな番号があったな」「この記事見れば書いてあるな」「みゆにDMすればわかるな」とか、その程度でも覚えておいてくれると嬉しい。

証拠

膣を使った性行為であった場合、精液や毛、DNA等加害者の残留物や、薬を飲まされた場合はその成分、殴られたりした場合はその傷が時間が経つと、割と早い段階で消えてしまう。そのためできる限り早く専門機関に連絡した方がいい。

被害にあった直後は警察沙汰にしたいと思ってなかったとしても、とりあえず証拠は押さえておいてほしい。被害の直後はびっくりしていて、正しい判断はできない。直後はパニックで大事にしたくないと思っていても、後からやっぱり届出を出しておけばよかったと思う時がくるかもしれないし、妊娠や性感染症といったトラブルがあった時、証拠不足のせいで制度が使えなくて選択肢を狭めることにも繋がりかねない。
証拠を保全する上で大事なポイントが4つある。
①体を洗わないこと。
②その時の着ていた服を洗わずにビニール袋に詰めておくこと。
③動画や音声を録音しておくこと。(SNSとかでアップすると肖像権の問題とか出てくるが証拠として持っておく分にはOK)
④メールやLINEを残しておくのも大事。
自分の手元に置いておくのがつらい場合は、袋やUSBに入れて友達や専門職(病院やヤンストップ支援センター、弁護士、カウンセラーなど)に預けておくのも有効である。

身体的

妊娠の可能性がある場合にはできる限り早いアフターピルの内服が必要。72時間以内(丸3日以内)というタイムリミットの中で内服しなければ効果が得られない。
※それを過ぎても方法がないわけではないからできるだけ早く婦人科に相談してね

精神的

うつやPTSDを避けるためにも、早い段階での適切な対処が必要。精神疾患は一度発症すると一生のおつきあいになってしまうケースも珍しくないため予防が肝心。

法的

裁判になった時、専門機関に電話するまでの時間が短ければ短いほど緊急性が高いと判断されるため、法的には強い。今の司法制度では、期間が開くと、裁判の時に「なんで電話まで1年開けたの?」とか言われるので、早く電話できるなら早い方がいい。

専門機関の連絡先

110

みんな知ってる警察に繋がる電話番号。緊急性が高い時はここ。
例:加害者と同じ部屋にいる・あとをつけられている

#8103 (ハートさん)

警察の性被害担当直通の短縮番号。さらなる被害の可能性があるときはここ。女性が対応してくれることが多い。
例:加害者に住所を知られている・あとをつけられているけどお店に入ってとりあえず安全を確保できている

#8891 (はやくワンストップ)

ワンストップ支援センターに繋がる短縮番号になっている。

ワンストップ支援センター

各都道府県に設置されている公的機関。内閣府のHPに各自治体のリンクがまとまったページがあるのでURLを貼っておく。(ワンストップ支援センター一覧

ワンストップ支援センターは性被害に関する専門機関を集約した場所。婦人科(膣内の証拠採取、アフターピルの処方、性感染症のけんさ、治療など)、警察、弁護士、カウンセリングなど、必要なケアや情報提供を行っている。警察や病院に一人で行くのが不安な場合には付き添ってくれる。支援センター経由で、警察の方やワンストップ支援センターの方と一緒に受診される方は多い。また、婦人科の紹介も行っているため安心して身を任せられるかもしれない。(婦人科であればどこに受診しても構わないが、申し訳ないことに性被害に慣れている病院と慣れていない病院で対応に差が生じる場合があるため、慣れている病院の方が安心できるかも?)ワンストップ支援センターに電話したら強制的に警察に通報される?と聞かれることは多いが、そんなことはない。基本的にはプライバシーは担保されるので安心してほしい。(※他の被害者がまだ加害者に捕まっている場合など、緊急性が高い場合は警察に連絡することもある)
地域によっては24時間対応のところも増えてきたが、そうじゃない自治体もある。友達が代わりに電話するとかもありなので、自分の身近で困っている人がいれば代わりにかけてあげてほしい。自分が被害者の場合も、自分で電話するのが難しければ友達に頼んでもいい。

婦人科受診時の流れ

ワンストップ支援センターから連絡を受けて診察をする場合は、できるだけ女性医師が診察するよう配慮がなされている医療機関が多い。(女性医師がいないなどどうしても無理な場合を除く)

基本的にはガイドラインに沿って診療を行う。以下のような内容であることが多い。

・外傷の確認(特に外陰部・膣)
・膣内の性交があった場合には精液、毛、DNA等が採取できる場合があるため、女性警察官立ち会いのもと残留物(証拠)採取
・膣洗浄
・アフターピルの処方・内服(低用量ピルやIUUS/IUD等を使用していない場合)
・性感染症検査(後日)

周囲の人にできること

正直、一般の人にできることには限りがある。その上でできることは以下の2つ。

被害者に寄り添う

バイスタンダーという言葉がある。専門職でないと実際治療するとか法的にどうするとかは難しく、できることには限りがあるが、とりあえずは本人を責めないということは最も気をつけて接してほしい。また、性被害の現場においては通常では信じられないことが起こる。信じがたいようなエピソードが出てくることも珍しくないが、疑わないで信じてあげてほしい。信じてもらえず「本当に?」とか言われると、さらに傷ついて状況は悪化する。

専門機関への相談を促す

第三者として冷静に判断し、専門機関(ワンストップ支援センターなど)への相談を促してほしい。ただし、無理に押し付けると被害者をより追い込み、被害者にとっての今後相談先(自分)を失うことになりかねないため、寄り添いながら慎重に。

セカンドレイプ

「セカンドレイプ」という言葉を聞いたことはあるだろうか。セカンドレイプとは、性被害にあった被害者が第三者にそのエピソードを話した場合などにその第三者によって余計に傷つけられるような行為を言う。性犯罪被害者から相談を受けた時は、一歩間違うとセカンドレイプになってしまうかもしれないということを覚えておいてほしい。
具体例をいくつか列挙すると、
・「そんな時間に出歩いているからあなたが悪い」「そんな服装をしていたら襲われても仕方がない」など、被害者の落ち度を探して被害者をの責任を追求する
・「あなたに魅力がある証拠だよ」「そのくらいみんな経験しているよ」など被害を矮小化する
・本人が被害を訴えたときにその内容を信じず、「そんなわけないだろ」などと言ったり冤罪を疑う
・本人の許可なく第三者に被害についてペラペラ話す
などがセカンドレイプにあたる。
詳しく知りたい人は世界公正仮説について調べてみるといいかもしれない。

SNSを使った性被害

今の時代、SNSを使った新しい形での性被害が増えている。

リベンジポルノ

別れたパートナーなどが復讐等の意図をもって所持していた性的な画像・動画等をインターネットで拡散する行為のことを言う。
一度誰かに送ってしまった画像はその後どこに広がってしまうかわからない。そのため、拡散されて困る画像等を安易に他人に送信しないよう気をつけてほしい。
すでに送った画像がインターネットに公開されて困っている場合には、プロバイダーなどを通じて画像の削除要請ができるので警察に相談しよう。一度公開された画像は公開されている期間が長ければ長いほど誰かが保存してまた転載されて拡散していく可能性が高くなるため、できる限り早い対応が必要だ。

児童ポルノ

児童ポルノ禁止法では、18歳未満の性的な画像(男女を問わない)を保存すること自体を制限している。児童ポルノは被害者加害者共に増え続けており、取り締まりが強化されている。

グルーミング

性的な目的をもって子供等に近づき、信頼関係を構築する行為である。初めは性的な目的を隠して近づいてきて、悩みを聞いてくれたりするが、その後性的な画像や性的なスキンシップを要求してくる。
その相手が見知らぬ人である場合もあるが、身近な知り合い等である場合もあり、このように、被害者に断れないよう逃げ道を塞ぐ悪質な方法である。

大人の方へ

子供から相談された場合には怒らずに対応してほしい。大人が怒らなくても大抵の場合、もうすでに反省も後悔もしているはずなので、さらに追い打ちをかけるようなことはしてほしくないし、そこで追い打ちをかけることで信頼関係の破綻にも繋がりかねない。次に何か困ったことがあった時の相談相手(自分)を潰さないためにも、勇気を出して相談してくれたことを褒めてあげてほしい。

アクティブバイスタンダー


最後にみんなに知っておいてほしい言葉がある。
タイトルにもあるとおり、「アクティブバイスタンダー」という言葉だ。
被害を軽減するように働きかける周りの人を、アクティブバイスタンダーという。性暴力被害において、このアクティブバイスタンダーの存在はとても大きい。
言葉で説明されてもイメージしづらい人も多いだろう。具体的に例を挙げるとすれば、痴漢や盗撮の現場を目撃したときに周囲の人がその現場の動画を撮って証拠として提出する、代わりに声をかけてあげるなどがそれに該当する。
なお、自分が痴漢に遭遇したときは、とにかく証拠を残すことが重要だ。例えば、相手の手を爪でカリカリと掻くことで、自分の爪に相手の組織が残って証拠になって逮捕(相手が再犯だった場合など)につなげたり、洋服を警察に提出するとかが有効である。お洋服を提出すると返却まで時間がかかることも多いため、お気に入りのお洋服だと悲しいかもしれないが、できる限りの協力をお願いしたい。

まとめ

ここまでとても長い文章になってしまいました。しかし、この中に何かあった時に対応するための必要な情報はまとめました。
性暴力は必ず加害者が悪い。被害者は悪くない。このことは、絶対に忘れないでください。
また、だれかから相談を受けた場合には適切に専門機関に繋げることや、被害者を傷つけないように対応してください。

最後に、何かがあってどうしても誰にも相談できないときはみゆに連絡してね。

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