ウィシュマさん死因の医学的考察。抗精神薬副作用の脱水による可能性
余りにも感情的、非医学的な記事が多すぎるので興味を持って考察してみました。
死因は不明ですが、私は可能性として3/4からのクエチアピン(抗精神病薬、統合失調症に保険適応)の副作用を考えます。
医学的考察の前にまずは簡単な経緯から。
2017年6月、約1年間の予定で日本語学校の留学生として来日し、バイト先で同じスリランカ人のB氏と知り合い交際、同居します。翌年後学校に来なくなり自動車部品工場等で就労します。連絡が取れなくなり、学校は入管に通知します。学費の為に働いたという本人の供述もありますが、学校によると1年分の学費は前納されていたとのこと。その後不法滞在・就労という形になります。
B氏はその後日本人女性と交際することになり破局し、所持金も無くなったウシュマさんはスリランカに帰りたいと思い、
2020年8月交番に自ら出頭し、名古屋入管に収容されます。この時点の体重は85kg(158cm)。
コロナ禍のためにスリランカへの定期便が途絶えており、20万円かかる臨時便の費用を本人が工面できないため帰国できないまま入管に滞在します。スリランカの家族とは連絡が取れないと本人は供述しています。(亡くなった後に2人の妹が積極的にメディアに出ている事は違和感を感じますが)
その後、元恋人のB氏からウィシュマさんが出頭して不法滞在していたB氏のことも喋った為に入管に拘束されてしまったことに腹を立て、スリランカに帰国したら報復してやるという内容の手紙が来ました。
その頃から家族と連絡が取れない事にも失望していたウィシュマさんは、恐らく報復も恐れ、帰国の希望を取り下げ、日本で暮らせないか考えるようになったようです。
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/01_00156.html
2020年12月に日本人支援者(組織名START https://start-support.amebaownd.com/posts/19201501/)と面談します。「日本で生活したいなら支援する。仮放免許可申請を検討してはどうか」とアドバイスされる。
2021年1月仮放免の許可申請。この時点で体重72kg。
過食と拒食を繰り返していたことから摂食障害の傾向の可能性もあったとと考える。
https://www.moj.go.jp/isa/content/001374799.pdf
上記の文章からは「テレビで色々な食べ物を見るとき」食欲が湧いて大変である、特にチョコレートケーキが食べたい、という意味と捉えて良いと思う。何でも良いから健康のために食べなければいけないと自責するという意味では無いはずである。つまり、食欲はあるのに食べれない、嘔吐する、と言う矛盾を抱えている点で摂食障害が疑われる。発言からは「痩せたい」という願望があることが伺われる。推測に過ぎないが、元恋人B氏が別の日本人女性に行ってしまったのは自分が肥満であったことも原因では無かったかというようなトラウマを抱えていたのではないか。(元恋人B氏に痩せるように罵られていた等)
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/01_00156.html
官給食は手を付けないのに甘いものやお菓子は食べれるという場合、そしてそれが比較的慢性であり、胃カメラや血液検査で異常が無かった場合、医師としてはやはり神経症的な要素(摂食障害含、身体化障害)を頭に浮かべます。今回は病院への入院が仮釈放(その後の逃亡)という利害関係が絡んでいたので精神科医としても対応を悩んだのだと思います。その前段階として死亡直前の診察で向精神薬(統合失調症の薬)を試しに出してみようという判断になったのではないでしょうか。
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/01_00156.html
2021年2月 診療室を受診。外部病院の消化器内科を受診。仮放免申請不許可、診療室を3度受診。69.5 - 65.5 kg。
2021年3月 外部病院の精神科を受診。搬送先の病院で死亡確認。司法解剖時158cm体重63.4 kg。痩せすぎとも言えず標準的な体重です。飢餓が死因とは言えません。
死因の医学的考察
まず、ポイントはバイタルサイン・全身状態が急に3月4日頃から突然変化している点です。「脱力して測定できず」など。それまでは普通に会話などしていたようです。
3/4から服用を始めた薬があります。ニトラゼパム(ベンゾジアゼピン系睡眠薬)とクエチアピン(抗精神病薬、統合失調症に保険適応)です。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬はさほど重篤な副作用はありません。
ウィシュマさんは統合失調症と診断されたのでしょうか。そうでは無いと思います。精神科医は独自判断で統合失調症以外にも抗精神病薬を出すことがあります(私はそのことに慎重意見です)。私は3/4からの急な全身状態の変化は、3/4からのクエチアピン(セロクエル)が怪しいと考えています。クエチアピンは血糖値の変動(高血糖、低血糖とも)による昏睡や意識障害(死に至る場合あり)や原因不明の突然死の報告があります。摂食障害の傾向にありましたので、クエアチピン開始後の血糖値には注意が必要だったはずですが、血糖値の測定はなされなかったようです。看守や看護師もウィシュマさんが急に全身状態が悪化したのは3/4からの抗精神病薬が原因と感じていたようです。そして、投与方法が寝る前に1回100mgと、標準の1回25mgを2-3回に分けてより多いこと、血糖値測定の指示が無かったことも報告書作成者や看守・看護師は指摘したいのではないかと感じました。クエアチピンの代表的な副作用として高浸透圧高血糖症候群(HHS)がありますが、脱水と循環不全をきたしますので、血圧は下がります。3/5と3/6(死亡当日)に「脱力して測定できず」と記載してありますが、脱力してようが意識が無かろうが、本来血圧は測れるものです。測定した数値があまりにも低すぎた為(50、30という記載あり)に、非医療者であった看守が、上手く測れなかったと勘違いした疑いがあります。
脈拍は寝ていて1分間に120(速い)だったようですが、脱水を支持する所見です。この時に血圧低下に気付き、救急搬送していればあるいは救命できたかもしれません(仮にHHSによる脱水だったとした場合)
看守も3/4に新たに開始された抗精神病薬の過剰な影響を怖いと思ったようですが、看護師から継続して飲ませないと駄目だと言われたので死亡前夜の3/5にも飲ませたとあります。
ウィシュマさんが服薬拒否していたことを問題にする人もいるようですが、服薬拒否していたのは上記表から、ビタミンB12(メコバラミン)と胃酸抑制剤(ランプラゾールOD)です。飲んでも飲まなくても大した薬ではなく、死因には無関係です。拒否していた原因として、胃の具合が悪くなったり体重が減って行けば、入院(仮出所)できるかもしれない、という思惑があったかもしれません。だから最後に診察した医師も詐病や身体化障害、心身症的なものも疑ったのでしょう。しかし少食の原因が、心身症(摂食障害)にしてもハンガーストライキの要素があったとしても、それが直接死亡にはつながりません。
死因は不明ですが、私は可能性として3/4からのクエチアピン(抗精神病薬、統合失調症に保険適応)の副作用を考えます。死亡直前の血糖値の測定があれば良かったとは思います。
入所時から摂食障害の傾向にあり、体重は減少していましたが、元々の85kgが肥満であって、死亡時は158cm体重63.4 kg。痩せすぎとは言えません。私は病院で病気である旨、訴えた方が良いと言う支援者のアドバイスが、結果的に精神科医師からのクエチアピン(抗精神病薬、統合失調症に保険適応)処方という事象につながり(何か対処しないといけないと医師が考え)不幸にもその副作用で亡くなった可能性が考えられると思います。診察した医師が方針に悩んだ様子も伺えます。それが抗精神病薬の処方につながったのでしょう。私は精神科医が良かれと処方した変則的な処方によるまれな副作用による重篤な結果を過去にも何度か疑われる場面に遭遇したことがあるので、その点にはより精神科医は慎重になっていただきたいという意見を日ごろから持っています。
摂取障害、つまり慢性的な飢餓が原因で亡くなったことは100%無いと思います。つまり、3/4までの体調不良と3/4以降の体調不良は意味が違う(前者は致死性では無く、後者は致死性)可能性があると言うことです。精神科医が前者の体調不良に対して、「詐病・又は身体化障害」と最後に診断書を書いたことがウィシュマさんの最後の2日間の看守による処遇に影響したかどうか、ですが、少しは影響したかも知れませんが、無くなる2日前から急に全身状態が悪化したのは全て「詐病」とは看守は思っていなかったのではないかと思います。抗精神病薬の副作用と考えていたようですが、まさか亡くなるとは思っていなかったのではないでしょうか。
つまり私の推測では、予測できなかった副作用事故としての死亡である部分が多い可能性が比較的高く、期待を持たせて身体化障害を誘発した支援団体のせいだとか、詐病と決めつけた看守のせいだ、などということは無い可能性が高いのではないかと思います。強いて言えば摂食障害傾向にあったウィシュマさんに重篤な血糖値の副作用の可能性のあったクエチアピン処方する場合はもっと少量から、かつ血糖値のモニターはしても良かったかも知れませんが、仮に血糖値異常だったとしても、処方した医師が過失を問われるレベルのことでは無いと思います。
精神科の先生にお伝えしたいのは、どうしてもその薬でないと駄目な場合以外は、まれだが重篤な副作用がある薬剤や、飲み合わせや食事で血中濃度が変異しやすい薬剤はなるべく出さないで欲しいです。出す場合には、十分に説明をしておいて頂きたい。精神科薬剤による良く分からない死亡は、実は少なくないです。
※補足
ケトン体は摂取カロリーが足りないと脂肪を代謝して出て来ますが、ダイエットしたり、子供が胃腸風邪で2-3日食べれなくても出て来ます。
元々158cm85kgと肥満で、確かに摂取カロリーが少なかったので死亡時63.5kgまで減量したのでしょう。精神疾患としての摂食障害か、ハンガーストライキ、いずれの結果としての少食としても、死亡時は標準体重の範囲であり直接死亡原因になるとは言えません
※補足
死亡時の採血の結果に関しては、心停止後の採血である可能性も高く、その場合下記の様な異常値は出てしまうので、何とも言えないのですが、それを問題視する東京新聞の記事は注意が必要です。しかし死亡時の血糖値が424と言うのはいくら死亡時でも高いと言う説もあり(死亡直前の高血糖を示唆している可能性)調査中です。
下記記事にもあるように、「脱水による多臓器不全」で合ってると思いますが、一番可能性が高いのがクエアチピンの代表的な副作用として高浸透圧高血糖症候群(HHS)による脱水です。少食で人間はそんな急激に死に至るほどの高度の脱水と低血圧(循環不全)に簡単になりません。
司法解剖で死因が甲状腺機能障害と判断された件について
司法解剖にて「甲状腺炎」があったとのことですが、甲状腺炎は大きく分けて2種類に分けられます。甲状腺に痛みのある「亜急性甲状腺炎」(発熱を伴う事が多い)と痛みのない「無痛性甲状腺炎」です。
基本的に甲状腺炎で死に至る可能性があるのは、「甲状腺クリーゼ」という状態です。
しかし甲状腺クリーゼのほとんどは基礎疾患としてバセドウ病(甲状腺機能亢進症)があることが殆どですが、ウィシュマさんは1月25日の採血で、甲状腺ホルモン(T3,T4,TSH)が正常値だったので、基礎疾患としてバセドウ病があったとは考えにくいです。甲状腺クリーゼは発熱を伴う事が多いですが、今回は2か月くらい前から時々微熱があるのみで、著明な発熱が無かったことは甲状腺クリーゼを推定しにくくなる点ではあります。脈拍は120と頻脈でしたが、これは脱水(循環不全)でも起こります。
また、「亜急性甲状腺炎」や「無痛性甲状腺炎」で甲状腺クリーゼが起こる可能性はありますが、一般的に「低い」とされます。
また、下記記事によると、死因は
1)脱水・低栄養
2)未完成の血球貪食症候群(自己免疫性甲状腺炎に起因)
1),2)が複合した多臓器不全
とされてるとの情報もありますので、自己免疫性甲状腺炎ということであれば、「亜急性甲状腺炎」で無く「無痛性甲状腺炎」が可能性として考えられているということだと思います。あったとして、何月何日ころから何をきっかけに発症したのか、という考察も必要です。「無痛性甲状腺炎」は基礎疾患として、自己免疫性甲状腺炎である橋本病(女性に多い、慢性甲状腺炎)があることが多く、一応、情報に矛盾はありません。しかし、下記記事では甲状腺機能障害(甲状腺クリーゼ)で亡くなったのではなく、自己免疫性甲状腺炎に起因する「未完成の血球貪食症候群」で亡くなったとしているのです。ここも不可思議な点です。甲状腺炎と血球貪食症候群の関連性は一部疑われる報告がされているものの、医学的定説とは言えないレベルの関連性だと思われます。血球貪食症候群の診断はどのようになされたのでしょうか。まさか、死後採血で赤血球と血小板が低かったことで、そのように推定したなどということは無いことを祈ります。通常は白血球も下がりますが、今回白血球はむしろ高値でした。しかも、司法解剖では死亡時に甲状腺機能(ホルモン)亢進があったかどうかは分からないはずです。分かるのは甲状腺炎があったかどうかだけで、これがどのような病理所見であったか気になります。例えば、単に女性にありふれた橋本病(慢性甲状腺炎)の所見があって、死後採血で赤血球と血小板が低かったことのみで、こういった推定がなされる可能性もあり得るのかなと考えてしまいます。
上記「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局 被収容者死亡事案に関する調査報告書」でも甲状腺炎で死亡に至ったとは考えにくいと結論付けています。
とにかく、司法解剖での甲状腺の病理所見(顕微鏡で組織を見る)がポイントです。単なる橋本病(慢性甲状腺炎)とは言えない、「無痛性甲状腺炎」と言える所見があったのかどうか。あったなら、死因としての甲状腺機能障害(甲状腺クリーゼ)は「可能性は低いがあり得る」、無かったなら特に死因の可能性として挙げる合理性は無いという事になります。また、「未完成の血球貪食症候群」がどのような所見にもとづいて推定されたのか、です。骨髄増や貪食している所見があったのか。もしそのようなものは無くて、単に死後採血で赤血球と血小板が低かったことと、さらに白血球が下がって無かったことを「未完成の」と表現していたとしたら、これは根拠として合理性の低いものとなります。また、これらの甲状腺の話は、食事の摂取減少や「飢餓状態」とは無関係です。早めに水分や栄養を補給していれば影響された、なども考えられません。「飢餓」と医学用語の「飢餓状態」は違います。胃腸風邪などで、2-3日も絶食気味になれば「飢餓状態」になって体内の脂肪を分解しはじめます。そのような体内の脂肪を分解する状態を「飢餓状態」と言います。その時にケトン体という代謝産物が尿に出てくるのは普通で、病気だとまでは言えません。ダイエットでもケトン体は出ます。
肝機能障害の可能性について
死体検案書の直接死因の欄に「急性肝不全」と記載されているとのこと。これは死後採血のGOTとGPTが非常に高かったことを根拠にしていると思われるが、私はいかがなものかと思う。何故なら、死後に細胞が壊れて、GOTやGPTが上がるのは普通の事だし、細胞が壊れていた証拠に、K(カリウム)も非常に高かった。だから、死後採血のGOTとGPTだけで生前の肝機能障害を言うのは無理があると思う。
検討の余地どころではない。死後細胞融解が起きており、全くあてにならない。腎機能と肝機能悪化して、なぜ急性の脱水になるの?どういう理屈?と感じてしまう。仮に腎機能障害と肝機能障害が2月以降に急に出てきたとして(1/25の採血ではいずれも疑うような結果では無かった)どんな病名の可能性が考えられるというのだろうか。ずいぶん曖昧で精度の低い考察だなという感想である。
2/15の尿検査でウロビリノーゲン強陽性(+++)だったことを肝機能障害につなげる論もあるが、
2/15尿検査を受けての血液検査はすべきだったと誰もが思うものの、 尿ウロビリノーゲンは擬陽性(±)と弱陽性(+)が基準値で、陽性(++)・強陽性(+++)や陰性(-)の場合は異常 。
便秘で陽性(++)になる事はあっても強陽性(+++)は珍しいと 採血して欲しかったですね。 さて、強陽性(+++)一度出たことだけで、採血無しでどの程度肝機能障害について断定出来るのでしょうか。殆どカスにならない食事をしていて排便が無い状態だと、便中に正常でも常に排泄されるビリルビンが腸内細菌で分解されて出来るウロビリノーゲンが長く腸内に滞在し、尿に多く出てくることはあり得るのである。そもそも、もしウロビリノーゲン3+が血液のビリルビンが高いことを反映していたとしたら、黄疸が出ていたはずであるが、そのような記録は無い。
以上の事から肝機能障害を示唆する根拠は弱いと考える。
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