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AlexaでのKindle本読み上げ読書を試してみた感想

今年に入ってから新しい職場で働いている。毎日ではないが、通勤があり、ピークタイムの電車に乗らなければならない。乗り換えも多いので、ゆっくり文庫本を開くことはできないし、SNSを見ようにもスマホ画面を覗き見られるリスクもある。この苦痛に満ちた時間をなんとか手ぶらで楽しく過ごせないか……と考えて、Alexaを使った読書に行き着いた。

スマホのAlexaアプリを使うと、Kindleで購入した本を機械音声で読み上げることができる。人気俳優や声優といった人間が読み上げるAudible作品とは違って、追加料金を払う必要はない。週に数回の通勤でも、行き帰りをこの読書方法で過ごしてみたところ、意外とはかどる。具体的な使い方はググれば出てくるのでそちらを見ていただくとして、どんな本がAlexa読み上げ読書に向いているのかや、細かいTipsについて書いてみる。

■どんなジャンルの本が向いているか

いろいろ試したけれど、新書もしくは最近の日本語で書かれた文学作品が一番相性が良かった。理由はふたつある。

1.読み上げ対象になる文字が多い本のほうがいい
Kindle本、というか一般の電子書籍では、一般的なJISコードでは対応できない数式や記号は埋め込み画像で表現される。電子書籍ビューワーをダークモードにすると、画像部分は背景が白色のままなので、よくわかる。

このように画像化された文字をAlexaは盛大に読み飛ばすため、耳だけだと、何が何なのか、よくわからない。とあるSF小説をAlexaで読もうとしたところ、数式が頻出していて、あまりにも意味がわからないので、結局テキストで読み直すはめになった。

また、Alexaはどうやらルビを無視して地の文だけを読むようだ。森鴎外の『渋江抽斎』を読み上げさせてみたところ、わざわざ振ってあるルビを無視しているのを確認した。旧漢字を多用している少し昔の文学作品も、Alexaで読むのは難しいと思う。

また、図版はALTが埋め込まれていない限り説明が飛ばされる(注1)ので、グラフや表を多用している本も向いていない。テキスト主体のやわらかめの語り口の新書や、日常会話を中心にした小説・エッセイが向いていると思う。

Kindleアプリで『渋江抽斎』冒頭を開いた画面のスクリーンショット。テキスト内容は割愛する。
Kindleアプリで森鴎外『渋江抽斎』を開いた様子。ルビの多い文章をなぜかAlexaは無視して、地の文しか読んでくれない。

2.多少おかしな読み方でも文脈を把握できる本がいい
Alexaは、訓読みが苦手らしい。例えば「一日」という単語は、かたくなに「いちにち」と読まず「ついたち」と読み続ける。文脈に応じて音読みと訓読みを使い分ける、日本語の難しさを感じるところでもあるが……。文章によっては、真面目な内容なのに、すごい変な読み方になったりする。「結」という字も、必ず「けつ」と読んでしまうようで、とある小説では「結希人(ゆきと)」という登場人物名を「けつきひと」と読んでいた。

しかし、Alexaの適当な読みに慣れてくると、多少おかしな部分があっても許容できるようになる。最初は吹き出してしまうような読み方も、くり返されると何にも感じなくなる。ただ、いつまで経っても変な読みに慣れない、イライラするという人もいると思う。そういう人には素直にAudible本を買うことをおすすめしたい(対応していない本もまだまだ多いけど)。

自分の場合は、1.25倍速にして聞いているが、ちょっと難解だなと思ったら、その後すぐにKindleアプリで文面を確認すれば事足りている。

■不便なところ
AlexaでのKindle本読み上げは、それ自体が独立したサービスというより、あくまでAlexaという音声アシスタントサービスのおまけ機能みたいなものなので、あまり高度なことは期待できない。困っているところと、その工夫について書く。

1. しおり機能がない
Alexaは基本的に、本の途中で再生すると、前回停止したところから再開する。それは良いのだが、前述の通り、テキストを目で確認したい時がままあって、そういう場合はAlexaアプリとKindleアプリを行き来することになる。

どうやらAlexa側は、Kindle側で読んでいるページと同期するようで、Kindle上で別のページへ移動したままAlexaで再生すると、当然そこから読み上げてしまう。なので、Kindle側で読み上げ途中のページをブックマークしておいて、テキストを確認後はそのブックマーク箇所に戻り、Alexaで再生する、というひと手間をかける必要がある。

2.再生バーがない
Alexaアプリのインターフェイスは、30秒前に巻き戻し/早送りしかできないので、音楽を聴くように、任意の場所にバーをずらすことができない。Alexa側でも目次は見れるので、細かく章や項目が附されている新書のような本なら問題はないけど、あまり章立てのない文学作品なんかだとこうはいかない。

また、巻き戻しと早送りも、ボタンを押してから実行されるまでタイムラグがあるので、実際はあまり使えない。結果、「一度聞き逃したら戻ってくるのがめんどいのでちゃんと聞こう」という謎の集中力が生まれるけど、ずっとこうだと疲れてしまう。わからないところはあとで読み直せばいいやというテキトーさが求められる

AlexaでのKindle本の再生画面のスクリーンショット。絲山秋子『御社のチャラ男』を再生している。
AlexaでのKindle本の再生画面のサンプル。絲山秋子『御社のチャラ男』は名作だったけど、Alexaは「おんしゃ」と読めず、ひたすら「ごしゃ」と読み上げていた。

3. たまにアプリの挙動がおかしくなる
読み上げが勝手に停止したり、一度読んだ箇所に戻ってくり返す、といった謎の挙動によく出会う。やはりこれも、おまけ機能だと思えば仕方ないかなと思う。Audibleならこうしたことはないのかもしれないが、使い込んでいないので、わからない。

ちなみにAudibleは、1作だけ買ってみたことならあるのだけれど、きれいな声ではっきりと文章を読み上げられると、共感性羞恥というやつなのか、なんだかむず痒さを感じてしまう。正直、音声合成のほうが気楽に聞けるし、Audibleにわざわざお金を出す意義を今は感じられない。こればかりは本当に好みなので、自分にあったものを選べばいいと思う。

家を出るとBluetooth対応イヤホン(注2)を耳にはめ、駅についたらパソコンの入ったリュックを前掛けにして、身体をこわばらせたりよじらせたりしながら耳で読書する……。改めて書くと悲惨だが、今のところ通勤は避けがたいのでどうしようもない。どうせ避けられないのなら、1秒でも楽しい読書をしていたい。ゆるふわトーク系のポッドキャストを聞くのと同じような気持ちで、多少文章の意味が取れなくても、なんかおもしろい日本語が聞ければいいや、という気持ちで使っている。

【注】

注1……電子書籍内の図版の代替テキストは、ビューア側では対応が進んでいるものの、実際に流通している本の中で対応しているものは多くないと思われる。こうした話題については、「HON.jp」の「週間出版ニュースまとめ&コラム」に詳しい。自分が電子書籍を作るときも気をつけたいポイントではある。

注2……満員電車でコード付きイヤホンは危険なので、Bluetoothイヤホンを使っている。ただAirpods的な完全ワイヤレスイヤホンも絶対に無くす自信があるので使っていない。左右がつながっているタイプのイヤホンを愛用している。

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