映画「スティーブ・ジョブズ」を観て思い出したこと
パソコンベンチャーに転職したぼくは芸能事務所に入り間違えたのかとホッペをつぬっていた。
20年前の1996年。Windows95発売の翌年だ。
社長はほとんど毎日メディアに囲まれて取材を受けていた。
旧東海道にほど近い北品川の狭い事務所はカメラの照明とフラッシュで昼間から安い風俗店のようだった。
メーカー直販の時代だとメディアは褒めそやした。これからはファブレスの時代だと騒ぎ立てた。ベンチャーが経済の回転舞台を回すのだとまことしやかに書いていた。
出資者のひとりだったマイクロソフトのN毛さんは同社AKIAの社名をアキバ(AKIBA)のビジネスを獲る!のだと解説し、それにまたメディアは拍手を送っていた。
日経新聞が隔日ほどの頻度で記事にし、日経ビジネスは数ページに及ぶ特集記事を書き、週刊誌が書き、夕刊紙がネタにしてNHKまで取材に来た。
会社は日経ベンチャーオブザイヤーを、ぼくが担当した製品は日経製品サービス優勝賞の最優秀賞を受賞した。
メディアは何を期待していたのだろう?少し後に付き合いのあった日経ビジネスの某記者は、「日本は土建国家だ!このままじゃ駄目なんですよ!」とボソリとぼくに言った。
アメリカのフォーブスまでが記事にした。
ただ、発売した製品はどれも飛ぶように売れた。
こんなデタラメなものがあるものか!と思いながらも、ひょっとしたら世の中の変わり目はこんなものなのかも知れないとぼくは少し思い始めていた。
しかし97年、スティーブ•ジョブズが古巣のアップル社に復帰し、マッキントッシュ互換機を販売していたぼくの会社の首根っこを止めると、夢はあっけなく醒めたのだった。
映画「スティーブ•ジョブズ」を観て、そんな昔話を思い出した。
ところで日本は未だに土建国家なのだろうか?あの記者に今もう一度聞いてみたい。
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